ひとまず一回ヤりましょう、公爵様 9

木野 キノ子

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第4章 収拾

1 ファルメニウスの初代

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「初代はね…奴隷身分だったの」

私の最初の一言は…それだった。
今日は…シェッツの事も片付き、皆が改めて…初代の事を知りたいと言っていたから、
話すことにした。
ギリアムには…私の復習も兼ね、間違った個所の訂正だけお願いした。

「!!?」

みんな驚いてら…まあ、秘匿してはいないんだけど…あまり語られるものでもないからなぁ。

「自分の名前も…出自も親も…何も記憶になかったそうよ」

「それは…また…」

「その状態で…この国の第2位の地位まで上り詰めたんですか?すげぇ!!」

クローバは…純粋だなぁ…裏社会の人間だったって、たまに忘れそうになる。

「晩年こそ、騎士として…しっかりと形を整えたけど…、初期のころの初代の戦い方は…
そりゃぁもう、騎士と呼ぶにはかけ離れすぎていたそうよ」

「……」

「だからこそ…付いたあだ名が、狂犬…だった。
おおよそ…人の戦い方と呼ぶには…あまりにも…だったみたい」

「なるほど…でも、裏社会じゃ、そんな奴…結構いますけどね」

「そうね、ダイヤ…。
でもさ…裏社会裏社会って言ったって、所詮は人間が作り出したものでしょ?
獣や…まして怪物が作ったわけじゃない」

「何がおっしゃりたいのです、奥様…」

ジョーカーも…首をかしげている。

「…初代が狂犬…って、呼ばれたのは、表に出てからですよね?
だったら…その時点で、結構丸くなっていたんじゃないですか?」

「あら、ジェード…。
相変わらず、勘が鋭いわね、やっぱり頼りになるわぁ」

私がほめてあげると…ジェードは最近、本当に嬉しそう。

「初代が表社会に出てきた時点ですでに…40歳を超えていたそうよ…。
それから王国の礎を築くまで…10年かからなかったらしい」

これには…流石にみんな驚いた。

「そこまで短かったのは…ギリアムと同じことが出来たからだと思うけど…それ以外に
もう一つ…あるみたい」

「初代が蜂起した時にね…初代との敵対を表明した権力者の大半が…暗殺されているのよ。
何者かにね…」

「初代が行ったと?」

「……厳密には違うわ」

私は…少し呼吸を整えた。
だって…私だって、信じられない事だったから。

「裏社会の人間が…初代の蜂起に呼応して…何の見返りもない状態で…自ら率先して
初代の敵を葬った…らしいのよね…」

「そ、そりゃ、いくら何でも眉唾でしょ?」

「そうですよ…裏社会の人間って、金で動くんだし…」

クローバとハートの言う事も…もっともなんだけどさ。

「これについてはね…ファルメニウス公爵家に…初代と…多分裏社会の人間達の…
非公式な会見の記録が残っているのよ」

「ええ!!普通そんなの、残さないですよ!!」

そうだよね…。
裏社会って…そう言うもんだよね…。

「それによるとね…、初代が言ったそうよ…。

私はお前たちに、特に頼んだ覚えはない…。
でも、役には立った…だから、望みを言え…。

って」

「それに対して、裏社会の人間達が言ったのは…

恐れながら一つだけ…自分たちがこの世に存在することを…何卒お許しくださいませ…

ってね」

あら…みんなの顎が外れちゃった…。

「…お金じゃなくて、自分の存在を許せって…そんなことある?」

ハートがジョーカーの方を向く。

「まあ…普通は…神話と割り切るのものじゃろ…。
建国神話なんてもの、どこの国にもあるんじゃし…。
自分の家を強く見せるために、創作をする家も国もままあるぞ」

ま、普通はそう考えるよね。

「そうねぇ…ただ、私は…この記述を呼んで、初代がどんな人間だったのか…すっごく
興味が湧いちゃってね…調べられるだけ、調べたのよ。
そしたらさ…親友だった初代のガルドベンダ公爵との会話の記述も出てきてさ…」

それが何かといいますと…。

「ガルドベンダ公爵が、

お前は何で…闇から光に出てきたんだ?
やはり、光が恋しかったからか?

…って聞いたらさ…初代が…。

別に…さして恋しかったわけじゃないがな…簡単に言えば、闇がつまらなくなったからさ。
私を祭り上げようとしたり、敬うのは構わんが…挑もうとするものが、ただの1人もいなくなった。
そんな世界…私には何の意味もない…ちっとも面白くないからな。
だから…弱くとも、私に食いついてくる人間が、いるところに来ただけだ…。
私が元奴隷だというだけで、不満げな目を向け、隙あらば敵対しようとする…。
面白いじゃないか。

ってさ」

皆が…何やら滝汗を流し、

「いや…それはいくらなんても…創作でしょ…」

と。

「まあね…正直、全部ファルメニウス公爵家に伝わっている、伝記のみに残されている記述だから…
本当の所は、私にもわからない…」

私はそこまで喋って、汚物の池をゆっくり進む、ギリアムに目を移す。

「でもさ…考えてもみてよ…。
ギリアムが弱冠15歳でやったこと…一体この世界の…どのくらいの人間ができると思う?」

するとみんなは…ハッとなったようだ。

「裏社会ってさ…表社会よりよっぽど…力がモノを言う世界でしょ?」

「その世界で…初代は己の力を…余すことなく示したはずよ」

最高の敵と…最高の状態で…最高の戦いをしようぞ…
我が体…灰となるまで

「これ…初代の辞世の句みたいなものらしいよ。
体現していた…とも言える」

「私が調べた限りで…初代って人はさ…裏社会に…闇の世界に君臨しようなんて、考えても
いなかった…あ、光の世界も…ね」

「初代はただ…自分のしたい…最高の戦いをしていたら…敵がいなくなっていた…。
それが真実のように、思えてならない…。
でもそれをわかっていた人間は…ほんの一握りだと思う…」

「裏社会=力…が表の社会より強いからこそ…裏社会の人間達は、初代が光に移ったこと…本当に
驚愕しただろうし、絶望しただろうね…。
自分たちを粉々に粉砕して、跡形もなく消す力がある者が…自分達とは別の世界に行っちゃったん
だから」

「だから…会見のような要求が出たんじゃない?
何もいらないから…自分たちの存在だけでも、許してください…ってね」

みんなが…滝汗の上、顎を外してる…。

ただ一人ジェードが、

「初代は…裏社会じゃ、なんて呼ばれていたんですかねぇ…」

恐怖より…興味の方が勝ったか…。
それもガルドベンダ公爵との話の記述で…残ってるのよね。

「……鬼神……よ」

「!!」

「裏社会の人間をして…鬼の神…人ならざる者…と評された…それがファルメニウス公爵家の初代…
その人よ」

私は呆けているみんなをよそに、

「まあ、あくまで…。
言い伝えってことで!!」

この言葉で締めくくった…。

でも…一つ疑問がある。
言い伝えと史実の違いって、なんなのかな…。
伝承を証明するのは、よく発掘による物的証拠って言うけれど…。

ギリアム・アウススト・ファルメニウスが…おおよそ人ならざる力を持っていることは…、
物証にならんのか?
ああ、ギルディスもだな…。

まあ、学者じゃないから、よくわからんし。
証明する必要もないから、わたしゃ知らん。
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