ひとまず一回ヤりましょう、公爵様 2

木野 キノ子

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第3章 対応

2 リグルド卿とテオルド卿の来訪

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フォルトは神妙な面持ちで、

「はっきり言ってよくございません。
ご自身はあれほど品行方正にこだわっていらっしゃるのに、
ご息女があれでは、本人も裏で何をやっているのかわからない。
今までギリアム様の信任をいいことに、好き放題やっていたんだ
ろうと」

「なるほどね。 
このビッグウェーブにかこつけて、テオルド卿を蹴落としたい
連中も、暗躍してるみたいね」

すると、フォルトは少しぎょっとしつつも、

「やはりフィリー様はすごいお方だ」

と感心した。

「だってそうでしょう。 
ギリアム様がどれだけ規律を重くしても、全てにいきわたるわけ
じゃない。
そして、 他の師団長たちはみんな若い。
テオルド教が担っている役割は、見えているものよりずっと大きい」

「しかし、ギリアム様はテオルド解任にはうんと言いません」

「そりゃそうよ。
けど、 テオルド卿本人が辞すると言ったら?」

「そ…、それは…」

「止められないよ。
おそらく、ギリアム様にも」
 
フォルトは黙ってしまった。
うん、よくわかってる。
今市勢をを操ちろうとしている奴らは、まさにそれが狙い。

「だったら打ち消せばいいんだけど、おそらくテオルド卿が止め
てるんじゃない?
自分の養護なんてしなくていいって」
 
「おっしゃる通りです」

フォルトの声は、一層暗い。

「ほんと潔すぎ。
間違いなくテオルド卿のいい所ではあるんだけどね。
でも、それじゃ周りは歯がゆい思いをしているでしょう?」

「はい」
 
「テオルド卿を引きずり下ろせば、ギリアム様はだいぶやり
づらくなるはずだ。
明らかにそれを狙ってる」

「そうです」

「テオルド卿を失うことは、ギリアム様もそうだけど、王立
騎士団にとってもかなりの痛手だ」

「はい」
 
う~ん、さてさて、どうするか。

フェイラのしたことは悪質極まりない。もちろんもちろんクレアも
だが、 簡単に許して、付け上がらせていいものでは決してない。
かといって、このままではテオルド卿が 辞職すると言いかねない。
それだけは避けなければならない。

ああ、本当…。

今更だけど、なんてめんどくさいことに、片足突っ込んじゃったん
だろうな。

私はふっと窓の外を見る。
窓の外はいい天気だ。
雲が流れてる。 
私も雲に乗ってゆらゆらと~。

………………。

うーん、なんか最近どっかでこの会話をしたような。どこだったかな。

「フィリー様」

私の思考は、エマによって強制的にシャットダウン。

「リグルド・ルイザーク様がお見えです!!」

「はい?」

これは予想外…。

「用件は?」

「テオルド卿から伝言を預かってきたと。
内容はフィリー様に直接と…」

ふーん…。

「フォルト…リグルド卿って今日休み?
テオルド卿は?
調べて!!」

「 リグルド卿は休みで、テオルド卿は普通に出勤です」

シフト頭入ってんのか!! 
すげえー!!

「テオルド卿ってこの件に関しては、よっぽど何かない限り
自分で出向くと思うんだけど」

「その通りでございます。」

「オッケー。
じゃあ伝書鳩、飛ばしてくれる?二羽」

「かしこまりました」

公爵家にはギリアムのいる王立騎士団に向けての 緊急連絡用の
伝書鳩がいる。
王立騎士団への1番早い連絡手段だ。 
2羽と言ったのは確実に届けるため。
猛禽に襲われることなんかがあるからね。

私は鳩の足につける手紙を2通用意し、渡す。
そして準備を整えた。

「お待たせいたしました」
 
私はわざとゆっくりと客間に入る。

実はすでに結構待たせてるんだよね。
私を見て立ち上がるリグルド卿。

「オ、オルフィリア嬢。 
お時間をいただきありがとうございます」

「いいえ、騎士団の方でしたら…私こそお待たせいたしました」

「と、とんでもない。予約を入れずに来たのですから、これくらい
は予想しております」

うーん、お茶…ほとんど手をつけてない。
お菓子も…。
フォルトに言って好きなものばかり揃えたのに…、。

 だいぶ緊張して、焦ってる。
さっさと用事を済ませてここを出たい…か。

私の予想通りっぽい。

「オルフィリア嬢!!
まずは、いとことお妹が大変なご迷惑をおかけし、申し訳ござい
ません。
お詫び 申し上げます」

うん、詫びがしっかり入れられるところはよし。

「ひとまず椅子に座りましょう」

客間の椅子に2人して座る。

「あの…、 父から伝言を預かってきておりまして…」

「存じておりますわ。
なんでしょうか?」
 
「フェイラとルイーズが、その…、お手紙を差し上げたと思うの
ですが…」

「はあ…」

わざと気のない返事をする。
確かにフェイラとルイーズからは、毎日手紙が届く。

「そのお返事を…いただきたいとのことで…」

「お二人のお手紙に対する、私の返事…ですか?」

「そうです」

「それは無理ですね」

私は出来るだけ淡々と答える。

「え…、なぜ…」

「読んでおりませんので。 
内容がわからなければ返事を書けません」

するとリグルド卿はかなり驚いて、

「よ、読んでないって…。
毎日出しているはずですが」

「私って、そんなに暇そうに見えますかねぇ?」

「え…?」

「ご存知でしょうが、私は商会の仕事をしておりますして、 
現在そちらにかなりの時間を割いております」

これは本当、楽しいよ。

「そして公爵家の女主人としての使用人に対する様々なことも
担当し、足りないところは教えられつつ、日々動いております。
時間はどれだけあっても、足りないのですよ」

「そ、それはエマ殿が…」

「エマには別件を頼んでおり、ほぼ屋敷におりません」

これも嘘ではない。
ただし、本宅にいないだけで離宮にはいる。
パパンとママンのサポートのために。
だから分からなけりゃー、聞きに行けるが嘘ではない。

「そして現在、手紙は1日平均100通ほど届いております」
 
「ええっ!!」

ま、実際は80通ぐらいだけど、少し盛って伝えてもいいよね。
本当に 読む気にもならなくなるくらいくるんだもん。

「それ全てに目を通す暇など、とてもございません。
ゆえに優先順位の高いものから順に処理しています。
それでも少しずつしかできていません」

「ゆ、優先順位とは?」

あ、やっぱ気になるよね。

ただ、私が何か言おうとした時、フォルトが出た。

「リグルド卿、 いくらなんでも失礼ですぞ!!
公爵家の判断基準にあなたが口を挟むなど!!」
 
リフルド卿は言葉に詰まり、押し黙る。

うん、普段穏やかな人が本気になると、こえ~。

ん? 
何やら廊下の方から音が…。
伝書鳩はやっぱ早えな。
 
客間の扉が勢いよく開き、同時に

「何やっとるか、このバカ息子―――――――――!!」

わあ、すごい声量。

あ、リグルド卿、石化した。
だよね。
 
でもテオルド卿も大変よね~。
親戚と子供が次々と不祥事を…。

……………子供。

あ、 思い出した!!

雲の話したの…うーん。
ん?

確かあそこの子たちって…。
うんうん、そうだ。

私は頭の中に散らばっていた、全ての点と点が線に繋がれていく
のを感じた。 
まさしくひらめきとは、このことを言うんじゃないかだろうか。
そんなことを思いつつ、はたと現実に戻ってみれば…、

そこにはに顔を2倍に晴らしたリグルド卿がいた。

あーあ。

「この度は私の娘と息子が大変なご迷惑をおかけし、面目次第も
ございません。
オルフィリア嬢にはどれだけお詫びても、詫びきれない」
 
私は分からないよう、テオルド卿を観察した。
うーん、やっぱり…ちょっとやばいな~。

「さ、帰るぞ!!バカ息子!!」

「ちょ、 父上、待ってください!!
せめて手紙だけでも読んでくださるよう、父上からも…」

ここでまた、鉄拳が落ちる。

「馬鹿者が!!
そもそも手紙を読む読まないを決める権利は、オルフィリア嬢に
ある!!
こちらのかけた迷惑を考えれば、返事をいただけなくてもやむ
なしだ!!」

あー、本当によくわかってる方だ。

「で、でも!!
フェイラは部屋から出てこないし、ルイーズもずっと沈んで…」

「食事をしっかり取っとるだろう!!
死にはせん」

あ、食事が喉通ってんなら、もう少し放置しとこ。

となると、問題はやっぱり…。

「テオルド卿、リグルド卿にはお帰りいただきたいのですが、
テオルド卿は少し残っていただけませんか?」

私の提案に、二人は少しぎょっとしていた。

でもしゃーない。

ここを逃すと、テオルド卿にいつ会えることやらになるし、今の
状況じゃあ、会うにしてもかなりの状況判断が必要になるからね。

ハッキリ言ってめんどい!!

そんなことを考えていたら、テオルド卿が口を開く。
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