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第3章 誘拐
6 行方は?
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ガルドベンダから…何の前触れもなく、理由もわからず消えたツェキオ。
果たしてその行方は…。
「簡単に説明すると…ツェキオ殿は家を出てから…身分を隠し、雑技団に紛れ込み、
諸外国を転々としたそうです。
ですが…寄る年波には勝てず、王都に10年ほど前、帰って来たんですよ。
そして…雑技団で自分が育てていた…みなしごたちと一緒に、王都の一角で隠れるように
暮らしていた…。
ただ、その子供同然の1人を…フィリーが偶然にも、全くの善意から助けましてね。
それで私も、彼らと関わるようになりました。
その中で…ツェキオ殿の書いた書類の字…見覚えがあると思った。
アカデミーで…ツェキオ殿の書いた著書の字と、筆跡が同じと判断しまして…。
事が事ですから、慎重になりましたが、フィリーがツェキオ殿含め、彼の仲間たちに
全うな扱いをしたこと…。
さらに…その仲間たちはちょっと変わった趣向の持ち主たちなのですが、私もその事を
一切卑下せず、普通に受け入れたことで、信用してくれまして…。
字について尋ねたら、割とすんなりと…自分がツェキオであること、打ち明けてください
ましたよ。
そして…自分の処遇をどうするかは、私とフィリーに一任すると…。
ただ…自分は今更、ガルドベンダに戻りたいとは思わない。
ツァリオ閣下のような、立派な当主がいるのだから…と。
さすがに悩みましたね…。
それで…折を見てツァリオ閣下にだけは、その事お話しようと思っていました…」
さすがに言葉を失ったツァリオ閣下の横から、
「どこにいるうぅぅぅぅぅ―――――――――――――っ!!」
ツァルガ爺さんとヴィネラェが…スッゴイ息の合ったハモりを見せた…。
「実は…フィリーが新しく地主となった、シンジュクニチョウメと言う場所で、
従業員をやっていまして…」
「おお、あの施設で!!」
ツァリオ閣下復活…。…ああ、説明する時が来たか…。
「だから、どこにあるうぅぅぅぅぅ!!」
2人とも…いいハモりだこと…。結構息合ってんじゃない?
「今はいません」
「逃げたのかぁ―――――――――――――っ!!」
「そうではありません。
ファルメニウス公爵家で…旅行をプレゼントしたでしょう?
その目的地に…新たなシンジュクニチョウメを作ることにして、そのスタッフの1人として
出向いてもらってます。
なにせ書類を作らせたら、不備どころか…誤字脱字の1つすら、未だにないような方で…。
交渉事も本当に上手で、周りの評価の通り、優秀な方だなと思いました。
寄る年波と言いましたが、杖など必要なく、かくしゃくとしてらっしゃいますよ」
本当にそうなんだよね…。
だから…この人がいなかったら、スージーさん達は…住むところの確保さえ、難しかった
だろうなぁ…。
「ほお…。それは、ぜひお会いしたいですな」
……ツァリオ閣下、期待させて申し訳ないけど…色んな意味で、衝撃受けるだろうなぁ…。
「こりゃ!!くそ坊主!!それならそうと、わしに言わんか!!」
やっぱりいきなり参戦の、ローエンじい様…。
「なぜあなたに?」
本気で?が浮いている。
「いや…。実は伯父上とローエン閣下は…親友だったんですよ…。
だから当時、自分の私費まで投入して、随分と探してくださったと伺っています」
「初耳です」
それじゃ…知らせようもないなぁ…。
それにしても…親友かぁ…。
間違いなく…ローエンじい様も衝撃を受けるな…うん。
エアーバック…必要になる案件だ…絶対…。
「わしとアイツは…文と武だが、不思議と気があってな!!
アイツはよく、文武両道と言って、剣の稽古に勤しんどった」
なるほどね…。
「それなら…旅行はぜひとも、参加させてもらおう」
ツァリオ閣下…。行けたら行く…って返事だったからな…。
3月4月って…アカデミーが一番忙しい時期だからなぁ…。
「まあ…わしは元々、国王陛下の護衛で行くことになっとったからな。
ちょーどいいわい」
ローエンじい様…めっちゃいい笑顔…。
不吉な予感がヒシヒシするのは…私だけか…はあぁ…。
-------------------------------------------------------------------------------------------
ひと段落突いた後…ギリアムと私はフィリー軍団を連れて、ヒルダ夫人の所へ来ていた。
本当はもっと…早めに来たかったのだが、メイリン嬢の事があり、後回しとなった。
イザベラ夫人は皆が解散すると同時に、こちらの要求通り、また部屋に引きこもっているようだ。
いろいろありすぎたから、体調がすぐれないようなら、直ぐにお暇するつもりだったが、
迷惑でないなら、少しお茶して欲しいと逆に言われたので、そのまま残る。
「グレッドがあんなに、思いつめていたとは…」
ヒルダ夫人…当時一緒に暮らしていたからこそ、気づいてあげられなかったの、辛そうだな…。
でも…一緒に暮らしてても、分からない時はわからないんだよなぁ…。
「まあ…日記と遺書は、数日内に全て匿名で公開いたしますから、詳しくはそれを見てください」
ギリアムがやっぱり…気休めは無駄と思っているようで、淡々と語る。
「ありがとうございます」
そう言うヒルダ夫人は…やはり、面持ちが暗い。
「でもやはり…ギリアム公爵閣下とオルフィリア公爵夫人は…大変慈悲深いお方ですね」
「へ?」
ちょっとお茶が口から出そうになる私…。
「ローエン閣下とツァリオ閣下への遺書の内容を聞いた限り…。
グレッドの日記とダイヤへの遺書とて、同じような内容でしょう…。
あれだけの迷惑をかけても…秘匿しておくべきと思い、今まで言わずにいてくださった。
なかなか出来る事ではありません」
「まあ…。こちらは最終的に爵位もパワーも上ですから…。
それもありますよ。いかようにもなると思いましたし…」
ギリアムがサラッと答える。
「例え…そうであったとしてもです」
この人だって、少なからずショックを受けてるだろうに…。
気丈な人だよ…。そして物がわかってる…。
「気休めかもしれませんけどね」
ありゃ、ダイヤがいきなり参戦した。
「アナタに関してオレが…あまり警戒しなかったのは。
奥様に礼儀を尽くしたことも勿論ですが、親父の日記で…親父はだいぶ、ヒルダ夫人には
感謝していたんですよ」
「え…」
「部屋へ来ては、アクセサリーや調度品の飾りばかりを眺めている自分を…あのくそばばぁの
ように、叱ったり、無理やり剣を握らせようとしなかったって。
それが…自分には凄くありがたかった。
アナタの部屋にいる時は…心が休まった…って」
「そうですか…」
ヒルダ夫人の面持ちが…少しだけ暗さが消えたように思う…。
「正直…何が正しかったか…などと、誰もわかりません。
ダリア夫人が、自分にも悪い所があったのでは?…と、振り返ることをしたり、そもそも
騎士以外の道を選択させようとしたならば、グレッド卿は…家を出るまでは考えなかった
かもしれませんし、病気になった時、家に帰る選択をしたかもしれません」
「そうだな…ガルドベンダだって…。
もし…アルフレッド卿が、ヴィネラェ夫人やメイリン嬢の希望通り、ドロテアと相思相愛に
なっていたとしたら、ガルドベンダでの大抵の揉め事は起こらなかっただろうしな…」
ギリアムも私も…ちょっとため息ついて、お茶に口をつけている。
人間の世の中って…本当にままならない…。
ガルドベンダ…と言われ、ヒルダ夫人が唐突に、
「実はね…。私はヴィネラェの母親とは、はとこだったのよ…。
その関係で…幼いころもそうだけど、結婚して…ヴィネラェが大きくなってからも、親交があってね」
「え?」
マジか~。本当に貴族って繋がってんな、オイ!!
「ヴィネラェも勿論だけど、ヴィネラェの父母も…ツェキオ殿をとても気に入っていてね…。
政略結婚にも拘らず、娘はよいお相手に恵まれたって、本当に喜んでいたわ。
身分はツェキオ殿の方が上なのに、とても…ヴィネラェも勿論、自分たちも気遣ってくれるって。
ヴィネラェの家はね…。文の家としては、かなり古くて…。
ガルドベンダを色々支えてきた家だったから、今後よりいっそういい関係を築いて行けると、
誰もが思ったわ」
ありゃままま。
「だからこそ…ツェキオ殿が何も…誰にも言わず、急に失踪して…。
ツェキオ殿の身分が身分だったから、事件性も十分疑われて…王立騎士団と近衛騎士団で合同捜査が
行われたの…。でも…結果として、事件性は無いという結論に至ったわ」
盛大に…ため息ついているよ、ヒルダ夫人。
「私は…ヴィネラェの母親に望まれて、結婚式の親族控室に入っていたの。
てっきり知っていると思ったのだけれど、それにしては…ヴィネラェがウキウキしてたから…もしかして
…と思ったら、やっぱり伝えられてなくて…。
当時のガルドベンダ当主…ツァリオ閣下の祖父が、もうすぐ挙式場に行く…っていう時間になって、
事の経緯と、嫁ぐ相手をツァルガ閣下に変更するって告げてたわ」
「……ツァリオ閣下のおじい様は、あまり良い方ではなかったようですね」
「まあ…少なくとも人情家ではないわ。家の繁栄のためなら、冷徹な事も…率先してやる人だった。
でも…そう言う人は一定数いるから、ツァリオ閣下のおじい様が例外と言うワケじゃ無い」
そうだろうなぁ…。
「ヴィネラェも勿論、ヴィネラェの両親も…式を延期してくれと言ったのだけれどね。
もしそうしろと言うなら、諸外国の王侯貴族も集う中…ヴィネラェの不出来と言う事にして、婚約破棄を
発表すると言ったわ…。
そうなったら、どの道ヴィネラェは一生結婚なんてできなかったでしょう。
第一ツェキオ殿であっても、ツァルガ閣下であっても、どちらもまがう事なくガルドベンダの血。
だからガルドベンダに非はない。政略結婚とはそういうものだ…とね。
それに…反論の余地はなかったわ。
だから両親は結局…泣き叫ぶヴィネラェを説得するしかなくって…。
少し遅れたけど、式は…予定通りに行われたの」
ヒルダ夫人は…当時のやるせなさを思い出しているようで、顔の皺が一層深い。
「……ドロテアとアルフレッドを必要以上にくっつけたがったのは…。
過去の自分の無念さを、晴らそうともしていたのかも…ですね」
「だがそれは、本人達双方が望んだ場合のみ、やるべきだ!!
どちらかが嫌だと言っている以上、冷静になるべきだ!!」
ギリアム…やっぱハッキリしてら。
「そうですね…。それがわからなかったのは…あの子の至らなさでしょう…」
ヒルダ夫人も…同情しつつも、他者の気持ちを踏みにじってはいけない事は、わかっているようだ。
結局その後…ちょっとした他愛もない話で笑い合って…私達はお開きにした。
そしてその夜…。
「お~う、お前たち…誘拐事件は、見事に解決したようじゃのぉ。
本当に…優秀じゃな、わはは」
少しご機嫌なティタノ陛下…。
嵐の前か…。
ドライゴ陛下は何を考えているのか…無表情で言葉を発しない…。
「日記と遺書の公開は、少し先延ばしにするようじゃな」
「ええ。一応…取引と言う形にしたので、少し期限を置きます。
これが最後の…温情と言う形にしましたが、こちらの有利に動かす意味もありますからね」
「まあ、それが良かろうよ。厄介ごとを起こした本人が、しっかりと納めるべきじゃ。
温情など、もうかけてやる価値はなかろうよ」
「その通りでございます」
ギリアムが…非常に礼儀正しく、粛々としてるから、逆に怖い…。
まあでも…もう火蓋は切って落とされたんだ。
なるようにしか、ならんよね…うん。
果たしてその行方は…。
「簡単に説明すると…ツェキオ殿は家を出てから…身分を隠し、雑技団に紛れ込み、
諸外国を転々としたそうです。
ですが…寄る年波には勝てず、王都に10年ほど前、帰って来たんですよ。
そして…雑技団で自分が育てていた…みなしごたちと一緒に、王都の一角で隠れるように
暮らしていた…。
ただ、その子供同然の1人を…フィリーが偶然にも、全くの善意から助けましてね。
それで私も、彼らと関わるようになりました。
その中で…ツェキオ殿の書いた書類の字…見覚えがあると思った。
アカデミーで…ツェキオ殿の書いた著書の字と、筆跡が同じと判断しまして…。
事が事ですから、慎重になりましたが、フィリーがツェキオ殿含め、彼の仲間たちに
全うな扱いをしたこと…。
さらに…その仲間たちはちょっと変わった趣向の持ち主たちなのですが、私もその事を
一切卑下せず、普通に受け入れたことで、信用してくれまして…。
字について尋ねたら、割とすんなりと…自分がツェキオであること、打ち明けてください
ましたよ。
そして…自分の処遇をどうするかは、私とフィリーに一任すると…。
ただ…自分は今更、ガルドベンダに戻りたいとは思わない。
ツァリオ閣下のような、立派な当主がいるのだから…と。
さすがに悩みましたね…。
それで…折を見てツァリオ閣下にだけは、その事お話しようと思っていました…」
さすがに言葉を失ったツァリオ閣下の横から、
「どこにいるうぅぅぅぅぅ―――――――――――――っ!!」
ツァルガ爺さんとヴィネラェが…スッゴイ息の合ったハモりを見せた…。
「実は…フィリーが新しく地主となった、シンジュクニチョウメと言う場所で、
従業員をやっていまして…」
「おお、あの施設で!!」
ツァリオ閣下復活…。…ああ、説明する時が来たか…。
「だから、どこにあるうぅぅぅぅぅ!!」
2人とも…いいハモりだこと…。結構息合ってんじゃない?
「今はいません」
「逃げたのかぁ―――――――――――――っ!!」
「そうではありません。
ファルメニウス公爵家で…旅行をプレゼントしたでしょう?
その目的地に…新たなシンジュクニチョウメを作ることにして、そのスタッフの1人として
出向いてもらってます。
なにせ書類を作らせたら、不備どころか…誤字脱字の1つすら、未だにないような方で…。
交渉事も本当に上手で、周りの評価の通り、優秀な方だなと思いました。
寄る年波と言いましたが、杖など必要なく、かくしゃくとしてらっしゃいますよ」
本当にそうなんだよね…。
だから…この人がいなかったら、スージーさん達は…住むところの確保さえ、難しかった
だろうなぁ…。
「ほお…。それは、ぜひお会いしたいですな」
……ツァリオ閣下、期待させて申し訳ないけど…色んな意味で、衝撃受けるだろうなぁ…。
「こりゃ!!くそ坊主!!それならそうと、わしに言わんか!!」
やっぱりいきなり参戦の、ローエンじい様…。
「なぜあなたに?」
本気で?が浮いている。
「いや…。実は伯父上とローエン閣下は…親友だったんですよ…。
だから当時、自分の私費まで投入して、随分と探してくださったと伺っています」
「初耳です」
それじゃ…知らせようもないなぁ…。
それにしても…親友かぁ…。
間違いなく…ローエンじい様も衝撃を受けるな…うん。
エアーバック…必要になる案件だ…絶対…。
「わしとアイツは…文と武だが、不思議と気があってな!!
アイツはよく、文武両道と言って、剣の稽古に勤しんどった」
なるほどね…。
「それなら…旅行はぜひとも、参加させてもらおう」
ツァリオ閣下…。行けたら行く…って返事だったからな…。
3月4月って…アカデミーが一番忙しい時期だからなぁ…。
「まあ…わしは元々、国王陛下の護衛で行くことになっとったからな。
ちょーどいいわい」
ローエンじい様…めっちゃいい笑顔…。
不吉な予感がヒシヒシするのは…私だけか…はあぁ…。
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ひと段落突いた後…ギリアムと私はフィリー軍団を連れて、ヒルダ夫人の所へ来ていた。
本当はもっと…早めに来たかったのだが、メイリン嬢の事があり、後回しとなった。
イザベラ夫人は皆が解散すると同時に、こちらの要求通り、また部屋に引きこもっているようだ。
いろいろありすぎたから、体調がすぐれないようなら、直ぐにお暇するつもりだったが、
迷惑でないなら、少しお茶して欲しいと逆に言われたので、そのまま残る。
「グレッドがあんなに、思いつめていたとは…」
ヒルダ夫人…当時一緒に暮らしていたからこそ、気づいてあげられなかったの、辛そうだな…。
でも…一緒に暮らしてても、分からない時はわからないんだよなぁ…。
「まあ…日記と遺書は、数日内に全て匿名で公開いたしますから、詳しくはそれを見てください」
ギリアムがやっぱり…気休めは無駄と思っているようで、淡々と語る。
「ありがとうございます」
そう言うヒルダ夫人は…やはり、面持ちが暗い。
「でもやはり…ギリアム公爵閣下とオルフィリア公爵夫人は…大変慈悲深いお方ですね」
「へ?」
ちょっとお茶が口から出そうになる私…。
「ローエン閣下とツァリオ閣下への遺書の内容を聞いた限り…。
グレッドの日記とダイヤへの遺書とて、同じような内容でしょう…。
あれだけの迷惑をかけても…秘匿しておくべきと思い、今まで言わずにいてくださった。
なかなか出来る事ではありません」
「まあ…。こちらは最終的に爵位もパワーも上ですから…。
それもありますよ。いかようにもなると思いましたし…」
ギリアムがサラッと答える。
「例え…そうであったとしてもです」
この人だって、少なからずショックを受けてるだろうに…。
気丈な人だよ…。そして物がわかってる…。
「気休めかもしれませんけどね」
ありゃ、ダイヤがいきなり参戦した。
「アナタに関してオレが…あまり警戒しなかったのは。
奥様に礼儀を尽くしたことも勿論ですが、親父の日記で…親父はだいぶ、ヒルダ夫人には
感謝していたんですよ」
「え…」
「部屋へ来ては、アクセサリーや調度品の飾りばかりを眺めている自分を…あのくそばばぁの
ように、叱ったり、無理やり剣を握らせようとしなかったって。
それが…自分には凄くありがたかった。
アナタの部屋にいる時は…心が休まった…って」
「そうですか…」
ヒルダ夫人の面持ちが…少しだけ暗さが消えたように思う…。
「正直…何が正しかったか…などと、誰もわかりません。
ダリア夫人が、自分にも悪い所があったのでは?…と、振り返ることをしたり、そもそも
騎士以外の道を選択させようとしたならば、グレッド卿は…家を出るまでは考えなかった
かもしれませんし、病気になった時、家に帰る選択をしたかもしれません」
「そうだな…ガルドベンダだって…。
もし…アルフレッド卿が、ヴィネラェ夫人やメイリン嬢の希望通り、ドロテアと相思相愛に
なっていたとしたら、ガルドベンダでの大抵の揉め事は起こらなかっただろうしな…」
ギリアムも私も…ちょっとため息ついて、お茶に口をつけている。
人間の世の中って…本当にままならない…。
ガルドベンダ…と言われ、ヒルダ夫人が唐突に、
「実はね…。私はヴィネラェの母親とは、はとこだったのよ…。
その関係で…幼いころもそうだけど、結婚して…ヴィネラェが大きくなってからも、親交があってね」
「え?」
マジか~。本当に貴族って繋がってんな、オイ!!
「ヴィネラェも勿論だけど、ヴィネラェの父母も…ツェキオ殿をとても気に入っていてね…。
政略結婚にも拘らず、娘はよいお相手に恵まれたって、本当に喜んでいたわ。
身分はツェキオ殿の方が上なのに、とても…ヴィネラェも勿論、自分たちも気遣ってくれるって。
ヴィネラェの家はね…。文の家としては、かなり古くて…。
ガルドベンダを色々支えてきた家だったから、今後よりいっそういい関係を築いて行けると、
誰もが思ったわ」
ありゃままま。
「だからこそ…ツェキオ殿が何も…誰にも言わず、急に失踪して…。
ツェキオ殿の身分が身分だったから、事件性も十分疑われて…王立騎士団と近衛騎士団で合同捜査が
行われたの…。でも…結果として、事件性は無いという結論に至ったわ」
盛大に…ため息ついているよ、ヒルダ夫人。
「私は…ヴィネラェの母親に望まれて、結婚式の親族控室に入っていたの。
てっきり知っていると思ったのだけれど、それにしては…ヴィネラェがウキウキしてたから…もしかして
…と思ったら、やっぱり伝えられてなくて…。
当時のガルドベンダ当主…ツァリオ閣下の祖父が、もうすぐ挙式場に行く…っていう時間になって、
事の経緯と、嫁ぐ相手をツァルガ閣下に変更するって告げてたわ」
「……ツァリオ閣下のおじい様は、あまり良い方ではなかったようですね」
「まあ…少なくとも人情家ではないわ。家の繁栄のためなら、冷徹な事も…率先してやる人だった。
でも…そう言う人は一定数いるから、ツァリオ閣下のおじい様が例外と言うワケじゃ無い」
そうだろうなぁ…。
「ヴィネラェも勿論、ヴィネラェの両親も…式を延期してくれと言ったのだけれどね。
もしそうしろと言うなら、諸外国の王侯貴族も集う中…ヴィネラェの不出来と言う事にして、婚約破棄を
発表すると言ったわ…。
そうなったら、どの道ヴィネラェは一生結婚なんてできなかったでしょう。
第一ツェキオ殿であっても、ツァルガ閣下であっても、どちらもまがう事なくガルドベンダの血。
だからガルドベンダに非はない。政略結婚とはそういうものだ…とね。
それに…反論の余地はなかったわ。
だから両親は結局…泣き叫ぶヴィネラェを説得するしかなくって…。
少し遅れたけど、式は…予定通りに行われたの」
ヒルダ夫人は…当時のやるせなさを思い出しているようで、顔の皺が一層深い。
「……ドロテアとアルフレッドを必要以上にくっつけたがったのは…。
過去の自分の無念さを、晴らそうともしていたのかも…ですね」
「だがそれは、本人達双方が望んだ場合のみ、やるべきだ!!
どちらかが嫌だと言っている以上、冷静になるべきだ!!」
ギリアム…やっぱハッキリしてら。
「そうですね…。それがわからなかったのは…あの子の至らなさでしょう…」
ヒルダ夫人も…同情しつつも、他者の気持ちを踏みにじってはいけない事は、わかっているようだ。
結局その後…ちょっとした他愛もない話で笑い合って…私達はお開きにした。
そしてその夜…。
「お~う、お前たち…誘拐事件は、見事に解決したようじゃのぉ。
本当に…優秀じゃな、わはは」
少しご機嫌なティタノ陛下…。
嵐の前か…。
ドライゴ陛下は何を考えているのか…無表情で言葉を発しない…。
「日記と遺書の公開は、少し先延ばしにするようじゃな」
「ええ。一応…取引と言う形にしたので、少し期限を置きます。
これが最後の…温情と言う形にしましたが、こちらの有利に動かす意味もありますからね」
「まあ、それが良かろうよ。厄介ごとを起こした本人が、しっかりと納めるべきじゃ。
温情など、もうかけてやる価値はなかろうよ」
「その通りでございます」
ギリアムが…非常に礼儀正しく、粛々としてるから、逆に怖い…。
まあでも…もう火蓋は切って落とされたんだ。
なるようにしか、ならんよね…うん。
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