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第4章 旅行
1 前準備をする人たち
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「どうじゃぁぁっ!!やり遂げたぞ、ツァリオぉぉぉっ!!」
書類の束を持ち、ボロボロのヘロヘロになったツァルガが、ツァリオの執務室に入って
そうそう、言った…。
ツァリオは黙って書類を受け取り、ぱらぱらと確認すると…。
「やればできるじゃないですか。若いころから本気を出してくださいよ、父上」
かなーり、辛辣な一言…。
「うるさいわ…。人生で一番真面目に仕事したわ…。もうできん」
床に突っ伏して顔を上げる力もないようだ。
「じゃあ後は、お亡くなりになるだけですね。わかりました。
葬式の手配はお任せください」
どこまでーも、事務的&抑揚のない声…。
「なんでお前は、そうなんじゃあぁぁっ!!」
ぶっ倒れた場所で、ステファンに扇がれつつ、悪態をついている。
ツァリオの横には、アイリンとアルフレッド、メイリンもいる。
何でそうなったかと言うと…。
アカデミーの仕事は…ガルドベンダの肝中の肝。
だから…さぼる事など、絶対に許されない。
だが旅行には行きたい。
さてどうする?
ツァリオが出した条件は…割り当てられた仕事を、完璧にこなすこと。
それが出来なかった人間は、旅行には連れて行かないと、宣言。
特に…ツァルガとヴィネラェは、必死。
メイリンとステファンを強制的に駆り出し…汗だくでやった。
だが…メイリンの誘拐事件の心労のせいか、ヴィネラェが途中でダウン。
じゃあ、ヴィネラェは置いて行こうとなったが、ツァルガが自分がやると言い出し…。
ステファンとメイリンも成り行きで手伝いつつ、何とか完了した…と。
「でも驚きましたね。おじい様がおばあ様の分までやるとは…」
アルフレッドが驚くのも無理はない。
ツァルガは本当に…仕事を真面目にやる事がほぼなく、ヴィネラェが実質やっていた。
政務能力も…ヴィネラェの方が、ずっと高かったのだ。
「……わしゃな、兄上に一言いうてやらんと、死んでも死に切れん」
「わかりました。葬式は旅行後ですね」
「だから、少し黙っとれ!!ツァリオ!!」
顔だけガバリと起こす。
「けどな…。それと同じくらい、ヴィネラェを兄上に会わせてやりたいんじゃよ…」
ちょっと…哀愁を含んだ声だった。
「ヴィネラェは…兄上の婚約者となってから、ガルドベンダによく出入りしとった。
わしの母上は厳しい人でなぁ…。
終始叱り飛ばされる声しか聞こえん中、一度も逃げ出さずに淑女としての稽古も…
当主を支えるために必要な勉強も、頑張っとった。
直ぐに逃げ出していたわしなんかより、よっぽどガルドベンダを支えようと必死じゃった。
それもこれも全て…兄上の為だったんじゃよ。
なのに…結婚したのが、わしだとはな…。
わしがアイツの立場でも、文句を言いたくなるのは、わかるわい」
ツァルガも…兄と比べられることに、辟易はしていたが、ヴィネラェの気持ちもわかって
いたようだ。
「わしもな…。兄上がいる事で、すっかり安心しきっとったから…。
当主の勉強など、何もしなかった。
そのわしに…父はいきなり当主になれと言い、新婚生活とは名ばかりの、勉強漬け…。
兄上がいる頃は、逃げ出しても叱られるぐらいだったが、その時は…逃げ出そうもんなら、
使用人全員に追っかけられて、鞭で打たれるわ、終わるまで飯抜きだわ、部屋から出して
もらえんわ…。
おまけに夜は疲れ切っとるのに、さっさと子供を作れと、夫婦の寝室に押し込まれる。
囚人だってもうちょっと人権がありそうだと思ったわ…」
「そもそも普通に勉強すれば、良かったのでは?
私は当主になるための勉強など、率先してやったし、辛いと感じたことはありませんよ」
ツァリオの痛ーい、合いの手…。
「うるっさいわ!!お前はガルドベンダの中でも、最優秀選手なんじゃ!!一緒にするな!!」
「まあ…確かに息子の贔屓目から見ても、父上が最下層なのは認めます」
「だから、うるさいわぁぁぁ―――――――――――――――っ!!
親を泣かせて、楽しいかぁ――――――――――――――――っ!!」
本当に涙目のツァルガ…。
「楽しい楽しくないではなく、あくまで事実を述べております」
これ以上はないくらいの、事務的な声だった。
「……お前は誰に似たんじゃ、全く…」
もう何も言う気力が起きなくなったようだ。
床に倒れたまま、一言も発しなくなったので、使用人に担がれ、ご退出となった。
「それにしても…面識が全くないお前たちが、行きたがるとはな…」
これも…意外だったようで、ツァリオが言う。
「いや…オレは元々、興味があったから、行くつもりでしたよ(アルフレッド)」
「私も…ドロテアも一緒に行くって言ったし…。部屋に1人でいると…モントリアの事考えちゃう
から…。旅行に行っていた方が楽かなって…(メイリン)」
これは…アルフレッドも同意見だろう。どうしても…気持ちの整理は必要だ。
「オレは…おじい様の部屋に入り浸る事多かったから…」
当時を思い出しているようで、ステファンはどことなく遠い目をする。
「おじい様はさ…。自分のモノをオレが壊したり、持って行ったりしても、特に注意する
事は無かったけど…。高い位置にある物置の中に…ひっそりとあるものだけは、どんなに
頼んでも、持って行くことも、触ることも許さなかったのさ。
大きくなってから聞いてみたら…それは全部、ツェキオ大伯父様からもらったものだった。
あんなことになって、嫌っているなら、モノを大事には取っておかないだろう?
ツェキオ大伯父様について、おじい様は何も語らないけど…ちょっとそれがあって、
会ってみたくなったのさ」
「なるほどなぁ…。
でも…そうなると、本当に何で失踪したのか…謎ですね、お父様…。
ひいおじい様やひいおばあ様は、何も言ってらっしゃらなかったのですか?」
アルフレッドはツァリオの方を向く。
「ああ。
聞いた限りで、本当に寝耳に水と言った感じだったらしい。
消える前日の行動も、特に変わったことはないし…。
日記などはつけていなかったので、本当に…どうしてそうなったか、頭を大分悩ませたようだ」
ツァリオの祖父母は…先代ファルメニウス公爵が台頭してくる少し前に…相次いで病死している。
このせいもあり…ツァルガが先代ファルメニウス公爵に、まんまとしてやられてしまった。
「普通に考えると…女性問題ですよね。
グレッド卿みたいに、どうしても…他に一緒になりたい女性がいたとか…」
「だよな…。貴族は政略結婚が多いから、それが一番あるんだよな」
2人の考えは、大多数の考えだろう。
「もちろん…ひいおじい様やひいおばあ様も、真っ先にそれを考えてな。
方々の伝手を頼って…仲が良かった貴族や…その使用人に至るまで調査したんだがな。
ツェキオ伯父上が失踪した時期に…不自然に消えた女性はいなかったそうだ。
そもそも…父上と伯父上は、ガルドベンダの両極端兄弟と言われるくらいでな…。
父上は常に女性の影が絶えなかったが、伯父上は…婚約する前も女性の影がほぼなかったそうだ」
「それじゃ、本当に謎ですね…。
その次によくあるのは、嫡子としての能力に欠けてたり、自信が無かったり…で、怖くなって
逃げ出す例ですけど…。
ギリアム公爵が、優秀だと認めたなら、間違いなく…おじい様より当主としての力があったと
見るべきだろうし…」
アルフレッドが唸っている。
「その通りだ。
ひいおじい様も言っていたが…わしも残っていた書類や、著書を見た限り…大変理知的で
間違いのない仕事をする人としか、思えなかった。
先代ファルメニウス公爵が台頭してきた時も…ツェキオ伯父上を知っている古参の文の人間達は
こぞってわしに、ツェキオ伯父上なら、先代ファルメニウス公爵に、父上のように簡単にやられる
ようなことは無かった…と、嘆いていたからな。
それもあって…わしも今回の旅行に参加することにしたんだ」
この後はみんなそれぞれ…ああでもない、こうでもないの議論が飛び交うのだった…。
-------------------------------------------------------------------------------------------
「え~っと、これも持って行ったほうが良いの。
あとは、これも…」
「おじい様!!いい加減にしてくださいよ。
一応…任務なのですから、あまり荷物を増やしては…」
いつもは使用人任せの荷造りを、自分でやっているローエンに、ローカスの呆れた声が飛んだ。
「そうは言ってもの。
ツェキオの奴に…一言言ってやらねば、気が済まんのだ!!」
「一言言うのに、なんで大荷物が必要なんですか!!」
明らかに…馬車に乗らない量…。
「一言言うた後は、今までの経緯を話す必要があるだろうが!!
そのために必要な荷物じゃ!!」
どうやら…ツェキオが失踪してからの、自分の生活を…事細か~に報告するつもりらしい…。
思い出の品を見せながら…。
「それこそ話だけでいいじゃないですか!!」
「そういうわけにはいかん!!」
引かないローエン。
「わしが息子を亡くした時な…」
そして唐突に話し始める。
「皆…わしに様々なお悔やみの言葉をくれたし、励まそうとしてくれた…。
それ自体はありがたかったんじゃがな…。だが…そのたびに息子が死んだことを突きつけられて
いるようで、辛くもあったんじゃ。
だがアイツは…わしに息子のことは一切言わず、単純にいつものように…剣の稽古をしようと
誘ってきてなぁ…。
どこが悪い…どうしたらよくなる…そんな話をずっとしとった。
昔から…非常にモノのわかるやつじゃったから…どんな言葉をかけた所で、気休めだとわかって
いたんじゃろう。
だから…アイツといる時は、何にも考えず、無心になれた…。
今思うと…わしを一番助けてくれたのは、アイツなんじゃ」
その時の思い出の品なのだろうか…。
剣を下げる、古びたベルトの紐を、目を細めて撫でている。
「そして…ルリーラが娘を妊娠したとわかった時…、真っ先にアイツに報告した。
アイツは…我が事のように喜んでくれてなぁ。
生まれたら盛大なパーティーを開くから、是非…祝辞を述べてくれとお願いしたんじゃ」
「だが…」
ローエンはそっと、ベルトの紐を置き、
「それからすぐじゃった…。
アイツが…誰にも何にも言わずに…失踪したのは。
別に好きな女性がいる風でもなかったし、仕事は…順調にやっとったから、本当に…誰にも
理由がわからなかった。
だからこそ、わしも事件に巻き込まれたとしか、思えなかったんじゃが…。
その影も形も無くてな…。
結局…事件性はないとされ、捜査は打ち切りになった…」
どこか悲し気で…そして口惜し気な顔をする。
「それから…私費を投じて、お探しに?」
「ああ…。成果はなかったがな…」
「しかし…これだけの大荷物になると、さすがに国王陛下のお許しが…」
「もう貰ったわ」
「そ、そうなのですか?」
「おう!!目をしっかり見開いて、ケルカロス陛下の目を見つつ、お願いしますと言うたら、
すんなり許可してくださったわ。日頃の行いが良いからじゃな、はっは」
ローカスは…これを聞いて、ケルカロスが哀れになった。
(おじい様…。アナタの目力は、すっごく怖いと、いい加減ご自覚ください…。
それはお願いではなく、確実に脅しております…)
こうして…ケイシロンでの大荷造り会は、終わりを告げるのだった…。
書類の束を持ち、ボロボロのヘロヘロになったツァルガが、ツァリオの執務室に入って
そうそう、言った…。
ツァリオは黙って書類を受け取り、ぱらぱらと確認すると…。
「やればできるじゃないですか。若いころから本気を出してくださいよ、父上」
かなーり、辛辣な一言…。
「うるさいわ…。人生で一番真面目に仕事したわ…。もうできん」
床に突っ伏して顔を上げる力もないようだ。
「じゃあ後は、お亡くなりになるだけですね。わかりました。
葬式の手配はお任せください」
どこまでーも、事務的&抑揚のない声…。
「なんでお前は、そうなんじゃあぁぁっ!!」
ぶっ倒れた場所で、ステファンに扇がれつつ、悪態をついている。
ツァリオの横には、アイリンとアルフレッド、メイリンもいる。
何でそうなったかと言うと…。
アカデミーの仕事は…ガルドベンダの肝中の肝。
だから…さぼる事など、絶対に許されない。
だが旅行には行きたい。
さてどうする?
ツァリオが出した条件は…割り当てられた仕事を、完璧にこなすこと。
それが出来なかった人間は、旅行には連れて行かないと、宣言。
特に…ツァルガとヴィネラェは、必死。
メイリンとステファンを強制的に駆り出し…汗だくでやった。
だが…メイリンの誘拐事件の心労のせいか、ヴィネラェが途中でダウン。
じゃあ、ヴィネラェは置いて行こうとなったが、ツァルガが自分がやると言い出し…。
ステファンとメイリンも成り行きで手伝いつつ、何とか完了した…と。
「でも驚きましたね。おじい様がおばあ様の分までやるとは…」
アルフレッドが驚くのも無理はない。
ツァルガは本当に…仕事を真面目にやる事がほぼなく、ヴィネラェが実質やっていた。
政務能力も…ヴィネラェの方が、ずっと高かったのだ。
「……わしゃな、兄上に一言いうてやらんと、死んでも死に切れん」
「わかりました。葬式は旅行後ですね」
「だから、少し黙っとれ!!ツァリオ!!」
顔だけガバリと起こす。
「けどな…。それと同じくらい、ヴィネラェを兄上に会わせてやりたいんじゃよ…」
ちょっと…哀愁を含んだ声だった。
「ヴィネラェは…兄上の婚約者となってから、ガルドベンダによく出入りしとった。
わしの母上は厳しい人でなぁ…。
終始叱り飛ばされる声しか聞こえん中、一度も逃げ出さずに淑女としての稽古も…
当主を支えるために必要な勉強も、頑張っとった。
直ぐに逃げ出していたわしなんかより、よっぽどガルドベンダを支えようと必死じゃった。
それもこれも全て…兄上の為だったんじゃよ。
なのに…結婚したのが、わしだとはな…。
わしがアイツの立場でも、文句を言いたくなるのは、わかるわい」
ツァルガも…兄と比べられることに、辟易はしていたが、ヴィネラェの気持ちもわかって
いたようだ。
「わしもな…。兄上がいる事で、すっかり安心しきっとったから…。
当主の勉強など、何もしなかった。
そのわしに…父はいきなり当主になれと言い、新婚生活とは名ばかりの、勉強漬け…。
兄上がいる頃は、逃げ出しても叱られるぐらいだったが、その時は…逃げ出そうもんなら、
使用人全員に追っかけられて、鞭で打たれるわ、終わるまで飯抜きだわ、部屋から出して
もらえんわ…。
おまけに夜は疲れ切っとるのに、さっさと子供を作れと、夫婦の寝室に押し込まれる。
囚人だってもうちょっと人権がありそうだと思ったわ…」
「そもそも普通に勉強すれば、良かったのでは?
私は当主になるための勉強など、率先してやったし、辛いと感じたことはありませんよ」
ツァリオの痛ーい、合いの手…。
「うるっさいわ!!お前はガルドベンダの中でも、最優秀選手なんじゃ!!一緒にするな!!」
「まあ…確かに息子の贔屓目から見ても、父上が最下層なのは認めます」
「だから、うるさいわぁぁぁ―――――――――――――――っ!!
親を泣かせて、楽しいかぁ――――――――――――――――っ!!」
本当に涙目のツァルガ…。
「楽しい楽しくないではなく、あくまで事実を述べております」
これ以上はないくらいの、事務的な声だった。
「……お前は誰に似たんじゃ、全く…」
もう何も言う気力が起きなくなったようだ。
床に倒れたまま、一言も発しなくなったので、使用人に担がれ、ご退出となった。
「それにしても…面識が全くないお前たちが、行きたがるとはな…」
これも…意外だったようで、ツァリオが言う。
「いや…オレは元々、興味があったから、行くつもりでしたよ(アルフレッド)」
「私も…ドロテアも一緒に行くって言ったし…。部屋に1人でいると…モントリアの事考えちゃう
から…。旅行に行っていた方が楽かなって…(メイリン)」
これは…アルフレッドも同意見だろう。どうしても…気持ちの整理は必要だ。
「オレは…おじい様の部屋に入り浸る事多かったから…」
当時を思い出しているようで、ステファンはどことなく遠い目をする。
「おじい様はさ…。自分のモノをオレが壊したり、持って行ったりしても、特に注意する
事は無かったけど…。高い位置にある物置の中に…ひっそりとあるものだけは、どんなに
頼んでも、持って行くことも、触ることも許さなかったのさ。
大きくなってから聞いてみたら…それは全部、ツェキオ大伯父様からもらったものだった。
あんなことになって、嫌っているなら、モノを大事には取っておかないだろう?
ツェキオ大伯父様について、おじい様は何も語らないけど…ちょっとそれがあって、
会ってみたくなったのさ」
「なるほどなぁ…。
でも…そうなると、本当に何で失踪したのか…謎ですね、お父様…。
ひいおじい様やひいおばあ様は、何も言ってらっしゃらなかったのですか?」
アルフレッドはツァリオの方を向く。
「ああ。
聞いた限りで、本当に寝耳に水と言った感じだったらしい。
消える前日の行動も、特に変わったことはないし…。
日記などはつけていなかったので、本当に…どうしてそうなったか、頭を大分悩ませたようだ」
ツァリオの祖父母は…先代ファルメニウス公爵が台頭してくる少し前に…相次いで病死している。
このせいもあり…ツァルガが先代ファルメニウス公爵に、まんまとしてやられてしまった。
「普通に考えると…女性問題ですよね。
グレッド卿みたいに、どうしても…他に一緒になりたい女性がいたとか…」
「だよな…。貴族は政略結婚が多いから、それが一番あるんだよな」
2人の考えは、大多数の考えだろう。
「もちろん…ひいおじい様やひいおばあ様も、真っ先にそれを考えてな。
方々の伝手を頼って…仲が良かった貴族や…その使用人に至るまで調査したんだがな。
ツェキオ伯父上が失踪した時期に…不自然に消えた女性はいなかったそうだ。
そもそも…父上と伯父上は、ガルドベンダの両極端兄弟と言われるくらいでな…。
父上は常に女性の影が絶えなかったが、伯父上は…婚約する前も女性の影がほぼなかったそうだ」
「それじゃ、本当に謎ですね…。
その次によくあるのは、嫡子としての能力に欠けてたり、自信が無かったり…で、怖くなって
逃げ出す例ですけど…。
ギリアム公爵が、優秀だと認めたなら、間違いなく…おじい様より当主としての力があったと
見るべきだろうし…」
アルフレッドが唸っている。
「その通りだ。
ひいおじい様も言っていたが…わしも残っていた書類や、著書を見た限り…大変理知的で
間違いのない仕事をする人としか、思えなかった。
先代ファルメニウス公爵が台頭してきた時も…ツェキオ伯父上を知っている古参の文の人間達は
こぞってわしに、ツェキオ伯父上なら、先代ファルメニウス公爵に、父上のように簡単にやられる
ようなことは無かった…と、嘆いていたからな。
それもあって…わしも今回の旅行に参加することにしたんだ」
この後はみんなそれぞれ…ああでもない、こうでもないの議論が飛び交うのだった…。
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「え~っと、これも持って行ったほうが良いの。
あとは、これも…」
「おじい様!!いい加減にしてくださいよ。
一応…任務なのですから、あまり荷物を増やしては…」
いつもは使用人任せの荷造りを、自分でやっているローエンに、ローカスの呆れた声が飛んだ。
「そうは言ってもの。
ツェキオの奴に…一言言ってやらねば、気が済まんのだ!!」
「一言言うのに、なんで大荷物が必要なんですか!!」
明らかに…馬車に乗らない量…。
「一言言うた後は、今までの経緯を話す必要があるだろうが!!
そのために必要な荷物じゃ!!」
どうやら…ツェキオが失踪してからの、自分の生活を…事細か~に報告するつもりらしい…。
思い出の品を見せながら…。
「それこそ話だけでいいじゃないですか!!」
「そういうわけにはいかん!!」
引かないローエン。
「わしが息子を亡くした時な…」
そして唐突に話し始める。
「皆…わしに様々なお悔やみの言葉をくれたし、励まそうとしてくれた…。
それ自体はありがたかったんじゃがな…。だが…そのたびに息子が死んだことを突きつけられて
いるようで、辛くもあったんじゃ。
だがアイツは…わしに息子のことは一切言わず、単純にいつものように…剣の稽古をしようと
誘ってきてなぁ…。
どこが悪い…どうしたらよくなる…そんな話をずっとしとった。
昔から…非常にモノのわかるやつじゃったから…どんな言葉をかけた所で、気休めだとわかって
いたんじゃろう。
だから…アイツといる時は、何にも考えず、無心になれた…。
今思うと…わしを一番助けてくれたのは、アイツなんじゃ」
その時の思い出の品なのだろうか…。
剣を下げる、古びたベルトの紐を、目を細めて撫でている。
「そして…ルリーラが娘を妊娠したとわかった時…、真っ先にアイツに報告した。
アイツは…我が事のように喜んでくれてなぁ。
生まれたら盛大なパーティーを開くから、是非…祝辞を述べてくれとお願いしたんじゃ」
「だが…」
ローエンはそっと、ベルトの紐を置き、
「それからすぐじゃった…。
アイツが…誰にも何にも言わずに…失踪したのは。
別に好きな女性がいる風でもなかったし、仕事は…順調にやっとったから、本当に…誰にも
理由がわからなかった。
だからこそ、わしも事件に巻き込まれたとしか、思えなかったんじゃが…。
その影も形も無くてな…。
結局…事件性はないとされ、捜査は打ち切りになった…」
どこか悲し気で…そして口惜し気な顔をする。
「それから…私費を投じて、お探しに?」
「ああ…。成果はなかったがな…」
「しかし…これだけの大荷物になると、さすがに国王陛下のお許しが…」
「もう貰ったわ」
「そ、そうなのですか?」
「おう!!目をしっかり見開いて、ケルカロス陛下の目を見つつ、お願いしますと言うたら、
すんなり許可してくださったわ。日頃の行いが良いからじゃな、はっは」
ローカスは…これを聞いて、ケルカロスが哀れになった。
(おじい様…。アナタの目力は、すっごく怖いと、いい加減ご自覚ください…。
それはお願いではなく、確実に脅しております…)
こうして…ケイシロンでの大荷造り会は、終わりを告げるのだった…。
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