ひとまず一回ヤりましょう、公爵様12

木野 キノ子

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第5章 因縁

2 毒を盛ったのは…

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「レグラーダ草とボテクスの実は…香油で成分を抽出すれば、蝋燭やランプの油に混ぜられる。
それを…使う場合もあるんだよ。
味に僅かに癖があるから、知ってる奴が食えば気づくからな。
アンタんちの…っていうか、アンタの部屋の蝋燭かランプ…早急に調べた方がいい」

「一つ聞きたい」

ギリアムいきなり参戦。

「蝋燭かランプ…という事は、当然一緒にいる人間や、その部屋に入ってきた人間も毒に
侵されてしまうのか?」

「当然だよ。経口摂取と違って、無差別になるんだ」

おっちゃんのその言葉を聞くと同時に、勢いよく立ち上がり、

「グレンフォ卿!!これから部屋及び、屋敷を捜索させていただきます!!
ガフェルおっちゃん!!協力お願いします。ダイロおっちゃんは、毒を抜くための薬草の
準備を!!」

「あいよ!!公爵様!!」

ダイロおっちゃん…そのまま医療施設まで走っていった。

「私も行きます!!」

ええ?ヒルダ夫人?
……でも、ちょうどいいかも。

「あの…ヒルダ夫人…。イザベラ夫人も連れて来てください」

私は…ちょっと神妙な顔になりつつ、言う。

「……なぜ?」

「もしこの件の犯人が…私の予想通りなら…決着をつけた方がいいと思うからです。
どんなことになったとしても…当事者を外さない方がいい」

ああ…悲しいな…本当に…。
でも…気づいちまった以上、私も参加するしかない。

こうしてラスタフォルス侯爵家に…王立騎士団第一師団を伴いやって来た。
私とフィリー軍団も…一緒だ。

さて…グレンフォ卿の部屋の蝋燭とランプ…そして、屋敷中の蝋燭・ランプ、油が調べられた。

そうしたらおっちゃんの予想通り…、グレンフォ卿の部屋の蝋燭とランプは、毒が仕込まれていた。
…幸いにも屋敷の他の場所からは発見されなかった。
しかしこれで…犯人が、明確にグレンフォ卿を狙った事が…わかっちまった。

屋敷の人間は…おっちゃんが調べた限り、グレンフォ卿程重篤な症状は出ていなかった。
それでも数人…グレンフォ卿の部屋を掃除したり、その外の廊下を掃除したり、洗濯したり…を
した者から、中毒症状は出た。

屋敷の人間達が、騒然としたのは言うまでもない。
ギリアムはそれを意に介さず、おっちゃんと何やら話をしている。

そして…スッとギリアムが動くと、

「イライザ卿…ご同行願います」

ご同行って言ってるけど、この場合逮捕ね。
ギリアムの顔は…確信に満ちていた。

「お、お待ちください!!何かの間違いです!!イライザに限って…」

「アナタは本当に…人を見る目が無いんだな…」

ギリアムは…あきれ果てている。

「イライザ卿は…こちらで寝泊まりはしていないだろう?
なのに…グレンフォ卿を除けば、一番中毒症状が酷く出ている。
そして何より…イライザ卿の手の皮膚には、毒を吸収した症状が特に強く出ている。
レグラーダ草とボテクスの実の抽出液を…触っていた何よりの証拠だ」

……この世界に、液体を完全に遮断できる手袋なんて、存在しないからね。

「連行しろ」

ギリアムが…一緒に来ていたデイビス卿に、簡潔に命令する。

「どうして…」

ダリアは…半ば放心したようで、フラフラとおぼつかない足取りで…連行されるイライザに
近づいて行くのだが、

「どうして…ですって?」

ずっと下を向いていたイライザが…、眼を見開き、ダリアを睨む。

「アンタが私の人生を、台無しにしたからじゃない!!」

その言葉を皮切りに…それまでずっと大人しかったイライザは、堰を切ったように叫び始める。

「私は…流星騎士団に初めて来た時からずっと…グレッド様が好きだった!!
グレッド様に相応しいのは、騎士のたしなみを持つ女性だと、アナタに言われたから…。
私はひたすら剣の道に邁進した!!来る日も来る日も来る日も…」

「そうして…やっと、認められてグレッド様の近くに行けたけれど…。
グレッド様の反応は冷たかった。
私が剣の稽古に誘っても、断るかイヤイヤついてくるかのどっちか!!
それなのに…イザベラといる時は、本当に楽しそうだった!!」

「私にも手作りのアクセサリーを作って欲しいと言っても、アンタからもらったアクセサリーがあるん
だから、いらないだろう…と、冷たく言い放たれた時の、私の気持ちがアンタにわかるか!!」

「イザベラの目を潰したのは…本当に事故だった。
全て任せろとアンタに言われたから、任せたら…グレッド様は私をゴミくずを見るような目でしか
見なくなった!!」

「それでも結婚式は予定通り行われたから…一縷の望みを持てた…でも…。
グレッド様は、私の前から…永遠に消えた!!消え失せた!!
私に残されたのは…捨てられた姉!!魅力のない女!!そんな揶揄だけ!!」

イライザは…その場で膝をつき、泣き崩れた。

「私は…グレッド様と結婚したかった!!グレッド様の子を産みたかった!!」

その眼線は…グレリオとダリナに注がれる。

「ダリナとグレリオを一目見た時…。すぐにわかった!!グレッド様の子供じゃないって!!
グレッド様とイザベラは上手くいかなかった…。グレッド様はどこかで間違いに気づいて…。
イザベラと別れたんだ!!だから…死んではいない!!きっとどこかで生きている!!
きっと戻ってくる…そう信じて…私は…ここにずっと…でも…でも…」

カッと見開かれた眼は…涙と血走った血管で、真っ赤に染まっていた。

「結局グレッド様は!!私を軽蔑したまま…死んだ…ずっと昔に…死んでいた!!」

床の絨毯を手で握りしめる。
絨毯に出来たいびつな皺は…まるでイライザの心そのもののように見えた。

「だから…」

そのいびつな心を、ありありと表情に出し…。

「アンタにも味合わせてやることにしたのよ!!最愛の人を亡くした苦しみを!!」

ダリアは…震えながら手を口の前で組み…眼をそらすことなくイライザを見ている。
かつて…娘と同じと思い、愛してきたのだろう…。
だがそのなれの果てとしては…、あまりにも凄惨なものだった…。

「残念ながら、その望みは叶えさせるわけにいかない。
アナタは今後…その罪を償って生きる事だな…」

ギリアムの言葉が…冷徹に冷淡に…イライザには聞こえただろうな…。
その証拠に…再度泣き崩れながら、

「ちくしょう、ちくしょう、ちくしょぉぉぉぉ―――――――――っ!!」

その怒りの矛先は…イザベラに向かったようだ。

「なんでアンタばっかり!!!アタシの一番大切なモノ取りやがって!!
なのに何でのうのうとしてるのよ!!グレッド様の子供を産んで!!グレッド様に愛されて!!
アンタだって罰を受けるべきでしょう!!なんで何もないのよ!!この泥棒猫が!!
アタシとアンタと…何が違ったって言うのよぉ――――――――――――――っ!!」

もう…苦し紛れの罵声しか出てこない。
ギリアムがちょっとため息つきつつ、連れ出すよう指示しようとした時、

「お姉様は…自分がどれだけ、お父様とお母様にえこひいきされていたか…やっぱりわかって
いないのね…」

ベールを顔にかけているから…表情は見えないが、静かな声だった。

「おじい様とおばあ様は…私達に平等にお金を残してくれていた…。
ウチはお金持ちじゃなかったけど、2人の孫たちが恥ずかしくないように…ってね。
でもね…お姉様がラスタフォルス侯爵家の嫁になれるかも…って、思った両親がね…。
私の為のお金も全て、お姉様につぎ込んだのよ」

「それだけじゃない…。お姉様を引き立たせるために、ありもしない私の悪評を流してね。
そんな妹を健気に庇って、1人で家を盛り立てようとする、素晴らしい娘…ってね。
ドレスも宝石も…2人分のお金を合わせれば、いいのが買えるに決まってるじゃない。
そうやってお姉様を着飾らせた…。ラスタフォルス侯爵家に相応しいと皆が思うように…。
私は…パーティーやお茶会はもちろん、成人式の晴れ舞台のドレスさえ…お姉様のお下がりだった。
もちろん皆には笑われたわ。物凄く…ね。
お下がりだって、そうとわからないように、直せばいいのにね。
それさえ許されなかった…。お金がもったいない。そんな金があるなら、イライザに使うって。
お姉様を引き立たせるために、私がいるんだ…って」

「その上…ラスタフォルス侯爵家から、私の為に…って、送られてきたものは、必ず身に付ける
ようにも言われてね…。
それが酷いものだとわかっていても、付けない事なんて、許されなかった。
私がどんなにバカにされようと、恥をかこうと…お姉様がラスタフォルス侯爵家にさえは入れれば、
あの人たちはどうでも良かったのよ…」

「ちょ、ちょっと待ってくれ!!ウチが酷いものを送ったって…一体…」

グレンフォ卿がすかさず出てきたが、

「ダリア夫人は当時…、ラスタフォルス侯爵家御用達の所ではなく、自分がいいと思って
選んだ店で、ドレスを見繕ったんです。
その店は…かなりの悪徳商法で有名でして…。
ふんだくれる客だと判断すると、つぎはぎでぱっと見、豪華絢爛に見えるドレスや…。
石が傷ついたり、流行おくれとなって、値が下がったアクセサリーを、定価で買わせていたのです。
私がフィリアム商会を始めてから…幹部の指摘で気づきましてね。
摘発しました。帳簿にその記載がありましたよ。
ああ、ちなみに。
定価の10倍以上の値段で、買っていましたよ」

ギリアムがかなり丁寧に答えつつ、イザベラ夫人の方を見て、

「アナタは…気づいていたのでしょう?
あれは…よほど装飾関係に疎くない限り、気づくレベルの物を渡されていたようですからね。
いいカモだっただろうな」

「……スゴイですね。ファルメニウス公爵家は…。もう何十年も昔の事なのに、分かるのですね…」

イザベラ夫人の言葉は…真実だと言っている。

「……黙ってラスタフォルス侯爵家の御用達を使っておけば、良かったですね。
完全にヒルダ夫人への対抗心でしょう?慣れない事をするから、そうなるのです」

ギリアムの声が…めっちゃ冷たい。
忘れてたけど…私に怪我をさせたかもしれない事…完全に怒ってるな…まだ。
まあ、詫びを言われてないからなぁ。
言葉攻め…得意なんだよな、ウチのわんこは。

ヒルダ夫人とダリア夫人は…事あるごとに競っていた…。
というより、ダリア夫人が一方的に突っかかっていっていたそうさ。
これは…社交界じゃ有名な話で、大抵の人が知ってる…。

「私が何もできずに…1人で泣いていたらね…。グレッド様が話しかけてくれた。
私の境遇に同情してくれて…、アクセサリー…良かったら、自分が作り変えていいか…って。
期待していなかったけど…とてもいい物に仕上げてくれて…嬉しかった」

ここから…ベールの下のイザベラ夫人の声が…滑稽なほど高揚した。

「わかる?お姉様はねぇ…。私から両親の愛も、おじい様とおばあ様が残してくれたお金も…。
私の社交界での楽しみも、美しく着飾る喜びも…全部奪ったのよ。
父母に悪評を流された私に…社交界で友達が出来たと思う?
ぼろを着て行ったって、アクセサリーが変でも、誰も…同情なんかしてくれない。
悪女にはお似合い…そうやって、言われたわよ、ずっとね!!」

「お姉様を…ずっと憎んでいたわ…。でも…それも今日でお終い」

イザベラ夫人がベールを取ると…確かに片目が潰れていて…ハッキリとわかる傷が、顔に
ついていた。
だがその顔には…何ともすっきりとした微笑が張り付いており…なんだかとても…歪に見えた。

「グレッド様はねぇ…。最後まで私の事を、愛して逝った。
お姉様の事は…最後まで、気持ち悪いって…。お姉様と結婚させられるくらいなら、死を選ぶ。
そう言って…ね」

私の予想通り…イザベラ夫人も…周りに壊されちまってるな…だいぶ…。
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