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第5章 因縁
16 ギリアムの考え
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「まあ…話が逸れたがな。
ここにいるフィリーは、生まれ持った身分も生活も…貴様より遥かに下だ。
なのに…誰も貴様に味方して、フィリーを攻撃しようとしない。
何故だかわかるか?答えは単純明快だ」
「皆が…貴様につくより、フィリーについた方が、得だと思っているからさ。
それだけ。何故そんなことが起こるかと言えば…これも単純明快。
貴様より…フィリーの方が、あきらかに力を示し、人に利益を与えてきたからさ」
「対して貴様は…せっかくヒルダ夫人が築き上げた、ラスタフォルス侯爵家の社交界での地位を、
引き継ぐどころか、地に落とした。
貴様が願いを誰にも聞いてもらえず、目的が達成できなかったのは…単純に今までさぼって来た
ツケさ。身から出た錆とも言う」
「貴様はこの後…ひとまずラスタフォルス侯爵家に返す。
ジェルグに対して、幼いころやったことは…公にするのか、裁判で裁くのか、和解するのか…。
それは、両家での話し合いになるだろうからな。
その上で身の振り方を考える事だな。まあ…流星騎士団のしでかしたことは、もう広まって
いるから…。再生できないだろうし、新たに作ることも出来まい」
「どうしてそうなったのか、暇な時間を使って、本気で考えてみる事だ…」
「私は…私は間違ってない…。なのに…どうして…みんな…」
まだ言うのかよ!!
私は…コイツに腹立ててもしょーがないと思ったが、言いたいことをこっちが我慢する必要も
ないと判断し、
「あのですね!!グレッド卿は確かに騎士になることは、拒絶しました!!
でも…アナタやジェルグが失くしてしまった騎士道精神は、ふんだんに持っていましたよ!!」
強くきつく…、
「人は…誰しも死にたくないものです!!
グレッド卿だって死にたくなかったでしょう!!でも…死を選んだ!!
騎士に戻りたくなかった事ももちろんあるでしょう。
でも…私は何より、ダイヤとイザベラが…自分の愛する者たちが、アナタみたいな自分勝手な人に
傷付けられるのが、嫌だったんですよ!!
それを…避けるために、死ぬまで戦った!!」
叫んだ…。
「諦めて…自分の好きな事が出来ない事、アナタのせいにして腐ったりしなかった!!
近衛騎士団での働きぶりだって、真面目だったと聞いています!!
自分で決めたことは…嫌でも頑張ったんじゃないですか!!」
「グレッド卿が最後を迎えた地で、色々調査しましたけどね!!
グレッド卿が作ったアクセサリーを、今でも大切に持っている人、沢山いました!!
丁寧な仕事をする上、ちょっと不具合が出たり、壊れたりするとすぐ直してくれたと…。
センスも良くて、デザインも良くて…長く作品を作って欲しかったと…」
「みんなに慕われて、お礼を言われて、人を…幸せにできる人だった!!
女性もののアクセサリーを作る事の、どこが軟弱なんですか?
騎士になったって、ジェルグやジェルフみたいなしょーもないのが育つより、絶対にいいじゃ
ないですか!!」
「騎士になる事を強要しなかったなら…グレッド卿は少なくとも立派なラスタフォルス侯爵家の
跡継ぎにはなってくれたかもしれませんよ!!」
私は…ここで咳き込んだ。ちょっと息継ぎせずにやりすぎた…。
「フィリーの言う通りだ」
ギリアムが…そんな私の背中をさすってくれた。
「まあでも…そんなに悲観することはないだろう、フィリー。
神は…生きているうちに、グレッド卿を救う事はなかったが、グレッド卿の死を賭した望みは
叶えたようだからな…」
私は相変わらず、ぜはぜはしながら、少し…落ち着いた。
「イザベラ夫人は、ヒルダ夫人が庇護していたから、今まで手が出せなかった。
そしてダイヤは…奇跡的に死を逃れ、今はファルメニウス公爵家の庇護下にいる。
そのせいで一切貴様は手が出せなくなっただけではなく、余計なあがきをしたせいで、貴様の
隠されていた過去の罪と、しょーもなさが露呈した。
流星騎士団が犯罪者ばかりになり、平民から人気が出ないのもわかる。
貴様のしょーもなさが、多かれ少なかれ影響してしまったのさ。
この先貴様が何をし、何を言った所で、誰も協力せんし、耳も貸さん。
グレッド卿が望んだ通りの、結果になったじゃないか」
こうして私たちは…その場を後にした。
叫び声とも泣き声ともとれる…何だか獣が咆哮するような声だけが…その部屋を出てもなお、
ずっとずっと…響いていた…。
----------------------------------------------------------------------------------------
ダリアとの面会から数日後…。
私はファルメニウス公爵家の春うららかな日差しの中、ヒルダ夫人とお茶を飲んでいた。
「そうですか…。ジェルグ卿の事は、和解となりましたか…」
「ええ。ギリアム公爵閣下の言った通り…ジェルグのまいた種な部分がかなりありましたし…。
今更騒ぎ立てても…と言うのも、あったようです」
「でも…その当時、嫡長子がそれだけの怪我を負ったのに、原因を追究しなかったんですか?」
「それが…どうもジェルグは、シェイリが酷い目に遭うのを庇うため、自分が1人で修練して
いる時に、誤って負った傷だと説明したらしくて…」
「なるほど…。シェイリに対してだけは、しっかりとした騎士道精神があったのですね…」
それだけに、もうちょっと踏ん張れば…また、違っていたかもな…。
「あと、ダリアは…近々、精神病棟に移すことになりました」
「やはりですか…」
「ええ。そもそも昔から、その兆候は指摘されていたようなのですが、認めなくて…」
だろーね。
「それに…帰ったらまた、何事もなかったかのように、ファルメニウス公爵家に連絡を取って
ダイヤを返還するよう言うから、一丸となって協力しろと…。
グレンフォが家にいる時は静かなのですが、いなくなるとすぐ…」
ありゃま…。
「だから…使用人から、これ以上は付き合っていられないと、こぞって…退職願が出まして。
出さなかったのは、ルイスとヒューバートぐらいで、他は…全員辞めたいと言って来たそうです」
そりゃ、そうなるわな。
「それでは家が回らなくなりますし、新たに募集をかけても、今回の一連の事がもう…
知れ渡っていますから、誰も来ようとしないし、紹介するのも嫌だと言われたと…」
……レオニール卿、予想以上にいい仕事してる。
ヒルダ夫人が…ここまで報告し終わると、ちょっと遠い目をして…。
「やはり…。グレンフォを追い出すべきだったのでしょうかねぇ…。
エニシルの実家は…場合によって、養子を取ることも視野に入れて、親戚の子供をリスト化
していたようなんですよ…」
盟約の考えからすれば、それは妥当で正当な道だよな。
「それは、結果論ですし、誰にもわかりません。
グレダル卿は…とても性格が穏やかで優しい人ですが、失礼ながらごり押しは苦手なようです。
それどころか、自分が悪くなくても、自分が引けば収まると思うと、引いてしまう…。
これは…上の立場になると、食い物にされる最たる原因となりますから…。
場合によって、似たり寄ったり…いえ、もっと酷いことになっていたかもしれません」
「それに…ダリア夫人のあの性格から考えて…。
自分と結婚したがために、夫の身分が下がったとなると…それこそ事あるごとに、グレダル卿と
エニシル夫人に食って掛かったでしょう。
それを…誰が八つ当たりだ、逆恨みだと言っても、やめなかったと思う。
ラスタフォルス侯爵家ではなくても、グレンフォ卿の家に、いい影響を与えたとは思えない」
「やっぱり…そうですか…」
ヒルダ夫人も…私が考えついたことは、わかってたみたい…。
「たまにいるんですよね…。ダリア夫人みたいな方…」
「というと?」
「人は…大人になるにしたがって、現実と空想の世界を区別します。
特に…子供の物語というのは、社会の複雑性や、大人の嫌な部分は、全部端折って作りますからね。
子供に夢を与える意味では、むしろそうしないと、目的が果たせません。
ただ…その子供の物語が、大人の世界でも通用すると思ってる方…いるんですよ実際」
私の前世の客の中にも…芝居じゃなく、マジでいた。そういうヤツ。
「自分の世界があるように、相手には相手の世界がある…。
それが全く頭にないまま、大人になってしまった…。
でも、ダリア夫人ほど重度で、修正がきかない人間は珍しいですけどね…。
そういう人は…総じて他者の…環境のせいにしがちなんです。
自分と相手の立場によって、180度正しい事が変ると言う頭が無いから…」
「非常に残念です…。
その部分でしっかりと大人になれれば、決して醜悪な人間ではないのだから、それなりに普通に…
やっていくことが、できただろうに…」
今回ばかりは…本当に何が正しかったのか、本当にわからない。
ただ一つわかることは…結局、人の意志を無視してやったことってのは、ひずみしか生まない。
人は他者の全ての希望を…きいてあげる事はできない。
だからこそ…話し合いでどこからどこまでって、しっかりと折り合いつける必要があるんだよな…。
「奥様…」
「どうしたの?フォルト」
「お客様がお見えです。ただ…奥様ではなく、ヒルダ夫人に…」
「誰です?」
「グレダル卿とエニシル夫人が」
「今度はソッチですか…」
ヒルダ夫人…ため息ついてる…。
その歳まで、しょげた息子の相手せにゃならんのも、大変だよな…。
「オルフィリア公爵夫人と、お話し中だと言ってください」
「……私が同席してオッケーなら、私は良いですよ。
恐らく…今回の件に、絶対関係あると思いますし…。
ヒルダ夫人が大変なようでしたら、私が変りますよ」
「何だか、ご迷惑ばかりおかけしますねぇ…」
本当にすまなそうにするから、
「お気になさらず。アナタとお話するだけで…私は勉強になって、助かりますので…」
笑って差し上げる。
こうして通されたグレダル卿とエニシル夫人は…まあ見事に、やつれていた。
まあ…息子と孫が、そろってあれじゃあなぁ…。
「この度は…色々ご配慮いただきありがとうございます。
ウチのバカ息子とバカ孫が…随分とご迷惑をおかけしたというのに…」
「あら…武のファルメニウス公爵家としては、あのような揉め事、日常茶飯事です。
王立騎士団の方から派生すること、結構多いんですよ。
悪いのは誰か…で、的確に判断しておりますから、どうぞお気になさらず」
やっぱり笑って差し上げると、ちょっとだけ緊張がほぐれたようだ。
そして出た第一声が…。
「私は…ラスタフォルス侯爵家を、継ぐべきだったんでしょうか…?」
だった。まあ、そうなるよね…。
私は…今しがたヒルダ夫人とした話を、もう一回してあげた。
「原則…自分にそれが務まるか…というのは、やってみなければわからない事もありますが、
やって見なくても、わかる場合もあるのです。
ダリア夫人がいい例です。
おおよそ…あれだけ、社交界の勉強を逃げ回ってきたうえ、社交界自体が嫌いでは、とても
上位の夫人が務まるとは…となります。
世襲制である以上、どうしても…継がねばならぬと言う時もありますが、自分の力を正確に
見て…ダメだと判断して、引くのも手です。
結果として今回のようになりましたが、何かが違えば、上手く行ったかもしれません。
例えば…グレッド卿が騎士の道が好きだったとしたら…とかですね」
私は…一気にしゃべったので、お茶を一口…。
「ひとまず…ウチはもうすぐ成人する、次男孫を跡取りにすることにしました…」
ジェルフって、3兄弟だったっけ、確か…。
「それで様子見でいいのでは?
何が正解か、ハッキリとわかる世の中ではないのですから…」
この後…暗い顔のグレダル卿は、いー加減にしなさいと、ヒルダ夫人からの叱責を受けていた。
よーやっと、この件…片が付いたぁ~。
私が安堵していると、
「フィリー」
おりょ、ギリアムが来た。
まだ王立騎士団にいる時間のハズなのに。
「どうしました?」
「ん?ちょっとな…。こちらの話は終わったのか?」
「ええ」
「それじゃ、ちょっと来てくれ」
なんだぁ?ギリアムが濁すのって…よっぽどなんだよなぁ。
ここにいるフィリーは、生まれ持った身分も生活も…貴様より遥かに下だ。
なのに…誰も貴様に味方して、フィリーを攻撃しようとしない。
何故だかわかるか?答えは単純明快だ」
「皆が…貴様につくより、フィリーについた方が、得だと思っているからさ。
それだけ。何故そんなことが起こるかと言えば…これも単純明快。
貴様より…フィリーの方が、あきらかに力を示し、人に利益を与えてきたからさ」
「対して貴様は…せっかくヒルダ夫人が築き上げた、ラスタフォルス侯爵家の社交界での地位を、
引き継ぐどころか、地に落とした。
貴様が願いを誰にも聞いてもらえず、目的が達成できなかったのは…単純に今までさぼって来た
ツケさ。身から出た錆とも言う」
「貴様はこの後…ひとまずラスタフォルス侯爵家に返す。
ジェルグに対して、幼いころやったことは…公にするのか、裁判で裁くのか、和解するのか…。
それは、両家での話し合いになるだろうからな。
その上で身の振り方を考える事だな。まあ…流星騎士団のしでかしたことは、もう広まって
いるから…。再生できないだろうし、新たに作ることも出来まい」
「どうしてそうなったのか、暇な時間を使って、本気で考えてみる事だ…」
「私は…私は間違ってない…。なのに…どうして…みんな…」
まだ言うのかよ!!
私は…コイツに腹立ててもしょーがないと思ったが、言いたいことをこっちが我慢する必要も
ないと判断し、
「あのですね!!グレッド卿は確かに騎士になることは、拒絶しました!!
でも…アナタやジェルグが失くしてしまった騎士道精神は、ふんだんに持っていましたよ!!」
強くきつく…、
「人は…誰しも死にたくないものです!!
グレッド卿だって死にたくなかったでしょう!!でも…死を選んだ!!
騎士に戻りたくなかった事ももちろんあるでしょう。
でも…私は何より、ダイヤとイザベラが…自分の愛する者たちが、アナタみたいな自分勝手な人に
傷付けられるのが、嫌だったんですよ!!
それを…避けるために、死ぬまで戦った!!」
叫んだ…。
「諦めて…自分の好きな事が出来ない事、アナタのせいにして腐ったりしなかった!!
近衛騎士団での働きぶりだって、真面目だったと聞いています!!
自分で決めたことは…嫌でも頑張ったんじゃないですか!!」
「グレッド卿が最後を迎えた地で、色々調査しましたけどね!!
グレッド卿が作ったアクセサリーを、今でも大切に持っている人、沢山いました!!
丁寧な仕事をする上、ちょっと不具合が出たり、壊れたりするとすぐ直してくれたと…。
センスも良くて、デザインも良くて…長く作品を作って欲しかったと…」
「みんなに慕われて、お礼を言われて、人を…幸せにできる人だった!!
女性もののアクセサリーを作る事の、どこが軟弱なんですか?
騎士になったって、ジェルグやジェルフみたいなしょーもないのが育つより、絶対にいいじゃ
ないですか!!」
「騎士になる事を強要しなかったなら…グレッド卿は少なくとも立派なラスタフォルス侯爵家の
跡継ぎにはなってくれたかもしれませんよ!!」
私は…ここで咳き込んだ。ちょっと息継ぎせずにやりすぎた…。
「フィリーの言う通りだ」
ギリアムが…そんな私の背中をさすってくれた。
「まあでも…そんなに悲観することはないだろう、フィリー。
神は…生きているうちに、グレッド卿を救う事はなかったが、グレッド卿の死を賭した望みは
叶えたようだからな…」
私は相変わらず、ぜはぜはしながら、少し…落ち着いた。
「イザベラ夫人は、ヒルダ夫人が庇護していたから、今まで手が出せなかった。
そしてダイヤは…奇跡的に死を逃れ、今はファルメニウス公爵家の庇護下にいる。
そのせいで一切貴様は手が出せなくなっただけではなく、余計なあがきをしたせいで、貴様の
隠されていた過去の罪と、しょーもなさが露呈した。
流星騎士団が犯罪者ばかりになり、平民から人気が出ないのもわかる。
貴様のしょーもなさが、多かれ少なかれ影響してしまったのさ。
この先貴様が何をし、何を言った所で、誰も協力せんし、耳も貸さん。
グレッド卿が望んだ通りの、結果になったじゃないか」
こうして私たちは…その場を後にした。
叫び声とも泣き声ともとれる…何だか獣が咆哮するような声だけが…その部屋を出てもなお、
ずっとずっと…響いていた…。
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ダリアとの面会から数日後…。
私はファルメニウス公爵家の春うららかな日差しの中、ヒルダ夫人とお茶を飲んでいた。
「そうですか…。ジェルグ卿の事は、和解となりましたか…」
「ええ。ギリアム公爵閣下の言った通り…ジェルグのまいた種な部分がかなりありましたし…。
今更騒ぎ立てても…と言うのも、あったようです」
「でも…その当時、嫡長子がそれだけの怪我を負ったのに、原因を追究しなかったんですか?」
「それが…どうもジェルグは、シェイリが酷い目に遭うのを庇うため、自分が1人で修練して
いる時に、誤って負った傷だと説明したらしくて…」
「なるほど…。シェイリに対してだけは、しっかりとした騎士道精神があったのですね…」
それだけに、もうちょっと踏ん張れば…また、違っていたかもな…。
「あと、ダリアは…近々、精神病棟に移すことになりました」
「やはりですか…」
「ええ。そもそも昔から、その兆候は指摘されていたようなのですが、認めなくて…」
だろーね。
「それに…帰ったらまた、何事もなかったかのように、ファルメニウス公爵家に連絡を取って
ダイヤを返還するよう言うから、一丸となって協力しろと…。
グレンフォが家にいる時は静かなのですが、いなくなるとすぐ…」
ありゃま…。
「だから…使用人から、これ以上は付き合っていられないと、こぞって…退職願が出まして。
出さなかったのは、ルイスとヒューバートぐらいで、他は…全員辞めたいと言って来たそうです」
そりゃ、そうなるわな。
「それでは家が回らなくなりますし、新たに募集をかけても、今回の一連の事がもう…
知れ渡っていますから、誰も来ようとしないし、紹介するのも嫌だと言われたと…」
……レオニール卿、予想以上にいい仕事してる。
ヒルダ夫人が…ここまで報告し終わると、ちょっと遠い目をして…。
「やはり…。グレンフォを追い出すべきだったのでしょうかねぇ…。
エニシルの実家は…場合によって、養子を取ることも視野に入れて、親戚の子供をリスト化
していたようなんですよ…」
盟約の考えからすれば、それは妥当で正当な道だよな。
「それは、結果論ですし、誰にもわかりません。
グレダル卿は…とても性格が穏やかで優しい人ですが、失礼ながらごり押しは苦手なようです。
それどころか、自分が悪くなくても、自分が引けば収まると思うと、引いてしまう…。
これは…上の立場になると、食い物にされる最たる原因となりますから…。
場合によって、似たり寄ったり…いえ、もっと酷いことになっていたかもしれません」
「それに…ダリア夫人のあの性格から考えて…。
自分と結婚したがために、夫の身分が下がったとなると…それこそ事あるごとに、グレダル卿と
エニシル夫人に食って掛かったでしょう。
それを…誰が八つ当たりだ、逆恨みだと言っても、やめなかったと思う。
ラスタフォルス侯爵家ではなくても、グレンフォ卿の家に、いい影響を与えたとは思えない」
「やっぱり…そうですか…」
ヒルダ夫人も…私が考えついたことは、わかってたみたい…。
「たまにいるんですよね…。ダリア夫人みたいな方…」
「というと?」
「人は…大人になるにしたがって、現実と空想の世界を区別します。
特に…子供の物語というのは、社会の複雑性や、大人の嫌な部分は、全部端折って作りますからね。
子供に夢を与える意味では、むしろそうしないと、目的が果たせません。
ただ…その子供の物語が、大人の世界でも通用すると思ってる方…いるんですよ実際」
私の前世の客の中にも…芝居じゃなく、マジでいた。そういうヤツ。
「自分の世界があるように、相手には相手の世界がある…。
それが全く頭にないまま、大人になってしまった…。
でも、ダリア夫人ほど重度で、修正がきかない人間は珍しいですけどね…。
そういう人は…総じて他者の…環境のせいにしがちなんです。
自分と相手の立場によって、180度正しい事が変ると言う頭が無いから…」
「非常に残念です…。
その部分でしっかりと大人になれれば、決して醜悪な人間ではないのだから、それなりに普通に…
やっていくことが、できただろうに…」
今回ばかりは…本当に何が正しかったのか、本当にわからない。
ただ一つわかることは…結局、人の意志を無視してやったことってのは、ひずみしか生まない。
人は他者の全ての希望を…きいてあげる事はできない。
だからこそ…話し合いでどこからどこまでって、しっかりと折り合いつける必要があるんだよな…。
「奥様…」
「どうしたの?フォルト」
「お客様がお見えです。ただ…奥様ではなく、ヒルダ夫人に…」
「誰です?」
「グレダル卿とエニシル夫人が」
「今度はソッチですか…」
ヒルダ夫人…ため息ついてる…。
その歳まで、しょげた息子の相手せにゃならんのも、大変だよな…。
「オルフィリア公爵夫人と、お話し中だと言ってください」
「……私が同席してオッケーなら、私は良いですよ。
恐らく…今回の件に、絶対関係あると思いますし…。
ヒルダ夫人が大変なようでしたら、私が変りますよ」
「何だか、ご迷惑ばかりおかけしますねぇ…」
本当にすまなそうにするから、
「お気になさらず。アナタとお話するだけで…私は勉強になって、助かりますので…」
笑って差し上げる。
こうして通されたグレダル卿とエニシル夫人は…まあ見事に、やつれていた。
まあ…息子と孫が、そろってあれじゃあなぁ…。
「この度は…色々ご配慮いただきありがとうございます。
ウチのバカ息子とバカ孫が…随分とご迷惑をおかけしたというのに…」
「あら…武のファルメニウス公爵家としては、あのような揉め事、日常茶飯事です。
王立騎士団の方から派生すること、結構多いんですよ。
悪いのは誰か…で、的確に判断しておりますから、どうぞお気になさらず」
やっぱり笑って差し上げると、ちょっとだけ緊張がほぐれたようだ。
そして出た第一声が…。
「私は…ラスタフォルス侯爵家を、継ぐべきだったんでしょうか…?」
だった。まあ、そうなるよね…。
私は…今しがたヒルダ夫人とした話を、もう一回してあげた。
「原則…自分にそれが務まるか…というのは、やってみなければわからない事もありますが、
やって見なくても、わかる場合もあるのです。
ダリア夫人がいい例です。
おおよそ…あれだけ、社交界の勉強を逃げ回ってきたうえ、社交界自体が嫌いでは、とても
上位の夫人が務まるとは…となります。
世襲制である以上、どうしても…継がねばならぬと言う時もありますが、自分の力を正確に
見て…ダメだと判断して、引くのも手です。
結果として今回のようになりましたが、何かが違えば、上手く行ったかもしれません。
例えば…グレッド卿が騎士の道が好きだったとしたら…とかですね」
私は…一気にしゃべったので、お茶を一口…。
「ひとまず…ウチはもうすぐ成人する、次男孫を跡取りにすることにしました…」
ジェルフって、3兄弟だったっけ、確か…。
「それで様子見でいいのでは?
何が正解か、ハッキリとわかる世の中ではないのですから…」
この後…暗い顔のグレダル卿は、いー加減にしなさいと、ヒルダ夫人からの叱責を受けていた。
よーやっと、この件…片が付いたぁ~。
私が安堵していると、
「フィリー」
おりょ、ギリアムが来た。
まだ王立騎士団にいる時間のハズなのに。
「どうしました?」
「ん?ちょっとな…。こちらの話は終わったのか?」
「ええ」
「それじゃ、ちょっと来てくれ」
なんだぁ?ギリアムが濁すのって…よっぽどなんだよなぁ。
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