魔法使いが過ごす北欧の一年 2016

Zezilia Hastler

文字の大きさ
2 / 9

1日目 午前 空ちゃんとアパートへ

しおりを挟む
4:00
 
 目を覚ますと、そこは空港の中だった。
 クッション性のあるソファの上。
 構内を見渡せば、俺のように空港内で一眠りをした人々があちらこちらにいる。
 早朝便を逃さないために空港泊をするというのはよくある話だった。
 俺は、身を起こして空港の外に向かった。
 二重の自動ドアを潜り抜ければ、早朝の香りがする。
 澄んだ空気を、肺一杯に吸い込むと、意識が冴えた。
 澄み切った空は、星々が煌めいている。
 腕時計を見れば、まだ4時だった。
 俺は、日本から持ってきたタバコを、フェルトコートの内ポケットから取り出した。
 軽い箱に眉をひそめて中を見てみれば、最後の一本だった。
 俺は、タバコを咥え、魔法で火をつけて、煙を吐いた。
 空になったタバコの箱を、意味もなくスマホで撮る。
 思い出みたいな物だろう。
 自分がその時何を思ってそのような行動をしたかなんて、俺にはわからないことだった。
 俺は、空港内に戻り、昨夜のカフェ&バーに向かったが、閉まっていた。
 スーパーマーケットが開いていたので、そちらで空腹を満たすことにした。
 サンドウィッチ、ハンバーガー、サラダ、スシっぽいもの、おにぎりっぽいもの、フリーズドライのイタリアン、日本製のカップ麺のそばには、何処製かもわからないカップ麺が並んでいた。
 レンジで温めれば調理出来るフリーズドライはわかるが、フライ系はどうやって食べれば良いのだろう。
 ここは空港だし、キッチンは客に見えるところにはない。
 スタッフたちが従業員専用エリアのキッチンで料理するのかもしれないし、誰かが空港土産にしたりするのかもしれない。
 俺は、寿司っぽいものとおにぎりっぽいもの、そして、緑茶を買うことにした。
 こんな早朝だというのに、レジには数人が並んでいた。
 スーツを着たり、赤い紐に繋がったカードを首からぶら下げたりシャツの胸ポケットに入れたりしているから、多分空港スタッフだ。
 レジスタッフは座りながら、ベルトコンベアの上を流れてくる商品をさばいていた。
 俺もその光景を見て、ベルトコンベアの上に寿司っぽいものとおにぎりっぽいものを乗せ、三角の棒で後ろの客の商品と区切る。
 レジで緑茶を注文し、支払いを終えれば、店員から紙コップとティーバッグを手渡される。
 ティーバッグを紙コップに入れ、紙コップをドリンクメーカーに置いて、お湯のボタンを押す。
 30秒ほどで緑茶が出来上がった。
 すぐ近くのベンチに腰掛け、早速寿司っぽいものを食べてみれば、それは見た目だけでなく味まで寿司っぽかった。
 おにぎりっぽいものの方は、具材がシャケ。
 寿司っぽいものもおにぎりっぽいものも味は良いのだけれど、どちらも米がパサパサボロボロしていた。
 俺は日本人だから寿司やおにぎりに関してこういったことを思うのだけれど、イタリア人やフランス人も北欧や日本のスーパーマーケットで売られているスパゲッティやバゲットサンドウィッチについて思うところがあるのかもしれない。
 そもそも、日本だろうと北欧だろうとレストラン以外での食事に及第点以上のクオリティを求めること自体がおかしいのかもしれない。
 食事を終えて、寿司っぽいものの容器とおにぎりっぽいものの包装をゴミ箱に捨てる。
 紙コップに入っている緑茶を啜りながらスマホを開けば、メッセージが来ていた。
 幼馴染からだった。
 にやにやの顔文字。
 受信したのは数分前。
 俺は、『なんだよ』と、打った。
 数秒して、返信が来た。
 『後ろ』
 俺は、後ろを振り返った。
 何もない。
 視線を正面に戻せば、そこには先ほどまでいなかった人がいた。
 小さな顔には弾けるような笑顔が浮かんでいた。
 大きなゴールデンハニーブラウンの瞳はキラキラしている。
 潤いに輝く唇、きめ細やかな肌、血色の良い頬。
 さらさらつやつやの黒髪は、ショートボブに整えられ、七三分けになっていた。
 素朴ながらも、彫りが深く、整った顔立ちは、綺麗というよりは可愛い感じだ。
 150cmと少ししかない、小柄でほっそりとしたシルエットも相まって、大人っぽさよりもあどけなさを感じさせる。
 彼女は、体にフィットしたパンツスーツを着ていた。
 見た目は魅力たっぷりの、ボーイッシュで可愛い女の子だけれど、彼女は俺よりも三歳年上だし、その心は男らしいので、彼と呼ぶ方が、この人は喜ぶ。
 スタイルが出る、フィットした服を着ているのは、胸もお尻も小さくて、男どもの欲望を煽ることがないからだった。
 俺よりも3歳年上の幼馴染、空ちゃんは、ニヤっと笑った。
「寝顔だけは可愛いね」
 俺は笑った。「うるせぇ。見てたのかよ」
「うん」
「何してんの?」
「初日にひとりは寂しいと思って来てやった」空ちゃんは俺の頭をポンポンした。
「寂しくねーよ。初日だから、一人で浸りたかった」
「昨晩だけで十分でしょ。荷物持った?」
 俺は頷いた。
 空ちゃんは、ちょうどそばを通り過ぎた空港警備員に向けてスーツをめくり、ベルトで光るバッジを見せた。
 バッジを一瞥した空港警備員は、硬い顔で頷き、どこかへ歩いて行った。
 空ちゃんは俺の肩を叩いて、標識を指さした。標識には電車のイラストが描かれていた。「空港で寝泊まりするのってあんまり良くないからさ、アパート行こ」
 俺は頷き、立ち上がった。「荷物は?」
「ないよ」と、空ちゃん。「旅先で買った方が身軽だからね」
 空ちゃんは、15歳の時に魔法使いの世界を旅して以来、暇さえあればあちこちを旅行している。いわば、旅のプロフェッショナルだった。
 俺たちは、電車に乗って、市内へ移動した。
 そこからメトロに乗れば、俺のアパートまではあっという間だった。
 
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...

MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。 ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。 さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか?

まなの秘密日記

到冠
大衆娯楽
胸の大きな〇学生の一日を描いた物語です。

鐘ヶ岡学園女子バレー部の秘密

フロイライン
青春
名門復活を目指し厳しい練習を続ける鐘ヶ岡学園の女子バレー部 キャプテンを務める新田まどかは、身体能力を飛躍的に伸ばすため、ある行動に出るが…

N -Revolution

フロイライン
ライト文芸
プロレスラーを目指す桐生珀は、何度も入門試験をクリアできず、ひょんな事からニューハーフプロレスの団体への参加を持ちかけられるが…

妻からの手紙~18年の後悔を添えて~

Mio
ファンタジー
妻から手紙が来た。 妻が死んで18年目の今日。 息子の誕生日。 「お誕生日おめでとう、ルカ!愛してるわ。エミリア・シェラード」 息子は…17年前に死んだ。 手紙はもう一通あった。 俺はその手紙を読んで、一生分の後悔をした。 ------------------------------

あるフィギュアスケーターの性事情

蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。 しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。 何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。 この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。 そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。 この物語はフィクションです。 実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。

処理中です...