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第六章 冒険編 出来損ないの小鳥

間欠泉

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 「着いたぞ、ここから真っ直ぐ三日程歩き続ければ、ヘルマウンテンに辿り着ける筈だ」



 「ジェドさん、わざわざここまで運んでくれて、ありがとうございました」



 真緒達はジェドの好意により、ヘルマウンテンに最も近い海沿いの場所まで船で運んで貰い、現在真緒達は地上、ジェドは船の上で会話をしている。



 「気にするな、俺がしたくてそうしたんだ。…………それよりも、本当に行くつもりなのか?お前が思っている以上に、ヘルマウンテンは危険な場所だぞ」



 「……それでも、行かないと駄目なんです。私は、この世界の事を何にも知らない。だからこそ、世界中を巡って、何を感じるのか確かめたいんです!それに私は一人じゃありません。ハナちゃんやリーマやフォルスさん、そして師匠がいます」



 「そうか、そいつは野暮な質問をしちまったな」



 ジェドは、真緒の覚悟と固く結ばれた仲間の信頼関係に、これ以上の心配は不要だと判断した。



 「いえ、ジェドさんの優しさは十分伝わりました」



 「マオ…………なぁ、もしよかったら俺もお前達と一緒に……「船長!!」」



 ジェドが何かを言い掛けると、他の船員達が顔を出して来て遮られた。その顔は涙でぐちゃぐちゃになっていた。



 「皆さん!船での生活楽しかったです。ありがとうございました!」



 「ううっ……マオ船長と離れるなんて俺、堪えられねぇよ……!」



 「俺もだ……マオ船長……」



 「マオ船長……」



 「おい、お前ら……今の船長はマオじゃなく、俺だからな?」



 ジェドが船長について注意すると、船員達は苦虫を噛み潰した様な顔を向けた。



 「ええー……正直、俺達はマオ船長の方が船長らしいかなって、思うんですよね」



 「怒鳴らないしね」



 「人使いも荒くない」



 「それに可愛い」



 「お、お前ら…………」



 船員達から文句を言われたジェドの体が、プルプルと震え始め、声のトーンが低くなってきた。



 「いい加減にしやがれー!!お前らもう一度教育し直してやるぜ!」



 ジェドは、カットラスを抜き船員達を追いかけ回す。



 「ぎゃあー!!ジェド船長すみません!調子に乗りました!!」



 「許して下さい!」



 「今更謝っても遅いんだよ!!」



 「…………」



 甲板の上でドタバタしているのを、地上から見ている真緒達。そして同時にこの時、ジェドは昔、父親が船員とこんな風にバカ騒ぎしていたのを思い出していた。



 「ふふ…………」



 ジェドは含み笑いをしながら、楽しそうに追いかけ回した。



 「おい、マオ!」



 「は、はい!」



 追いかけ回している途中で、ジェドが立ち止まり、真緒達に話し掛けて来た。



 「困ったらいつでも俺達を頼れ、お前達が何処に居ようとも、即座に駆けつけてやる」



 「ジェドさん……ありがとうございます!」



 「じゃあな、元気でやれよ。オラッ!ヤローども、何怠けてやがる!出港するぞ!!準備を整えやがれ!!!」



 「「「「「ウッス!!!」」」」」



 ジェドの命令に船員達は素早く行動し、そのまま地平線の彼方まで行き、次第に見えなくなった。



 「…………行っちゃいましたね。さぁ、私達もヘルマウンテンに向けて出発しましょう!!」



 「「「「おおー!!!」」」」



 船を見届けた真緒達は、ヘルマウンテンに向け歩み始める。



 「いやー、久しぶりの地上だけど、船での冒険も楽しかったね」



 「船での料理、美味じがっだなぁ~」



 「ハナコさん、本当に食べるのが好きですね」



 「あのクラーケンはなかなか手強かった……俺もまだまだだな」



 「やはり冒険は、自分の足でするものですね~」



 真緒達はそうした雑談をしながら、歩いて行った。







***







 ジェドと別れを告げ、約一時間程歩き続けていると…………。



           ぷぅ~

 何とも気の抜けた高音が響き渡った。



 「あ~、誰かな?オナラしたの」



 「ハナコさん……」



 「オラじゃないよ!いくらオラでも、人前でオナラなんがじないだぁ!!」



 マオとリーマが疑いの目を向ける中、身の潔白を主張するハナコ。



 「えっ、じゃあ師匠ですか?」



 「おっと、酷いですね~マオさん。私だったら、あんな気の抜けた音は出しません。もっと勢いのある大きな音でします」



 それはそれでどうなのかと思った真緒だったが、確かにエジタスなら聞かれたら、否定などはしないだろう。



 「じゃあ…………」



 真緒、ハナコ、リーマ、エジタスの四人の視線がフォルスに集まる。



 「ん?おいおい……冗談キツいぞ」



 「ですよね……じゃあ今の音はいったい?」



 真緒達が謎の音を不思議に思っているその時!!



           ドオン!!

 突如、けたたましい音を立てながら、地面から水が噴き出してきた。



 「えっ、何!?」



 「水が噴ぎ出じでぎだ!!」



 「きゃあ!水飛沫が……あれ?温かい。これ、温泉じゃないですか?」



 「いや!これは温泉は温泉でも……間欠泉だ!」



 フォルスは、噴き出してきた水の正体に気が付いた。



 「間欠泉?……それって、一定周期で水蒸気や熱湯を噴出する温泉のことですか?」



 「ああ、おそらくさっきのオナラの様なあの音は、間欠泉のガスが漏れる音だったんだ!!…………は!ま、まさかここいら一帯は間欠泉の場所なのか!?」



 フォルスが辺りを見回すと、それに合わせるかの様に、次々と間欠泉が噴き出した。



 「不味いぞ!早くこの一帯を抜け出さないと、万が一間欠泉に直撃すれば、体はバラバラに吹き飛ぶぞ!!」



 「じゃ、じゃあ、早く脱出しないと!!」



 「それで、どう行くつもりですか?」



 リーマが真緒とフォルスの二人に質問する。



 「「そりゃあ、勿論……」」



 「走って脱出するんだよ!」「慎重に歩いて脱出するんだ!」



 「「えっ!?」」



 二人の答えは、正反対の内容だった。



 「何言っているんだ!走ったりなんかしたら、突然噴き出してきた時に冷静な判断が出来なくなるだろ!」



 「慎重に歩いていたら、間欠泉が真下に来た時に避けられず、吹き飛ばされちゃうよ!!」



 「俺は、仲間の安全を考えて言ってるんだ!」



 「素早く駆け抜けて安全を確保する方がいいよ!これから間欠泉が悪化するとも限らないんだから!!」



 二人の意見がここに来て対立し始める。お互いに睨み合いながら一歩も退かない。



 「分かった!そんなに言うんだったら、私が走って脱出出来る事を証明して見せるよ!」



 そう言うと、真緒は他の皆を置いて一人、走って行ってしまう。



 「勝手にしろ!!」



 「マオぢゃん!」



 「マオさん!!」



 ハナコとリーマの二人が真緒の安否を心配する中で、フォルスは真緒の走っていく道の先にある地面が膨らんでいくのを目撃した。



 「マオ!!危ない!」



 「えっ!?きゃああああ!!!」



 「マオ!!!」



 「マオぢゃん!」



 「マオさん!!」



 完全に殺られてしまった。そう思っていたが、真緒は助かった。間欠泉を避けたかと思うと空中に浮いていた。



 「これって…………」



 「あ、そうですよ!女王様から頂いた虚空の力ですよ!!マオさんは、一日一回の約十分の間自由に飛び回れます!」



 リーマの言葉を聞いた途端真緒は、間欠泉が届かない位置まで上昇した。



 「皆!!私が上から安全な道を指示するから、その通りに歩いて!」



 「分がっだだぁ」



 「分かりました」



 「了解した」



 「頼りにしていますよ~」



 真緒は上から間欠泉が噴き出しそうな場所を見極め、仲間が当たらないように指示を出していく。そして、何とか間欠泉地帯を抜け出す事に成功した。



 「皆、大丈夫!?」



 「はぁ、はぁ、何どが……」



 「助かりました……」



 「素晴らしいご活躍でしたよ、マオさん」



 「えへへ、それほどでも」



 「…………」



 真緒が照れていると、フォルスが近づいて来た。



 「……マオ、すまなかった!」



 「フォルスさん……」



 「仲間が死ぬかもしれない状況なのに、冷静な判断なんて最初から無理な話だったんだ。お前のお陰で助かった、本当にありがとう」



 「い、いえ、私の方こそ仲間の安全と言っておきながら、仲間を危険な目に遭わせようとしてしまったんですから……私もあの時フォルスさんに呼び止められなかったら、今頃死んでいました。助けてくれてありがとうございました」



 真緒とフォルスの二人はお互い、頭を下げて誤った。



 「仲直り出来ましたか?」



 「うん、あと皆にも迷惑掛けて本当にごめん!!」



 「すまなかった……」



 「ケンカしてもいいですけど、必ず仲直りはしてくださいね」



 「分かりました!」



 「肝に命じておく」



 「じゃあ皆さん、出発進行です!」



 「「「「おおーーー!!!」」」」



 リーマの掛け声と共に、冒険を再開した真緒達であった。
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