笑顔の絶えない世界~道楽の道化師の軌跡~

マーキ・ヘイト

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番外編 魔王城のとある一日

エジタスとの買い物 (後編)

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 「それでは入りますか」



 エジタス達は二人の魔族を退けた後、その先にあった家具屋の扉を開けた。



 「ほぉ~、これが魔族の人達が経営する家具屋ですか~」



 中に入るとそこは二階建てになっており、一階は本棚や寝具関係の大型家具を取り扱い、二階は人形や置物関係の小物雑貨を取り扱っていた。



 「結構色んな物を取り扱っているんだね」



 「さて、まずはどちらから買い求めたら良いですかね~?」



 「うーん、やっぱり本棚とかもう少し部屋としての収納家具を増やして行くべきだと思うよ……」



 エジタスの部屋は暖炉、ソファー、ドレッサーと多種多様の家具が揃えられていたが、本棚などの収納家具は置かれていなかった。



 「成る程~、流石サタニアさん。頼りになりますね~」



 「そ、そんな僕は只、エジタスに少しでも良い生活を送って貰いたいと思っただけだよ…………」



 「それでは早速本棚を、拝見しに行きますか」



 そう言うとエジタス達は、本棚のコーナーに足を運んだ。



 「…………本棚と言っても、種類が豊富ですね~」



 エジタス達の目の前には手頃な大きさの本棚に、とてつもなく大きい本棚と、大中小で大まかに分けられていた。



 「エジタスは、どの位の大きさが良いの?」



 「そうですね~、私は沢山の本を読みたいと思っているので、それなりの大きさは欲しいですかね……」



 「へぇー…………あ、それならこれなんてどうかな?」



 「どれどれ…………?」



 サタニアが選んだのは中位の大きさをした本棚で、手頃な物よりは多く、とてつもなく大きい物よりは少なく収納する事が可能である。



 「中々良い本棚ではありませんか~…………ん、これは?」



 そして、エジタスは気がついた。サタニアが収納性だけで、この本棚を選んだのでは無い事を…………。よく見ると、本棚の側面に菊の花が彫られていた。大胆に彫られたその菊の花は、何処か儚さすら感じさせる程、繊細で絶妙な模様であった。



 「機能だけでは無く、芸術性にも優れた家具という訳ですか…………サタニアさん!」



 「は、はい!?」



 突然大きな声を掛けられて驚いてしまうサタニアに、エジタスが両手を優しく握る。



 「私、これとても気に入りました!サタニアさんが選んでくれた本棚、大切に使わせて頂きますね~」



 「はうっ…………えっ、あっ、僕も喜んで貰えて嬉しいよ!」



 いきなり両手を握られ、ぶつかってしまいそうな程近い距離までエジタスの顔が迫って来て、頬だけでは無く耳まで赤く染まるサタニア。



 「そ、それじゃあ僕、会計の方を済ませちゃうから、エジタスは先に外で待ってて!!」



 「…………本当にいいんですか~?お金なら私が自分で払いますのに~」



 「いいんだよ、エジタスとの初めての買い物なんだから、城主である僕に払わせて」



 「…………そう言う事なら……お言葉に甘えて……」



 話終わるとサタニアは会計を済ませる為、店員がいるカウンターに向かった。



 「すみません、あそこにある菊の花が彫られている本棚を下さい」



 「はい、お買い上げありがとうございます。…………それで、“色”の方はどうなさいますか?」



 「色…………ですか?」



 色はどうするかと問われ、戸惑いの色を見せるサタニアに気を利かせて、店員が説明し始める。



 「菊と言っても色によって、その意味は大きく異なります」



 「そうなんですか?」



 「はい、こちらが菊の色それぞれの意味を記した一覧表です」



 そう言うと店員は、カウンターの中から一枚の紙を取り出した。そこには菊の花言葉と色によって異なるその意味が書き記されていた。するとサタニアは、ある一つの色に目が止まった。



 「…………え、えっとそれじゃあ…………“赤”で……」



 「“赤”でございますね、かしこまりました。色塗りが終わり次第、お届けに参りますのでここに住所をお書き下さい」



 「は、はい……」



 サタニアは恥ずかしがりながらも、色を赤に指定して住所を魔王城と記入した。



 「ありがとうございます。それではお会計の方が1万3千kになります」



 「一枚、二枚、三枚…………これでいいですか?」



 「…………はい、足かに1万3千k頂きました。お届けの方は最低でも一週間後になりますがよろしいでしょうか?」



 「はい、大丈夫です」



 「またのご来店お待ちしています」



 会計を済ませたサタニアは、外で待っているエジタスの下に戻った。



 「お待たせ、無事会計が済んだよ。届くのは最低でも一週間後だって……」



 「お~、そうですか分かりました。サタニアさん、この度は素敵な本棚を買って頂き誠にありがとうございます」



 「そんな、エジタスが気にする事じゃ無いよ」



 「そこで、こんな物を買ったのですか…………受け取って貰えますか?」



 サタニアの目の前に差し出されたのは、一体の小さな人形だった。



 「これは、人形?…………エジタスにそっくりだ」



 人形は、エジタスの容姿と瓜二つであった。



 「気付きましたか?そう、それもその筈、この人形は私自身がオーダーメイドした、世界に一つしか無い特注品なのです!」



 「世界に…………一つだけ……ありがとうエジタス!僕、この人形を一生の宝物にするね!!」



 サタニアはエジタスから渡された人形を強く抱き締めながら、宝物にすると誓った。



 「そんな、大袈裟ですよ~私は只……「見つけたぞエジタス!!」……おや?」



 声がする方向に振り返るとそこには、家具屋に入る前に一悶着あったあの二人の魔族と見覚えの無い、一回り大きい魔族、そして何十人と越える魔族が立っていた。



 「あなた達は確か…………どちら様でしたっけ?」



 「テメー、さっき会ったばかりの奴を忘れるとはいい度胸しているな!お頭、こいつらです!俺達を馬鹿にした連中は!」



 アニキと呼ばれていた魔族は、一回り大きい魔族に声を掛けた。



 「そうかお前達か……俺の可愛い子分達を笑い者にしたのは……きっちり落とし前付けさせて貰うぞ」



 「ちょっと待って!エジタスは何も悪く無い。悪いのはぶつかってしまった僕なんだ!」



 サタニアは、エジタスを庇う様に前へと飛び出した。



 「安心しろ、お前も後でたっぷりと可愛がってやるからな」



 「そんな…………」



 「…………ん、何だこの人形?」



 「あ、返して!!!」



 「嫌だね、誰が返してやるもんか。ほらアニキ、パス!」



 一人の魔族が、サタニアが大切に持っていた人形を奪い取り、もう一人のアニキと呼ばれている魔族に向けて投げた。



 「ナイスキャッチ!!気持ち悪い人形だな。お頭、パス!」



 「…………ふん、ふざけた人形だ……オラッ!!」



 「!!!」



 お頭と呼ばれている魔族は、人形を受け取ると暴言を吐き捨て、地面に落としその大きな足で踏みつけた。



 「おいお前ら!この二人を痛め付けな!!但し女の方は生かしておけよ。あいつは高く売れそうだ!」



 「「「イエーイ!!」」」



 お頭の命令で何十人と魔族達が、エジタスとサタニアに襲い掛かる。



 「サタニアさん、どうしますか?」



 「…………す」



 「サタニアさん?」



 「…………殺す」



 その瞬間、サタニアの体からどす黒いオーラが溢れ出し、襲い掛かる魔族達を一瞬で塵にしてしまった。



 「「え…………?」」



 「な、何が起こった……?」



 残った例の二人の魔族と一回り大きいお頭と呼ばれている魔族は、何が起こったのか理解が追い付いていなかった。



 「ヤ、ヤバい気がする。急いで逃げるぞ…………あれ?」



 お頭は逃げようとするが、どういう訳か転んでしまった。急いで立ち上がろうとするも、何故か上手く立てない。不思議に思ったお頭が足の方に目をやると、あるべき筈の片足は無くなっていた。



 「な、何だこれ!!お、俺の足!俺の足は何処行った!!?」



 辺りを見回し必死に探していると、サタニアの右手に綺麗に切り取られた見覚えのある足があった。



 「エジタスの人形を踏むな!!」



 「ひ、ひいぃ!!!お、おい!お前ら俺を助けろ!!!」



 しかし、お頭の救援要請は虚しくも二人の魔族には届かなかった。何故なら、既にその場から逃走を図っていたからだ。



 「あんな化け物に敵う訳無い!!」



 「逃げるが勝ちだ!!」



 「…………逃がさない」



 サタニアは逃げる二人の内、アニキと呼ばれていた方を睨み付けた。



 「な、何だこれ……どうなっているんだ?体がどんどん膨らんでいく!!」



 「ア、アニキ!?」



 風船の様にどんどん膨れ上がっていく。顔、体、手、足、全身がはち切れんばかりに膨らんでいく。



 「た、助け………!!」パァン!



 膨れ上がった体は遂に限界を越え、無惨にも破裂してしまった。辺り一面が血の海に変わり、いくつかの臓物が空から落ちて来た。



 「い、い、嫌だ!!死にたくない!!誰か助けて!!」



 サタニアは逃げる最後の一人を見ながら、左手で下から上へと動かす。



 「ギギャ!!?」



 逃げる魔族の地面から突如鋭く尖った岩がいくつも飛び出し、串刺しにした。



 「ご……ごめんな……さい……………………」



 「ごめんで済んだら“魔王”は要らないんでしょ?」



 冷めた言葉を発したサタニアは、地面に這いつくばりながら必死に逃げようとする哀れな魔族を見下ろした。



 「死にたくねぇ…………死にたくねぇ……」



 「…………ふん!!」



 サタニアは逃げる魔族の頭を踏み潰した。頭蓋骨は砕け、脳みそは潰れたプリンみたいにぐちゃぐちゃになっていた。



 「これで分かった?踏まれると、とても痛いんだよ…………」



 そう言うとサタニアは、持っていた足をポトリと落とした。



 「サタニアさん…………」



 「ごめんねエジタス…………せっかく貰った人形……ぼろぼろになっちゃった」



 お頭と呼ばれていた魔族に踏まれて、ぼろぼろになった人形を抱き締めながら涙を流すサタニア。



 「…………サタニアさん、泣かないで下さい。人形なんてまた作ればいいんですよ。サタニアさんがその人形を大切にしてくれるのは嬉しいですけど、私はそれよりもサタニアさんが笑顔になる方がもっと嬉しいです」



 「エジタス…………」



 「だから笑って下さい…………ね?」



 「…………うん!!」



 サタニアは涙を拭き取り、エジタスに満面の笑みを見せた。その笑みは、先程の冷酷な顔とはかけ離れていた。



 「さぁ、帰りましょう」



 「エジタス……手を繋いでもいいかな?」



 「勿論いいですよ」



 エジタスとサタニアは互いに手を繋ぎ、楽しそうに魔王城へと帰った。







































 この日の出来事を目撃した人達は、後にこう語っている…………『あれは魔王なんて呼べる優しい者じゃない。あれこそ化け物と呼ぶのに相応しい』そしてこの日を“悪夢の誕生日”として、町の若者達の戒めとして永遠に語り継がれる事となった。
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