笑顔の絶えない世界~道楽の道化師の軌跡~

マーキ・ヘイト

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第十章 冒険編 魔王と勇者

勇者 VS 勇者(後編)

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 彼女と初めて会ったのは、愛子と舞子が財布を盗まれたと騒いでいたあの日だった。第一印象は内気で、今時瓶底眼鏡を掛けているなんて珍しい子だなと感じた。とても他人の物を盗む子には見えなかった。しかし実際二人の女子生徒が盗まれたと証言して、本人も謝って罪を認めていた。



 しかし、それは間違いだったと彼女自身から知らされた。この異世界に転移させられて彼女は変わった。自分の意見をハッキリ言える子になっていた。いやもしかしたら、あれこそが彼女本来の姿なのかもしれない。そんな彼女に僕は人知れず興味が湧いた。人間としても、異性としても素晴らしい女性だと感じていた。そんな彼女と僕は現在、剣でお互いを斬り合っている。



 「はぁあああ!!!」



 「くそっ!!!」



 聖一は真緒の盾をかわして、フレイムショーテルで攻撃を行う。しかし、真緒の持つ生け贄の盾が少しでも触れれば瞬時に弾かれて、真緒の斬撃をまともに食らう。真緒は“AGI”、俊敏性を全て盾に捧げているが、弾かれた事で一瞬の隙が生まれる聖一に攻撃を当てるのは容易い。



 「真緒さん!どうして君は諦めてくれない!?こんな痛い思いまでして……何がそこまで君を突き動かすんだ!?」



 聖一は終わらせたかった。斬って斬られるが延々と続くこの戦いを早く終わらせたかった。両者、傷だらけで大量に出血している。立っているのが不思議な位だった。



 「言ったじゃありませんか……リベンジですよ……あなたに勝てなかった過去の自分とのけじめの様な物です……あなたに勝てないと……いつまで経っても前に進む事が出来ないんです!!」



 そう言うと真緒は聖一に斬り掛かる。しかしそれは悪手だった。俊敏性を全て捧げてしまっている為、とてもゆっくりに動いている。今まで攻撃を当てられていたのは聖一の攻撃を弾き、その時に生まれた隙を突いていたからこそ戦えていた。自分から攻撃を仕掛けては当たる筈も無い。



 「勝ちを急ぎ過ぎた様だね!そんなゆっくりとした動きでは僕に当てるのは不可能だよ!!」



 聖一は真緒の攻撃を盾に変形させたアクアグラディウスで包み込むと、フレイムショーテルを真緒目掛けて突き刺した。



 「!!」



 「君はよく頑張った……だけど、これで終わりだ」



 致命傷を負わす事が出来たと確信した聖一は、突き刺したフレイムショーテルをゆっくり抜こうとする。



 「…………!!?」



 しかし、抜ける事はなかった。何故ならフレイムショーテルは真緒には突き刺さっておらず、脇に挟まれていたのだ。



 「えへへ…………捕まえましたよ…………」



 「な、何故……あんなにゆっくりとした動きを外す訳が……ま、まさか!?」



 何かに気がついたのか、聖一は真緒の全身を確認する。すると若干上半身が斜めに傾いていた。



 「始めから……僕の剣を捕まえるのが目的だったのか…………?」



 「聖一さんは、早期決着を望んでいました。それなら必ず剣で斬るのでは無く、突き刺して来るであろうと考えたんです…………」



 「そうだとしても……フレイムショーテルを脇に挟み込むなんて……焼け死ぬぞ!?」



 フレイムショーテルは文字通り炎から形成されている武器。聖一の言う様に、真緒の脇は焼け焦げていた。



 「え、えぇ……だから実は私も……早く決着をつけたかった所なんです!!」



 そう言うと真緒は、脇で押さえつけながら盾で聖一に殴り掛かった。



 「!!……し、しまった!!」



 聖一は急いでその場から離れようとしたが、運が悪い事にアクアグラディウスが真緒の剣を包み込んでいた為、すぐには離れられなかった。いや、運が悪いのでは無い……これも全て計算の内だったのだ。真緒の方から攻撃を仕掛ければ、必ず聖一はアクアグラディウスで防いで来る筈だと、行動を読まれていた。



 「がはぁあああ!!!」



 聖一はステータスを捧げて防御力が増した盾で殴り飛ばされた衝撃で、フレイムショーテルとアクアグラディウスを手放してしまった。そして、魔力の供給源を失った二つの武器は共に消滅する。



 「「「聖一さん!!!」」」



 「ぐぉおおお!!」



 愛子達に心配されながら、地面で身を削って数十メートル先まで吹き飛んだ。



 「はぁ……はぁ……」



 「…………」



 聖一は、倒れた体をゆっくりと起こして立ち上がった。



 「!!?」



 しかし立ち上がったその瞬間、両足がガクガクと震え始め、思わず片膝をついてしまった。



 「…………」



 聖一は頭を触る。すると血がべっとりと付着していた。頭から血が流れ出ていた。



 「“脳震盪”です」



 「…………!?」



 頭部を強く殴られた事で脳が損傷し、立っている事すらままならない状況になった。



 「元々、同時詠唱という脳に相当負担を掛ける事をしていたんです。こうなるのは明白でした。その状態では立つ事は愚か、喋る事も難しいでしょう……」



 「…………負ける?」



 「!!?」



 喋れないであろうと思った矢先に、聖一が口を開いた。



 「完璧である僕が…………負ける?そ、そんな事はあ、あり得ない……あり得ないんだ…………!!」



 まるで生まれたての小鹿の様に、両足をプルプルさせながらも何とか立ち上がって見せた。



 「そんな……“脳震盪”を起こしているのに…………」



 「もういい……真緒さん……君には悪いけど瀕死にしてあげるよ……“ファイア”“ウォーター”“ウインド”!!」



 すると聖一の周りに、三属性の魔法の塊がそれぞれ形成された。



 「ま、まさか……三つの魔法を同時に唱えるだなんて……」



 「まだ終わりじゃないよ!!」



 リーマが三つの魔法を同時に唱えた事に対して驚いていると、聖一は更に驚くべき行動を取った。



 「はぁああああ!!!」



 形成された三属性それぞれの塊は一ヶ所に集まり、そして混ざり合い一つの大きな塊となった。



 「そ、そんな……それぞれ異なる属性を持つ魔法を一つに混ぜ合わせるだなんて…………こんなの見た事も聞いた事も無い…………」



 リーマが普段行っている、一つの魔法に別の魔法を組み合わせる様な事では無く、異なる魔法を混ぜ合わせるという行為……リーマは、聖一のたぐいまれなる才能に驚愕の色を隠せなかった。



 「これこそが……僕のとっておきの隠し玉さ!!後悔したって遅いよ!!」



 混ぜ合わさった魔法の塊は、三色に輝いていた。



 「“エレメントブラスター”!!!」



 混ぜ合わさった魔法の塊は、真緒目掛けて放たれた。



 「さすが、聖一さんです……恐らくこれから先、何度戦っても聖一さんにはかてないと思います…………でも、この戦いだけは……絶対に勝ちたいんです!!」



 そう言うと真緒は、迫り来る魔法の塊に対して純白の剣を構えた。



 「私には……まだ最後の切り札が残っています……私は一人で戦っているのではありません……ハナちゃん、リーマ、フォルスさん、そして師匠……皆と供に戦っているんです!!」



 「「「「!!!」」」」



 真緒の意図に気がついた四人は、目を瞑って真緒の剣に感情を注ぎ込む。



 「私達は前に進まなければならない……例えそこにどんなに高い壁があろうとも、乗り越えて行かなければならない……そうじゃないと過去の自分を越える事なんて出来ない!!」



 真緒の剣に注ぎ込まれた皆の感情によって、光輝き始める。



 「混ぜ合わせられるのは、あなただけじゃないんですよ!!皆の感情を一つに、私達は前に突き進む!!スキル“フィーリングストライク”!!!」



 仲間達の感情を一つに混ぜ合わせ、迫り来る魔法の塊に目掛けて叩き込んだ。



 「はぁあああ!!!」



 「「「「いっけぇえええ!!!」」」」



 真緒が放った渾身の一撃は魔法の塊を突き破り、その先にいる聖一を貫いた。



 「そ、そんな……バカな…………」



 強烈な一撃を食らった聖一は、四つん這いになって膝をついた。



 「私達の勝ちです…………」



 「「「聖一さん!!!」」」



 勝利を納めた真緒。敗北した聖一に愛子達が駆け寄る。



 「舞子!!早く回復魔法を掛けなさい!!」



 「わ、分かってるよ!!“オールヒール”」



 舞子が魔法を唱えた途端、聖一の体を優しい光が包み込み傷を完全に癒した。



 「聖一さん、大丈夫ですか?」



 「…………」



 しかし聖一は何も答えず、ゆっくり立ち上がると真緒達の方へと歩み寄る。



 「い、いやぁ……まさか負けてしまうとは……さ、さすがは真緒さんだ……」



 「いえ、たまたま運が良かっただけです。もう一回戦えば、聖一さんが圧勝すると思いますよ」



 負けてしまった事に動揺しているのか、言葉が少し震える聖一。



 「その謙虚なのが素晴らしいよ。そうだ!真緒さんが勝ったらなんでも言う事を聞く話だけど、僕達を真緒さん達のパーティーに入れるのはどうかな?」



 「聖一さん!!?」



 聖一のまさかの申し出に、愛子は驚きの声をあげる。



 「完璧な僕なら、真緒さん達の命令を完璧に遂行してみせるよ!悪い話では無いだろ?」



 「「「「「…………」」」」」



 真緒達は呆れていた。勝負に勝ったこちらが好きに出来る筈なのに、聖一は勝手に提案している。



 「聖一さん…………」



 「おぉ!!何だい!?どんな命令でも任せてくれ!完璧に遂行してみせるよ!!」



 「もう二度と私達に関わらないで下さい…………」



 「…………えっ?」



 真緒達が下した答え、それは聖一達への関わりを断ち切る事だった。



 「私達は、私達の道を歩みます。聖一さん達もそうして下さい…………」



 「…………」



 聖一は真緒の言葉にショックを受けたのか、その場で俯いてしまった。



 「はん!!言われなくても、あんた達なんかとは二度と関わらないわよ!!聖一さん、こんな奴ら無視して行きましょう!!私達だけで魔王を倒せますよ!!」



 「…………“無視”?」



 俯きながら聖一は、愛子の言葉に反応する。



 「はい!!無視です!!無視無視無視無視む…………!!」



 その瞬間、聖一の鋭い斬撃が愛子の首を飛ばした。



 「えっ…………?」



 誰が発したか、気の抜けた様な言葉が漏れる。愛子の首は宙を舞った。首と別れを告げた体はその場に崩れ落ち、上からは血が吹き出し、下からは尿が漏れ出ていた。



 「…………きゃあああああ!!!!」



 舞子が悲鳴をあげた事で、周囲の全員が状況を飲み込む。



 「セ、セイイチ様!?い、いったい何をしているのですか!?」



 「自分の仲間を殺したぞ!!?」



 「聖一さん!!?」



 「…………するな……」



 「えっ……?」



 真緒達が驚いていると、聖一が何かを喋り始めた。



 「僕を……僕を……僕を“無視”するなぁあああ!!!」
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