笑顔の絶えない世界 season2 ~道楽の道化師の遺産~

マーキ・ヘイト

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第一章 新たなる旅立ち

勧誘大作戦(後編)

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 「~~♪~~~~♪~~♪~~~~♪」



 その日、真緒は陽気な鼻唄を歌いながら教会周りを掃き掃除していた。



 「いやー、ソルトさん!! 今日も精が出ますね!!」



 「~~♪~~~~♪……あっ、ヴォイス団長お疲れ様です」



 掃き掃除に夢中になっていると、いつも通り大きな声をしたヴォイス団長が、真緒に声を掛けて来た。



 「それにしても、ソルトさんは優しい人だ!! 教会周りの掃き掃除を率先してやって下さるのだから!!」



 「いえ、私がやりたくてやっているだけですから……(まぁ、本当はヘッラアーデの入会条件を満たす為ですけど……)」



 「…………ところでソルトさん」



 その時、ヴォイス団長の声色が変わった。先程の大きな声とは違い、酷く落ち着いた声になっていた。



 「……何でしょうか?」



 「あなたと一緒に入った三人……ハラコさん、マリーさん、ルフォスさんとは随分仲がよろしいんですね」



 「えぇ……幼い頃からの付き合いですからね……」



 「つまりは幼馴染み……という事ですか?」



 「まぁ、はい……そうです」



 幼馴染み。これは真緒達が相談し合って決めた関係設定だ。他にも生い立ちから家族構成など、万が一聞かれても対応出来る様に口裏を合わせている。



 「それでですね……ここ最近、ハラコさん、ルフォスさんのお二人にお聞きしたんですけど……どうやらお二人供、容姿に対するコンプレックスを抱いているんですよ……」



 「……そ、そうだったんですか……」



 「いやー、私自身も驚きましたよ。一緒に入った四人の内、二人が容姿に対する同じコンプレックスを抱えているんですよ……それで私思ったんですけど……」



 「…………」



 額から冷や汗が流れる。不安と緊張により、心臓の鼓動が速まる。思わず、箒を握る力が強まる。



 「もしかして……あなた達って……」



 「…………」



 息を飲む。早くヘッラアーデに入会したいと思うあまり、先走り過ぎてしまった。こんな短期間に、入会条件を満たす人材が四人も現れれば、不自然と思われても仕方が無い。



 「……共通のコンプレックスを持っているんですか?」



 「…………へっ?」



 ヴォイス団長のまさかの返答に、思わず間抜けな顔になってしまう真緒。空いた口が塞がらない。



 「いや、こんな偶然あるのかなってずっと思っていたんですが、先程ソルトさんが仰った幼馴染みという言葉でハッキリと分かりました!! あなた方四人は、同じコンプレックスを抱く者同士、集まるべくして集まった運命の四人なんだと!! 」



 「……あ、あはは……そ、そうなのかもしれませんね……」



 楽観的。いつの間にかヴォイス団長の声色も、元に戻っていた。頭がお花畑のヴォイス団長に、真緒は苦笑いを浮かべる。



 「そうかも……という事は、やっぱりソルトさんもハラコさん、ルフォスさんの様に容姿に対するコンプレックスを抱えているんですか!!?」



 「えっ!? …………えぇ、実はそうなんです……私、この天然パーマがコンプレックスでして……」



 突然の問い掛けに驚きの声を上げる真緒だったが、直ぐ様冷静を取り戻し、前々から用意していた変化した今の容姿に対するコンプレックスを伝える。勿論、暗く切ない雰囲気を出しながら。



 「そうでしたか……確かに、髪質は遺伝ですからね!! 不可抗力でどうしようもありません!! ソルトさんの心中、お察しします!!」



 「い、いえ……」



 「安心して下さいソルトさん!! ここには、あなたの容姿を蔑む人間はいません!! ありのままのあなたを受け入れます!!」



 「あ、ありがとうございます……」



 「という事は……マリーさんも、皆さんと同じ様にコンプレックスを抱えていているに違いない!! これは早く励ましに行かなくては!! それではソルトさん、これで失礼します!!」



 「あっ、はい……」



 勝手に一人で盛り上がり、言いたい事だけ言い終わると、ヴォイス団長は嵐の様に去って行った。



 「…………掃除の続きしよ」



 そう言うと真緒は、黙々と掃き掃除を再開するのであった。







***







 「えっと……この食料がこの箱で……この燭台やシーツは、この箱……結構種類が多いですね……」



 現在、リーマは教会内の食料品及び装飾品の仕分けを行っていた。しかし、思った以上に装飾品の種類が多く、仕分けするのに苦労していた。



 「この本はこっち、このお皿……模様別に分けるべきでしょうか……うーん……」



 「マリーさん!! マリーさん!! マリーさん!!」



 仕分けで悩んでいるその時、外で真緒との会話を終えたヴォイス団長が、リーマの所まで凄まじい速度で駆け寄って来た。



 「きゃあ!! ヴォイス団長!? いきなりどうしたんですか!?」



 「マリーさん!! ソルトさんから聞きましたよ!! あなた方四人は、幼馴染みなんですよね!!?」



 「へっ? …………あぁ!! そ、そうです!! そうなんですよ!!」



 一瞬何を言っているのか理解出来なかったが、関係設定の事を思い出し、それ相応の対応をする。



 「いやー、仲が良いとは思ってはいましたが、幼馴染みだったとは……納得の答えが聞けました!!」



 「そ、それは良かったですね……それで、ご用はそれだけですか?」



 「いえいえ、実はマリーさんにお聞きしたいのですが……」



 「何でしょうか?」



 「マリーさんのコンプレックスを教えて頂けますか!!?」



 「…………は?」



 ガチトーン。突然押し掛けて来たと思えば、何の脈略も無しに他人のコンプレックスを聞いて来る。思わずリーマも、ドスの効いた声で返答してしまった。



 「あっ、すみません!! 説明不足でしたね!! 実は先日、ハラコさんとルフォスさんのお二人から、容姿に対するコンプレックスを抱えている事を聞いており、凄い偶然があるなと考えていた所、ソルトさんから幼馴染みの話を聞き、これはもしかしたら同じ悩みを持つ者同士が集まるべくして集まった運命なのではと思いまして!!」



 「……それで?」



 「はい!! ハラコさんとルフォスさんのコンプレックスは先日聞いて、つい先程ソルトさんのコンプレックスも聞きました!! これはもう最後まで聞かなくてはならないなと使命感を覚えまして、ぜひマリーさんのコンプレックスも教えて頂きたいなと、やって来ました!!」



 「そ、そうですか……」



 失礼極まりないヴォイス団長のお節介に、リーマ自身呆れてしまった。



 「さぁ!! 遠慮せずに話してみて下さい!! 誰かに打ち明ける事で、その悩みも少しは和らぐと思いますよ!!」



 「……そうですね……ではお言葉に甘えて……実は私、この顔自体がコンプレックスなんです……」



 しかし、ヘッラアーデの入会条件を満たす為、事前に用意していたコンプレックスを伝える。



 「どう言う事ですか?」



 「これと言って特徴が無いんです……可愛いという訳でも、不細工という訳でも無い……何処にでもいる普通の女性……そう思ってしまうんです……」



 リーマが考えたコンプレックス。変化した容姿は、これと言って欠点が無かった。その為、当初はコンプレックスを抱えるのに苦労した。しかし、欠点が無い事を欠点にしてしまえばという、逆転の発想を生かしてコンプレックスを作り出した。



 「成る程……確かに、人間誰しも特別な存在になりたいと思うかもしれません……実は私も、特徴のある人間になりたいと常日頃から思っているんです!!」



 「(いやいや、絶対嘘ですよ)」



 特徴の塊とも言えるヴォイス団長。そんなヴォイス団長が特徴のある人間になりたいと言うのは、リーマからすれば嘘にしか聞こえない。



 「安心して下さいマリーさん!! 特徴が無くて悩んでいるのはあなただけじゃありません!! 困った時は、供に乗り越えて行きましょう!!」



 「ヴォイス団長……ありがとうございます」



 「……さて、これ以上マリーさんのお仕事の邪魔をする訳にはいきません……それでは私はこの辺で失礼しますよ!!」



 「…………」



 身勝手。真緒の時と同じ様に、言いたい事だけ言って、去って行った。無責任にも程がある。



 「えっと、この皿はこの箱に入れて……このスプーンは……」



 その後リーマは、何事も無かったかの様に仕分けの仕事を再開するのであった。







***







 「はぁー、何なんですかあの人!?」



 夜中。教会での仕事を終えた真緒達は、真緒が暮らしている家のバーに集まって報告会を行っていた。



 「突然押し掛けて来たと思ったら、いきなりコンプレックスの事を聞いて来て……デリカシーって言うのが無いんですよ!!」



 「大変でしたね。ヴォイス団長には、もっと常識を学んで欲しい物です」



 話している内容は報告会と言うよりも、ヴォイス団長に対する不満だった。四人の不満をリップがフォローするというのが、最近の流れだった。



 「だが……あの接し方……何処かで見た気が……いや、体験したと言うのが正しいのか……」



 「オラも、ヴォイス団長の接じ方……何処がで体験じだ気がずるだぁ……」



 「そう言えば確かに……でもいったい何処で……」



 「……師匠が接している時じゃないですか……」



 ハナコ、リーマ、フォルスが思い出そうとする中、真緒がその答えを口にした。



 「ぞうだぁ!! エジタスざんの接じ方に似でいるんだぁ!!」



 「まぁ、完全な劣化ですけどね」



 「いや、劣化どころの話じゃない。全くの別物だ」



 「当然だよ……師匠は、二千年生きて行く中で人身掌握の技術を身に付けた……あんな付け焼き刃の三流男じゃ、天と地の差だよ……」



 「マオぢゃん……」



 「マオさん……」



 「マオ……」



 重々しい空気。エジタスの猿真似をするヴォイス団長に対して、既に真緒の怒りは頂点に達していた。言葉の端々に殺意の感情が含まれる。



 「……で、でも皆さんが入会条件を満たしているお陰で、思った以上に早く勧誘が来そうですね」



 「……そ、そうだな!! もう少しの辛抱だ……だからマオ、堪えてくれよ?」



 「……分かりました……」



 ヘッラアーデへの入会条件は、残り一つまで迫っていた。







***







 3.神を信仰していない事(生まれながらに神を信仰していない者だけとする)



 「ソルトさん……少しよろしいでしょうか?」



 ある日、いつも通りの仕事をこなしている真緒に、ヴォイス団長が声を掛ける。



 「ヴォイス団長? どうしたんですか?」



 「……黙って私について来て下さい……」



 「えっ……わ、わかりました」



 いつもと違う雰囲気のヴォイス団長に、嫌な予感がする真緒。今は只、歩き出すヴォイス団長に黙ってついて行く。



 「……私の部屋です。中に入って下さい。他の方々は、既に中でお待ちです」



 「他の方々……?」



 不思議に思いながらも、真緒はヴォイス団長の部屋を開ける。



 「えっ!?」



 「マ……ソルトぢゃん!?」



 「……ソルトさん、どうして?」



 「……どうなっている?」



 中ではハナコ、リーマ、フォルスの三人が待っていた。突然の召集に驚きを隠せない一同。そんな真緒達を前に、ヴォイス団長が口を開く。



 「さて、そろそろこの“茶番劇”を終わらせるとするか…………」
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