笑顔の絶えない世界 season2 ~道楽の道化師の遺産~

マーキ・ヘイト

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第五章 冒険編 幸運の巣窟

ドレスコード

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 回る台の上を白い玉が転がる。次第に勢いが弱まり、白い玉は数字の書かれた窪みに収まる。それを見て黒いベストを着た男性が収まった数字を口にする。



 「赤の21!!」



 「よっしゃああああ!!」



 「嘘だぁああああ!!」



 別の台では男性二人が互いに睨み合っていた。中央にはそれぞれが賭けた金貨が置かれている。しばらく睨み合った後、二人の男性が手に持った紙を台の上に叩き付ける。



 「どうだ!! 9のスリーカード!!」



 「残念でした。ストレート」



 「そ、そんな……」



 項垂れる男性を他所に、もう一人の男性が中央に置かれた金貨を根こそぎ持っていった。そんな光景に真緒達は呆気に取られていた。



 「凄い……」



 泣き叫ぶ者。歓喜する者。何処ぞの名のあるであろう貴族達が、恥も外聞も捨てて心の底から楽しんでいた。



 「ここオーロカジノではトランプ系を主体としており、他にもルーレットやスロット等を取り揃えています」



 「へぇー、この世界でもトランプやルーレット、スロットがあるんだね」



 「あぁ、全部初代勇者から伝えられた事だけどな」



 「他にもチンチロリンや丁半も伝えられていますよ」



 「勿論、それら二つも用意させて貰っていますよ」



 「種類が豊富ですね」



 “た、助けてくれ!!”



 「「「「!!?」」」」



 真緒達がカジノについて説明を受けている中、突然悲鳴が響き渡る。声のした方向に顔を向けるとそこには一人の男性が、血相変えてこちらに向かって来ていた。



 「うわぁあああああ!!!」



 「ちょ、こちらに向かって来ていますよ!?」



 「ご心配には及びません。すぐ警備の者が参ります」



 「「「「?」」」」



 咄嗟に身構える真緒達に案内人が心配無用と説明する。すると突然天井から鎧を着た兵士が向かって来た男性の上に落ちた。



 「うっ……うぅ……」



 男性は鎧を着た兵士の下敷きとなり、気絶してしまった。



 「ご迷惑をお掛けしました」



 「それでこの男は何をしたのですか?」



 「はっ!! 負けたのに対して、賭けの金貨を支払わず逃げ出そうとしたのです!!」



 「それはいけない事ですね。負けたのならちゃんと賭けた分を支払って貰わないと……」



 「頼む……」



 「?」



 呆れた声を出す案内人に対して、兵士の下敷きになっている男性が苦しみながら訴えて来た。



 「た、頼む今回だけは見逃してくれ……これを取られたら文無しになっちまう……」



 「自業自得ですよね? 破滅するまで止めなかったあなたがいけないんですよ。反省して下さい」



 しかし案内人はそれを冷たくあしらう。



 「ほら立て、きっちり払って貰うからな」



 「嫌だ!! 嫌だ!! 助けて!! 助けてくれ!!」



 男性は泣きわめきながら無理矢理立たされ、兵士によって連れて行かれてしまうのであった。



 「あ、あの……」



 「気にしてはいけません。自制が利かなくなったお客様が破滅するまで賭け続ける……このオーロカジノではよくある事です」



 「…………」



 異世界からやって来た真緒からすれば、仕方が無い事だと理解している。それよりも恐ろしいと感じたのは、連行される男性に対して周囲の目線。誰一人として見ようとはしていなかった。まるで当たり前の出来事の様に、気にも留めていなかった。



 「今の鎧を着た兵士は何だ?」



 「あの人“達”はオーロカジノで働いている警備員の方々です」



 「“達”……?」



 「上をご覧下さい」



 「上って……なっ!?」



 上を見上げると、そこはカジノの二階となっていた。二階は細い通路だけが設けられていた。そんな二階の細い通路には大量の兵士が立っており、一階を見下ろしていた。



 「こ、これは……」



 「一言で言えば監視です」



 「監視……?」



 「このオーロカジノでは毎度予期せぬ事態が発生します。賭けの結果に逆上したお客様が他のお客様を襲ったり、イカサマをして勝とうとしたり……そうした事態を終息させる為、二階から見下ろせる状態で警備させているのです」



 「な、成る程……」



 「これは下手に動くのは危険かもしれませんね……」



 「そうだね。なるべく目立たない様にしてギャブラーっていう人を捜そう」



 「分がっだだぁ」



 二階から監視されている事を知った真緒達。今後の動きを小声で話し合っている中、案内人が両手を合わせて首を少し傾ける。



 「さて、大まかな説明が済んだ所で早速皆さんにも当カジノを楽しんで頂きたいと思います。それではまず、武器の方を預からせて頂きます」



 「何、武器を預けるのか?」



 「はい、ここでは基本的に武器での戦闘は禁止とされています。安全に遊んで頂く為にも、武器は預からせて頂きます」



 「仕方無いね……」



 真緒達は渋々、持っていた武器を取り外し案内人に手渡した。



 「確かにお預かりしました。それではこれから部屋までご案内します」



 「部屋?」



 「はい、そこで皆様がお持ちのドレスコードに着替えて頂きます」



 「「「「ドレスコード?」」」」



 「…………え?」



 その時、初めて案内人の口から間の抜けた声が出た。



 「えっと……今のままの服装ですと他のお客様にもご迷惑が掛かりますので、当カジノに適した服装に着替えて頂く必要があります……」



 「「「「…………」」」」



 真緒達は互いに顔を見合わせる。予想していなかった展開に、案内人は苦笑いを浮かべていた。



 「す、すみません……私達、他の人達が着ている様な豪華な服は持っていません……」



 「…………」



 真緒の言葉を聞いたその瞬間、案内人の顔から苦笑いすらも消え、真顔になっていた。



 「申し訳ありませんが……お引き取りをお願いします」



 「そ、そんな!?」



 「おい、それは無いんじゃないか? 元はと言えばお前が俺達をこのカジノに案内したんじゃないか? それで服を持っていないからって追い出すのは無責任だと思わないのか!?」



 「確かに一理あります。しかしその前に、あなた達は何の目的でこのオーロに足を踏み入れたのですか?」



 「そ、それは……」



 「それは?」



 「それは……このカジノが目的で……」



 「であるなら、多少なり調べる物じゃありませんか? 何歳以上なのか、どんな服装なら問題無いのか……それなのに何も調べずに来るとは……非常識だと思わなかったのですか?」



 「…………」



 何も言い返せなかった。サタニアの情報からオーロに辿り着くまで三日。三日も猶予がありながら、何も調べようとしなかった。非は完全にこちら側にあると言えた。



 「何も聞かずにご案内した事に対しては謝罪しましょう。ですがこれだけは理解して下さい。このオーロに足を踏み入れるという事は、カジノに用があるという認識なのです。先程お預かりした武器はお返しします。次来る時はドレスコードを忘れずにお越し下さい」



 そう言うと案内人は預かった武器を手渡し、深々と頭を下げる。その様子に真緒達は言う事が出来ず、そのままカジノを後にした。







***







 「はぁ……まさかドレスコードが必要だったなんて……」



 カジノから追い出された真緒達は、オーロの入口で落ち込んでいた。



 「仕方ありませんよ……まともに調べようとしなかった私達が悪いんですから……」



 「今がらでも服を買いに行ぐだがぁ?」



 「フォルスさん、今いくら位残ってる?」



 フォルスは無言で懐から継ぎ接ぎだらけの古ぼけた袋を取り出し、中にいくら入っているか数え始めた。



 「……金貨が一枚、銀貨が八枚、銅貨が三十四枚……」



 「えっと……ざっと計算すると……1080034k……」



 「因みにドレスコード用の服は最低でも1000000kする……」



 「「「「…………」」」」



 服だけなら何とか一着だけ用意出来るが、靴や小物等は揃える事が出来ない。



 「一度、カルド王国に戻って……ドレスコード一式を貰って来るか?」



 「そうですね……その方が確実ですし……」



 「オラも賛成だぁ」



 「はぁ……こんな所で引き返す事になるなんて……」



 真緒達が思い足取りでカルド王国に戻ろうとしたその時、真緒達の目の前に大きな風呂敷の包みが降って来た。



 「「「「!!?」」」」



 「こ、これは……!?」



 真緒達は慌てて空を見上げる。しかしそこには何もいなかった。辺りを見回してもそれらしい人影は確認出来なかった。



 「い、いったい何だ……?」



 「と、取り敢えず中を確認して見ましょう……」



 「き、危険ですよ!! こんなの罠に決まっています!!」



 「ぞれならオラが開ぐだぁ」



 「ハナちゃん……」



 「ごの中でオラが一番頑丈だぁ。ぞれに万が一の事を考えて……スキル“鋼鉄化”」



 ハナコはスキルを発動させ、自身の体を鋼鉄に変化させた。



 「ごれでどんな攻撃が来でも大丈夫……でも念の為に、皆離れでおぐだぁ……」



 「わ、分かりました」



 「ハナちゃん、気を付けて」



 「油断するなよ」



 三人は言われた通り、ハナコから距離を取る。ある程度離れた事を確認すると、恐る恐る風呂敷の結びをほどく。



 「ご、ごれは!!?」



 「どうしたのハナちゃん!?」



 「ハナコさん大丈夫ですか!?」



 「ハナコ!?」



 驚きの声を上げるハナコに、三人が心配して声を掛ける。



 「皆……ごれを見で欲じいだぁ」



 そう言うとハナコは風呂敷の包みから豪華な服と華やかなドレスを取り出し、真緒達に見せた。



 「そ、それって!!?」



 「私達が丁度欲しがっていたドレスコードじゃないですか!!?」



 三人は慌ててハナコの側に駆け寄る。風呂敷の中を確認すると、中には人数分の服や靴、指輪やネックレス等と言った小物まで入っていた。



 「い、いったい誰が……」



 「誰でも良いだぁ。どもがぐ、ごれで中に入る事が出来るだぁ」



 「どう思いますかフォルスさん?」



 「明らかにこれは俺達に向けての物……いったい誰が何の目的でこんな事をしているのかは分からない……だが、このチャンスを逃す事は出来ない……有り難く使わせて貰おう」



 「そうですね……」



 そうして誰が何の目的で用意したのか分からない服を着て、再びカジノに向かう事を決めた真緒達だった。そしてこの時真緒達は気付かなかった。光輝く街の中に人影が消えて行くのを……。
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