笑顔の絶えない世界 season2 ~道楽の道化師の遺産~

マーキ・ヘイト

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第五章 冒険編 幸運の巣窟

オーロカジノ(後編)

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 「いやー、皆さんお待たせ致しましたねー」



 ギャブラーは両手を合わせ、顔の横にやりながらくねくねと体を動かす。



 「全く待たせ過ぎだぞ」



 「すみません。何せこの格好になるのに結構時間が掛かってしまう物ですから……あれ?」



 顔を見合わせる中、真緒の存在に気が付いたギャブラーが目と鼻の先まで顔を近づけて来る。



 「あれあれ? あなたは誰ですかな?」



 「おや? ギャブラーさんのお知り合いの方では無いのですか?」



 「こんなプリティーガール。今まで会った事は無いですよ」



 「おいおい、こりゃいったいどう言う事だよ? お前……嘘ついたのか?」



 皆の視線が集まる。真緒は気まずそうに俯きながら口を開く。



 「ごめんなさい……人違いでした……あなたの後ろ姿が私の大切な人の後ろ姿に凄く似ていた物で……」



 「…………あなた、名前は?」



 「佐藤真緒です……」



 「ふーん…………」



 「よし、こいつを摘まみ出すぞ」



 「まぁまぁ、落ち着いて下さい。勘違いなんて誰にでもある事じゃありませんか」



 「そうですよ。それに人数も一人足りてないんですし、しばらく遊びに付き合って貰いましょうよ」



 小太りの男性が摘まみ出そうと提案し、それを必死に宥める巻き髭の男性と若い男性の二人。そんな中、ギャブラーは真緒の顔をじっと見ていた。



 「…………」



 「わ、私……抜けます!!」



 「「えっ!?」」



 真緒が抜けると言い出し、巻き髭の男性と若い男性は驚きの声を上げる。一方、小太りの男性は満面の笑みを浮かべる。



 「おうおう、殊勝な心掛けだ」



 「ちょ、ちょっと待って下さい。急にどうしたんですか?」



 「勘違いとは言え、特別な人しか入れない部屋に勝手に入ってしまった訳ですから……これ以上、ここに留まるのはご迷惑だと思って……」



 「そんな事無いって、丁度メンバーが一人足りなくって困っていた所だったんだから一緒に遊ぼう……ね?」



 「…………ごめんなさい。それでもやっぱり……この黒コインはお返しします。本当にごめんなさい」



 真緒は黒コインを巻き髭の男性に手渡し、足早にその場を後にしようとする。流石に諦めたのか、巻き髭の男性と若い男性は残念そうな表情を浮かべる。因みに小太りの男性は終始満面の笑みだった。



 「……エジタス……」



 「……えっ?」



 その時、聞き捨てならない言葉が後ろから聞こえた。思わず立ち止まり、振り返る真緒。



 「あなたが勘違いした人物とは……“道楽の道化師”エジタスの事ですね?」



 言葉を発したのは他ならぬギャブラー本人だった。ギャブラーは何処からか取り出した一枚の錆びたコインを親指で上に弾き、片手でキャッチして、再び親指で上に弾き、片手でキャッチする動作を繰り返していた。



 「そ、そうです!! 師匠の事を知っているんですか!?」



 「師匠……ね。何を隠そうこの私こそがエジタスからロストマジックアイテムを受け取った者なのです」



 「!!!」



 そこに立っていたのは陽気なピエロでは無かった。エジタスが自身の素顔を晒してまでロストマジックアイテムを託した人物。オーロカジノ総支配人のギャブラーだった。



 「おい!! さっきから何の話をしているんだ!?」



 「私達にもご説明して頂けないでしょうか?」



 「ギャブラーさん、教えて下さい!!」



 「申し訳ありませんが、これは私と彼女二人の関係……部外者が余計な口を挟むな」



 「「「!!!」」」



 先程までの軽い言葉とは対照的に、重く息苦しさを感じる。三人の額から冷や汗が流れる。



 「あなたが求めているロストマジックアイテムはこの錆びた一枚のコインです」



 ギャブラーは親指で弾いていたコインを指で挟み、真緒に見せ付ける。



 「ギャブラーさん、お願いします。師匠から託されたそのロストマジックアイテムを渡して頂けないでしょうか?」



 「確かに……エジタスは言っていた。いつか近い内に必ずこのロストマジックアイテムを欲する者が現れると、その時はその人物が手にするのに値する人物かどうか確かめろと……なら私はエジタスの言葉通り、あなたがこのコインを手にするのに値するかどうか確かめさせて頂きます」



 「……分かりました。それで確かめる方法は?」



 それを聞いたギャブラーは、フッと笑みを浮かべ、巻き髭の男性が持っていた黒いコインを手に取り、真緒の前まで近付いて来た。



 「ここはオーロカジノ、幸運の女神に愛されているかどうか確かめる場。あなたが幸運の女神に愛されている人物かどうか、確かめさせて頂きます」



 そう言いながら真緒の掌に黒いコインを乗せる。



 「さぁ、席へどうぞ」



 「……はい!!」



 真緒は黒いコインを強く握り締め、今一度席へと座り直す。



 「つまりえっと……?」



 「参加して頂けるという事でしょうか?」



 「はい、よろしくお願いします!!」



 「やったね!!」



 「お手柔らかにお願いします」



 「…………ちぃ!!」



 真緒の参加が決まった事に、巻き髭の男性と若い男性は喜ぶが、小太りの男性は不機嫌そうに舌打ちを鳴らす。



 「それでは今日のゲームを説明します。今日のゲームはポーカーです」



 「ポーカーですか……腕が鳴ります」



 「僕、苦手なんだよね……」



 「へっ!! 今日も大勝ちしてやる!!」



 ポーカーと聞いて活気出す三人に対して、不安の表情を浮かべる真緒。



 「大丈夫ですか? ルールは分かりますか?」



 「えっと……何が強くて何が弱いのかは知っています……でも、他の事は何も……」



 「ご心配無く、簡単に説明します。ポーカーは役を揃えるゲームです。その役が強ければ強い程、物事を有利に進められます。まず各々参加コインとして一枚、コインを出して頂きます」



 ギャブラーに言われるがまま、四人は黒いコインを台の上に乗せた。



 「そうしたら私が各々にカードを五枚ずつ裏向きにして配ります」



 するとギャブラーは、何も無い空間から突然カードの束を取り出し、四人の前に五枚ずつ裏向きにして配り始めた。



 「配られたカードに目を通したら、左側の人から“ビッド”または“パス”を宣言して貰います。ビッドは新たにコインを出す事、パスは何もしない事です。手札の状況を見極めて判断して下さい。では、左側……マオさんからどうぞ」



 「は、はい!! えっと……“ビッド”!!」



 手札を吟味した真緒は新たに黒いコインを一枚、台の上に乗せた。



 「それではマオさんが“ビッド”に対して“コール”、同じだけのコインで勝負するか。それとも“レイズ”、より多くのコインで勝負するか。はたまた“ドロップ”、この手札では勝てないと途中で棄権するか。決めて下さい」



 「それじゃあ僕の番だね……うーん、“コール”」



 「私ですね“コール”」



 若い男性と巻き髭の男性は、真緒と同じコインで勝負して来た。



 「俺は……“レイズ”だ」



 「!!?」



 そんな中、小太りの男だけが“レイズ”、真緒よりも“五枚”多く黒いコインを台の上に乗せた。



 「ではそのレイズに対して“コール”か、“レイズ”か、“ドロップ”か、決めて下さい。誰もレイズを宣言しなくなるまで続けます。ではマオさんから……」



 「えっと……“レイズ”?」



 「「「!!?」」」



 真緒がまさかのレイズ宣言。台の上に六枚、黒いコインを乗せた。三人は驚きの表情を浮かべる。



 「(驚いたな……まさかレイズするなんて……)」



 「(ハッタリ? それとも本当に自信があるのでしょうか?)」



 「(ふざけやがって……ポーカーのルールもまともに知らなかった女が一回戦目でいきなりレイズだと!? 強気に出れば退くと思っているのか? そうだとしたら、とんだ甘ちゃんだぜ!!)」



 三人の思想が入り乱れる中、真緒はじっと自分の手札を見つめていた。



 「では、マオさんのレイズに対して“コール”か、“レイズ”か、“ドロップ”か決めて下さい」



 「“コール”」



 「“コール”」



 「“コール”」



 今度は全員コール宣言。レイズと宣言する者はいなかった。



 「では、最高ビッドに対して誰もレイズせずに一周したので、一回目のビッド終了とします。続いて不要な手札を捨て、捨てた枚数分この束から引いて下さい。マオさんから……」



 「……引きません」



 「「「!!?」」」



 「それはつまり手札は交換しないという事ですか?」



 「はい、このままで」



 「(ひぇー、凄い自信だな)」



 「(もしあれがハッタリだとしたら、かなりの演技派ですな)」



 「(はぁ!? レイズした上に手札を交換しないだと!? あり得ねぇ……勝負を嘗めているとしか言い様がねぇ)」



 真緒の交換拒否に驚かされながらも、三人は各々手札を捨て、枚数分引き直した。



 「引き終わりましたら、最初にビッドを宣言したマオさんから“ビッド”、または“チェック”を決めて下さい。チェックは一回目の“パス”と同じと思って構いません」



 「……“チェック”」



 「じゃあ僕も“チェック”」



 「私も“チェック”」



 「俺も“チェック”だ」



 「誰も“ビッド”を宣言したかったので、このまま二回目を終了します。では勝負の時です。一斉に手札をオープンして、出来上がった役をお見せ下さい。それでは行きます……オープン!!」



 ギャブラーの言葉と共に四人は一斉に自身の手札を公開した。結果は……。







 若い男性……ストレート



 巻き髭の男性……フルハウス



 小太りの男性……フォア・カード



 佐藤真緒……ロイヤルストレートフラッシュ







 「「「!!?」」」



 三人は目を大きく見開き、真緒の手札を食い入る様に見る。



 「えっと……私の勝ちで良いですよね?」



 「はい、今回の賭けはマオさんの勝利となります」



 「やった!!」



 ギャブラーは手早く三人の前に置かれていた黒いコインを真緒の前に移した。



 「あ、あは……あはは……す、凄いね……初めて見たよ……ロイヤルストレートフラッシュ……」



 「運も実力の内とは……良く言った物ですな……」



 「えへへ、何だか照れちゃいます」



 「イ……イ……」



 「どうした?」



 「何ぶつぶつ言ってるんですか?」



 「?」



 すると小太りの男性が真緒に指を指しながら立ち上がる。歯を剥き出しにし、青筋を立てていた。



 「イカサマだ!!」



 「「「!!?」」」



 小太りの叫び声はVIPルームの壁を突き破り、カジノ全体に響き渡った。そしてその叫び声は仲間達の耳へと届けられるのであった。









 「くくく……さぁ、楽しいゲームの始まりだ」
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