笑顔の絶えない世界 season2 ~道楽の道化師の遺産~

マーキ・ヘイト

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第六章 冒険編 記憶の森

記憶との攻防

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 「お母さん……」



 記憶の愛子との戦いに、見事勝利した真緒。しかし、それは序章にしか過ぎず、本当の戦いが幕を開けようとしていた。



 「真緒……久し振りね、会いたかったわ」



 「……違う……あなたはお母さんじゃない……」



 「どうしてそう思うの?」



 「愛子が言ってた、ユグジィが持っているロストマジックアイテムは、対象者の記憶の存在に自我を持たせる事だって……という事は、あなたも本当のお母さんじゃない。見た目がそっくりな、別人」



 「……えぇ、その通りよ。私はあなたの記憶から生まれた存在……因みに、ここにいる三人も、同じく記憶の存在……本物では無いわ」



 すると側にいたハナコ、リーマ、フォルスの三人それぞれが会釈する。



 「私の親しい人達に成り済まして……どういうつもりですか!!?」



 「私達だって、好きでこの姿をしている訳じゃ無いわ。選んだのはユグジィさんなのよ」



 「この状況こそ、あの爺さんがお前達に仕掛けた“試練”なのさ」



 「お前達……まさか!!?」



 「はい、マオさん以外の方も、同じ様な試練を受けていますよ。ハナコさんは殺された母親、リーマさんは亡くなった師匠、フォルスさんは自分を庇って死んだ母親……皆さん、亡くなってしまった大切な人と殺し合っています」



 「何て悪趣味な……」



 「ぞう言わないで欲じいだぁ。誰だっで愛ずる人に刃物は向げられないだぁ。だげど言い換えれば、ぞれを乗り越える事が出来れば、大ぎぐ成長出来るっで訳だぁ」



 「……やっぱり別人だね……本物のハナちゃんだったら、そんな難しい事は理解出来ていないよ」



 知的な言い回しをするハナコに、改めて記憶の存在に自我を持たせただけなのだと感じた。



 「ぞりゃぞうだぁ。オラはあぞごまで、間抜げじゃ無いだぁ」



 「はいはい、お喋りも良いけど、そろそろ試練の方を始めましょう」



 取り仕切る様に手を叩く真緒の母親。



 「ルールは至ってシンプル。私達四人と戦って、勝てば良いの」



 「確かに分かりやすいですね」



 「それじゃあ……早速始めましょうか……」



 「えぇ、いつでもどうぞ……」



 「「「「…………」」」」



 「…………」



 五人がしばらく睨み合っていると、ハナコ、リーマ、フォルスの三人が一斉に動き出した。



 「(来た!! お母さんは……動いていない……)」



 迫り来る三人を尻目に、母親の方を見ると、奥の方で一歩も動いてはいなかった。



 「(様子見? でも、それなら好都合!! 先に三人を倒す!!)」



 剣を握り直し、走り出す真緒。すると三人の内、リーマとフォルスが動きを止めた。それにより、真緒とハナコの一騎討ちとなった。



 「はぁあああああ!!!」



 「どりゃあああああ!!!」



 激しくぶつかり合う剣と爪。当たる度に火花が散る。



 「スキル“ロストブレイク”!!」



 「スキル“インパクト・ベア”!!」



 けたたましい衝撃音。スキルの相討ちにより、真緒とハナコの双方は、後方へと吹き飛ばされる。



 「「ぐっ……!!!」」



 「“スネークフレイム”」



 「!!?」



 その瞬間、真緒目掛けて蛇の形をした炎が、襲い掛かって来た。



 「危なっ!!!」



 「“三連弓”」



 「!!!」



 咄嗟に炎の蛇を回避するが、その直後、フォルスの弓から三連続の矢が、真緒目掛けて放たれた。



 「しまっ……くっ!!!」



 不利な体制から、何とか弾き落とそうと、剣を振るう。その結果、一本目は弾き落とす事が出来たが、連続して発射されている二本目、三本目は真緒の左肩と右の太股に突き刺さってしまった。



 「はぁ……はぁ……うっ……」



 「鈍ったな真緒。記憶の中ではこの程度の攻撃、意図も簡単に避けていたぞ?」



 「マオぢゃん、弱ぐなっだだなぁ」



 「もしかしてこの一年、鍛練を怠っていたとか?」



 「(……怠っていた……か……確かに、あの日からずっとそれらしい戦いをして来なかったな……そう言われると確かに……弱くなったのかもしれない……そうなると、これまで勝って来られたのは仲間達の力が大きかったんだ……私一人じゃ、何も……出来ない)」



 左腕とお腹には氷のトゲ、左肩と右の太股には矢が突き刺さっている。最早、満身創痍の状態。真緒は、一人じゃ何も出来ない不甲斐なさを嘆いた。



 「よし、このまま畳み掛けて一気に終わらせるぞ」



 「そうですね、長引かせると却って危険になる事は、記憶で折り込み済みです」



 「オラが止めを刺すだぁ」



 淡々と処理に入る三人。ハナコが代表して、真緒に止めを刺そうとする。



 「スキル“鋼鉄化(腕)”」



 ハナコは自身の片腕を鋼鉄に変化させ、俯く真緒に近付いた。



 「ごれで終わりだぁ」



 「終わり……違う……まだ何も終わってない!! “ライト”!!」



 「「「!!?」」」



 真緒の掌から、眩い光を放つ玉が生成された。そのあまりの眩しさに、三人は思わず視界を狭める。特に至近距離にいたハナコは、完全に目を瞑ってしまった。



 「い、いったい何が起こったんですか!!?」



 「落ち着け!! 只の目眩ましだ!! 死角からの襲撃に備えろ!!」



 「わ、分がっだだっ……何だぁ!!?」



 「どうした!!?」



 気が付くと、真緒はその場にしゃがみ込んで、ハナコの鋼鉄に変化した片腕を下ろす様に、上から押さえ込もうとしていた。



 「ぐぞっ!! 離ずだぁ!!」



 負けじとハナコも、片腕を自身の方に引き上げようとする。



 「ぐぎぎ……離ずだぁ……ごのぉ……!!!」



 「えへへ、そんなに離して欲しい?」



 「!!! 待てハナコ!! それは罠だ!!」



 いたずらっ子の様な笑みを浮かべる真緒。それに気が付いたフォルスは、ハナコに警告を送るも、既に時遅し。真緒は言われた通り、押さえ込もうとしていた片腕の拘束を解いた。それにより、ハナコの引き上げる力が一気に解放され、制御出来ない速度で、自身の顔面に鋼鉄化した拳が叩き込まれる。



 「ぶぎぃ!!?」



 顔の骨にヒビが入り、鼻から血が止めど無く流れる。ハナコは出血を抑えようと、両手で鼻を必死に圧迫する。



 「往生際が悪いですね!! “スネークフレイム”!!」



 リーマは魔導書のページを開き、魔法を唱えた。すると瞬く間に炎の蛇が生成され、真緒目掛けて放たれた。



 「おっと危ない」



 「……へ?」



 それに対して真緒は、鼻血を止めようとしているハナコを盾にした。



 「あぎゃあああああ!!!」



 「「なっ!!?」」



 ハナコは火に包まれ、その場に倒れ込むと、もがき苦しんだ。



 「正気ですか!!? いくら本物じゃ無いからって、良心が痛まないんですか!!?」



 「痛むよ、多少ね。でも、気付いたんだ。ここで勝たないと、本物の皆には会えないんだって……また皆と会う為だったら、どんな手も使うよ」



 「狂人が……“ブースト”」



 真緒の言葉に若干引きながらも、フォルスは風属性魔法で矢を強化する。



 「ブーストですか……それなら……」



 「「!!!」」



 すると、真緒は真っ直ぐ走らず、右から左とデタラメに走り始めた。



 「くそっ!! ちょこまかと……」



 「ちょ、どんどん近付いて来るじゃないですか!!? 早く放って下さい!!!」



 「分かってる!!!」



 少しずつ距離を詰められ、早く矢を放つ様に急かすリーマ。狙いが定まらず、焦りと苛立ちを見せるフォルス。



 「ほらほら、どうしたの? 本物のフォルスさんなら、簡単に射ぬく事が出来ますよ」



 「嘗めやがって……」



 リーマとフォルスを中心に、その周りをグルグルと回り始める。



 「何やっているんですか!!? このままじゃ、殺られてしまいますよ!!?」



 「そんな事、分かってる!! 焦らすんじゃない!!」



 「おやおや、仲間割れですか? しょうがないな、それなら出血大サービス!! 一瞬だけ、止まってあげますよ……はい、ここですよ!!」



 「そこだ!!」



 フォルスは流れる様に、声がした方向へと矢を放った。放たれた矢は目にも止まらぬ早さで真っ直ぐと、真緒目掛けて飛んで行く。



 「えっ!!? ちょ、ちょっと待っ……!!?」



 「あっ!!?」



 と、思われたが、放たれた矢は真緒よりも先に、リーマの体に突き刺さった。



 「ごふっ!!!」



 「し、しまった!!!」



 見事、心臓の位置に突き刺さった。リーマは血反吐を吐きながら、その場に倒れ、絶命した。



 「ナイスショット!!」



 「やってくれたな……マオ……」



 「そこまで」



 これから、真緒とフォルスの戦いが始まろうとしたその時、ずっと動こうとしなかった真緒の母親が遂に動き出した。



 「お母さん……」



 「もう充分です……下がって下さい」



 「ふざけるな……こっちは二人殺られているんだぞ!? このまま大人しく食い下がれるか!!!」



 「聞こえませんでしたか? 下がって下さい」



 「……分かった……」



 すると、フォルスは言われた通り、大人しく下がって行った。その場には真緒と母親の二人だけとなった。



 「…………」



 「……少し……話さない?」



 気まずい雰囲気の中で発せられた言葉に、真緒は素直に頷くのであった。
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