笑顔の絶えない世界 season2 ~道楽の道化師の遺産~

マーキ・ヘイト

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第八章 冒険編 血の繋がり

空間を切り裂く

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 真緒の秘策の下、何度もぶつかり続ける一同。しかし、一向に空間が裂ける様子は見られず、時だけが過ぎていた。



 不安と焦りが次第に膨れ上がり、攻撃も切れが無くなり始めた。また、疲労から無駄な動きも増えた事で、余計に体力が徐々に削られた。



 気が付けば手足よりも、息を整える為の口ばかりが動いていた。毛穴という毛穴から汗が吹き出し、貴重な水分も奪われた。肌を伝って地面に落ちた汗は、干からびている大地が一瞬で吸収し、また干からびた。



 ここには熱を遮る物も無い為か、体全体が火照っていた。持っていた飲み水を頭から被り、体温を下げようと試みるが、あっという間に蒸発してしまった。



 長い時間、日の光を浴び過ぎてしまった為か、熱中症に掛かってしまい、頭がふらふらしていた。そしてとうとう限界を迎え、両者膝を付いてその場から動けなくなってしまった。



 「はぁ……はぁ……も、もう駄目……動けない……」



 「諦めちゃ駄目だよ!! まだ村への扉は開いていないんだから!!」



 弱音を吐くリーマに真緒が活を入れた。が、当の本人も剣を杖代わりにする程までに衰弱していた。全く説得力の無い言葉と言える。



 「そうは言ってもな……これだけ戦ったにも関わらず、一向に空間が裂けないとなると、厳しい物があるぞ」



 「それは……そうかもしれませんが……」



 フォルスの言う通り、事態が好転する兆しが一切見受けられない。本当にこのまま続けて良いのか、焦りと不安だけが膨れ上がる。



 「マオ……提案なんだけど……」



 「?」



 そんな中、サタニアが真緒に提案して来た。サタニア自身もふらふらで、立っているのがやっとの状態だった。



 「一度、本気でぶつかってみない?」



 「本気って……つまり……」



 嫌な予感がした。真緒もその考えは過ったが、あまりに無謀で危険過ぎた。しかし、現状で残されている方法は最早それしか無い。



 「うん……“殺す”気で技を放とう」



 「……やっぱり……」



 それは一年前、真緒とサタニアがまだ敵同士だった時の話。愛する人であるエジタスを失った悲しみと、それを奪った相手への怒りに突き動かされながら、互いに本気で殺し合った。



 サタニアは、その時と同じ想いでぶつかり合えば、もしかしたら空間を切り裂く事が出来るのではないかと予想したのだ。



 「俺は反対だ。それで万が一、どちらかが死んだらどうするつもりだ?」



 「あたしも反対ね。もし仮にそれで空間を切り裂く事が出来ても、体はボロボロ……ヘッラアーデと戦うのは不可能になるわ」



 当然、仲間達は猛反対。失敗した時のリスクと開いた後の対応に対して準備が不十分な為、素直に肯定する事が出来なかった。



 「マオさん、他にもっと良い手がありますよ。何も無理に命を賭けなくても……」



 「良い手って、何?」



 「えっと……それは……」



 言葉が詰まってしまった。リーマも本当は分かっている、他に方法が無い事を。だがそれでも言わずにはいられなかった。真緒が無闇に命を投げ出す危険な行為をしない為に。



 「オラは賛成だぁ」



 「ハナコさん!!?」



 「ハナコ、本気で言ってるのか?」



 「ハナちゃん……」



 そんな中、ハナコは他の者達と異なり、賛成の意を示した。これにはリーマ、フォルス、そして真緒までもが驚きを隠せなかった。



 「オレモ、サンセイダ」



 「あらあら、ゴルガまで何を言うんですか?」



 するとハナコだけで無く、ゴルガまでも同じ賛成の意を示した。そんなゴルガの発言に呆れた表情を浮かべるエレット。



 「オラ、信じでる。マオぢゃんならぎっどやっでぐれるっで、信じでいるだぁ」



 「オレハ、マオウサマノブカ、マオウサマノケッテイニ、イヲトナエルキハナイ」



 「信じるだの、異を唱える気は無いなど、そんな感情論を説かれてもね……」



 説得力に欠ける言葉だった。エレットが変わらず呆れた表情を浮かべる一方、リーマとフォルスは何処か納得する様な表情を浮かべていた。



 「……そうだな、今さら危険だなんだと言っても仕方無いな……そうと決まればマオ、準備しろ」



 「ちょ、ちょっと待ちなさいよ!!?」



 「ん? どうかしたか?」



 「どうかしたかじゃ無いわよ。何でそんなにあっさり受け入れているのよ。失敗したら、死んじゃうかもしれないのよ?」



 仲間の命が危険に晒されるかもしれないという状況で、こうも軽い態度を取る者達の事がエレットには理解出来なかった。



 「お前は知らないかもしれんが、俺達はこうした命を賭けた場面に何度も出会して来た。その度に無茶な作戦で切り抜けて来たんだ。だからもう慣れたんだよな」



 「いやいや、慣れてしまったからこそ、軽率な行動が最悪の結果を招くと思わないの?」



 「確かに一理ある。だが、それ以上に俺達はマオの事を信じている。それに俺達だって只、黙って見守る様な事はしない。危ないと思ったら、直ぐ様助けに入る」



 「そんなの……イカれてるわ……」



 これまで築いて来た真緒達の絆。それは互いが同じ立場だからこそ、築く事が出来た代物。あくまで上司と部下の関係であるサタニア達には、決して築く事の出来ない代物である。



 「エレット……」



 「魔王様……」



 「無理にとは言わない……でも、どうか僕を信じて……あの子達がマオを信じる様に……僕の事を信じて」



 「…………」



 エレットはずっと、言われた事を遂行するだけで良いと考えていた。その方が楽だし、余計な事を考えなくて済む。下請け時代から四天王に登り詰めるまで、そうして来たのだから、今後もそうして行けば良いと思っていた。しかし今、信じて欲しいという命令では無く“お願い”をされた。



 遂にエレットにも、自ら“考えて”行動する時がやって来たのだ。生まれて初めての経験に戸惑い、悩みながらも一つの答えに辿り着いた。



 「……分かりました。このエレット、魔王様に付き従います」



 「エレット……ありがとう」



 それはサタニアを信じる事。フォルス、リーマ、ハナコ、そしてゴルガと同じ様にエレットも信じる事にしたのだ。



 「ですが、危険と判断したら即座に止めますからね」



 そう言いながら指先から電流をパチパチさせ、サタニアに忠告をする。それに対して小さく頷くサタニア。



 「……待たせたねマオ、それじゃあ始めようか」



 静かに剣を構えるサタニア。先程までとは違う、殺気に近いオーラを身に纏っていた。



 「手加減しないでよね……」



 真緒も杖の代わりにしていた剣を持ち直し構える。するとサタニアと似たオーラを身に纏い始めた。



 「凄いわね、後ろにいるのに強さをビシビシ感じる」



 「サスガハ、マオウサマダ」



 「こんなマオさんを見るのは一年振りですね」



 「あぁ、改めて強さを実感するな」



 「マオぢゃん、頑張れだぁ」



 睨み合う二人。次に放たれるのは本気の一撃。下手すればどちらかが命を落としてしまうかもしれない。



 静寂が場を支配する。照り付ける太陽の光で真緒とサタニアの額から汗が流れ落ちる。頬を伝い、やがて顎の先端に溜まった汗の雫が、ゆっくりと重力に従って落下して行き、ほぼ同時に地面に到達した。



 その瞬間、二人同時に動いた。



 「感情を一つに!!“フィーリングストライク”!!!」



 「黒く染まる!!“ブラックアウト”!!!」



 二人が放った本気の一撃。激しくぶつかり合う。白い光と黒い光が混ざり合い、辺りを照らした。その凄まじい眩しさと衝撃波によって、周りの者達は二人の姿を肉眼で捉える事が出来なくなってしまった。



             バリン!!



 その時、何かが“割れる”音が響き渡る。やがて光は収まり、肉眼でも捉えられる様になった。すると全員、自身の目を疑った。



 「こ、これは……!!?」



 空中に割れ目が付いており、まるで窓ガラスが割れた時の様になっていた。中は紫色の螺旋模様が広がっており、何処に繋がっているのかは分からなかった。だが、十中八九……。



 「これが……村への入口だよ……」



 「この先にヘッラアーデが……」



 「……行こう、これが私達の最後の戦いだ!!」



 「「「「「「おぉ!!!」」」」」」



 そうして真緒達とサタニア達は、勇猛果敢に空間の割れ目に突入するのだった。そして一同が突入してすぐ、割れ目は修復され、そこには初めから何も無かったかの様に荒野が広がっていた。
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