笑顔の絶えない世界 season2 ~道楽の道化師の遺産~

マーキ・ヘイト

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第十章 冒険編 反撃の狼煙

パラディースアイランド

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 四方を海に囲まれ、外界から完全に孤立しているその島は、これといった特産品は存在せず、更に本島である東の大陸から北に数百キロ離れた位置に浮かんでいる。



 それ故に名も無き島として、誰も住まない無人島と化していた。ついこないだまでは……。



 ある一人の道化師によって、島は生まれ変わった。人が住める様に住宅街が建てられ、食料問題も解決した。そして何よりその島に住んでいれば、決して争いや苛めや差別が起こらず、死ぬ事さえ無くなるのだ。まるで夢の様な場所。人々は幸せを求めて島を訪れる。そうして名も無き島は、パラディースアイランドと呼ばれる様になった。



 そんな島に船が一隻、来航する。既に移住を済ませていた住民達は、突然の船に不安の色を隠せなかった。更に船を出迎える様に島の兵士達が一列に並ぶ。



 住民達が船の様子を遠くから伺っていると、船から数百人近い人物達が降りて来た。しかし全員表情が暗い。その行列を先導するのはフェニクス。そのすぐ後ろを真緒、ハナコ、リーマ、シーラ、クロウト、ジェドの順で歩いている。



 「お、おい……あれってもしかして勇者様じゃないか?」



 住民の内の誰かが先頭を歩く真緒を指差した。



 「本当だわ。という事はつまり、あの人達は新しく移住して来た人達なのよ!!」



 「そうか!! おーい、俺達はお前達を歓迎するぞ!!」



 「パラディースアイランドへ、ようこそ!!」



 まさか真緒達がこのパラディースアイランドを襲撃しようとしていた事なんて、彼らは知る由もないだろう。



 「……想像以上に幸せそうだね……」



 「オラ達の事を歓迎じでいるだぁ……」



 「普通ならこれだけの人数に不安を覚えても良いのに……」



 「それだけエジタスの洗脳が広がっているって事なんでしょう」



 「俺の船が……くそっ!!」



 無邪気な笑顔を振り撒く住民達を見ながら、真緒達は複雑な気分になっていた。一方、ジェドは自身の船が敵の手に落ちてしまった事に怒り心頭だった。



 「ごめんなさい、私がもっと確りしていれば……」



 「いや、これは誰のせいでも無い。あんなの誰が予想出来るって言うんだ」



 「いえ、私のせいです。私がもっと確りしていれば……フォルスさんだって……」



 「マオ……」



 「マオぢゃん、あんまり自分を責めぢゃ駄目だぁ」



 「ハナコさんの言う通りですよ。あれは皆に責任があった。マオさん一人だけが背負う必要はありません」



 「皆……ありがとう……でもやっぱり、あのフォルスさんが死んだなんて……信じられません」



 「それは私達も同じ気持ちです……」



 「フォルスざん……うっ……うぅ……」



 フォルスが死んだという現実を、真緒達は未だに受け止め切れていなかった。



 「悲しんでいる所悪いが、せっかくこの島に上陸する事が出来たんだ。今からでも遅くない。この列から抜け出して、エジタスのいる所まで乗り込もう」



 「ジェドさん……残念ですけど、それは難しいです」



 「何故だ? 今、この列には数百人が並んでいるんだ。少し抜けても気付かれないだろう」



 「確かにそうかもしれません。ですがそれは周りの兵士達だけだった場合の話です」



 「どう言う意味だ?」



 「上を見て下さい」



 「上? …………っ!!?」



 ジェドが空を見上げると、そこには無数の鳥人達が飛び交っていた。



 「こ、これは……!?」



 「あぁやって、私達の事を地上と空中の両方から監視しているんですよ。だから今、下手に動いたら一発でバレてしまいます」



 「それじゃあつまり……大人しく付いて行くしかないのか……」



 これから何処に連れて行かれるのか。先行きの不安に押し潰されそうになる真緒達。



 しばらく歩いていると、活気溢れる住宅街へと足を踏み入れた。そこでは子供達が楽しく駆け回り、大人達は会話に華を咲かせていた。しかし、驚くべき事は他にあった。



 「これって……私達と同じ……種族が混合している?」



 そう、そこで暮らしていたのは人間だけじゃない。エルフや熊人などの亜人や、ゴブリンや悪魔などの魔族まで仲良く遊んでいたり、会話しているのだ。



 「この一年……私達が必死に頑張って目指していた世界を、師匠はたった数ヵ月で実現させるだなんて……」



 「何だが自信……無くなって来ちゃいました……」



 「ちょ、皆さん騙されないで下さい!! この幸せと平和は多くの人の死によって成り立っているんですよ!? そしてその死は全て、幸せと平和を与えたエジタスがもたらした物なんですからね!?」



 「っ!! そうだ……これはマッチポンプで無理矢理作ったに過ぎないんだった」



 「そんなの本当の幸せとは言えませんもんね」



 「危うぐ騙ざれる所だっだだぁ」



 自分達がここに来た理由を忘れかけた真緒達。これ以上、幸せそうな生活を送る彼らを見れば、固めた筈の決意が揺らいでしまうだろう。真緒達は出来る限り見ない様に目線を下に下ろし、その場をやり過ごした。







***







 住宅街を抜けてから数十分。真緒達の目の前に大きな屋敷が見えて来た。



 「あれは……?」



 「貴様らが会いたがっている者が住んでいる場所だ」



 「それってまさか!!?」



 今、真緒達が会いたいと思っている人物は一人しかいない。フェニクスが屋敷の扉を開ける。



 「ようこそ皆さん、私は“道楽の道化師”エジタスと申しま~す」



 そこで待っていたのは、真緒達の最終目標であるエジタスであった。側にはロージェもいた。



 「師匠……」



 「おや~、これはこれはマオさんじゃありませんか~。お久し振りですね~、あなたがここに来るのをずっと待っていたんですよ~」



 「エジタス!!」



 その時、二人の会話に割って入る形でジェドが列を抜け出し、剣を片手にエジタス目掛けて襲い掛かる。



 「死ねぇえええええ!!!」



 「…………」



 襲い掛かろうとするジェドをフェニクスが止めようとするが、エジタスが片手で制止する。どうやらエジタスが直接相手をする様だ。



 「ふっ!! やっ!! おらぁ!!」



 「あら、おろ、ほいさっと」



 剣を振り回すジェドに対して、エジタスは余裕で回避していく。



 「このやろぉおおおおお!!!」



 「……よっと」



 「!!!」



 次第に剣の振りが大振りになり始め、避けられた所で足を引っ掛けられ、前のめりに転んでしまう。



 「ジェドさん!!」



 「動くな。もし動けば後ろの連中は皆殺しだからな」



 「っ……!!!」



 「く……くそぉ……俺は仇を取るんだ……ハニーの仇を……」



 「ハニー? それってもしかして人魚の町の女王様の事ですか~?」



 知っている癖にわざとらしく聞いて来るエジタス。それがジェドにとって、どうしようも無く腹立たしかった。



 「あぁ、そうだよ!! お前の所にいるアーメイデが殺したんだ!! 俺の愛する人をな!!」



 「それはそれは……何とも可愛そうですね~」



 「だからお前ら全員ぶっ殺して、ハニーの仇を取るんだ!!」



 「成る程、つまりあなたの行動理由はその“仇”のみという事ですね~?」



 「そ、それが何だ!? これ以上無い理由だろうが!!」



 突然、行動理由を問い質され、明らかな動揺を見せるジェド。



 「それじゃあもうあなたがこれ以上、行動する必要はありませんね~。だって、ここにいるんだから!!」



 そう言うとエジタスは指をパチンと鳴らした。その瞬間、エジタスの側に一人の人物が転移して来る。



 「そ、そんな……まさか……」



 その人物はジェドの大切な人であり、ジェドの目の前でアーメイデに殺された筈の人物。



 「ジェド……」



 「どうしてハニーがここに……?」



 「う~ん、感動のご対面ですね~」



 そこに現れたのは、紛れもないジェドの愛する人、人魚の町の女王であった。



 「そんな……君は死んだ筈……」



 「それは……」



 「それは私が蘇らせたんですよ~」



 「お前が……そう言えば死者を蘇らせる事が出来るって……」



 「そうですその力ですよ~。さて、それでは改めて聞きましょうジェドさん。あなたは何の為に戦うんですか~?」



 「えっ、俺は……ハニーの仇を……」



 「ハニーさんは目の前にいますけど~?」



 「えっ、あっ、そうか……じゃあ仇を打つ必要は……いや、いや違う!! 例え蘇らせたとしても、一度殺したのは事実!! ハニーが味わった苦しみをお前達にも味わって貰う!!」



 「そうですか……それは困りましたね~。けど、ハニーさん自身はそんな事、望んでいませんよ~?」



 「……え?」



 「そうですよね~、ハニーさん?」



 そう言いながらエジタスは女王の両肩を掴む。そして耳元で囁く。



 「愛する人を失いたくなかったら……分かりますね?」



 「…………はい……」



 エジタスに背中を押され、女王はジェドの前に立つ。



 「……ハニー」



 「ジェド……もうこれ以上、戦うのは止めて……お願い」



 「!!!」



 「エジタスさんが私達の為に家を用意して下さったの。ここで二人、ずっと幸せに暮らしましょう……ね?」



 「ハニー……俺は……」



 「何を迷う事がありますか。あなたは充分苦しんだ。幸せを手に入れる権利はあって当然です。彼女も、それを望んでいますよ……」



 「ジェド……お願い……もうこれ以上、私の為に争わないで……」



 「……分かったよ、ハニー」



 「ちょ、ちょっとジェドさん!!」



 ここに来て、まさかの裏切り。真緒達は動揺を隠せなかった。



 「すまないマオ。悪いが俺は復讐より、俺は幸せを選ばせて貰う。身勝手なのは分かってる。でも、やっぱり俺はハニーの意思を尊重したい」



 「ジェドさん……」



 「はいはい、話は纏まったという事でね。ロージェさん、後はよろしくお願いしますよ~」



 「分かった」



 「それじゃあ私は、この幸せ夫婦を愛の新居へと案内して来ますね~」



 「マオ、本当にすまない」



 その言葉を最後に、ジェドは女王と一緒にエジタスの転移魔法によって一瞬でその場から姿を消してしまった。取り残された真緒達は呆然と見ていた。



 「さて、残りの連中は全員地下の牢屋にぶちこんでおけ」



 そうして真緒達は、地下牢に幽閉されてしまうのであった。
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