笑顔の絶えない世界 season2 ~道楽の道化師の遺産~

マーキ・ヘイト

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第十章 冒険編 反撃の狼煙

取引

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 二代目魔王は、懐から三つの黒い玉を取り出し、空中に放り投げた。すると三つの玉は二代目魔王の周りを浮遊し始めた。



 「これは“浮遊する物体”と言ってね。使用者の半径1m以内に近付く全ての物体を自動で攻撃してくれる」



 そう言うと今度は、大きなひし形の物体を取り出し、空中に放り投げた。すると大きなひし形の物体は、部屋の周りを大きく旋回し始めた。



 「あれは“飛行する物体”と言ってね。使用者から5m以上離れる全ての物体を自動で攻撃してくれる」



 「!!!」



 距離を詰めれば攻撃され、距離を空けようとすれば攻撃される。初手でいきなり移動を制限させられてしまった事に、焦りを隠せない真緒。



 「まだまだ終わりじゃないよ」



 そう言うと二代目は、怪しげな壺を取り出して床に置き、栓の役割を果たしていたコルクを外した。すると中から白い煙が壺に収まる量を軽く越えて、部屋中に充満し始めた。



 「まさか毒!?」



 真緒は吸い込まない様、慌てて口や鼻を塞いだ。が、永遠に続く訳も無く、とうとう我慢出来なくなった真緒は、口と鼻の両方から煙を大量に吸い込んでしまった。ここまでかと思われたが、特に違和感は感じられなかった。強いて言うなら、喉が少し潤った程度だった。



 「心配しなくても大丈夫。これは只の煙、毒性は全く無いよ。もしあったら、僕達だって命が危ない」



 「それを聞いて安心しまし……っ!!?」



 と、安心したのも束の間、煙は止まる事を知らず、部屋全体が真っ白な煙に包まれ、何も見えない状態になってしまった。煙のせいで方向感覚が狂い、どっちが前で、どっちが後ろなのか分からなくなってしまった。



 「い、いったい何処に……?」



 完全に二代目魔王を見失ってしまった真緒。動こうにも、先程の“浮遊する物体”と“飛行する物体”を警戒して、迂闊に動く事が出来なかった。真緒が手をこまねいていると、近くから二代目魔王の声が聞こえて来る。



 『こっちだよー』



 「!!!」



 剣を構えながら、声のする方向へと走り出す真緒。声の大きさから、ある程度の距離は把握出来る。近付けば、周りを浮遊している丸い三つの玉が襲い掛かって来るだろうが、その前に斬り伏せてしまえば、問題は無い。



 すると人影が、ぼんやりと煙の中からでも伺えた。真緒はその人影に目掛けて、剣を勢い良く振り下ろした。



 「っ!!?」



 が、そこにいたのは人の形をした木彫りの人形だった。二代目魔王とは、似ても似つかない作りをしていたが、煙で視界が最悪な上、どうやら声はこの人形から発せられていた様で、真緒が見間違えてしまうのも無理は無かった。



 しかし、真緒にとってそんなの今はどうでもよかった。わざわざ煙で視界を悪くした後、声を模倣する人形を置いたのは、真緒をここに誘い出す為。身の危険を感じた真緒は急いでその場から離れようとする。



 「うぐっ!!?」



 その瞬間、巨大な手の銅像に捕まってしまった。何とか抜け出そうと、必死にもがくが、びくともしなかった。



 すると煙の向こう側から、二代目魔王が姿を現した。



 「見事に引っ掛かってくれたね」



 「何なんですかこれは!?」



 「“共鳴する木像”、姿こそは真似る事は出来ないが、声だけなら使用者以上の物を発揮出来る。そして君を捕らえているそれは“捕縛する手”、場所を指定して設置する罠でね。生き物が指定した場所を通ると、即座に捕まえて動きを封じるんだ。でも安心して、捕らえる時間は五分間と短いんだ。でも、五分もあれば充分だけどね」



 そう言うと二代目魔王は、真緒の側へと歩み寄る。真緒は慌てて抜け出そうとするが、どう足掻いても無駄に終わった。そして遂に1mギリギリまで迫って来た。ここまでかと思った次の瞬間、二代目魔王は意外な言葉を口にする。



 「取引をしないかい?」



 「…………え?」



 「正直、息子の友達と本気で殺し合うなんて事はしたくないんだ。でもそうしないとサタニアは自由になれない……」



 「いったい何があったんですか……?」



 「あれはサタニアが、この屋敷に迎え入れられてからすぐの事だった。僕の父……つまりはサタニアの祖父である初代魔王は、サタニアの弱さは心にあると言って、僕のコレクションの一つである“強制の首輪”を無理矢理サタニアに嵌めたんだ」



 「そんな……」



 「勿論、僕は外してくれる様に何度も頼んだ。けど、父は僕の事は眼中に無いみたいでね」



 「だったらそれこそ、無理矢理外せば良いじゃないですか!?」



 「無理だよ。あの首輪は嵌めた本人が外すか、もしくは死ぬか、それ以外では決して外れないんだ」



 「じゃあ、一緒に初代魔王を倒しましょう!!」



 「不可能だよ。君だって知っているだろう。初代魔王は最強の存在。例え二人掛だとしても、到底足下にも及ばないよ」



 「そんなのやってみないと分からないじゃないですか!?」



 「分かるよ。曲がりなりにも魔王だからね。君の実力なら兎も角、僕の実力じゃ、足を引っ張るだけだからね」



 「だけど……このままで良い筈が無いですよ!!」



 「あぁ、だから父と取引をしたんだ」



 「取引?」



 「僕が君を倒せたら、サタニアの首輪を外すと言ってくれたんだ」



 「あの魔王がそんな口約束守る訳が無いじゃないですか!?」



 「いや、魔王である父の言葉は絶対だ。万が一、約束を守らなければ嘘を付いた事になり、魔王としての尊厳を失う事になるんだ。けど問題はそこじゃない」



 「え?」



 「問題なのは、僕の実力じゃ君を倒すのは不可能という点だ」



 「は、はぁ……」



 二代目魔王による突然の弱気発言。真緒は酷く混乱していた。



 「そしてここからが本題だ。頼む、どうか僕に倒されてくれないだろうか?」



 「そんなの嫌に決まってるじゃないですか!?」



 「別に本当に倒されろと言う訳じゃない。所謂、振りをして欲しいんだ。そうすれば父はサタニアを解放するだろう。そうしたら後は三人で力を合わせて、父を倒せば良いんだ。これだったら僕のサタニアを助けたいという願いも、君の父を倒したいという願いも叶う訳さ」



 「だけどそんな上手く行きますか?」



 「大丈夫、きっと上手く行くよ」



 「いや、でも……」



 「僕を信じて……僕は只、息子を……サタニアを助けたいだけなんだ……」



 「……分かりました。協力します……」



 動けない今の状況から、他に選択肢は無いと考えた真緒は、仕方無く二代目魔王の作戦に協力する事にした。



 「ありがとう!! それじゃあ早速……っ!!?」



 二代目魔王が喜んだ次の瞬間、煙の向こう側から黒い槍が勢い良く飛んで来て、二代目魔王の体を貫いた。



 「!!?」



 「ごふっ!!!」



 二代目魔王は口から血を吐き、仰向けになって倒れた。体に空いた穴から血が止めどなく溢れ出る。



 「ヘラトスさん!!」



 「あ……ああ……あがっ……」



 いったい何が起こったのか、理解出来なかった二人。すると煙の向こう側から、誰かがこちらに近付いて来た。



 「出来損ないに相応しい最後だな」



 「あなたは……魔王サタニア!!」



 現れたのは初代魔王だった。身動きが取れない状態で睨み付けてくる真緒を他所に、初代魔王は二代目魔王を冷めた目で見下ろす。1m以内に近付いた為、三つの玉が初代魔王に襲い掛かるが、それらをあっさりと破壊して見せる。そして何事も無かったかの様に、二代目魔王に話し掛ける。



 「この我が貴様の愚考に気付かないとでも思ったか?」



 「い、いつから……」



 「最初からだ。お人好しの貴様が人間を殺せるなど、微塵も思っていなかった」



 「そ、それならどうして僕を戦わせたの……?」



 「分からぬか? 我は偉大なる魔王、ごみ処理程度に労力を費やす程、暇では無いのだよ」



 「でも結局、自分の手で片付けたじゃありませんか!? あなたの言っている事は矛盾している!!」



 圧倒的不利な状況にも関わらず、強気に出る真緒。すると初代魔王は、やって来た煙の向こう側に向けて、人差し指で手招きをする。すると誰かがこちらに近付いて来た。



 「さっき言ったであろう。出来損ないに相応しい最後だなと……出来損ないには、出来損ないをぶつけるのが最適だ」



 「まさか……」



 姿を現したのは首輪を嵌められ、操り人形と化したサタニアであった。右手から、黒い槍を生成しているのが伺える。



 「道具も使いようという訳だ。さて、それでは今から勇者の処刑を執り行う事にしよう」



 身動きが取れない。二代目魔王は重傷を負って倒れている。サタニアは操られている。誰も助けてくれないこの状況に、真緒は絶望するのであった。
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