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沈めた記憶 《有栖》
しおりを挟む「立花有栖さんだよね?」
通信高校の帰り道。
今日は登校日だった。
知らない男性に急に声をかけられて、私はたじろぐ。
「は、はい……そうです……けど…」
戸惑いながら返事をすると男性は一歩、歩を進める。
「ちょっと立花氏…えっとお父さんについて聞かせてもらえないかな?」
父について。
「お父さんと君の関係について……」
「……!」
ドキンと鼓動が高鳴る。
いつも考えないように頭から、心から追い出して、記憶の深くて暗い場所に沈めている思い出たち。
「あ、あの……」
私は思わず後退りをしていた。
*
「有栖ちゃん!」
その時、よく知る声に名前を呼ばれる。
「有栖ちゃん、答えなくていいよ、行こう!」
ぐっと手を引かれる。
「桃くん!」
私を呼んだのは、双子の弟である竜之介の親友の桃くんだった。
私を手を引いて歩き出す桃くん。
「ちょ、ちょっと待って!答えて…!」
キッと桃くんは男性を睨みつけて、
「どこの報道の方スか、話す義務はないはずだ」
強い口調で言って、私の手を引いたまま早足に歩きだす。
「立花氏のある写真を入手してるんだよ、こっちは。公開してもいいんですかね」
男性は食い下がる。
桃くんは何も答えず、どんどん進んでいく。
「も、桃くん…!」
しばらく歩いて、男性が追ってこないのを確認して、ようやく手を離してくれた。
「有栖ちゃん、ごめんね、 手を引っ張って。今日は竜之介が迎えに来れないからって、オレが代わりにきたんだよ」
ありがとうと言おうとして声が掠れてうまくでないことに気づく。
「怖かったね。震えてる……もう大丈夫だよ。でも……どこから突き止めたんだろう…」
桃くんが悔しそうに言う。
自然な仕草で背中を撫でてくれた。
桃くんの触れ方は、竜之介に似ていてなんだか安心する。
「どうして……マスコミの人が」
もう、本当に父は世間から忘れ去られた存在なのだと思っていた。
あの事件からもう二年も過ぎている。
「有栖ちゃんのお父さんは、政治や経済界にも影響力のある仕事をしていたし、よくテレビにも出ていたからね……なにかと騒ぎたがる奴らがいるんだね……とにかく家まで送るから……」
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