14 / 36
脅迫《有栖》
しおりを挟むカフェの扉を開けると、記者の男性はすでに席についていて私を待っていた。
「有栖ちゃん、こっちこっち…」
私に気づくと、にやにやしながら手を振って私を招く。
大丈夫…
大丈夫…
私は深呼吸をして彼の元へ向かう。
「こんにちは……」
私は頭を下げて席に座る。
「あらためて真正面からまじまじと見ると、本当にきれいだね。立花氏のご令嬢は……。そのへんの駆け出しのタレントや女優が野暮ったくみえるな…」
口元に手をやりながら記者は、舐めるように上から下まで私をじろじろ眺める。
「これは立花氏の気持ちもわかるなあ…」
べろりと記者は上唇を舐める。
私は注文した紅茶が届いたのをきっかけに口を開く。
「あの…早く写真を見せてください」
できるだけ強い口調で言った。
怯んじゃだめだ…。
記者はますますにやにやと笑う。
嫌な笑い方だ。
「おや、見かけより勇気があるね。こんな写真を自分から強請るとは」
記者は鞄から、おもむろに紙袋を取り出して、中身をざっと出した。
私は目の前が真っ暗なった気がした。
足元からサーっと血の気が引くのがわかる。
私が想像していたよりうんと生々しい写真だった。
そこに写っていたのは、中学生の頃の私の自室での父親とのベッドでの情景だ。
《あの頃》の写真だった。
押さえつける男性と、はだけた衣服の半裸の少女。
男性は紛れもなく父親で、組み敷かれている少女は私だった。
私は自分の肌があらわになっていることに耐えられず、咄嗟にテーブルの上の写真を手のひらでバッと隠していた。
「おっと……まあ、そうなるよね……。でもこちらはデータも持っているんだよ…すごい写真だよね…」
もう記者の顔が見えなかった。
写真を隠した指が震えるけどとめられない。
ただただ目の前の写真が、私の脳をぐるぐるとかき混ぜていく。
頭のなかでチカチカと閃光が点滅する。
忘れたふりして生きている。
でも私はこうして何度も何度も揺さぶられて、過去から逃げられない。
はあ…はあ…自然に吐息が荒くなってしまう。
なんでこんな写真が……
「なんと、動画もあるんだぜ……いや、俺も憐れんでいいのか興奮していいのか悩んだね…。いやはや、立花のお父さまは、外ではメディアでもひっぱりだこのイケオジの評論家の学者先生、家では未成年の義理の娘に欲望を滾らせるなんて……暴行罪以上に罪深いねえ…」
耳鳴りがする。
「君が嫌なら、この写真は誰にも見せない。そのかわり……わかるよな?」
記者の男が身を乗り出して、私の耳元で囁く。
震えが止まらない。
うまく息ができない。
私の髪をなでつけながら、耳朶に触れるほど近くで記者はさらに囁く。
「まあ、君の美貌ならわからんでもないよ……どうせ義理の兄弟にもヤられてるんだろ……そういうの、そそるなあ……」
やめて!と言おうとして、私はそこで顔をあげた。
バシャ……!
記者の男性の頭からポタポタと水滴が落ちる。
「は……?」
男性もわけがわからないといった表情をしている。
見ると、桃くんが空になったグラスを両手に持って立っていた。
「外道……」
今までに見たこともないほど冷たい視線で、桃くんが男性を見下ろす。低い低い声だった。
「な、なんだよ!おまえ……っ」
男性が慌てて袖でで顔を拭いながら喚く。
「……熱いコーヒーじゃなかっただけマシと思えよ」
桃くんの視線が、一瞬、テーブルの上で水浸しになった私の写真に向けられ凍りつくのが見えた。
「おまえ、写真を世に出したら、今のお前の下衆な脅しネットにばら撒くからな」
静かだが抑えきれない怒りを含んだ声。
私は驚いて桃くんを見る。
「全部録音したからな、覚えとけ」
桃くんはポケットからスマホを取り出す。
「っざけんな!」
男性が怒りで声を荒らげ、スマホを奪い取ろうとしたが、桃くんはひょいとそれをかわして、私の手をとる。
「有栖ちゃん、帰ろう…」
桃くんは私の手を引っ張り、カフェを飛び出した。
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
ママと中学生の僕
キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。
極上イケメン先生が秘密の溺愛教育に熱心です
朝陽七彩
恋愛
私は。
「夕鶴、こっちにおいで」
現役の高校生だけど。
「ずっと夕鶴とこうしていたい」
担任の先生と。
「夕鶴を誰にも渡したくない」
付き合っています。
♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡
神城夕鶴(かみしろ ゆづる)
軽音楽部の絶対的エース
飛鷹隼理(ひだか しゅんり)
アイドル的存在の超イケメン先生
♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡
彼の名前は飛鷹隼理くん。
隼理くんは。
「夕鶴にこうしていいのは俺だけ」
そう言って……。
「そんなにも可愛い声を出されたら……俺、止められないよ」
そして隼理くんは……。
……‼
しゅっ……隼理くん……っ。
そんなことをされたら……。
隼理くんと過ごす日々はドキドキとわくわくの連続。
……だけど……。
え……。
誰……?
誰なの……?
その人はいったい誰なの、隼理くん。
ドキドキとわくわくの連続だった私に突如現れた隼理くんへの疑惑。
その疑惑は次第に大きくなり、私の心の中を不安でいっぱいにさせる。
でも。
でも訊けない。
隼理くんに直接訊くことなんて。
私にはできない。
私は。
私は、これから先、一体どうすればいいの……?
久々に幼なじみの家に遊びに行ったら、寝ている間に…
しゅうじつ
BL
俺の隣の家に住んでいる有沢は幼なじみだ。
高校に入ってからは、学校で話したり遊んだりするくらいの仲だったが、今日数人の友達と彼の家に遊びに行くことになった。
数年ぶりの幼なじみの家を懐かしんでいる中、いつの間にか友人たちは帰っており、幼なじみと2人きりに。
そこで俺は彼の部屋であるものを見つけてしまい、部屋に来た有沢に咄嗟に寝たフリをするが…
あるフィギュアスケーターの性事情
蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。
しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。
何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。
この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。
そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。
この物語はフィクションです。
実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる