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医務室《有栖》
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できれば授業ギリギリに登校したかったけど、まだすこし時間がある。
案の定、ふらふらした足取りで渋川さんが近づいてくる。
「有栖ちゃ~ん。お兄サマは弟クンよりさらにハンサムだねえ……。あんなイケメンな兄弟がいたら有栖ちゃんも目が肥えすぎて彼氏できないねえ……」
渋川さんはにやにやしながらいつものように絡んでくる。
「しょーじき、有栖ちゃんはどっちが好みなの?落ち着きがあって大人の余裕のお兄サンと、優等生っぽいのに血の気が多い危うい弟クンと」
顔を近づけて煽ってくる渋川さんに、兄や弟の話はやめてくださいと言おうとして、異変に気づく。
いつも青白い渋川さんの顔色が蒼白と言ってもいいくらい青ざめている。
そう思った瞬間、渋川さんがぐらりと揺れて倒れ込んでくる。
「し、渋川さん!だ、大丈夫ですか……」
渋川さんの身体の重みを支えきれず、私はその場に尻もちをつく。
なんとか、渋川さんが頭を打たないように受け止められたのはよかった。
いつもは個々で他人に無関心を装う
生徒たちも集まってきた。
「あ、あの…たぶん貧血だと思います…医務室に運ぶの…誰か手伝ってもらえますか……」
私は勇気を出して声をかけた。
***
渋川さんはやはり貧血だった。
いつも青白い顔をしていたし、私も時々なるからそうかなと思った。
渋川さんは気を失って眠っている。
考えたことがなかったけど、渋川さんはどうしてこの通信制の高校に通っているのかな。
いつも絡んでくるくせに、自分の話は全くしてこない。
医務室の先生は教室に戻ってもいいと言ってくれたけれど、なんだか放っておけなくて、私はそのままベッドで眠る渋川さんの側にいた。
保健室には他に誰もいない。
白で統一された無機質な部屋に、薬品の匂いがした。
私は入院していた時のことを思い出して、少し心細くなる。
「っ……」
しばらくして渋川さんがうっすらと目を開けて身じろぎする。
「あ、渋川さん、大丈夫ですか……」
私は声をかける。
「あれ……俺はなんで寝てるんだ?」
状況が飲み込めていない様子の彼に、私は説明する。
「覚えてないですか……?貧血で倒れたんですよ」
彼は思い出そうと顔をしかめるが思い出せないようだった。
「……そうか……」
渋川さんはぼーっとしながら起きあがろうとする。
「あっ、まだ起き上がらないほうがいいです…」
私は軽く制す。
「あ、あの…余計なお世話かもしれないけれど…ちゃんと朝ごはん食べたほうがいいです…倒れたのも多分、朝ごはんを食べなかったからだと思うので……あの…販売機に鉄分入りのジュースがあったので、買っておきました…飲んでください…」
私がジュースの紙パックを渡すと、
「余計なお世話だよ……指図される筋合いはない」
彼はむっとして言う。
でもいつもヘラヘラしている渋川さんがむっとしているのはなんだか不思議な感じだ。
「ご、ごめんなさい……でも……」
私は自分の過去のことを話してしまう。
「私も……貧血気味で、よく倒れて…そのたびに不安な気持ちになったから……心配なんです……」
私が言うと彼は少しバツが悪そうな顔をした。
「ばかじゃねーの…あんた…」
渋川さんはじろりと私を見たあと、視線を落として、吐き捨てるように言う。
「そんなふうに誰にでもやさしくしようとするからつけ込まれるんだよ……お人好しもたいがいにしろよ」
渋川さんは舌打ちをした。
いつもヘラヘラ絡んでくる渋川さんに怒られているのも不思議だった。
「あっ、あの……あと、一度ちゃんと病院で見てもらったほうがいいいと思います…」
また渋川さんがら何か文句を言おうとした時、うしろから声がした。
「ほんとお人よしだよ……なにやってんの有栖……」
竜之介が立っていた。
「待っててもなかなかこないからさ、教室に行ったら渋川と医務室行ったきり帰って来ないっていうじゃん?慌ててこっちに迎えにきたんだよ」
竜之介はちょっと膨れている
「絡んでくる奴とふたりきりとかあぶないだろ…」
「リュウ、渋川サン、貧血で倒れたの…誰もそばにいないなんて、目が覚めたとき誰もそばにいなかったら不安になるでしょ?」
私がたしなめるようにいう。
「うん、きいた」
そう言って、竜之介も私が先ほど渋川さんに渡したのと同じ鉄分入りジュースの紙パックと、フィッシュサンドの包みが入った袋をベッドにポンと置く。
「ちゃんと食えよ」
竜之介は年上の渋川さんにも構わずタメ語で話す。
なんだ、竜之介もちゃんと心配してサンドイッチまで買ってきてる。
やっぱり優しいな。あんなに怒っていたのに。
「有栖、渋川も起きたし、俺たちは帰るよ。教室に行って帰る支度してきな。俺、ここで待ってるから」
竜之介は言われて、すっかり今日の授業はおわっていることに気づく。
「は、はーい」
わたしは慌てて鞄を取りに行く。
案の定、ふらふらした足取りで渋川さんが近づいてくる。
「有栖ちゃ~ん。お兄サマは弟クンよりさらにハンサムだねえ……。あんなイケメンな兄弟がいたら有栖ちゃんも目が肥えすぎて彼氏できないねえ……」
渋川さんはにやにやしながらいつものように絡んでくる。
「しょーじき、有栖ちゃんはどっちが好みなの?落ち着きがあって大人の余裕のお兄サンと、優等生っぽいのに血の気が多い危うい弟クンと」
顔を近づけて煽ってくる渋川さんに、兄や弟の話はやめてくださいと言おうとして、異変に気づく。
いつも青白い渋川さんの顔色が蒼白と言ってもいいくらい青ざめている。
そう思った瞬間、渋川さんがぐらりと揺れて倒れ込んでくる。
「し、渋川さん!だ、大丈夫ですか……」
渋川さんの身体の重みを支えきれず、私はその場に尻もちをつく。
なんとか、渋川さんが頭を打たないように受け止められたのはよかった。
いつもは個々で他人に無関心を装う
生徒たちも集まってきた。
「あ、あの…たぶん貧血だと思います…医務室に運ぶの…誰か手伝ってもらえますか……」
私は勇気を出して声をかけた。
***
渋川さんはやはり貧血だった。
いつも青白い顔をしていたし、私も時々なるからそうかなと思った。
渋川さんは気を失って眠っている。
考えたことがなかったけど、渋川さんはどうしてこの通信制の高校に通っているのかな。
いつも絡んでくるくせに、自分の話は全くしてこない。
医務室の先生は教室に戻ってもいいと言ってくれたけれど、なんだか放っておけなくて、私はそのままベッドで眠る渋川さんの側にいた。
保健室には他に誰もいない。
白で統一された無機質な部屋に、薬品の匂いがした。
私は入院していた時のことを思い出して、少し心細くなる。
「っ……」
しばらくして渋川さんがうっすらと目を開けて身じろぎする。
「あ、渋川さん、大丈夫ですか……」
私は声をかける。
「あれ……俺はなんで寝てるんだ?」
状況が飲み込めていない様子の彼に、私は説明する。
「覚えてないですか……?貧血で倒れたんですよ」
彼は思い出そうと顔をしかめるが思い出せないようだった。
「……そうか……」
渋川さんはぼーっとしながら起きあがろうとする。
「あっ、まだ起き上がらないほうがいいです…」
私は軽く制す。
「あ、あの…余計なお世話かもしれないけれど…ちゃんと朝ごはん食べたほうがいいです…倒れたのも多分、朝ごはんを食べなかったからだと思うので……あの…販売機に鉄分入りのジュースがあったので、買っておきました…飲んでください…」
私がジュースの紙パックを渡すと、
「余計なお世話だよ……指図される筋合いはない」
彼はむっとして言う。
でもいつもヘラヘラしている渋川さんがむっとしているのはなんだか不思議な感じだ。
「ご、ごめんなさい……でも……」
私は自分の過去のことを話してしまう。
「私も……貧血気味で、よく倒れて…そのたびに不安な気持ちになったから……心配なんです……」
私が言うと彼は少しバツが悪そうな顔をした。
「ばかじゃねーの…あんた…」
渋川さんはじろりと私を見たあと、視線を落として、吐き捨てるように言う。
「そんなふうに誰にでもやさしくしようとするからつけ込まれるんだよ……お人好しもたいがいにしろよ」
渋川さんは舌打ちをした。
いつもヘラヘラ絡んでくる渋川さんに怒られているのも不思議だった。
「あっ、あの……あと、一度ちゃんと病院で見てもらったほうがいいいと思います…」
また渋川さんがら何か文句を言おうとした時、うしろから声がした。
「ほんとお人よしだよ……なにやってんの有栖……」
竜之介が立っていた。
「待っててもなかなかこないからさ、教室に行ったら渋川と医務室行ったきり帰って来ないっていうじゃん?慌ててこっちに迎えにきたんだよ」
竜之介はちょっと膨れている
「絡んでくる奴とふたりきりとかあぶないだろ…」
「リュウ、渋川サン、貧血で倒れたの…誰もそばにいないなんて、目が覚めたとき誰もそばにいなかったら不安になるでしょ?」
私がたしなめるようにいう。
「うん、きいた」
そう言って、竜之介も私が先ほど渋川さんに渡したのと同じ鉄分入りジュースの紙パックと、フィッシュサンドの包みが入った袋をベッドにポンと置く。
「ちゃんと食えよ」
竜之介は年上の渋川さんにも構わずタメ語で話す。
なんだ、竜之介もちゃんと心配してサンドイッチまで買ってきてる。
やっぱり優しいな。あんなに怒っていたのに。
「有栖、渋川も起きたし、俺たちは帰るよ。教室に行って帰る支度してきな。俺、ここで待ってるから」
竜之介は言われて、すっかり今日の授業はおわっていることに気づく。
「は、はーい」
わたしは慌てて鞄を取りに行く。
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