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閨の練習相手7
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(やっぱりだめ!)
ぐっと覚悟を決めてレオンの胸を押して体を離す。
筋肉質で重いはずの体は驚くほど簡単にアリスの上からどいた。
「あ……」
力を入れすぎたのだろうか。心底拒否をしているなんて思われなかったといい――でも、こんなの一方的過ぎるだろう。セクハラどころの話ではない。
(……ゲームだけど)
やはりこれはエロゲーなのだろう。恋愛シミュレーションゲームを全クリしたそのご褒美。
(……やっぱり楽しんじゃえばよかったかも)
けれどもうあとの祭りだ。
ベッドの上に放り出されたバスローブを羽織る。
「うん、お疲れ様。とても勉強になりました」
場の空気を変えるような、王子の声。気を遣わせた。王子なのに。
(……マジでここのルイ優しいんだけど)
なんだか違うゲームをしている気分。いや、あまりにもリアルすぎてゲームをしている感覚はないけれど。
王子が席を立つ気配があった。これ以上は何もないと判断し、部屋に帰るのだろう。
しかし足音はアリスのすぐ近くで止まった。
「風邪、ひかないでね。また明日」
「……は?」
また明日。
(え、明日もするの……?)
ぽかんとしていると、アリスの隣を通ってレオンがベッドから下りた。
「今夜はもう部屋に戻っていい。いびきでもかいて寝ろ」
「……はああ?」
言い方にカチンとくる。
しかしレオンはもう、王子を守るように背後について廊下に繋がるドアをくぐっていた。
(……マジ意味わかんない)
いや、ゲーム自体は面白そうだ。しかしあまりにもキャラクターの性格が違いすぎる。
(王子はマジ王子。なのにレオンがなぁ……)
けれど、今の行為は強引なようでいてとても優しかったように思う。経験がないので誰と比べることもできないけれど、常にこちらの様子を窺い、ペースを合わせてくれていたような気がする。
(……いいやつなのか嫌なやつなのかわかんない)
まあいい。所詮ゲームだ。
身支度を整えて与えられた個室に戻る。
しかしシャワーを浴びても、胸にはもやが残ったままだった。
* * *
(うーん……おいしい)
どうして食事がこんなにおいしいのだろう。
今日の朝食は、焼き立てパンに目玉焼き、フルーツ入りのヨーグルトにミネストローネ。これらが本当の中世に存在したかはわからないけれど、そういえば風呂には現代日本と同じシャワーがあった。これは中世には確実になかったもののはずだ。
(やっぱり中身は現代風になってる……)
おそらく、プレイヤーが生活をするのに不便はないようになっているということだろう。
(じゃあ車とか飛行機とかもあるのかな)
いや、いくらなんでもそれはないか。雰囲気をぶち壊しすぎる。
ふかふかのパンをちぎって口に含んだとき、背後から声をかけられた。
「また食ってるのか」
振り返らずとも相手はわかった。
「うるさい、レオン」
通常シナリオでは顔も性格もイケメンだったのに。変更して発売したゲーム会社の判断は正しい。
「見せられる腹にしておけよ」
「はぁあああ?」
スプーンを持ったまま立ち上がり、冷めた目をしたレオンを見下ろす。
「見せられますぅー! 自信満々ですぅー! そっちこそ私のナイスバディに見惚れないでよ!」
「ナイスバディ……ね」
ふっと鼻で笑う音。頭のてっぺんまで怒りに染まる。
(昨夜は優しいと思ったのに!)
あまりの不遜さに声が空回って出なかった。
どすんと音を立てて椅子に戻り、途中だった食事を再開する。
何か言ってくるかと思ったのに、背後は静かなままだった。
* * *
(もー! ほんっといらいらする!)
たしかに昨夜は、食べすぎて胃が膨らんでいた。ナイトランジェリーの着方だってよくわかっていなかった。未経験故に戸惑うばかりで、男を悦ばせるような態度だって取っていない。
(だからって!!)
怒りをどこかにぶつけたかった。しかし、尋ねられる場所として浮かぶのは一か所しかなかった。
「失礼します!」
「ああ、こんにちは」
医師のロイドは、今日も白衣姿で書物を読んでいた。眼鏡の奥の瞳が優しい。
(……え、ロイド狙う? ありじゃない?)
通常シナリオにはいなかったキャラクターだが――そもそも、ここは攻略対象が限定されているのだろうか。
(誰でもいい、とか……?)
普通のゲームであれば、登場人物はほぼみんな攻略対象だ。攻略対象でない人は会話ができなかったり、そもそも名前が出てこなかったりする。
しかしここでは誰とでも、たとえば食堂ですれ違っただけの人でも会話をすることができるので、名前を尋ねることだってできるだろう。
(……え、じゃあ本当に誰でもありってことだよね……?)
それなら、ロイドを攻略すればまずは一人目クリアになるのではないだろうか。
ぐっと覚悟を決めてレオンの胸を押して体を離す。
筋肉質で重いはずの体は驚くほど簡単にアリスの上からどいた。
「あ……」
力を入れすぎたのだろうか。心底拒否をしているなんて思われなかったといい――でも、こんなの一方的過ぎるだろう。セクハラどころの話ではない。
(……ゲームだけど)
やはりこれはエロゲーなのだろう。恋愛シミュレーションゲームを全クリしたそのご褒美。
(……やっぱり楽しんじゃえばよかったかも)
けれどもうあとの祭りだ。
ベッドの上に放り出されたバスローブを羽織る。
「うん、お疲れ様。とても勉強になりました」
場の空気を変えるような、王子の声。気を遣わせた。王子なのに。
(……マジでここのルイ優しいんだけど)
なんだか違うゲームをしている気分。いや、あまりにもリアルすぎてゲームをしている感覚はないけれど。
王子が席を立つ気配があった。これ以上は何もないと判断し、部屋に帰るのだろう。
しかし足音はアリスのすぐ近くで止まった。
「風邪、ひかないでね。また明日」
「……は?」
また明日。
(え、明日もするの……?)
ぽかんとしていると、アリスの隣を通ってレオンがベッドから下りた。
「今夜はもう部屋に戻っていい。いびきでもかいて寝ろ」
「……はああ?」
言い方にカチンとくる。
しかしレオンはもう、王子を守るように背後について廊下に繋がるドアをくぐっていた。
(……マジ意味わかんない)
いや、ゲーム自体は面白そうだ。しかしあまりにもキャラクターの性格が違いすぎる。
(王子はマジ王子。なのにレオンがなぁ……)
けれど、今の行為は強引なようでいてとても優しかったように思う。経験がないので誰と比べることもできないけれど、常にこちらの様子を窺い、ペースを合わせてくれていたような気がする。
(……いいやつなのか嫌なやつなのかわかんない)
まあいい。所詮ゲームだ。
身支度を整えて与えられた個室に戻る。
しかしシャワーを浴びても、胸にはもやが残ったままだった。
* * *
(うーん……おいしい)
どうして食事がこんなにおいしいのだろう。
今日の朝食は、焼き立てパンに目玉焼き、フルーツ入りのヨーグルトにミネストローネ。これらが本当の中世に存在したかはわからないけれど、そういえば風呂には現代日本と同じシャワーがあった。これは中世には確実になかったもののはずだ。
(やっぱり中身は現代風になってる……)
おそらく、プレイヤーが生活をするのに不便はないようになっているということだろう。
(じゃあ車とか飛行機とかもあるのかな)
いや、いくらなんでもそれはないか。雰囲気をぶち壊しすぎる。
ふかふかのパンをちぎって口に含んだとき、背後から声をかけられた。
「また食ってるのか」
振り返らずとも相手はわかった。
「うるさい、レオン」
通常シナリオでは顔も性格もイケメンだったのに。変更して発売したゲーム会社の判断は正しい。
「見せられる腹にしておけよ」
「はぁあああ?」
スプーンを持ったまま立ち上がり、冷めた目をしたレオンを見下ろす。
「見せられますぅー! 自信満々ですぅー! そっちこそ私のナイスバディに見惚れないでよ!」
「ナイスバディ……ね」
ふっと鼻で笑う音。頭のてっぺんまで怒りに染まる。
(昨夜は優しいと思ったのに!)
あまりの不遜さに声が空回って出なかった。
どすんと音を立てて椅子に戻り、途中だった食事を再開する。
何か言ってくるかと思ったのに、背後は静かなままだった。
* * *
(もー! ほんっといらいらする!)
たしかに昨夜は、食べすぎて胃が膨らんでいた。ナイトランジェリーの着方だってよくわかっていなかった。未経験故に戸惑うばかりで、男を悦ばせるような態度だって取っていない。
(だからって!!)
怒りをどこかにぶつけたかった。しかし、尋ねられる場所として浮かぶのは一か所しかなかった。
「失礼します!」
「ああ、こんにちは」
医師のロイドは、今日も白衣姿で書物を読んでいた。眼鏡の奥の瞳が優しい。
(……え、ロイド狙う? ありじゃない?)
通常シナリオにはいなかったキャラクターだが――そもそも、ここは攻略対象が限定されているのだろうか。
(誰でもいい、とか……?)
普通のゲームであれば、登場人物はほぼみんな攻略対象だ。攻略対象でない人は会話ができなかったり、そもそも名前が出てこなかったりする。
しかしここでは誰とでも、たとえば食堂ですれ違っただけの人でも会話をすることができるので、名前を尋ねることだってできるだろう。
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