11 / 16
閨の練習相手8
しおりを挟む
(……全クリって概念は消えそうだけど……)
目まぐるしく考えているうちに、ロイドが湯気の立つカップを二つ用意した。先ほどまで着いていたテーブルに置かれる。
「どうぞ」
「どうも……」
そういえば、ロイドはアリスがルイ王子の閨を相手を務めていることを知っている。それなら何か、逃げる方法だって考えてくれるかもしれない。
カップを取る。白い液体、甘い香り。ホットミルクだろうか。両手で包むようにして持つと、じんわりと指先がしびれるようにして温まる。
「昨夜はいかがでしたか」
「……あの仕事、辞めたいんですけど」
「それは――」
ロイドがカップを傾けた。そちらからはコーヒーの香ばしい香りがする。
ここに来てから初めての穏やかな時間だった。静かにカップを傾ける。
「レオンが下手でしたか」
「ぶふぉっ!」
舌も上あごも唇も痛い。ひりひりする。最悪だ。痛みは感じない設定にしてくれたらよかったのに。
「大丈夫ですか」
「大丈夫じゃないですけど大丈夫です」
差し出されたタオルを借りて、口や濡れた服を拭う。
そうしている間に、ロイドは氷を用意してくれた。
「どうぞ」
「どうも……」
口に含むと痛みが少しましになった。アメのように舐める。
アリスが落ち着いたのを見て、ロイドも椅子に腰を戻した。
「レオンのせいでなければ、どうして辞めたいと?」
「いやレオンのせいですけど」
思い出したら腹が立ってきた。氷をガリガリと噛んで飲み下す。
「下手だったんですか」
「……そういうんじゃなくて。っていうか、そこまでしてませんから」
「してないんですか」
首をかしげるロイドに疑問を持った。
「あの、これまでの練習相手ってどんな感じだったんですか。っていうか、なんでこんなことに? そもそも、どうして私? どうやって相手を選んでるんですか」
「何の説明もありませんでしたか」
「誰から?」
「レオンから」
「あると思います?」
「……ないでしょうね」
わかりました、と言ってロイドが居住まいを正した。
「この国――アルケイド王国の王子は、早い段階で許嫁が決まります。そして成人と共に婚姻をし、すぐに継承者を作ります」
つまり、子作りをするということだろう。
「しかし、知識がなければ子どもを作る方法がわかりません。ですから教える必要があるのですが、この国の女性を使えば王子の弱みを握られたり、万が一他国のスパイだった場合に大問題になります」
突拍子もない話のように感じられたが、一理あるとも思えた。黙ったまま頷き、先を促す。
「そこで、異世界から純潔の娘を呼び寄せるという方法を思いついたのです。あ、方法については私は存じ上げません。王族の秘密となっています」
シナリオライターはそこまで突き詰めて作ればいいのに。しかしストーリー攻略には関係しないか、もしかしたらルイの攻略報酬で明らかにされるのかもしれない。
「それで?」
「――で、呼び出しに答えたのがアリスさんだったというわけです」
「……呼ばれた覚えはないんですけどね」
まあ、あくまでゲームだ。そういう設定になっているということだろうと思うことにする。
「あの、いつまで練習相手をしないといけないんですか」
「仔細はわかりませんが、ひとまず結婚式をめどにお役御免になるそうですよ」
「ひとまずって?」
目まぐるしく考えているうちに、ロイドが湯気の立つカップを二つ用意した。先ほどまで着いていたテーブルに置かれる。
「どうぞ」
「どうも……」
そういえば、ロイドはアリスがルイ王子の閨を相手を務めていることを知っている。それなら何か、逃げる方法だって考えてくれるかもしれない。
カップを取る。白い液体、甘い香り。ホットミルクだろうか。両手で包むようにして持つと、じんわりと指先がしびれるようにして温まる。
「昨夜はいかがでしたか」
「……あの仕事、辞めたいんですけど」
「それは――」
ロイドがカップを傾けた。そちらからはコーヒーの香ばしい香りがする。
ここに来てから初めての穏やかな時間だった。静かにカップを傾ける。
「レオンが下手でしたか」
「ぶふぉっ!」
舌も上あごも唇も痛い。ひりひりする。最悪だ。痛みは感じない設定にしてくれたらよかったのに。
「大丈夫ですか」
「大丈夫じゃないですけど大丈夫です」
差し出されたタオルを借りて、口や濡れた服を拭う。
そうしている間に、ロイドは氷を用意してくれた。
「どうぞ」
「どうも……」
口に含むと痛みが少しましになった。アメのように舐める。
アリスが落ち着いたのを見て、ロイドも椅子に腰を戻した。
「レオンのせいでなければ、どうして辞めたいと?」
「いやレオンのせいですけど」
思い出したら腹が立ってきた。氷をガリガリと噛んで飲み下す。
「下手だったんですか」
「……そういうんじゃなくて。っていうか、そこまでしてませんから」
「してないんですか」
首をかしげるロイドに疑問を持った。
「あの、これまでの練習相手ってどんな感じだったんですか。っていうか、なんでこんなことに? そもそも、どうして私? どうやって相手を選んでるんですか」
「何の説明もありませんでしたか」
「誰から?」
「レオンから」
「あると思います?」
「……ないでしょうね」
わかりました、と言ってロイドが居住まいを正した。
「この国――アルケイド王国の王子は、早い段階で許嫁が決まります。そして成人と共に婚姻をし、すぐに継承者を作ります」
つまり、子作りをするということだろう。
「しかし、知識がなければ子どもを作る方法がわかりません。ですから教える必要があるのですが、この国の女性を使えば王子の弱みを握られたり、万が一他国のスパイだった場合に大問題になります」
突拍子もない話のように感じられたが、一理あるとも思えた。黙ったまま頷き、先を促す。
「そこで、異世界から純潔の娘を呼び寄せるという方法を思いついたのです。あ、方法については私は存じ上げません。王族の秘密となっています」
シナリオライターはそこまで突き詰めて作ればいいのに。しかしストーリー攻略には関係しないか、もしかしたらルイの攻略報酬で明らかにされるのかもしれない。
「それで?」
「――で、呼び出しに答えたのがアリスさんだったというわけです」
「……呼ばれた覚えはないんですけどね」
まあ、あくまでゲームだ。そういう設定になっているということだろうと思うことにする。
「あの、いつまで練習相手をしないといけないんですか」
「仔細はわかりませんが、ひとまず結婚式をめどにお役御免になるそうですよ」
「ひとまずって?」
0
あなたにおすすめの小説
娼館で元夫と再会しました
無味無臭(不定期更新)
恋愛
公爵家に嫁いですぐ、寡黙な夫と厳格な義父母との関係に悩みホームシックにもなった私は、ついに耐えきれず離縁状を机に置いて嫁ぎ先から逃げ出した。
しかし実家に帰っても、そこに私の居場所はない。
連れ戻されてしまうと危惧した私は、自らの体を売って生計を立てることにした。
「シーク様…」
どうして貴方がここに?
元夫と娼館で再会してしまうなんて、なんという不運なの!
女王は若き美貌の夫に離婚を申し出る
小西あまね
恋愛
「喜べ!やっと離婚できそうだぞ!」「……は?」
政略結婚して9年目、32歳の女王陛下は22歳の王配陛下に笑顔で告げた。
9年前の約束を叶えるために……。
豪胆果断だがどこか天然な女王と、彼女を敬愛してやまない美貌の若き王配のすれ違い離婚騒動。
「月と雪と温泉と ~幼馴染みの天然王子と最強魔術師~」の王子の姉の話ですが、独立した話で、作風も違います。
本作は小説家になろうにも投稿しています。
もう無理して私に笑いかけなくてもいいですよ?
冬馬亮
恋愛
公爵令嬢のエリーゼは、遅れて出席した夜会で、婚約者のオズワルドがエリーゼへの不満を口にするのを偶然耳にする。
オズワルドを愛していたエリーゼはひどくショックを受けるが、悩んだ末に婚約解消を決意する。
だが、喜んで受け入れると思っていたオズワルドが、なぜか婚約解消を拒否。関係の再構築を提案する。
その後、プレゼント攻撃や突撃訪問の日々が始まるが、オズワルドは別の令嬢をそばに置くようになり・・・
「彼女は友人の妹で、なんとも思ってない。オレが好きなのはエリーゼだ」
「私みたいな女に無理して笑いかけるのも限界だって夜会で愚痴をこぼしてたじゃないですか。よかったですね、これでもう、無理して私に笑いかけなくてよくなりましたよ」
人狼な幼妻は夫が変態で困り果てている
井中かわず
恋愛
古い魔法契約によって強制的に結ばれたマリアとシュヤンの14歳年の離れた夫婦。それでも、シュヤンはマリアを愛していた。
それはもう深く愛していた。
変質的、偏執的、なんとも形容しがたいほどの狂気の愛情を注ぐシュヤン。異常さを感じながらも、なんだかんだでシュヤンが好きなマリア。
これもひとつの夫婦愛の形…なのかもしれない。
全3章、1日1章更新、完結済
※特に物語と言う物語はありません
※オチもありません
※ただひたすら時系列に沿って変態したりイチャイチャしたりする話が続きます。
※主人公の1人(夫)が気持ち悪いです。
敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています
藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。
結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。
聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。
侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。
※全11話 2万字程度の話です。
愛する殿下の為に身を引いたのに…なぜかヤンデレ化した殿下に囚われてしまいました
Karamimi
恋愛
公爵令嬢のレティシアは、愛する婚約者で王太子のリアムとの結婚を約1年後に控え、毎日幸せな生活を送っていた。
そんな幸せ絶頂の中、両親が馬車の事故で命を落としてしまう。大好きな両親を失い、悲しみに暮れるレティシアを心配したリアムによって、王宮で生活する事になる。
相変わらず自分を大切にしてくれるリアムによって、少しずつ元気を取り戻していくレティシア。そんな中、たまたま王宮で貴族たちが話をしているのを聞いてしまう。その内容と言うのが、そもそもリアムはレティシアの父からの結婚の申し出を断る事が出来ず、仕方なくレティシアと婚約したという事。
トンプソン公爵がいなくなった今、本来婚約する予定だったガルシア侯爵家の、ミランダとの婚約を考えていると言う事。でも心優しいリアムは、その事をレティシアに言い出せずに悩んでいると言う、レティシアにとって衝撃的な内容だった。
あまりのショックに、フラフラと歩くレティシアの目に飛び込んできたのは、楽しそうにお茶をする、リアムとミランダの姿だった。ミランダの髪を優しく撫でるリアムを見た瞬間、先ほど貴族が話していた事が本当だったと理解する。
ずっと自分を支えてくれたリアム。大好きなリアムの為、身を引く事を決意。それと同時に、国を出る準備を始めるレティシア。
そして1ヶ月後、大好きなリアムの為、自ら王宮を後にしたレティシアだったが…
追記:ヒーローが物凄く気持ち悪いです。
今更ですが、閲覧の際はご注意ください。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる