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4.二つの仕事
しおりを挟む城に来て三日が経った。
朝食、洗浄、張り型……昼食前に他の仕事から戻ってきたリゲンスにそれを抜いてもらったら、その日の仕事は終わりだった。なんだかとてもあっけない。本当にこれだけでいいのだろうか、とケネルは少しずつ不安に思い始めていた。
食事もうまいし、最後には甘いおやつも出る。以前は週に一度以下だった入浴も毎日させてもらっているし――だからこそ、このままではいけないような気がしていた。
城で働く人は誰もが忙しそうにしている。それは当然リゲンスも同じで、なのにケネルだけが午後の日差しを浴びながらのんびりと池の前で水面を見つめて過ごしている。
空いた午後は色気を学ぼう――しかしそれは、たった二日で挫折した。諦めたわけではないが、考えてどうこうなるものではないと気付いたのだ。
ぽちゃん。
かわいらしい音を立て、真っ白な鳥が一羽、池に入った。奥の生垣の下から黄色い小鳥が数羽出てきて、その後を追って水に入っていく。しかし一羽だけ、池の手前で止まってしまった。水に入るのが怖いのだろうか。心の中で「がんばれ」と応援していると、しばし経ってから最後の一羽も無事、水に入った。
(やっぱり僕も頑張らなきゃだめだよね)
村では精一杯働いていたつもりだが、ここへ来てからは何も頑張っていない。言われた行為をこなしてはいるが、それだけだった。
(何か僕にもできること……)
成人の儀の準備に支障が出ない範囲で何かしたい。
ただ暇を持て余すことに罪悪感を覚えたケネルは、腰を上げて城内の庭を歩き始めた。
(ひっろ……!)
まるで村の外の景色みたい。遠くには森が見え、開けた場所には噴水と、その周りを飾る色とりどりの花。わずかに緑をつけ始めた木々からは鳥の声が聞こえてくる。
しばらく歩くと畑が見えた。どうやらぐるっと回って城の裏側に来たらしい。見慣れた景色に心が和む。
(そうだ!)
畑仕事なら村でしていた。さほど説明を受けなくても手伝えることがあるだろう。
少し先に、男の後ろ姿が見えた。野菜の前でしゃがみ、何やらいじっている。
「こんにちは」
「ん? ああ、こんにちは。君は?」
ケネルの声に振り返った男は、目尻にシワを作りながら口髭を揺らした。
「ケネルといいます。少し前に城に来たのですが、午前中しか仕事がなくて。僕にも何かお手伝いをさせてもらえませんか。畑仕事なら村でしていました」
「そうか。俺はヨンドだ。しかし仕事といっても――」
ヨンドが視線を足元に向けた。ケネルもつられてそちらを見る。
地面の上に置かれていたのは、試しに抜いたらしい大根だった。しかしケネルがこれまで見てきたものとは状態がまったく違う。水が足りないのか、それとも城の陰になってしまって光がじゅうぶんに当たらないのか、それは葉ばかりが大きく、実の部分はほとんど成長していなかった。
(本当なら葉も食べられるけど……)
しかし茎の部分が黒くなってしまっている。これでは食べることはできないだろう。
「二、三年前はよく育ったんだが最近はだめなんだ」
辺りを見回してみる。今が収穫時期のにんじんや葉物野菜もあるが、どれもこれもあまり大きくはなっていない。村で売っているものの半分ぐらいだ。しかしケネルに出された食事の野菜は味も色も村にあるものよりも立派だった。
「肥料は使っているんですよね」
「鶏の糞を使っているよ」
「……鶏だけですか」
「ああ」
ケネルの村では馬や牛の糞も使っていた。鶏の糞だけを使っているところは聞いたことがない。
「……そろそろまずいんだよな」
「え?」ヨンドの呟きに首を傾げる。
「野菜が足りないんだ」
「え……でも城の食事は豪華ですよね」
「それは王族や側近の一部の人間が食べるものだけさ。この野菜を食べるのはほとんど使用人だ。ここには千人以上いるからな」
「千人……」
ケネルの村は五十人と少し。それでも動物を育てる者、野菜を育てる者、隣町から仕入れてきた食べ物や日用品を売る者と分かれてうまくやっていた。
「運良くしっかり育ったものは王様達にも召し上がっていただけるんだが」
「全部が育たなくなったらどうするんですか」
再度見回してみるが、確認できる範囲で立派だと言える野菜はほとんどなかった。
「今畑を担当しているものは全員クビだろうな」
「そんな……!」
そろそろまずい、という呟きの理由を理解した。それにこの様子では、もっとたくさん作らなければ城の人たちが満足に食べられなくなってしまう。
土に膝をつき、すぐ近くから野菜を見る。そうやっていくつかの野菜を見て回ると、実だけでなく、苗全体があまり成長していないようだった。
(うーん……)
いったい何が悪いのだろう。空を見上げるが、丸一日陰になってしまうような立地ではない。噴水があるくらいだから水だってじゅうぶんに使えているのだろう。
その時、土が目に入った。触れてみるとかなり硬い。たぶんここに、ケネルにもできる仕事がある。
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