俺たちは、壊れた世界の余白を埋めている。

惟光

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第19.5話 月を撃つ

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#第19.5話 月を撃つ


夜の空気は、静かに沈んでいた。
誰にも気づかれぬように、誰からも望まれぬように。

――パンッ。

乾いた音が、暗がりを裂いた。
照準は狂わない。
迷いも、ためらいもない。
銃口の先で、人が一人、音もなく崩れ落ちた。

「……終わりだな。」

誰に向けたものでもない、感情のない声。
Vはゆっくりと銃を下ろすと、足元の死体を一瞥し、
手袋越しに、跳ねた血を軽く払った。

そのとき、
ポケットの中で、端末が小さく震えた。

画面には、短く一言だけ。
──“連絡をくれ。”

Vは画面を見つめる。
眉ひとつ動かさず、それでも一拍、目を伏せた。

次の瞬間、
イヤーピース越しに、通信が繋がる。

『……済んだの?』

かすれた声。
柔らかさと冷淡さが同居する。
つぐみ。
Vの“相方”にして、遠距離の狙撃手だ。
今も遠くの屋上から、スコープでこちはを見ている。

「……すぐに、次だ。車に戻れ。」
『うん。』

やりとりはそれだけだった。だが、Vの足取りに迷いはなかった。

地面に残る血痕を踏み越え、
重いコートを揺らしながら、闇の中を歩き出した。

ただの一人も、言葉を交わさず。
ただの一滴も、情を残さず。
“それ”が、彼らのやり方だった。

画面を伏せたVの手が、
一瞬だけ、通信の切れた端末を握りしめていた。
それが、誰に向けられた感情だったのかは――分からない。

そして、
Vは夜の闇へと、音もなく溶けていった。
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