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第20話 双眸、捕捉
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#第20話 双眸、捕捉
ルカの鞭が、一瞬だけ軌道を外した。
その隙を突いて、一機のドローンが滑り込む。
――ルカを回り込み、“ナオの背後”へ。
「――ナオ……ッ!!」
ルカの叫びが届くより早く。
振り返る暇もない距離。
蜂の針が、ナオの肩に――
無情にも、突き刺さる。
「……っ……!」
ナオの身体が、ぐらりと揺れる。
(……ッ!)
ルカの鼓動が、耳の奥で爆ぜる。
鞭を一閃。
正確に、鋭く。
一瞬の間に、ドローンの胴体を叩き潰す。
――毒が、深く届くよりも前に。
だがその傷は、“無傷”ではなかった。
(間に合わなかった――!?)
「ナオッ!」
叫ぶなり、ルカは駆け出す。
倒れかけたナオを、支えるように抱き止めた。
その背――完全に、がら空きのまま。
その瞬間。
瓦礫の上、蜂須賀がふ、と目を細めた。
「……やれやれ。ようやく、“詰み”だ。」
丸縁の眼鏡を押し上げる仕草は、淡々とした事務処理のようで――
けれどその声だけが、静かに喜悦を滲ませていた。
「感情で動けば、守るもんも守れませんよ。」
次のドローンが、ルカの背後を正確に捉える。
毒針を構え、一直線に、滑り込んでいく。
――それは、確かに。
この戦闘に“終止符”を打つはずの一撃だった。
その、刹那だった。
パンッ。
鋭い破裂音が、闇を裂いた。
次の瞬間、ルカの背後に迫っていた蜂型ドローンが、空中で弾け飛ぶ。
銃声――
ルカが顔を上げたときには、もうそこにいた。
路地の影。
風を孕んだ黒のコートが、夜の闇と溶け合うように揺れる。
その中心、銃を構えたまま、微動だにしない男の影――
「……ッ、V……」
無意識に、ルカの口から名が漏れた。
“殺し”を専門とする、ルクシオンの“裏側”。
誰よりも冷酷に、誰よりも正確に、“仕事”だけをこなす男。
ルカは、息を詰めたままVを見据え――
すぐに、背後のナオへと視線を戻した。
(……くそ、今は、あいつに任せるしかねぇ……!)
痛みで意識の霞むナオを支え、しゃがみ込む。
胸元の血に触れた指先が震える。
その背後に、無言のままVが歩み寄ってくる。
「……任すぞ……!」
歯を食いしばるように吐き出した声に、Vは何も応えない。
だがそのまま、膝をつき――
ナオの背後から、無言でスーツの襟をぐいと引き下ろし、
傷口を確認する。
ナオの傷口から、黒ずんだ血がじわりとにじむ。
肩を押さえる指に、どくんとした熱が伝わってきた。
(まずい、毒が……!)
けど、どうすればいい。
何もできない。
ミツのような、知識もない。
でも――
この毒が、どれだけ“厄介”かは、誰よりも知ってる。
ルカは、震える手でナオの肩をぐっと抱き寄せた。
そして、次の瞬間――
「……悪ぃ、ナオ……!」
躊躇いなく、傷口へ――噛みついた。
迷いも、考えも、すべて吹き飛ばすように。
「ぐぁッ……、っ……」
ナオが苦痛に声を上げた。
肩に鋭い痛みが走り、身体がびくりと跳ねる。
皮膚に歯が食い込む感触。
血の味。
苦い、鉄の味と、何か得体の知れない焦げたような感覚が舌を刺す。
(……あぁ、どうすりゃいいんだよ……!)
噛みついた自分に、どこかで引いてる頭があった。
でも、それでも止まらなかった。
止まれなかった。
唇を離すと同時に、血を吸って――吐き出す。
(頼むから、間に合えよ……!)
僅かに目を開けたナオが、苦しげに息を吐く。
その視線が、ほんの一瞬だけルカを捉える。
怒るでもなく、怯えるでもなく――
ただ、何かを託すように。
――それを“見ていた”者が、二人。
瓦礫の上。
蜂須賀晶哉は、鼻で笑うように口角を歪めた。
「……無駄な真似を。」
静かに、そして確かに、視線を横に流す。
影――Vの存在を、視界の端に捉える。
(……読めないな、彼は。)
沈黙の奥に、得体の知れぬ“狂気”を嗅ぎ取る。
警戒は、決して解かない。
一方で――
路地の影に溶けるように佇むVは、
わずかに視線をずらす。
――ルカでも、ナオでもない。
空中に漂う蜂型ドローンたち。
軌道、速度、反応。
その全てを一瞥で捉え、
“どの順に潰すか”を、既に頭の中で演算していた。
手元には、黒光りする二丁の拳銃。
左手も、右手も、同じように引き金にかかる。
銃声は、ひとつじゃ済まない。
殲滅のプロセスは、もう“完了済み”。
(――仕掛ける、か。)
夜気が、わずかに震えた。
蜂の羽音が、じりじりと地を這っていた。
毒針を携えた機械の群れが、包囲の輪を絞る。
その輪の内側を――
一人の男が、切り裂くように歩く。
パン、パン。
――間髪入れずに、パン、パン。
左右の銃口から放たれた二発ずつの弾が、蜂の小さな胴体を正確に撃ち抜く。
落ちた。
また一歩進み、撃つ。
蜂須賀の顔が、僅かに歪む。
冷静さの裏で、何かを“狂いだした”ように。
(こいつ、リズムで撃ってる……?)
まるで“狩り”だ。
動き出す群れを見て、
最も早く届く個体から順に潰していく――
“順番”が、すでに頭に入ってるような、迷いのなさ。
群れがフォーメーションを変える前に、弾丸が撃ち抜く。
その狩猟本能には、もはや学習すら追いつけない。
黒いコートの裾が、夜風に翻るたび。
次の標的が落ちていくたび。
戦場の空気が、着実に“冷えていく”。
乾いた音だけが、空に響く。
無駄口も、余分な動作もない。
ただ、必要な数の弾丸だけを、必要な箇所に。
それはまるで、
ルーチンワークとなった"殲滅"、だった。
冷徹な動き。無駄のない軌道。
黒のコートの裾が、風に揺れるたびに――
(……やっぱ、すげぇ……)
口には出さない。
出す気もない。
けど、ルカの目が、一瞬だけ、確かにその姿を“見ていた”。
ナオの毒を吸い出したばかりの唇に、
苦く、焦げたような血の味が残っていた。
けれど意識は、次第に“戦場”へ戻っていく。
ドローンは、残り僅か。
空は少しずつ開けていく――
Vの鋭い双眸が、瓦礫の上、蜂須賀を捉えた。
(……まずい、あいつ、殺っちまう……!)
ルカの全身に、焦りが走る。
「――蜂須賀は殺すな!口を割らせる必要があるっ……!」
自分でも驚くほどの怒鳴り声だった。
喉が焼けるように熱くて、息が震えていた。
Vの指がわずかに止まり――
次の瞬間には、変わらぬ無表情で撃ち抜く。
「……分かってる。指示するな。」
乾いた声が返る。
それだけで、また銃声が重なる。
ドローンの数が、さらにひとつ減った。
――蜂須賀は、瓦礫の上からその光景を“見ていた”。
一機、また一機――
蜂型ドローンが、正確に、確実に、撃ち落とされていく。
(……バケモノ、だな。あれは……)
呼吸を忘れる。
スウォーム全体が、わずか数分で“狩り場”にされた。
しかも、こちらへと詰め寄る歩調は、一歩たりとも乱れない。
反応速度も、エイム精度も、群れの“学習アルゴリズム”を超えていた。
いくら機械が最適解を導き出しても――
それを“先に撃ち抜かれる”のなら、無意味だ。
(……まずい。これはもう、時間の問題だ)
唇を噛み、視線を素早く周囲に巡らせる。
自分の退路だけを、正確に、冷酷に。
この任務の失敗は、自分の破滅を意味する。
後ろ盾を失った人間がどうなるか、身をもって知っている。
「……面倒だ。」
その一言だけが、戦況を“損切り”へと傾かせる。
蜂須賀は鞄の中から、筒状の銀色のカプセルを取り出した。
――“保険”だ。
最初から、最悪の事態に備えて用意していた。
煙幕。
ただの煙ではない。
吸い込めば肺が焼けつき、神経が痺れ、声を奪う――
“毒”を含んだ特殊ガス。
(……これを使う羽目になるとはな)
指先でスイッチを押し込むと、カプセルを足元に転がす。
カチリという金属音の直後、紫がかった煙がぶわりと広がった。
風に乗り、戦場をゆっくりと覆っていく。
まるで、“浸食”するように。
それは、蜂須賀の――
撤退と悪意の、合図だった。
目の前を、紫がかった煙が覆っていく。
ざらついた匂い。
喉がひりつき、頭がぼうっとする。
毒――分かっている。
もう一度、味わいたくもない悪夢がよぎる。
…それでも。
(逃げられる……ここで?あいつを……ッ、)
唇が引き攣る。 喉奥から、声にならない叫びが込み上げた。
あれを逃がせば、また誰かが、あんな目に遭う。
誰かが、届かなくなる。
蜂須賀の口元に弧がかかるのが、見えた。
(……ふざけんな……ッ)
視界が揺れる。
足が動いた。
すぐ背後には、ナオの苦しげな息遣い――それでも。
毒の中へ――それでも、追わなきゃいけなかった。
「ッ、この野郎……!」
吐き捨てるように呟いた声は、もう、誰にも届かない。
ただ、夜の闇に溶けていく。
その叫びだけが、ルカの中で、静かに燃えていた。
ルカの鞭が、一瞬だけ軌道を外した。
その隙を突いて、一機のドローンが滑り込む。
――ルカを回り込み、“ナオの背後”へ。
「――ナオ……ッ!!」
ルカの叫びが届くより早く。
振り返る暇もない距離。
蜂の針が、ナオの肩に――
無情にも、突き刺さる。
「……っ……!」
ナオの身体が、ぐらりと揺れる。
(……ッ!)
ルカの鼓動が、耳の奥で爆ぜる。
鞭を一閃。
正確に、鋭く。
一瞬の間に、ドローンの胴体を叩き潰す。
――毒が、深く届くよりも前に。
だがその傷は、“無傷”ではなかった。
(間に合わなかった――!?)
「ナオッ!」
叫ぶなり、ルカは駆け出す。
倒れかけたナオを、支えるように抱き止めた。
その背――完全に、がら空きのまま。
その瞬間。
瓦礫の上、蜂須賀がふ、と目を細めた。
「……やれやれ。ようやく、“詰み”だ。」
丸縁の眼鏡を押し上げる仕草は、淡々とした事務処理のようで――
けれどその声だけが、静かに喜悦を滲ませていた。
「感情で動けば、守るもんも守れませんよ。」
次のドローンが、ルカの背後を正確に捉える。
毒針を構え、一直線に、滑り込んでいく。
――それは、確かに。
この戦闘に“終止符”を打つはずの一撃だった。
その、刹那だった。
パンッ。
鋭い破裂音が、闇を裂いた。
次の瞬間、ルカの背後に迫っていた蜂型ドローンが、空中で弾け飛ぶ。
銃声――
ルカが顔を上げたときには、もうそこにいた。
路地の影。
風を孕んだ黒のコートが、夜の闇と溶け合うように揺れる。
その中心、銃を構えたまま、微動だにしない男の影――
「……ッ、V……」
無意識に、ルカの口から名が漏れた。
“殺し”を専門とする、ルクシオンの“裏側”。
誰よりも冷酷に、誰よりも正確に、“仕事”だけをこなす男。
ルカは、息を詰めたままVを見据え――
すぐに、背後のナオへと視線を戻した。
(……くそ、今は、あいつに任せるしかねぇ……!)
痛みで意識の霞むナオを支え、しゃがみ込む。
胸元の血に触れた指先が震える。
その背後に、無言のままVが歩み寄ってくる。
「……任すぞ……!」
歯を食いしばるように吐き出した声に、Vは何も応えない。
だがそのまま、膝をつき――
ナオの背後から、無言でスーツの襟をぐいと引き下ろし、
傷口を確認する。
ナオの傷口から、黒ずんだ血がじわりとにじむ。
肩を押さえる指に、どくんとした熱が伝わってきた。
(まずい、毒が……!)
けど、どうすればいい。
何もできない。
ミツのような、知識もない。
でも――
この毒が、どれだけ“厄介”かは、誰よりも知ってる。
ルカは、震える手でナオの肩をぐっと抱き寄せた。
そして、次の瞬間――
「……悪ぃ、ナオ……!」
躊躇いなく、傷口へ――噛みついた。
迷いも、考えも、すべて吹き飛ばすように。
「ぐぁッ……、っ……」
ナオが苦痛に声を上げた。
肩に鋭い痛みが走り、身体がびくりと跳ねる。
皮膚に歯が食い込む感触。
血の味。
苦い、鉄の味と、何か得体の知れない焦げたような感覚が舌を刺す。
(……あぁ、どうすりゃいいんだよ……!)
噛みついた自分に、どこかで引いてる頭があった。
でも、それでも止まらなかった。
止まれなかった。
唇を離すと同時に、血を吸って――吐き出す。
(頼むから、間に合えよ……!)
僅かに目を開けたナオが、苦しげに息を吐く。
その視線が、ほんの一瞬だけルカを捉える。
怒るでもなく、怯えるでもなく――
ただ、何かを託すように。
――それを“見ていた”者が、二人。
瓦礫の上。
蜂須賀晶哉は、鼻で笑うように口角を歪めた。
「……無駄な真似を。」
静かに、そして確かに、視線を横に流す。
影――Vの存在を、視界の端に捉える。
(……読めないな、彼は。)
沈黙の奥に、得体の知れぬ“狂気”を嗅ぎ取る。
警戒は、決して解かない。
一方で――
路地の影に溶けるように佇むVは、
わずかに視線をずらす。
――ルカでも、ナオでもない。
空中に漂う蜂型ドローンたち。
軌道、速度、反応。
その全てを一瞥で捉え、
“どの順に潰すか”を、既に頭の中で演算していた。
手元には、黒光りする二丁の拳銃。
左手も、右手も、同じように引き金にかかる。
銃声は、ひとつじゃ済まない。
殲滅のプロセスは、もう“完了済み”。
(――仕掛ける、か。)
夜気が、わずかに震えた。
蜂の羽音が、じりじりと地を這っていた。
毒針を携えた機械の群れが、包囲の輪を絞る。
その輪の内側を――
一人の男が、切り裂くように歩く。
パン、パン。
――間髪入れずに、パン、パン。
左右の銃口から放たれた二発ずつの弾が、蜂の小さな胴体を正確に撃ち抜く。
落ちた。
また一歩進み、撃つ。
蜂須賀の顔が、僅かに歪む。
冷静さの裏で、何かを“狂いだした”ように。
(こいつ、リズムで撃ってる……?)
まるで“狩り”だ。
動き出す群れを見て、
最も早く届く個体から順に潰していく――
“順番”が、すでに頭に入ってるような、迷いのなさ。
群れがフォーメーションを変える前に、弾丸が撃ち抜く。
その狩猟本能には、もはや学習すら追いつけない。
黒いコートの裾が、夜風に翻るたび。
次の標的が落ちていくたび。
戦場の空気が、着実に“冷えていく”。
乾いた音だけが、空に響く。
無駄口も、余分な動作もない。
ただ、必要な数の弾丸だけを、必要な箇所に。
それはまるで、
ルーチンワークとなった"殲滅"、だった。
冷徹な動き。無駄のない軌道。
黒のコートの裾が、風に揺れるたびに――
(……やっぱ、すげぇ……)
口には出さない。
出す気もない。
けど、ルカの目が、一瞬だけ、確かにその姿を“見ていた”。
ナオの毒を吸い出したばかりの唇に、
苦く、焦げたような血の味が残っていた。
けれど意識は、次第に“戦場”へ戻っていく。
ドローンは、残り僅か。
空は少しずつ開けていく――
Vの鋭い双眸が、瓦礫の上、蜂須賀を捉えた。
(……まずい、あいつ、殺っちまう……!)
ルカの全身に、焦りが走る。
「――蜂須賀は殺すな!口を割らせる必要があるっ……!」
自分でも驚くほどの怒鳴り声だった。
喉が焼けるように熱くて、息が震えていた。
Vの指がわずかに止まり――
次の瞬間には、変わらぬ無表情で撃ち抜く。
「……分かってる。指示するな。」
乾いた声が返る。
それだけで、また銃声が重なる。
ドローンの数が、さらにひとつ減った。
――蜂須賀は、瓦礫の上からその光景を“見ていた”。
一機、また一機――
蜂型ドローンが、正確に、確実に、撃ち落とされていく。
(……バケモノ、だな。あれは……)
呼吸を忘れる。
スウォーム全体が、わずか数分で“狩り場”にされた。
しかも、こちらへと詰め寄る歩調は、一歩たりとも乱れない。
反応速度も、エイム精度も、群れの“学習アルゴリズム”を超えていた。
いくら機械が最適解を導き出しても――
それを“先に撃ち抜かれる”のなら、無意味だ。
(……まずい。これはもう、時間の問題だ)
唇を噛み、視線を素早く周囲に巡らせる。
自分の退路だけを、正確に、冷酷に。
この任務の失敗は、自分の破滅を意味する。
後ろ盾を失った人間がどうなるか、身をもって知っている。
「……面倒だ。」
その一言だけが、戦況を“損切り”へと傾かせる。
蜂須賀は鞄の中から、筒状の銀色のカプセルを取り出した。
――“保険”だ。
最初から、最悪の事態に備えて用意していた。
煙幕。
ただの煙ではない。
吸い込めば肺が焼けつき、神経が痺れ、声を奪う――
“毒”を含んだ特殊ガス。
(……これを使う羽目になるとはな)
指先でスイッチを押し込むと、カプセルを足元に転がす。
カチリという金属音の直後、紫がかった煙がぶわりと広がった。
風に乗り、戦場をゆっくりと覆っていく。
まるで、“浸食”するように。
それは、蜂須賀の――
撤退と悪意の、合図だった。
目の前を、紫がかった煙が覆っていく。
ざらついた匂い。
喉がひりつき、頭がぼうっとする。
毒――分かっている。
もう一度、味わいたくもない悪夢がよぎる。
…それでも。
(逃げられる……ここで?あいつを……ッ、)
唇が引き攣る。 喉奥から、声にならない叫びが込み上げた。
あれを逃がせば、また誰かが、あんな目に遭う。
誰かが、届かなくなる。
蜂須賀の口元に弧がかかるのが、見えた。
(……ふざけんな……ッ)
視界が揺れる。
足が動いた。
すぐ背後には、ナオの苦しげな息遣い――それでも。
毒の中へ――それでも、追わなきゃいけなかった。
「ッ、この野郎……!」
吐き捨てるように呟いた声は、もう、誰にも届かない。
ただ、夜の闇に溶けていく。
その叫びだけが、ルカの中で、静かに燃えていた。
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