チェンジtheわ〜るど

たるとりお

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プロローグ

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「27年前、当時政府は区別譲位政策くべつじょういシステムを作り、その政策を実行した。その内容は、能力あるものを上獲かみえとし、能力が無く所得が530万以下の者が下差げしゃと呼ばれるというものだった。下差は社会的下の地位になり、人間以下の存在とされた。当時は、差別が行われてしまうという反対意見が多かったが、選挙では約 3/4が賛成意見となり、その政策は可決された。えっとそして…」次の文を読もうとページをめくると、教科書の文が黒く塗り潰されていくる。全く読めない文字と僕は格闘していた。ポカッ!頭の後ろに何かが当たる。下を見ると消しゴムが落ちている。
後ろを振り向くと、神得くんがケラケラ笑っている。多分上獲を真似た名前だろう。
「おい、何こっち見てんだよ?無力くん。もしかして強く投げすぎた?ごめん、頭も馬鹿になっちゃうね?」神得君がそう言うとクラスはどっと笑った。その様子を見て神得君は誇らしげにしている。先生はオドオドしてその様子を止められないでいる。
僕は佐久間家の次男、佐久間 心さくま しん。あだ名は無力むり。佐久間家は区別譲位政策で、下差の中でも最低クラスにいた。その名残が今でも残っていて、クラスではこの有様。先生が止められないのもなんとなく分かる。そして能力が必須のこの世界で、自分は何も能力が無い。それでいっそう虐められる。お兄ちゃんは違ったんだけどな。お兄ちゃんはもっと頭が良くて、能力も…
「無力、何ぼーっとしてんだよ?間抜けズラしてんぞ。おい、柚木せんせー、俺が無力の代わりに読むから成績あげとけよ?」
神得君は自分の能力の身の回りの物を持ち上げる力を使い、先生にハサミを向ける。「はいっ!」先生は怯えながら、手帳に書き込んでいる。「あの心君、読んでくれてありがとう。」先生がこっちを見ながら言う。「いえいえ、そんなことは…」「おい?ハサミ投げるぞ?」神得君は先生を睨みつける。「すいませんっ」
僕はその話を聞きながら窓を見る。こんな生活、普通ではないのかもしれない。窓の外では鳥が大空を飛び回っていた。
その鳥は見えない所まで高く高く飛んでいく。
「この政権は上手く続いていたが、8年前、この政権は崩れることになる。とあるグループが区別譲位政策に携わっていた政治家を全員暗殺した。そこで新しい政治となりこの政権は終了した。今は上捕と下差の差別はない。しかしまだ課題がある。この政策での、差別意識、上捕、下差がまだ、残っているこ…」急に神得君は黙った。
「神得君?大丈夫、ですか?」先生が恐る恐る聞く。
「…ハッハッ…」静かな教室内に、神得君の乾いた笑い声が響く。
「何だこのクソ教科書!?間違った情報を教えてやがるぜ?なんせこの無力もいるしな?」そう神得君が言うとクラスは大爆笑する。
窓の外では鳥が楽しそうに1匹で踊っている。
虐められるのは好きじゃないし、笑われるのも好きじゃない。
だけど、僕はこの生活に満足している。
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