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18.懲りない恋心
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「それはわかる。あいつらマジで節操ないから。でも俺とミルカはうまくいってるよ」
間を置かず同意した蒼真だが、さらっと続いた言葉は惚気に聞こえる。眉を顰めた藍音は、更にクッションをぎゅうぎゅう抱きしめた。
「あんたのとこは特別なのよ」
「ふーん、まぁいいけどね。俺はあのナツって淫魔大っ嫌いだし。天界まで出向いて、しかもやりたくない説得までして無理だったんだからミルカも諦めるだろ。じゃ、帰るわ」
「え、もう? ゆっくりしてけばいいのに」
「やだよ。珍しくミルカがしょげてるから来たけど、今日新作の発売日なんだよね」
何の新作かは知らないが、蒼真が天界嫌いなことはよく知っている。彼がここに長く留まる理由はない。
すっと立ち上がった蒼真だったが、「ああ、そう」と適当に見送る藍音を振り返った。
「俺が来たのはミルカのお願いだけどさ、藍音に会いたがってるのはナツだから」
「は?」
心底嫌な顔でナツの名前を口に出した蒼真はそのまま退室しようとするが、慌てて立ち上がった藍音は勢いよく腕にしがみついた。
「ちょ、ちょっと待ちなさいよ! あんたはなんでそんな、はじめに言いなさいよ!」
「なんだよ、会いたくないならどうでもいいじゃん」
「よくないわよ!」
なんだかんだミルカに弱い彼は、本当に渋々ここにやってきたらしい。仲を取り持つ気の感じられない幼馴染の表情には、「面倒くさい」ただその一言が浮かんでいる。
無理に会いに行くのは気が乗らないけど、彼が自ら会いたいと言うのなら話は別だ。
ナツの真意はわからないが、今すぐにでも地上に飛んで降りたい衝動に駆られてしまった。
どこまでも懲りない自分が情けなくもある。でもやっぱり好きになってしまったものは仕方ない。
結局のところ藍音にも弱い蒼真は鬱陶しそうな顔をしながらも、渋々とミルカに連絡をしてくれた。
***
職権濫用で地上に降り、蒼真に連れて行かれた先は高層マンションが並ぶ中にある静かな公園だった。
ここは以前来たことがある。ミルカと初めて話をした場所だ。
青々とした葉を揺らす風が爽やかに吹き抜けていく。ふわりと舞う亜麻色の髪を押さえた藍音の視線の先。整えられた草木に囲まれたベンチに座るナツは、まだこちらに気付いていないようだ。
悪戯な風に揺れる黒髪は彼に似合う夜の色。気怠げな雰囲気は光の射す緑地で浮いて見える。
緊張で高鳴る胸を押さえる藍音の横で苛立たしげな蒼真の舌打ちが聞こえた。
「もう来てる。適当言って帰すつもりだったのに……」
「あんた、会わせる気があるのかないのかどっちなのよ」
「会わせたくないに決まってんだろ。あのさ、これでも一応心配してるの。藍音マジで男の趣味悪すぎだから。俺だって藍音には幸せになってほしいし」
じとりと藍音を眺める蒼真の顔は不機嫌そのものだ。
昔から素直じゃない幼馴染なりに身を案じているらしい。藍音が蒼真を弟のように思っているのと同じくらい、彼もまた姉として慕ってくれていることを改めて思い出す。
「蒼真……。あんたがもっと素直で可愛くて拗らせてなくて私のこと溺愛してくれるスパダリなら良かったのに……」
「それもう俺じゃないじゃん。悪いけど俺も藍音を溺愛してやれないから、先に断っとく」
「可愛くない……」
「お互い様でしょ」
こんなやり取りも昔から変わらない。蒼真は軽くため息をついて「嫌だけど、行っておいでよ」と困った顔で笑う。
間を置かず同意した蒼真だが、さらっと続いた言葉は惚気に聞こえる。眉を顰めた藍音は、更にクッションをぎゅうぎゅう抱きしめた。
「あんたのとこは特別なのよ」
「ふーん、まぁいいけどね。俺はあのナツって淫魔大っ嫌いだし。天界まで出向いて、しかもやりたくない説得までして無理だったんだからミルカも諦めるだろ。じゃ、帰るわ」
「え、もう? ゆっくりしてけばいいのに」
「やだよ。珍しくミルカがしょげてるから来たけど、今日新作の発売日なんだよね」
何の新作かは知らないが、蒼真が天界嫌いなことはよく知っている。彼がここに長く留まる理由はない。
すっと立ち上がった蒼真だったが、「ああ、そう」と適当に見送る藍音を振り返った。
「俺が来たのはミルカのお願いだけどさ、藍音に会いたがってるのはナツだから」
「は?」
心底嫌な顔でナツの名前を口に出した蒼真はそのまま退室しようとするが、慌てて立ち上がった藍音は勢いよく腕にしがみついた。
「ちょ、ちょっと待ちなさいよ! あんたはなんでそんな、はじめに言いなさいよ!」
「なんだよ、会いたくないならどうでもいいじゃん」
「よくないわよ!」
なんだかんだミルカに弱い彼は、本当に渋々ここにやってきたらしい。仲を取り持つ気の感じられない幼馴染の表情には、「面倒くさい」ただその一言が浮かんでいる。
無理に会いに行くのは気が乗らないけど、彼が自ら会いたいと言うのなら話は別だ。
ナツの真意はわからないが、今すぐにでも地上に飛んで降りたい衝動に駆られてしまった。
どこまでも懲りない自分が情けなくもある。でもやっぱり好きになってしまったものは仕方ない。
結局のところ藍音にも弱い蒼真は鬱陶しそうな顔をしながらも、渋々とミルカに連絡をしてくれた。
***
職権濫用で地上に降り、蒼真に連れて行かれた先は高層マンションが並ぶ中にある静かな公園だった。
ここは以前来たことがある。ミルカと初めて話をした場所だ。
青々とした葉を揺らす風が爽やかに吹き抜けていく。ふわりと舞う亜麻色の髪を押さえた藍音の視線の先。整えられた草木に囲まれたベンチに座るナツは、まだこちらに気付いていないようだ。
悪戯な風に揺れる黒髪は彼に似合う夜の色。気怠げな雰囲気は光の射す緑地で浮いて見える。
緊張で高鳴る胸を押さえる藍音の横で苛立たしげな蒼真の舌打ちが聞こえた。
「もう来てる。適当言って帰すつもりだったのに……」
「あんた、会わせる気があるのかないのかどっちなのよ」
「会わせたくないに決まってんだろ。あのさ、これでも一応心配してるの。藍音マジで男の趣味悪すぎだから。俺だって藍音には幸せになってほしいし」
じとりと藍音を眺める蒼真の顔は不機嫌そのものだ。
昔から素直じゃない幼馴染なりに身を案じているらしい。藍音が蒼真を弟のように思っているのと同じくらい、彼もまた姉として慕ってくれていることを改めて思い出す。
「蒼真……。あんたがもっと素直で可愛くて拗らせてなくて私のこと溺愛してくれるスパダリなら良かったのに……」
「それもう俺じゃないじゃん。悪いけど俺も藍音を溺愛してやれないから、先に断っとく」
「可愛くない……」
「お互い様でしょ」
こんなやり取りも昔から変わらない。蒼真は軽くため息をついて「嫌だけど、行っておいでよ」と困った顔で笑う。
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