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4.拗らせ同士
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「純真無垢なリシェルがそんなことを口にするはずがないんだ……。それにリシェルが好きなのはクレスであって……。そう、これは幻覚系の罠だ」
「ちょっと待って! なんでクレス!?」
「なんで……って、違うのか? 昔から仲良いし、クレスはいい奴だし」
純真無垢だとか拗らせたような発言が聞こえた気がするけれど、それよりもどうしてそこでクレスの名が出るのか。
やっと目が合ったアルトの表情は、どこまでも真面目だ。本気でそう思っているらしい彼は、リシェルの問いに首を傾げている。
「全然違うし! あんなシスコン嫌だよ! わたしが好きなのはアルト! ずっとずっとアルトが好きなの!」
あまりにも的外れだ。とっさに叫んだリシェルは勢いのまま身を乗り出し、アルトの両肩を掴む。
たしかにクレスとも幼なじみである。なんならイリアとも。昔からなにかと相談に乗ってもらっていることもあり、仲がいいのも本当だ。
だが、どこをどう見たらそうなるのだろう。クレスは誰がどう見ても故郷にいる義妹しか眼中にない。本人はバレていないと思っているみたいだが。
そういえば、アルトも「クレスは本当に家族思いだな」などとズレたことを言っていた気もする。
深い青の目を覗き込めば、アルトもまたじっと見つめ返してきた。
「え、リシェルが……俺を?」
「そうだよ。知らないのはきっと、アルトだけだよ」
アルトに向ける声や視線、それに仕草だって。ほかの人と接する時とは違っているはずなのに。だって隠す気もなかったのだから、あからさまな片想いは一目瞭然だ。
いつか気づいてくれますように。そう願うだけで行動にできなかった自分が情けなく、リシェルは自嘲の笑みを浮かべる。そのまま、呆然とするアルトに顔を近づけた。
くちびるが触れたのは、ほんの一瞬だった。本当はこのまま押し倒してしまいたいところだが、もうやめにしよう。ここまで脈無しだと悲しくなってくる。こんな状況でも、彼はリシェルに指一本触れないのだから。
「ごめんね。馬鹿なこと言って。どうにかしてこの部屋から出よう。きっと、なんとかなるよ。だってアルトは勇者様だし、わたしだって国で一番の魔法使……」
そこまで言ったところで、リシェルの背はシーツに倒れ込んでいた。背中を支えられたまま押し倒されたおかげで、衝撃はない。だけど何が起きているのか理解ができなかった。
ふかふかのシーツに沈み込んだリシェルを、アルトはじっと見つめている。
「アルト……?」
深い海のような静かな瞳。今はそこに、焼けつくような熱情が灯っている。
「こんな形でリシェルを汚したくなかったけど……。まさかリシェルが俺を、とか……。これでもめちゃくちゃ我慢してたのに。ごめん、ちょっと耐えられない」
熱に浮いたような視線はどこまでも真っ直ぐだ。呟いた彼の頬に、リシェルは思わず指を伸ばす。だがその手は掴まれ、強引に唇が重なった。
熱い。真っ先に感じたのはリシェルより高い体温。唇だけでなく、肌も直接触れている。あまりにも唐突で、まぶたを閉じる隙もなかった。
(え、なに? なにが起きてるの?)
夢にまで見たキスだというのに、感情が追いつかない。しかも角度を変えて何度も啄まれるおかげで、疑問を投げかけることもできないでいる。
「ん、ふ……ぅ、んっ……」
いささか強引な口づけに戸惑うばかりだ。もちろん嫌悪感などあるわけがない。キスを交わしているのは、幼い頃から恋い焦がれているアルトなのだから。
「ちょっと待って! なんでクレス!?」
「なんで……って、違うのか? 昔から仲良いし、クレスはいい奴だし」
純真無垢だとか拗らせたような発言が聞こえた気がするけれど、それよりもどうしてそこでクレスの名が出るのか。
やっと目が合ったアルトの表情は、どこまでも真面目だ。本気でそう思っているらしい彼は、リシェルの問いに首を傾げている。
「全然違うし! あんなシスコン嫌だよ! わたしが好きなのはアルト! ずっとずっとアルトが好きなの!」
あまりにも的外れだ。とっさに叫んだリシェルは勢いのまま身を乗り出し、アルトの両肩を掴む。
たしかにクレスとも幼なじみである。なんならイリアとも。昔からなにかと相談に乗ってもらっていることもあり、仲がいいのも本当だ。
だが、どこをどう見たらそうなるのだろう。クレスは誰がどう見ても故郷にいる義妹しか眼中にない。本人はバレていないと思っているみたいだが。
そういえば、アルトも「クレスは本当に家族思いだな」などとズレたことを言っていた気もする。
深い青の目を覗き込めば、アルトもまたじっと見つめ返してきた。
「え、リシェルが……俺を?」
「そうだよ。知らないのはきっと、アルトだけだよ」
アルトに向ける声や視線、それに仕草だって。ほかの人と接する時とは違っているはずなのに。だって隠す気もなかったのだから、あからさまな片想いは一目瞭然だ。
いつか気づいてくれますように。そう願うだけで行動にできなかった自分が情けなく、リシェルは自嘲の笑みを浮かべる。そのまま、呆然とするアルトに顔を近づけた。
くちびるが触れたのは、ほんの一瞬だった。本当はこのまま押し倒してしまいたいところだが、もうやめにしよう。ここまで脈無しだと悲しくなってくる。こんな状況でも、彼はリシェルに指一本触れないのだから。
「ごめんね。馬鹿なこと言って。どうにかしてこの部屋から出よう。きっと、なんとかなるよ。だってアルトは勇者様だし、わたしだって国で一番の魔法使……」
そこまで言ったところで、リシェルの背はシーツに倒れ込んでいた。背中を支えられたまま押し倒されたおかげで、衝撃はない。だけど何が起きているのか理解ができなかった。
ふかふかのシーツに沈み込んだリシェルを、アルトはじっと見つめている。
「アルト……?」
深い海のような静かな瞳。今はそこに、焼けつくような熱情が灯っている。
「こんな形でリシェルを汚したくなかったけど……。まさかリシェルが俺を、とか……。これでもめちゃくちゃ我慢してたのに。ごめん、ちょっと耐えられない」
熱に浮いたような視線はどこまでも真っ直ぐだ。呟いた彼の頬に、リシェルは思わず指を伸ばす。だがその手は掴まれ、強引に唇が重なった。
熱い。真っ先に感じたのはリシェルより高い体温。唇だけでなく、肌も直接触れている。あまりにも唐突で、まぶたを閉じる隙もなかった。
(え、なに? なにが起きてるの?)
夢にまで見たキスだというのに、感情が追いつかない。しかも角度を変えて何度も啄まれるおかげで、疑問を投げかけることもできないでいる。
「ん、ふ……ぅ、んっ……」
いささか強引な口づけに戸惑うばかりだ。もちろん嫌悪感などあるわけがない。キスを交わしているのは、幼い頃から恋い焦がれているアルトなのだから。
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