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盲目乙女は拗らせ剣士に愛されたい
16.嬉しい帰り道
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ゆっくりと瞼を開き目を覚ましたキアラは、まず目の前に大好きな人の寝顔がある事に慌てふためいた。
(えっと、そう、兄さんがピンチで、助けるはずが失敗しちゃって、魔物に攫われて、それから……)
毒の影響か寝起きのためか、キアラはしばらく朧げだった記憶を辿る。クロウに抱かれた詳細を鮮明に思い出し、急に恥ずかしさが込み上げてきた。
抱いて、だなんて……そんな事をまさか自分が口にするなんて。今更ながら顔が熱い。だけど、そのおかげで仲直り(多分)も出来た。まだ信じられないけれど、クロウも好きだと言ってくれた。
少しずつ現実をひしひしと感じ始め、キアラは嬉しさで胸のあたりが熱くなってくる。がっちりと逃がさないように抱き締めるクロウの引き締まった腕が、とんでもなく愛しい。うずうずが抑えきれなく、凛々しい胸板に頬を擦り付けて、その感触を堪能する。しばらくクロウの鼓動に耳を澄ましていたキアラだったが、違和感を覚えて首を傾げた。
小屋の中を見渡すと、明るかった室内にはオレンジ色の光が差している。カーテンの隙間から覗く空は、すっかり夕方に差し掛かっていた。
「に……クロウ、大変! 帰らなきゃ」
キアラが腕の中から「起きて」と揺すると、「おはよう」と口付けられる。ひえっ! と心臓が飛び出しそうになるキアラを眺める顔はいつものクロウで。これは慣れるまで大変だと、キアラは早鐘を打つ心臓の辺りをぎゅっと押さえた。
「帰らなきゃ。皆きっと心配してるよ」
朝早く出発したクロウがまだ帰らないとなると、町ではちょっとした騒ぎになっているのではないか。
「大丈夫。寝てたって言えばいい」
「ええー……」
はそんな馬鹿なと思う反面、クロウなら皆納得するかもしれないと変な説得力もある。それでいいのかと悩んでいると、今度は熱っぽく深い口付けが降ってきた。突然の熱いキスに驚くキアラのたわわな膨らみに、するりと長い指が艶かしく食い込む。
「あっ、だめだよ……あ、あっ、んっ」
「もう一回」
軽く噛み付いてから首を舐める舌と、内腿を滑る指先に抵抗する力が抜けていく。もういいやと流されかけたキアラを見計ったように、二人揃って仲良く腹の虫が鳴く音がした。
「……そういや、昼食べてないな」
「……お腹空いたね」
雰囲気など台無しで、顔を合わせてどちらかともなく噴き出す。クロウが笑ってる事が嬉しくて、それだけでキアラの胸はキュンと満たされる。
「クロウ、大好きだよ」
肩に頭を乗せて甘えると優しく撫でられて、そっと瞼にキスされた。
「目……もう気にならなくなった?」
じっと目を見て問うクロウなんて、一ヶ月前だと想像も出来なかったのに……キアラは感動に打ち震えながらここ最近を思い出す。
クロウと想いが通じ合って心が安定しているためか、自分でも不思議なくらい先日までの恐怖が薄れている。
「うん。でもやっぱりいつ暴走するかわからないから、まだちょっと怖い……かな」
正直にそう告げると、そっかと短く答えてクロウはシャツを羽織る。キアラもさっき泉で洗った服が概ね乾いているのを確認してから急いで着替え、陽が落ちないうちに街へ向かった。
少し早足で森を歩いていると、果物が実っているのを見つけた。密かに毎年楽しみにしてるらしいクロウが木から捥いで、キアラに投げてくれる。見たことのないカラフルな果物だったが、齧るとびっくりするくらい甘くて、好物の一覧に入ってしまった。来た時は一人で怖々と入った森なのに、今は手を繋いで帰路に着く。
「来てよかったぁ……」
何度目かの感想を呟いて繋いだ手をそのままに、クロウの腕に飛び付いても邪険にされる事もない。
「……頼むから来年はあの植物には近寄るなよ」
出来ることならいつだってクロウを援護したいキアラだが、今回のことがあるのでここは素直に返事をしておいた。
「この町には連れてきてくれるの?」
「当然。置いていったら一ヶ月以上会えなくなるから」
「だから、そういうとこだよ~!」
二人で歩いていると町まではあっという間だった。外壁の少し外にある魔物避けの結界石へと、キアラはパタパタと駆け寄っていく。町に差し掛かる頃には辺りはもうオレンジから紺色に染まっていて、結界石がほのかに青く浮かび上がっていた。
石はレオが行く先々で設置しているものだが、効果は永遠ではなく、定期的に魔力で補わなければいけない。今年はキアラが滞在中、毎日少しずつ魔力を注いでいるおかげであと数年は持ちそうだが、何があるかわからないので、常に十分な魔力がストックされる様に注いでおく。
「うん、今日も異常なし」
結界石をよしよしと撫でて、待っているクロウを振り返ると、彼は顎に手を当ててじっと青く光る石を見つめていた。
「どうしたの?」
側に駆け寄ったキアラが袖を引っ張るが、クロウはまだ結界石を食い入るように眺めている。
「あれってさ……父さんが作ったんだよな?」
「う、うん。そう聞いたけど……」
「なんで気づかなかったんだ……父さんは退魔も魔力封じも得意だ」
クロウはさっと視線をキアラに移し、その顔を包んで明るい若葉色の瞳を凝視した。
「父さんなら、キアラの瞳の力を封じる事ができるかもしれない」
突然の提案にキアラはぽかんとクロウを見つめていたが、脳内で彼の言葉を数回繰り返して、ゆっくり理解し始めた。
そんなまさか……。
「よし、明日帰ろう」
「ええ?!」
はやる気持ちを抑えきれないクロウがキアラの手を引いて歩き出す。早足で見張りに声をかけると、彼は二人を抱きしめて歓迎し、そう少なくない人々が帰りを待っている様子が遠目に見えた。
「なんだこれ……」
「ほら、やっぱりみんな心配してくれてたんだよ!」
やや引き気味のクロウが恐る恐る町へ踏み入れると、町長をはじめとする町の人たちが大喜びで迎え入れてくれた。中には泣き出す者までいて、キアラと気まずい目を合わす。
「よく無事で帰ってきた!」
男泣きする町長から二人まとめて抱擁を受け、町人たちからは感謝と労いの言葉をかけられる。罪悪感いっぱいでよろよろと宿への道を歩いていると遠くから呼ぶ声がして、ケイが夜道を駆け寄ってきた。
「クロウ! キアラちゃん!」
「うわ?!」
その勢いのままケイに抱きつかれたクロウはよろめき、なんとか倒れないように踏ん張って止まる。
「おい……」
「お前! いつも昼過ぎには涼しい顔で戻ってくるくせにどうしたんだよ! キアラちゃんもいつの間にかお前を追いかけて行ってたし、俺……あるだけの魔法石渡してやればよかったとか、このまま帰ってこないかもとか……」
引き剥がそうとしたケイが本気で心配してくれていたのが伝わってきて、クロウは正直めちゃくちゃ気まずい。今までの人生で一番気まずいかもしれない。
「えーと、ごめん……。今年のはやたらと手こずって……その……色々あって……。結構時間がかかって……魔法石はまだ残ってるし、いや、あの、本当にごめん……」
さすがに、寝てたと軽く言い出せる雰囲気ではなく、クロウは視線をあちこちに彷徨わせる。
「そうだったのか……お前が手こずるなんて相当の奴だったんだな」
無事に帰ってきてよかったと心の底から喜んでいるケイを見て、キアラも心の底から気まずくなる。
「あ、あの。……私が足手まといになっちゃって……ごめんなさい。ちょっと、良くなるまで休ませてもらったり……」
嘘ではない。
「キアラちゃん、もしかして怪我した? 大丈夫?」
「うん、もう大丈夫! 本当に、心配かけてごめんなさい……」
気まずさが過ぎて目を逸らすと、クロウから離れたケイがキアラにも抱きついた。
「大怪我じゃなくてよかった! 最近元気なかったし、無事帰ってくれて本当によかったよ」
びっくりしたけども、ケイから純粋に心配してくれてる様子が伝わってくる。罪悪感もあってキアラが大人しくしていると、クロウが猫の子を摘み上げるようにケイの襟元を引っ張って剥がす。そのまま当然のようにキアラの肩を抱いて寄せた。
「近いんだよ、お前は」
「は?」
昨日までとは何か雰囲気が違うクロウを見て、しばらくぽかんとしていたケイだったが、「あー、へー、そー、なるほどね」と一人で納得して、ニヤニヤしながら二人を交互に眺めて頷く。
「何かあったんだな。もしかして……いちゃいちゃしてたから遅くなりました、とか言う?」
面白がるケイに、クロウとキアラ揃って背中にぎくりと変な汗が伝った。勘の良い友人には全て見透かされているようで、二人して視線を彷徨わせてしまう。
「いや……ああ、介抱してた」
こちらもある意味嘘ではない。嘘ではないが、後ろめたさは感じる。
「なんだ……心配して損した。でもまあ、良かったな!」
大きく息を吐いて、気が抜けたようにしゃがみ込んだケイは、呆れた顔をしながらもどこか嬉しそうだ。
「よかったねキアラちゃん! 俺もみんなも、キアラちゃんの事応援してたから」
「ありがとう……って、みんな?」
「みんな健気なキアラちゃんが気になっててさあ。今日はどうだったとか、クロウの態度にやきもきするとか、正直ここんとこ一番の話題になってる」
「余計なお世話だ」
爽やかにウインクするケイにクロウが心底嫌そうに答えるが、キアラは沢山の人にクロウへの好意がバレていた事や、自分が今までどんな目で見られていたのかと考えて、恥ずかしさで身悶えている。
「とりあえずお疲れさん! 魔物退治の礼は言っとくよ。ありがとな。しばらくゆっくりしてくんだろ?」
「いや、明日帰る」
立ち上がってクロウの肩をポンと叩いたケイの手が、驚いたように止まった。毎年夏はこちらで過ごす習慣になっているので、純粋に不思議がっている。
「は? いつもゆっくり滞在してくのに?」
「ちょっと気になることがあって……また来るよ」
「ふーん……。そっか、また来いよ。キアラちゃんも」
ケイは少し残念そうな顔をしたが、また来年なとあっさり受け入れて、キアラの背中に軽くポンと触れた。明るいケイの笑顔に、キアラも釣られてニコニコしてしまう。
「うん、また来るね」
「クロウに飽きたら、いつでも嫁に来ていいからね」
「帰れ」
出立前に声かけろよ、と立ち去るケイの背中が見えなくなるまで、なんとなく二人で見送った。
「ケイさんて良い人だね」
クロウの事を大事に思ってくれてる人が友達で嬉しい。そうほっこりした気分のキアラがクロウを見上げると、半目で見返された。
「言っとくけど、キアラが飽きても離すつもりないから」
「あ、飽きるわけないよ! だからそういうとこなんだって~!」
突然、しかも自覚なく急に殺し文句を発するクロウにときめきでよろめくキアラを、よろめかせた張本人が抱き止める。
「なら良かった。今日は一緒に寝よ」
「ご、ご飯食べてからね!」
「勿論。すごい腹減ってる……」
力なく項垂れるクロウに、ふふっと笑い、今度はキアラがクロウの手を引いて、月明りに照らされながら宿までの道を再び歩き出した。
(えっと、そう、兄さんがピンチで、助けるはずが失敗しちゃって、魔物に攫われて、それから……)
毒の影響か寝起きのためか、キアラはしばらく朧げだった記憶を辿る。クロウに抱かれた詳細を鮮明に思い出し、急に恥ずかしさが込み上げてきた。
抱いて、だなんて……そんな事をまさか自分が口にするなんて。今更ながら顔が熱い。だけど、そのおかげで仲直り(多分)も出来た。まだ信じられないけれど、クロウも好きだと言ってくれた。
少しずつ現実をひしひしと感じ始め、キアラは嬉しさで胸のあたりが熱くなってくる。がっちりと逃がさないように抱き締めるクロウの引き締まった腕が、とんでもなく愛しい。うずうずが抑えきれなく、凛々しい胸板に頬を擦り付けて、その感触を堪能する。しばらくクロウの鼓動に耳を澄ましていたキアラだったが、違和感を覚えて首を傾げた。
小屋の中を見渡すと、明るかった室内にはオレンジ色の光が差している。カーテンの隙間から覗く空は、すっかり夕方に差し掛かっていた。
「に……クロウ、大変! 帰らなきゃ」
キアラが腕の中から「起きて」と揺すると、「おはよう」と口付けられる。ひえっ! と心臓が飛び出しそうになるキアラを眺める顔はいつものクロウで。これは慣れるまで大変だと、キアラは早鐘を打つ心臓の辺りをぎゅっと押さえた。
「帰らなきゃ。皆きっと心配してるよ」
朝早く出発したクロウがまだ帰らないとなると、町ではちょっとした騒ぎになっているのではないか。
「大丈夫。寝てたって言えばいい」
「ええー……」
はそんな馬鹿なと思う反面、クロウなら皆納得するかもしれないと変な説得力もある。それでいいのかと悩んでいると、今度は熱っぽく深い口付けが降ってきた。突然の熱いキスに驚くキアラのたわわな膨らみに、するりと長い指が艶かしく食い込む。
「あっ、だめだよ……あ、あっ、んっ」
「もう一回」
軽く噛み付いてから首を舐める舌と、内腿を滑る指先に抵抗する力が抜けていく。もういいやと流されかけたキアラを見計ったように、二人揃って仲良く腹の虫が鳴く音がした。
「……そういや、昼食べてないな」
「……お腹空いたね」
雰囲気など台無しで、顔を合わせてどちらかともなく噴き出す。クロウが笑ってる事が嬉しくて、それだけでキアラの胸はキュンと満たされる。
「クロウ、大好きだよ」
肩に頭を乗せて甘えると優しく撫でられて、そっと瞼にキスされた。
「目……もう気にならなくなった?」
じっと目を見て問うクロウなんて、一ヶ月前だと想像も出来なかったのに……キアラは感動に打ち震えながらここ最近を思い出す。
クロウと想いが通じ合って心が安定しているためか、自分でも不思議なくらい先日までの恐怖が薄れている。
「うん。でもやっぱりいつ暴走するかわからないから、まだちょっと怖い……かな」
正直にそう告げると、そっかと短く答えてクロウはシャツを羽織る。キアラもさっき泉で洗った服が概ね乾いているのを確認してから急いで着替え、陽が落ちないうちに街へ向かった。
少し早足で森を歩いていると、果物が実っているのを見つけた。密かに毎年楽しみにしてるらしいクロウが木から捥いで、キアラに投げてくれる。見たことのないカラフルな果物だったが、齧るとびっくりするくらい甘くて、好物の一覧に入ってしまった。来た時は一人で怖々と入った森なのに、今は手を繋いで帰路に着く。
「来てよかったぁ……」
何度目かの感想を呟いて繋いだ手をそのままに、クロウの腕に飛び付いても邪険にされる事もない。
「……頼むから来年はあの植物には近寄るなよ」
出来ることならいつだってクロウを援護したいキアラだが、今回のことがあるのでここは素直に返事をしておいた。
「この町には連れてきてくれるの?」
「当然。置いていったら一ヶ月以上会えなくなるから」
「だから、そういうとこだよ~!」
二人で歩いていると町まではあっという間だった。外壁の少し外にある魔物避けの結界石へと、キアラはパタパタと駆け寄っていく。町に差し掛かる頃には辺りはもうオレンジから紺色に染まっていて、結界石がほのかに青く浮かび上がっていた。
石はレオが行く先々で設置しているものだが、効果は永遠ではなく、定期的に魔力で補わなければいけない。今年はキアラが滞在中、毎日少しずつ魔力を注いでいるおかげであと数年は持ちそうだが、何があるかわからないので、常に十分な魔力がストックされる様に注いでおく。
「うん、今日も異常なし」
結界石をよしよしと撫でて、待っているクロウを振り返ると、彼は顎に手を当ててじっと青く光る石を見つめていた。
「どうしたの?」
側に駆け寄ったキアラが袖を引っ張るが、クロウはまだ結界石を食い入るように眺めている。
「あれってさ……父さんが作ったんだよな?」
「う、うん。そう聞いたけど……」
「なんで気づかなかったんだ……父さんは退魔も魔力封じも得意だ」
クロウはさっと視線をキアラに移し、その顔を包んで明るい若葉色の瞳を凝視した。
「父さんなら、キアラの瞳の力を封じる事ができるかもしれない」
突然の提案にキアラはぽかんとクロウを見つめていたが、脳内で彼の言葉を数回繰り返して、ゆっくり理解し始めた。
そんなまさか……。
「よし、明日帰ろう」
「ええ?!」
はやる気持ちを抑えきれないクロウがキアラの手を引いて歩き出す。早足で見張りに声をかけると、彼は二人を抱きしめて歓迎し、そう少なくない人々が帰りを待っている様子が遠目に見えた。
「なんだこれ……」
「ほら、やっぱりみんな心配してくれてたんだよ!」
やや引き気味のクロウが恐る恐る町へ踏み入れると、町長をはじめとする町の人たちが大喜びで迎え入れてくれた。中には泣き出す者までいて、キアラと気まずい目を合わす。
「よく無事で帰ってきた!」
男泣きする町長から二人まとめて抱擁を受け、町人たちからは感謝と労いの言葉をかけられる。罪悪感いっぱいでよろよろと宿への道を歩いていると遠くから呼ぶ声がして、ケイが夜道を駆け寄ってきた。
「クロウ! キアラちゃん!」
「うわ?!」
その勢いのままケイに抱きつかれたクロウはよろめき、なんとか倒れないように踏ん張って止まる。
「おい……」
「お前! いつも昼過ぎには涼しい顔で戻ってくるくせにどうしたんだよ! キアラちゃんもいつの間にかお前を追いかけて行ってたし、俺……あるだけの魔法石渡してやればよかったとか、このまま帰ってこないかもとか……」
引き剥がそうとしたケイが本気で心配してくれていたのが伝わってきて、クロウは正直めちゃくちゃ気まずい。今までの人生で一番気まずいかもしれない。
「えーと、ごめん……。今年のはやたらと手こずって……その……色々あって……。結構時間がかかって……魔法石はまだ残ってるし、いや、あの、本当にごめん……」
さすがに、寝てたと軽く言い出せる雰囲気ではなく、クロウは視線をあちこちに彷徨わせる。
「そうだったのか……お前が手こずるなんて相当の奴だったんだな」
無事に帰ってきてよかったと心の底から喜んでいるケイを見て、キアラも心の底から気まずくなる。
「あ、あの。……私が足手まといになっちゃって……ごめんなさい。ちょっと、良くなるまで休ませてもらったり……」
嘘ではない。
「キアラちゃん、もしかして怪我した? 大丈夫?」
「うん、もう大丈夫! 本当に、心配かけてごめんなさい……」
気まずさが過ぎて目を逸らすと、クロウから離れたケイがキアラにも抱きついた。
「大怪我じゃなくてよかった! 最近元気なかったし、無事帰ってくれて本当によかったよ」
びっくりしたけども、ケイから純粋に心配してくれてる様子が伝わってくる。罪悪感もあってキアラが大人しくしていると、クロウが猫の子を摘み上げるようにケイの襟元を引っ張って剥がす。そのまま当然のようにキアラの肩を抱いて寄せた。
「近いんだよ、お前は」
「は?」
昨日までとは何か雰囲気が違うクロウを見て、しばらくぽかんとしていたケイだったが、「あー、へー、そー、なるほどね」と一人で納得して、ニヤニヤしながら二人を交互に眺めて頷く。
「何かあったんだな。もしかして……いちゃいちゃしてたから遅くなりました、とか言う?」
面白がるケイに、クロウとキアラ揃って背中にぎくりと変な汗が伝った。勘の良い友人には全て見透かされているようで、二人して視線を彷徨わせてしまう。
「いや……ああ、介抱してた」
こちらもある意味嘘ではない。嘘ではないが、後ろめたさは感じる。
「なんだ……心配して損した。でもまあ、良かったな!」
大きく息を吐いて、気が抜けたようにしゃがみ込んだケイは、呆れた顔をしながらもどこか嬉しそうだ。
「よかったねキアラちゃん! 俺もみんなも、キアラちゃんの事応援してたから」
「ありがとう……って、みんな?」
「みんな健気なキアラちゃんが気になっててさあ。今日はどうだったとか、クロウの態度にやきもきするとか、正直ここんとこ一番の話題になってる」
「余計なお世話だ」
爽やかにウインクするケイにクロウが心底嫌そうに答えるが、キアラは沢山の人にクロウへの好意がバレていた事や、自分が今までどんな目で見られていたのかと考えて、恥ずかしさで身悶えている。
「とりあえずお疲れさん! 魔物退治の礼は言っとくよ。ありがとな。しばらくゆっくりしてくんだろ?」
「いや、明日帰る」
立ち上がってクロウの肩をポンと叩いたケイの手が、驚いたように止まった。毎年夏はこちらで過ごす習慣になっているので、純粋に不思議がっている。
「は? いつもゆっくり滞在してくのに?」
「ちょっと気になることがあって……また来るよ」
「ふーん……。そっか、また来いよ。キアラちゃんも」
ケイは少し残念そうな顔をしたが、また来年なとあっさり受け入れて、キアラの背中に軽くポンと触れた。明るいケイの笑顔に、キアラも釣られてニコニコしてしまう。
「うん、また来るね」
「クロウに飽きたら、いつでも嫁に来ていいからね」
「帰れ」
出立前に声かけろよ、と立ち去るケイの背中が見えなくなるまで、なんとなく二人で見送った。
「ケイさんて良い人だね」
クロウの事を大事に思ってくれてる人が友達で嬉しい。そうほっこりした気分のキアラがクロウを見上げると、半目で見返された。
「言っとくけど、キアラが飽きても離すつもりないから」
「あ、飽きるわけないよ! だからそういうとこなんだって~!」
突然、しかも自覚なく急に殺し文句を発するクロウにときめきでよろめくキアラを、よろめかせた張本人が抱き止める。
「なら良かった。今日は一緒に寝よ」
「ご、ご飯食べてからね!」
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