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4.母のぬくもり
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シリウスの作る料理は素朴で、初めて口にする味ばかりだというのに、なぜか懐かしさを感じるものばかりだ。
「それはよかった。リィラいつも無理してるだろ。せめておいしいもので疲れを癒してあげたいからな」
「無理なんかしてない。私はこの国を治める魔王だからな」
ツンと顔を背ければ、シリウスの笑う気配がした。
リィラにこんな口の利き方や接し方をする者はメランに存在しない。
側近といえど一定の距離があるのは当然のことである。
いわばシリウスの態度は無礼に当たるのだ。しかし不快感はなく、一緒に過ごす時間は不思議なほど心地がよい。
むしろ会うたびに惹かれていく自覚があった。そもそもはじめに好意をぶつけてきたのはシリウスだ。
なのに色恋を感じさせない彼の態度は正直、不満でもある。
ムッとくちびるを尖らせるリィラを微笑ましく眺め、シリウスは隣へと移動してきた。こんな気安い距離もいつの間にか日常になっている。初日に感じた恐怖が嘘のようで、リィラはさりげなく、逞しい肩にもたれてみた。
こうすると彼の高い体温が伝わって、不思議と安心できるのだ。
「俺の前では無理しなくていいんだ。俺はリィラの部下ではないからな、格好つける必要なんかない」
「格好つけてなんか……」
反論しようとしたリィラの肩が片腕で引き寄せられる。そうして彼の手は、ぽんと軽く髪を撫でた。
シリウスの手は不思議だ。触れられるとなぜか素直な気持ちになってしまう。
無言で優しく髪を撫でられているだけなのに、いつの間にか頬が濡れていて、それに気づいた途端ぽろぽろと止まらない涙がこぼれだした。
彼が作る、じんわりと心に沁みるような料理。リィラの些細な変化を見逃さない気配り。それに優しい声音。
シリウスを異性として好ましくは思っている。しかしそれ以上に、どうしても幼い頃に失った温かさを思い出すのだ。
「うっ……、母上ぇ!」
「は、母上?」
ひしとしがみついたリィラの発した言葉にシリウスは動揺したようだが、当のリィラはわんわんと泣きじゃくる。
「ずっと、つらかったの! 急に父上が死んでしまって、どうすればよいのかわからないの……。魔王なんて大それた地位、私には無理なのよ」
亡き父のように威厳ある姿。強い魔力。有無を言わせない統率力。
意識すればするほどプレッシャーに押しつぶされてしまいそうな毎日を過ごしてきた。
周囲に弱音なんか吐けるはずもない。なのにシリウスなら許してくれるような気がして、つい本音をぶちまけてしまった。
「リィラはよく頑張ってるよ。こんなに華奢な体でメランを治めてるんだから。ここはいい国だ」
優しく髪を撫でる手があまりにも温かく、頬を伝う雫が止まらない。ぐすぐすと泣き続けるリィラの涙は、シリウスの白いシャツの袖で拭われる。
「それはよかった。リィラいつも無理してるだろ。せめておいしいもので疲れを癒してあげたいからな」
「無理なんかしてない。私はこの国を治める魔王だからな」
ツンと顔を背ければ、シリウスの笑う気配がした。
リィラにこんな口の利き方や接し方をする者はメランに存在しない。
側近といえど一定の距離があるのは当然のことである。
いわばシリウスの態度は無礼に当たるのだ。しかし不快感はなく、一緒に過ごす時間は不思議なほど心地がよい。
むしろ会うたびに惹かれていく自覚があった。そもそもはじめに好意をぶつけてきたのはシリウスだ。
なのに色恋を感じさせない彼の態度は正直、不満でもある。
ムッとくちびるを尖らせるリィラを微笑ましく眺め、シリウスは隣へと移動してきた。こんな気安い距離もいつの間にか日常になっている。初日に感じた恐怖が嘘のようで、リィラはさりげなく、逞しい肩にもたれてみた。
こうすると彼の高い体温が伝わって、不思議と安心できるのだ。
「俺の前では無理しなくていいんだ。俺はリィラの部下ではないからな、格好つける必要なんかない」
「格好つけてなんか……」
反論しようとしたリィラの肩が片腕で引き寄せられる。そうして彼の手は、ぽんと軽く髪を撫でた。
シリウスの手は不思議だ。触れられるとなぜか素直な気持ちになってしまう。
無言で優しく髪を撫でられているだけなのに、いつの間にか頬が濡れていて、それに気づいた途端ぽろぽろと止まらない涙がこぼれだした。
彼が作る、じんわりと心に沁みるような料理。リィラの些細な変化を見逃さない気配り。それに優しい声音。
シリウスを異性として好ましくは思っている。しかしそれ以上に、どうしても幼い頃に失った温かさを思い出すのだ。
「うっ……、母上ぇ!」
「は、母上?」
ひしとしがみついたリィラの発した言葉にシリウスは動揺したようだが、当のリィラはわんわんと泣きじゃくる。
「ずっと、つらかったの! 急に父上が死んでしまって、どうすればよいのかわからないの……。魔王なんて大それた地位、私には無理なのよ」
亡き父のように威厳ある姿。強い魔力。有無を言わせない統率力。
意識すればするほどプレッシャーに押しつぶされてしまいそうな毎日を過ごしてきた。
周囲に弱音なんか吐けるはずもない。なのにシリウスなら許してくれるような気がして、つい本音をぶちまけてしまった。
「リィラはよく頑張ってるよ。こんなに華奢な体でメランを治めてるんだから。ここはいい国だ」
優しく髪を撫でる手があまりにも温かく、頬を伝う雫が止まらない。ぐすぐすと泣き続けるリィラの涙は、シリウスの白いシャツの袖で拭われる。
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