【完結】引き篭もり娘は、白銀の天使様を崇めたい

ドゴイエちまき

文字の大きさ
1 / 17

1.出会ったからには仕方ない

しおりを挟む
 少し肌寒い、清涼な森の空気に濃厚な肉の香りが漂う中。眉間に皺を寄せ、目を細めた青年シルヴィスは呆れたように、目の前の楽天的な女を眺めている。

 そんな彼の視線を物ともせず、と言うより、彼女はそもそも気付いていない。長い前髪のおかげで目元はわからないけども、嬉しそうに口元を緩めた女、その名はアシュリー。

 彼女はテーブル代わりの大きな切り株の上に、大量の焼いた肉が乗った大皿を、ドンと豪快に置いた。


「シルヴィスさん、さあ、どうぞ! こちらが昨日捌いたばかりの、新鮮な猪肉です!」

「いらん」

「どうしてですか? 遠慮しないで下さい!」

「肉は嫌いだ」

「そ、そんな……元気の源といえば肉ですよ? あ、なるほど! だからそんなに細いんですね。たくさん食べましょう! はい!」


 シルヴィスの口を目掛けて、不揃いな大きさの肉を突っ込もうとするアシュリーの手を掴んで、彼女の口へと突っ込み返してやる。

「おいひいれす」

 何の躊躇もなく小動物のように頬を膨らませ、アシュリーは無造作に突っ込まれた大ぶりな肉を、もぐもぐ嬉しそうに咀嚼そしゃくしている。
その様子に、シルヴィスはうんざりした溜め息をついた。

「私の周りには脳筋しかいないのか……」


 遡ることほんの数時間前。
 
 彼がこのボサボサ髪のアシュリーと出会ったのは、つい先程のことだった。


◆◇

 木々が色付き、高い空に少し冷たい風が混じるようになったこの頃。

 サラサラと流れるような、銀の髪が零れるフードを目深に被り直す。緩やかな日差しに目を細めたシルヴィスは、今やってきたばかりの町を見渡した。

 特にこれといって目立つ町でもないが、それなりに人は多いようだ。

 別にあてもない旅だ。
 何とはなくぶらりと町を散策していると、傾斜がある坂道の途中から、ふわりと食欲をそそる香りが漂ってきた。
 
 そういえば、ちょうど昼時だったと思い出す。匂いに誘われるように坂を登り、食堂へ立ち寄ることにした。

 店の扉を開けると、目深に白いフードを被って顔を隠すシルヴィスに、店の者が警戒心を露わにした。仕方ないとフードを外すと、先程とはまた違う意味で、注目を集めてしまう。

 絹糸のような細く美しい銀の髪に、赤く輝くルビーのような瞳。彼の色彩はまるでこの世のものとはかけ離れていて、誰も彼も振り向かずにはいられない。

 そんな周りの状況に、瞳を不機嫌に細めたシルヴィスは案内された席に着く。
 メニューに書かれている野菜のスープと、シンプルなプレーンオムレツを注文した。

 頬杖をついて食事が運ばれるのを待っていると、チラチラと彼を盗み見る店員や、女性客の好奇の視線を感じる。
 目立つことに価値を見出せない彼は、鬱陶しさのあまり、つい舌打ちをしてしまう。


 ――だからこの顔は嫌いなんだ。


 ただでさえ目立つ銀髪と瞳の色に加え、二重ふたえのぱっちりした瞳にすっと通った鼻梁。どこか儚げな輪郭に、すらりと細い体は男らしさにはいまいち欠けるが、中性的な魅力がある。

 その珍しい色も相まって、思わず誰もが振り返ってしまう容姿を彼はとても気に入らない。本来なら親しみあるだろう、その丸い瞳の形はいつも細められていて、端的に言うと目付きが悪い。

 しばらく待ちぼうけていると、店に入った時とは打って変わって、愛想の良くなった店員が、少し大きく刻んだ野菜のスープと、ふわふわのオムレツを運んできた。
 一口食べるとそれなりに味は良く、彼は周囲の視線を意識から切り離して、食事に集中することにした。

(まぁまぁだな)

 自らが作るスープに自信のある彼は、正直どこの店より自作の味が好きだが、旅路で自炊するほどマメではない。
 最後に作ったのはもう二年も前になる。


 ――せっかく覚えた料理だが、もう作れないかもしれないな


 そんなことを思いながら、会話する相手もいないので早々と食べ終わり、颯爽と店の外に出る。

 昼時のためか、あまり人通りは多くない。それでも幾人かの好奇の視線を遮る為に、フードを被り直そうとすると、坂の上からけたたましい足音が聞こえてきた。


「きゃあっ! よ、避けてくださぁーい!!」


 若い女の声が後ろから聞こえ、周りを歩いていた幾人かの人々と同時に振り向いたけれども、時すでに遅し。

 坂道を駆け降りてきた人物は、シルヴィスを巻き込んで、まるで飛び込むように派手にすっ転げた。


「いっ……なんだお前は……」

「ご、ごめんなさい、あの、久しぶりの町で焦ってしまって……勢いがつき過ぎちゃって。ほ、本当に申し訳ありません……」


 とっさに身を捻り、頭を強打することを免れたシルヴィスは、痛む体を持ち上げようとする。けれども上に乗っかっかたまま、ひた謝る女のおかげで立ち上がる事ができない。
 

「邪魔だ。退け」

「あ、ごめんなさ……」

 半身を起こしたシルヴィスの上に、覆い被さるようにしていた女が顔を上げると、両者は同時に息を飲んだ。
しおりを挟む
感想 3

あなたにおすすめの小説

転移先で日本語を読めるというだけで最強の男に囚われました

桜あずみ
恋愛
異世界に転移して2年。 言葉も話せなかったこの国で、必死に努力して、やっとこの世界に馴染んできた。 しかし、ただ一つ、抜けなかった癖がある。 ──ふとした瞬間に、日本語でメモを取ってしまうこと。 その一行が、彼の目に留まった。 「この文字を書いたのは、あなたですか?」 美しく、完璧で、どこか現実離れした男。 日本語という未知の文字に強い関心を示した彼は、やがて、少しずつ距離を詰めてくる。 最初はただの好奇心だと思っていた。 けれど、気づけば私は彼の手の中にいた。 彼の正体も、本当の目的も知らないまま。すべてを知ったときには、もう逃げられなかった。 毎日19時に更新予定です。

魔法師団長の家政婦辞めたら溺愛されました

iru
恋愛
小説家になろうですでに完結済みの作品です。よければお気に入りブックマークなどお願いします。 両親と旅をしている途中、魔物に襲われているところを、魔法師団に助けられたティナ。 両親は亡くなってしまったが、両親が命をかけて守ってくれた自分の命を無駄にせず強く生きていこうと決めた。 しかし、肉親も家もないティナが途方に暮れていると、魔物から助けてくれ、怪我の入院まで面倒を見てくれた魔法師団の団長レオニスから彼の家政婦として住み込みで働かないと誘われた。 魔物から助けられた時から、ひどく憧れていたレオニスの誘いを、ティナはありがたく受ける事にした。 自分はただの家政婦だと強く言い聞かせて、日に日に膨らむ恋心を抑え込むティナだった。 一方、レオニスもティナにどんどん惹かれていっていた。 初めはなくなった妹のようで放っては置けないと家政婦として雇ったが、その健気な様子に強く惹かれていった。 恋人になりたいが、年上で雇い主。 もしティナも同じ気持ちでないなら仕事まで奪ってしまうのではないか。 そんな思いで一歩踏み出せないレオニスだった。 そんな中ある噂から、ティナはレオニスの家政婦を辞めて家を出る決意をする。 レオニスは思いを伝えてティナを引き止めることができるのか? 両片思いのすれ違いのお話です。

幼い頃に、大きくなったら結婚しようと約束した人は、英雄になりました。きっと彼はもう、わたしとの約束なんて覚えていない

ラム猫
恋愛
 幼い頃に、セレフィアはシルヴァードと出会った。お互いがまだ世間を知らない中、二人は王城のパーティーで時折顔を合わせ、交流を深める。そしてある日、シルヴァードから「大きくなったら結婚しよう」と言われ、セレフィアはそれを喜んで受け入れた。  その後、十年以上彼と再会することはなかった。  三年間続いていた戦争が終わり、シルヴァードが王国を勝利に導いた英雄として帰ってきた。彼の隣には、聖女の姿が。彼は自分との約束をとっくに忘れているだろうと、セレフィアはその場を離れた。  しかし治療師として働いているセレフィアは、彼の後遺症治療のために彼と対面することになる。余計なことは言わず、ただ彼の治療をすることだけを考えていた。が、やけに彼との距離が近い。  それどころか、シルヴァードはセレフィアに甘く迫ってくる。これは治療者に対する依存に違いないのだが……。 「シルフィード様。全てをおひとりで抱え込もうとなさらないでください。わたしが、傍にいます」 「お願い、セレフィア。……君が傍にいてくれたら、僕はまともでいられる」 ※糖度高め、勘違いが激しめ、主人公は鈍感です。ヒーローがとにかく拗れています。苦手な方はご注意ください。 ※『小説家になろう』様『カクヨム』様にも投稿しています。

【R18】純粋無垢なプリンセスは、婚礼した冷徹と噂される美麗国王に三日三晩の初夜で蕩かされるほど溺愛される

奏音 美都
恋愛
数々の困難を乗り越えて、ようやく誓約の儀を交わしたグレートブルタン国のプリンセスであるルチアとシュタート王国、国王のクロード。 けれど、それぞれの執務に追われ、誓約の儀から二ヶ月経っても夫婦の時間を過ごせずにいた。 そんなある日、ルチアの元にクロードから別邸への招待状が届けられる。そこで三日三晩の甘い蕩かされるような初夜を過ごしながら、クロードの過去を知ることになる。 2人の出会いを描いた作品はこちら 「純粋無垢なプリンセスを野盗から助け出したのは、冷徹と噂される美麗国王でした」https://www.alphapolis.co.jp/novel/702276663/443443630 2人の誓約の儀を描いた作品はこちら 「純粋無垢なプリンセスは、冷徹と噂される美麗国王と誓約の儀を結ぶ」 https://www.alphapolis.co.jp/novel/702276663/183445041

私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。

MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。

図書館でうたた寝してたらいつの間にか王子と結婚することになりました

鳥花風星
恋愛
限られた人間しか入ることのできない王立図書館中枢部で司書として働く公爵令嬢ベル・シュパルツがお気に入りの場所で昼寝をしていると、目の前に見知らぬ男性がいた。 素性のわからないその男性は、たびたびベルの元を訪れてベルとたわいもない話をしていく。本を貸したりお茶を飲んだり、ありきたりな日々を何度か共に過ごしていたとある日、その男性から期間限定の婚約者になってほしいと懇願される。 とりあえず婚約を受けてはみたものの、その相手は実はこの国の第二王子、アーロンだった。 「俺は欲しいと思ったら何としてでも絶対に手に入れる人間なんだ」

【完結・おまけ追加】期間限定の妻は夫にとろっとろに蕩けさせられて大変困惑しております

紬あおい
恋愛
病弱な妹リリスの代わりに嫁いだミルゼは、夫のラディアスと期間限定の夫婦となる。 二年後にはリリスと交代しなければならない。 そんなミルゼを閨で蕩かすラディアス。 普段も優しい良き夫に困惑を隠せないミルゼだった…

記憶喪失の私はギルマス(強面)に拾われました【バレンタインSS投下】

かのこkanoko
恋愛
記憶喪失の私が強面のギルドマスターに拾われました。 名前も年齢も住んでた町も覚えてません。 ただ、ギルマスは何だか私のストライクゾーンな気がするんですが。 プロット無しで始める異世界ゆるゆるラブコメになる予定の話です。 小説家になろう様にも公開してます。

処理中です...