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2.天使と妖怪
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シルヴィスに覆い被さる彼女は周りの状況も忘れて、その容姿を食い入るように見つめている。
日差しに反射してキラキラ光る白銀の髪に、紅い宝石のように煌めく瞳。
白い肌に、白い服を纏う彼は、今まで目にしたことがないほど浮世離れした容姿をしている。
その麗しい姿にまるで時が止まったかのように、見惚れてしまった。
全身が白く美しい、このお方はまさか……
一方、シルヴィスも彼女の容姿に戸惑いを覚えている。
長いボサボサの金髪から、僅かに覗く片方の瞳。着ている衣服も、所々に継がある。おそらく年頃の娘だろうに、あまりにも身なりに無頓着過ぎる。
しかも醸し出している雰囲気はなんだか暗く、オドオドと挙動不審な動き。
これはまるで……
「天使様……?」
「妖怪のようだな……」
ついお互いが感想を述べてしまうと、また両者ともほぼ同時に眉を顰めた。
「天使だと?」
「妖怪ですか……そんな風に見えるんですね私……納得しました……」
先程より更にどんよりとした女、アシュリーが何かぶつぶつと呟いているが、その容姿も相待って、まるで呪詛のように思えてくる。
その禍々しく感じる呟きのせいか、道ゆく人々は転んだ二人を避けて通っていく。
「重い。とりあえず、早く退け」
「あ……ごめんなさいっ!」
二度目にしてやっと身を起こしたアシュリーは慌てて、ザカザカと這うようにして離れる。その動きもやたらと奇怪で、シルヴィスは思わず後ずさってしまった。
それでも気を取り直したシルヴィスはとりあえず起き上がり、微かな痛みに眉をしかめた。
痛む箇所を見ると、所々に細かな砂利のついた傷が出来ていて、赤い血がじわりと滲んでいる。舌打ちしてから自らの傷に手を当てると、淡い光が発生して、みるみるうちに傷が癒えていった。
その様子を呆然と見ていたアシュリーは感激したかのように口元を押さえ、再び「天使様」と呟いている。
そんな彼女を一瞥して砂を払い、何事もなかったかのようにシルヴィスが踵を返すと、後ろから小さな呻き声が聞こえた。
ついなんとなく気になって振り返ると、立ちあがろうとしたアシュリーがバランスを崩し、再び地面に腰をつけていた。
「いったぁ……」
さする右足首にシルヴィスが視線を移すと、細い足首は僅かに腫れているようだ。
数秒考えるように見つめた彼はまた舌打ちをして、アシュリーの側にしゃがみ込む。そうして断りもせずに、乙女の足首に白い手を添えた。
いきなり初対面の男に足を触られ、体を強張らせる彼女に無言のまま、シルヴィスはその手に魔力を込めた。
魔法を見るのが初めてのアシュリーは、彼の手から発せられる少し暖かで淡い光に息を飲む。何もないところから生まれる白い光は、とても美しく、その奇跡のような光景に、ただ単純に感動している。
ほんの数分で、赤く腫れていた足首がいつもの色に戻り、アシュリーは試しにぷらぷらと右足を振って、痛みの有無を確認したようだ。
数秒呆けてから体を震わせて、祈るように手を組んで顔を上げるが、相変わらず前髪で顔の半分は隠れてしまっている。
「すごい……ありがとうございます。あなたは魔力があるんですね。やはり天使様なのでは……?」
「誰が天使だ。めでたい頭だな」
ついでに手足にある派手な擦り傷も癒やしてやると、アシュリーは驚きのあまり、呆然と魔力の光に顔を向けて、声さえ出ないようだった。
一通り癒し終わったシルヴィスは立ち上がり、また何事もなかったかのように去ろうとするが、引き止めるように白いマントを掴まれた。
しゃがみこんだままの手に引っ張られたせいで、バランスを崩しそうになる。苛々とした表情のシルヴィスが振り返るが、固まったアシュリーは離さない。
「おい、何をしている。離せ」
「あ、つい! ごめんなさい……。あの、ありがとうございました」
「さっきも聞いた。勝手にやっただけだ。気にしなくていい」
「はい……。でも、あの、ありがとうございます。こんなに美しい方に、これほど良くしてもらって……私はもう死ぬかもしれません」
「それほどの事はしていないが……見た目だけじゃなく、中身もおかしな女だな」
酷い言いようだが、その口の悪さとは反して、呆れたように笑った顔は予想以上に幼くて、不意にアシュリーの胸はときめいてしまう。
人と接する機会が少ない彼女は美形にも、気まぐれとはいえ、人に優しくされることにも、まるで免疫がない。
「あっ、あのっ、私、あのっ! 失礼します!」
急に姿勢を正し、そう言って再び坂を猛スピードで駆け降りようとする姿に、シルヴィスがギョッと目を開く。あの様子では、きっとまた二の舞になる。
「あ! おい!」
予想通り、まだ見える距離で再度悲鳴を上げてすっころんだ姿に、彼はため息をつく。
見てしまったからには仕方ないと、再びアシュリーの元へゆっくり歩み寄ったシルヴィスが、無様に呻く様子を覗き込むと、今度は顔と手足に傷をこさえていた。
皆、猛スピードで走るアシュリーをうまく避けたらしく、巻き込んだ人間がいなかったのが幸いだった。しかし、さっきはシルヴィスがクッションとなった為かすり傷で済んだようだが、今回は結構な傷から血が流れている。
「馬鹿か……さっき転んだところだろうに。学習しろ、単細胞」
ぶつぶつと呆れながらも再度癒しを施すシルヴィスに、感激のあまりアシュリーは涙ぐんで、また祈るように手を組んでいる。
舗装されているとはいえ、砂利の道に座り込んでいるという現実を、きっと彼女は忘れている。
「天使様……! 二度もありがとうございます! あのっ……なにかお礼をしたいのですが、何もなく……よければご馳走しますので、うちに来ませんか? 大したことも出来ませんし、何もないところなんですけど!」
「いらん」
即答したシルヴィスにアシュリーはこの世の終わりのような顔で項垂れる。そのあまりにも悲壮な姿に、まるで自分が悪いような気がして、シルヴィスは不本意ながらも気まずさを感じてしまった。
「そうですか……そうですよね……少し優しくしていただいたからって、調子に乗ってすみませんでした……この御恩は一生忘れません。末代まで……いえ、私が結婚なんておこがましいです。私が末代です……本当にすみませんでした。うぅっ、さようなら天使様!」
そう涙ながらに言ったアシュリーは、勢いよく立ち上がる。スカートの砂も払わずまた駆け出そうとすると、強い力で引き止められた。
驚いたアシュリーが掴まれた腕を見ると、細くはあるが、やや骨張った男の手がある。
そこから視線を上にすると、シルヴィスが眉を顰めて彼女を見ていた。
「馬鹿女。何度同じことをやれば覚えるんだ……」
「あ、ごめんなさい、えっと、走るのは癖なんです。でも大丈夫です! よく転けますけど死んだことはないので! ちゃんと家まで着く自信はあります」
「本当におかしな女だな……家はどこだ?」
「え? お礼させてくれるんですか?」
「そんなものはいらん。また転けるのは目に見えているからな、ついていくだけだ。絶対に走るなよ」
別に何か意図があったわけではない。
世界が見たくなって始めただけの、どうせあてのない旅だ。何も急ぐこともない。
ただなんとなく、気まぐれで親切心を出しただけだった。
まさかこの出会いがこの後の運命を変えることになるなんて。シルヴィスはこの時、思いもしなかった。
「ひっ……天使様が送迎だなんて、そ、そんなこと出来ません!」
「だから天使じゃないと言っている」
まるでシルヴィスが眩しく見えるかのように、アシュリーは腕で目を覆って、顔を背けた。馬鹿にしてるとも取れる行動だが、アシュリーは至って本気である。
そんな彼女にドン引きながらも、シルヴィスがしっかりと手を取って握ると、大袈裟なくらいアシュリーの体が強張った。
「ななななんですか?! わか、わかりました! 美人局ですね?!」
「何を言っている? 同じ場所へいく時は、こうやって手を引くものじゃないのか?」
大真面目に聞くシルヴィスは、やっぱり浮世離れしてる人なのかも知れないと、アシュリーの興味はますます膨れ上がる。
――本当に、このお方は同じ「ヒト科」ではない気がする。すなわち天使、もしくは妖精に違いない。
思い込みの激しいアシュリーはそう結論付けて、一人で納得した。
「そんなの、家族か……こ、恋人じゃないとしません」
「家族……ああ、そうか。だからあいつはこうしてたのか」
「あいつ?」
「私にとっての、家族ってやつだ」
「仲の良いご家族なんですね」
「それは、どうだかわからないが。妹、がいる」
妹と口にした途端に表情が和らいで、少し嬉しそうな顔をしたシルヴィスに、アシュリーは思わず目を瞬いた。
出会ってまだ数分の仲だけど、どこかトゲトゲしたシルヴィスの雰囲気がとても柔らかく感じたからだ。
「妹さんのこと、大好きなんですね」
「……は?」
「あ、なんだか嬉しそうな顔をされたので……」
「嫌いではないな。あいつは馬鹿で変な奴だったけど、スープも美味かった」
過去形で話すことに少し違和感を覚えたけども、人はなにかしら事情があるものだ。
それに初対面の自分が踏み込んではいけないことだろうと、アシュリーは何も言わず、掴まれた手をそっと離す。
――家族でも恋人でもない自分が、この美しい人と手を繋いで良いわけがない。
どこか複雑な気持ちで、さり気なく距離を置いたアシュリーにシルヴィスは少し首を傾げるが、それほど気には留めなかった。
「家はどこだ?」
「あの、町の外れなので少し歩きますが……」
「構わない。いいか、走るなよ。次はもう癒してやらないからな」
「はい! 了解です!」
今度はゆっくりと足を出したアシュリーは、急な坂道を一歩ずつ下って、シルヴィスを家まで案内する。
隣を歩くシルヴィスはやっぱり、彼女が今まで到底見たことないくらいに美しく、それだけでそわそわと緊張して仕方ない。
気を抜けば走り出してしまいそうになる足を必死に抑えたおかげで、なんだか変な歩き方になってしまい、そんなアシュリーにシルヴィスは再び、妖怪の面影を見たのだった。
日差しに反射してキラキラ光る白銀の髪に、紅い宝石のように煌めく瞳。
白い肌に、白い服を纏う彼は、今まで目にしたことがないほど浮世離れした容姿をしている。
その麗しい姿にまるで時が止まったかのように、見惚れてしまった。
全身が白く美しい、このお方はまさか……
一方、シルヴィスも彼女の容姿に戸惑いを覚えている。
長いボサボサの金髪から、僅かに覗く片方の瞳。着ている衣服も、所々に継がある。おそらく年頃の娘だろうに、あまりにも身なりに無頓着過ぎる。
しかも醸し出している雰囲気はなんだか暗く、オドオドと挙動不審な動き。
これはまるで……
「天使様……?」
「妖怪のようだな……」
ついお互いが感想を述べてしまうと、また両者ともほぼ同時に眉を顰めた。
「天使だと?」
「妖怪ですか……そんな風に見えるんですね私……納得しました……」
先程より更にどんよりとした女、アシュリーが何かぶつぶつと呟いているが、その容姿も相待って、まるで呪詛のように思えてくる。
その禍々しく感じる呟きのせいか、道ゆく人々は転んだ二人を避けて通っていく。
「重い。とりあえず、早く退け」
「あ……ごめんなさいっ!」
二度目にしてやっと身を起こしたアシュリーは慌てて、ザカザカと這うようにして離れる。その動きもやたらと奇怪で、シルヴィスは思わず後ずさってしまった。
それでも気を取り直したシルヴィスはとりあえず起き上がり、微かな痛みに眉をしかめた。
痛む箇所を見ると、所々に細かな砂利のついた傷が出来ていて、赤い血がじわりと滲んでいる。舌打ちしてから自らの傷に手を当てると、淡い光が発生して、みるみるうちに傷が癒えていった。
その様子を呆然と見ていたアシュリーは感激したかのように口元を押さえ、再び「天使様」と呟いている。
そんな彼女を一瞥して砂を払い、何事もなかったかのようにシルヴィスが踵を返すと、後ろから小さな呻き声が聞こえた。
ついなんとなく気になって振り返ると、立ちあがろうとしたアシュリーがバランスを崩し、再び地面に腰をつけていた。
「いったぁ……」
さする右足首にシルヴィスが視線を移すと、細い足首は僅かに腫れているようだ。
数秒考えるように見つめた彼はまた舌打ちをして、アシュリーの側にしゃがみ込む。そうして断りもせずに、乙女の足首に白い手を添えた。
いきなり初対面の男に足を触られ、体を強張らせる彼女に無言のまま、シルヴィスはその手に魔力を込めた。
魔法を見るのが初めてのアシュリーは、彼の手から発せられる少し暖かで淡い光に息を飲む。何もないところから生まれる白い光は、とても美しく、その奇跡のような光景に、ただ単純に感動している。
ほんの数分で、赤く腫れていた足首がいつもの色に戻り、アシュリーは試しにぷらぷらと右足を振って、痛みの有無を確認したようだ。
数秒呆けてから体を震わせて、祈るように手を組んで顔を上げるが、相変わらず前髪で顔の半分は隠れてしまっている。
「すごい……ありがとうございます。あなたは魔力があるんですね。やはり天使様なのでは……?」
「誰が天使だ。めでたい頭だな」
ついでに手足にある派手な擦り傷も癒やしてやると、アシュリーは驚きのあまり、呆然と魔力の光に顔を向けて、声さえ出ないようだった。
一通り癒し終わったシルヴィスは立ち上がり、また何事もなかったかのように去ろうとするが、引き止めるように白いマントを掴まれた。
しゃがみこんだままの手に引っ張られたせいで、バランスを崩しそうになる。苛々とした表情のシルヴィスが振り返るが、固まったアシュリーは離さない。
「おい、何をしている。離せ」
「あ、つい! ごめんなさい……。あの、ありがとうございました」
「さっきも聞いた。勝手にやっただけだ。気にしなくていい」
「はい……。でも、あの、ありがとうございます。こんなに美しい方に、これほど良くしてもらって……私はもう死ぬかもしれません」
「それほどの事はしていないが……見た目だけじゃなく、中身もおかしな女だな」
酷い言いようだが、その口の悪さとは反して、呆れたように笑った顔は予想以上に幼くて、不意にアシュリーの胸はときめいてしまう。
人と接する機会が少ない彼女は美形にも、気まぐれとはいえ、人に優しくされることにも、まるで免疫がない。
「あっ、あのっ、私、あのっ! 失礼します!」
急に姿勢を正し、そう言って再び坂を猛スピードで駆け降りようとする姿に、シルヴィスがギョッと目を開く。あの様子では、きっとまた二の舞になる。
「あ! おい!」
予想通り、まだ見える距離で再度悲鳴を上げてすっころんだ姿に、彼はため息をつく。
見てしまったからには仕方ないと、再びアシュリーの元へゆっくり歩み寄ったシルヴィスが、無様に呻く様子を覗き込むと、今度は顔と手足に傷をこさえていた。
皆、猛スピードで走るアシュリーをうまく避けたらしく、巻き込んだ人間がいなかったのが幸いだった。しかし、さっきはシルヴィスがクッションとなった為かすり傷で済んだようだが、今回は結構な傷から血が流れている。
「馬鹿か……さっき転んだところだろうに。学習しろ、単細胞」
ぶつぶつと呆れながらも再度癒しを施すシルヴィスに、感激のあまりアシュリーは涙ぐんで、また祈るように手を組んでいる。
舗装されているとはいえ、砂利の道に座り込んでいるという現実を、きっと彼女は忘れている。
「天使様……! 二度もありがとうございます! あのっ……なにかお礼をしたいのですが、何もなく……よければご馳走しますので、うちに来ませんか? 大したことも出来ませんし、何もないところなんですけど!」
「いらん」
即答したシルヴィスにアシュリーはこの世の終わりのような顔で項垂れる。そのあまりにも悲壮な姿に、まるで自分が悪いような気がして、シルヴィスは不本意ながらも気まずさを感じてしまった。
「そうですか……そうですよね……少し優しくしていただいたからって、調子に乗ってすみませんでした……この御恩は一生忘れません。末代まで……いえ、私が結婚なんておこがましいです。私が末代です……本当にすみませんでした。うぅっ、さようなら天使様!」
そう涙ながらに言ったアシュリーは、勢いよく立ち上がる。スカートの砂も払わずまた駆け出そうとすると、強い力で引き止められた。
驚いたアシュリーが掴まれた腕を見ると、細くはあるが、やや骨張った男の手がある。
そこから視線を上にすると、シルヴィスが眉を顰めて彼女を見ていた。
「馬鹿女。何度同じことをやれば覚えるんだ……」
「あ、ごめんなさい、えっと、走るのは癖なんです。でも大丈夫です! よく転けますけど死んだことはないので! ちゃんと家まで着く自信はあります」
「本当におかしな女だな……家はどこだ?」
「え? お礼させてくれるんですか?」
「そんなものはいらん。また転けるのは目に見えているからな、ついていくだけだ。絶対に走るなよ」
別に何か意図があったわけではない。
世界が見たくなって始めただけの、どうせあてのない旅だ。何も急ぐこともない。
ただなんとなく、気まぐれで親切心を出しただけだった。
まさかこの出会いがこの後の運命を変えることになるなんて。シルヴィスはこの時、思いもしなかった。
「ひっ……天使様が送迎だなんて、そ、そんなこと出来ません!」
「だから天使じゃないと言っている」
まるでシルヴィスが眩しく見えるかのように、アシュリーは腕で目を覆って、顔を背けた。馬鹿にしてるとも取れる行動だが、アシュリーは至って本気である。
そんな彼女にドン引きながらも、シルヴィスがしっかりと手を取って握ると、大袈裟なくらいアシュリーの体が強張った。
「ななななんですか?! わか、わかりました! 美人局ですね?!」
「何を言っている? 同じ場所へいく時は、こうやって手を引くものじゃないのか?」
大真面目に聞くシルヴィスは、やっぱり浮世離れしてる人なのかも知れないと、アシュリーの興味はますます膨れ上がる。
――本当に、このお方は同じ「ヒト科」ではない気がする。すなわち天使、もしくは妖精に違いない。
思い込みの激しいアシュリーはそう結論付けて、一人で納得した。
「そんなの、家族か……こ、恋人じゃないとしません」
「家族……ああ、そうか。だからあいつはこうしてたのか」
「あいつ?」
「私にとっての、家族ってやつだ」
「仲の良いご家族なんですね」
「それは、どうだかわからないが。妹、がいる」
妹と口にした途端に表情が和らいで、少し嬉しそうな顔をしたシルヴィスに、アシュリーは思わず目を瞬いた。
出会ってまだ数分の仲だけど、どこかトゲトゲしたシルヴィスの雰囲気がとても柔らかく感じたからだ。
「妹さんのこと、大好きなんですね」
「……は?」
「あ、なんだか嬉しそうな顔をされたので……」
「嫌いではないな。あいつは馬鹿で変な奴だったけど、スープも美味かった」
過去形で話すことに少し違和感を覚えたけども、人はなにかしら事情があるものだ。
それに初対面の自分が踏み込んではいけないことだろうと、アシュリーは何も言わず、掴まれた手をそっと離す。
――家族でも恋人でもない自分が、この美しい人と手を繋いで良いわけがない。
どこか複雑な気持ちで、さり気なく距離を置いたアシュリーにシルヴィスは少し首を傾げるが、それほど気には留めなかった。
「家はどこだ?」
「あの、町の外れなので少し歩きますが……」
「構わない。いいか、走るなよ。次はもう癒してやらないからな」
「はい! 了解です!」
今度はゆっくりと足を出したアシュリーは、急な坂道を一歩ずつ下って、シルヴィスを家まで案内する。
隣を歩くシルヴィスはやっぱり、彼女が今まで到底見たことないくらいに美しく、それだけでそわそわと緊張して仕方ない。
気を抜けば走り出してしまいそうになる足を必死に抑えたおかげで、なんだか変な歩き方になってしまい、そんなアシュリーにシルヴィスは再び、妖怪の面影を見たのだった。
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