【完結】引き篭もり娘は、白銀の天使様を崇めたい

ドゴイエちまき

文字の大きさ
16 / 17

番外編 引き篭もらない私と白銀の天使様②

しおりを挟む
 キアラの提案に喜んだアシュリーは、早速シルヴィスを急かすようにして宿に向かう。旅に出て、はじめは見学するだけだった宿泊手続きにもすっかり慣れた。お勧めの位置にある部屋はシングルだったので、あまり変わらないと言う宿主の言葉を信じて隣のツインを選択する。

 一旦荷物を置くために、この宿に慣れたキアラに案内されて二階にある部屋へ向かう。期待に胸を膨らませてドアを開けると、明るい色の木材で統一した質の良い家具と、白いふかふかのラグが目に入った。
 壁に飾られた馴染みのない花も、美しく目を引く。それほど広い部屋ではないが、正面に大きな窓がある。遮るものもないので、レースのカーテンを引くと、開けた景色と広い空が見渡せた。

「実はね、ここに引っ越す前に、隣の部屋からクロウと花火を見たの。すっごく綺麗だったよ。またお祭りの時に来てほしいな」
「花火ですか。良いですね! 是非見たいです」
「いっそここに住んじゃえばいいのに」

 それは、すごく良いかもしれない。キアラはアシュリーの数少ない友人で、この町は景色もよく、何より食が素晴らしい。今現在、旅暮らしの身としては、とても魅力的なお誘いだ。

「それは素敵な提案です!」
「……考えておく」

 アシュリーとは反比例してあまり乗り気ではない顔のシルヴィスに、なんとなく心当たりを感じたらしいキアラは苦く笑った。

「本当に仲悪いよね。とってもよく似てるのに」
「顔は多少似ているかもしれないが、それ以外は似ていない」
「クロウも同じこと言うんだよ」

 似てるよね? とアシュリーに同意を求めるが、クロウの人となりを知らない身なので、こちらも首を傾げるしかない。

「きっとアシュリーちゃんも見てたらわかるよ」

 ふふっと笑ったキアラをシルヴィスは理解できない目で見ているが、そういえば以前のクロウの態度を思い返すと、確かに同じ反応を返しそうだ。それだけはアシュリーにも、なんとなく想像することが出来た。


「さてと、そろそろクロウも終わる頃かな。とりあえずうちに来ない? せめてご飯だけでも一緒に食べよ?」
「いいんですか?」

 ただでさえ、ご飯という単語に弱いアシュリーはキアラの提案に素早く反応した。「友人」と「ご飯」。もうこの二点で心は浮き足立ってしまう。

「もちろんだよ~! クロウの料理は世界一だから楽しみにしててね!」
「クロウさんが作るんですか?」
「えへ、私も作るんだけど……クロウの方が上手なんだよね」

 あの、キアラ以外に興味がないといった顔の青年がキッチンに立っているところはイマイチ想像できないが、隣でシルヴィスも頷いている。

「料理はあいつの唯一の長所だな」

 シルヴィスの顔が心なしか少し嬉しそうに見えるので、アシュリーはぱちくりと眺めてしまった。まさかクロウは剣士ではなく一流の料理人なのだろうか。腰に携帯している剣は包丁かもしれないと、そんな事を想像してしまう。


 アシュリーが馬鹿な想像に耽っている間にシルヴィスが荷物を置き、ひとまず宿を出ることになった。広場を抜けて、さっきクロウがいた場所に行くと、稽古を終えた子供たちと共に石段に座るクロウがいた。キアラが手を挙げて名を呼ぶと、無表情に近かったクロウが軽く微笑む。その無からの切り替えは、何度見ても思わず感心してしまうほどだ。

 今度はキアラに集合した子供たちに、クロウが家に帰るよう促している。「また今度ね」と言うキアラの言葉に賑やかな子供たちは少し不満を表したが、それでも素直に散らばっていった。キアラの隣で見えなくなるまで小さな影を見送るクロウは、やはり面倒見が良いのだろう。

「お待たせ! 行こう!」

 子どもたちを見送り、アシュリーの腕に絡んだキアラが嬉しそうに歩き出す。女子二人は久しぶりの再会を喜び、にこやかに話しながら道を行くが、相変わらずシルヴィスとクロウは互いの距離を置いて一言も交わさず、大人しく後ろをついてくる。

 喧嘩を始める気配もないので特に気にせず歩いていると、途中で食材を買ってくるとクロウは一人で商店の通りへと向かった。少し着いて行きたそうなキアラだったが、案内を放棄するわけにもいかず「また後で」と手を振り、三人で家を目指すことになった。


 辿り着くまでは少し遠かったが、話しながらやってきたので体感時間はあっという間だった。
 家は漆喰の白い壁に青い木製のドアが映える、この街特有の建築になっている。

 木製の家で長い間すごしたアシュリーには、とても珍しく目に映り、その可愛らしい外観に胸をときめかせる。しかも高台にあるおかげで美しく輝く海が見渡せて、その景色を眺めるだけで一日過ごせそうだ。

「素敵なおうちですね!」
「ありがとう~。私も大好きなの」


 ミャーオと低く海鳥が鳴き、潮風が吹き抜ける。その珍しい光景に、そろそろ中に入ろうかとキアラが提案するまで、エメラルドがかった海を一通り高い位置から満喫した。旅慣れたシルヴィスには特に珍しくはない景色だったが、海の美しい色に感激するアシュリーに文句を言わず付き合ってくれた。

 玄関を入るとすぐにリビングがあり、そう広くはないが落ち着く雰囲気の部屋へ通される。隣接したダイニングにはキッチンが併設されている。外観同様に白を基調としたシンプルな造りだが、所々にパステルカラーが散りばめられているのはキアラの趣味だろうか。

 中に踏み入れたものの、きょろきょろ落ち着きなく見渡していると、ダイニングのテーブルを勧められる。人様の家というものに馴染みがないアシュリーがいつまでも落ち着きなくソワソワしていると、キアラがこれまた馴染みのない香りのお茶を出してくれた。
 繊細な柄と鮮やかな色彩が映えるグラスは、見ているだけで心が癒される。

 注がれた青く透明な液体を見たシルヴィスとアシュリーは少し戸惑うが、「綺麗でしょう?」とキアラの微笑みに促されるように、恐る恐る口に含んだ。少し薄く、爽やかな草の香りがする茶は思っていたよりも飲みやすく、すぐにキアラがおかわりを注いでくれた。

「ここまで遠かったでしょう? 来てくれてありがとう。とっても嬉しいな」
「そうですね、結構な距離があって驚きました! でも今、私たち旅して暮らしているんです。なので色んな場所に行ってるんですよ」
「そうなの? もうここに住んじゃえばいいのに! クロウが町長さんに言ってくれればすぐに住めるよ」

 笑顔で提案するキアラに、この町に着いてはじめに思った疑問がまた浮かんでくる。

「クロウさんはこの町の有名人なんですか?」
「有名人というか……クロウはこの町の勇者様なの。みんなにとっても頼りにされてるんだよ」 

 そう答えるキアラは、自分のことのように本当に嬉しそうだ。大好きな人が認められて嬉しい気持ちは、何となくアシュリーにも理解が出来る。

「勇者様ですか……すごいですね」
「レオの跡を継いだだけだろう。特にどうってことない」
「シルヴィスさん、失礼ですよ!」

 面白くなさそうに言い切るシルヴィスは、どうしてもクロウを認めたくないらしい。頑なに嫌い合う二人は確かによく似ているかもしれないと、またもやアシュリーは頷いてしまった。

「もう! 父さんは関係ないよ。だってとっても強いんだよ。剣を持つとすっごく格好良いの! あ、いつもなんだけど!」

 生き生きと惚気だすキアラに、また始まったと辟易としているシルヴィスだが、アシュリーは嬉しそうに相槌を打っている。これが憧れた「友人との恋の話!」と少し興奮気味のアシュリーとキアラは良いコンビのようだ。

 惚気の聞き合い、言い合いから、しばらくお互いの近況を話していると、しばらくして食材を下げたクロウが帰ってきた。ちなみにその間、暇を持て余したシルヴィスは、リビングのソファでキアラの所持する本を読みながら寛いでいたのだった。
しおりを挟む
感想 3

あなたにおすすめの小説

魔法師団長の家政婦辞めたら溺愛されました

iru
恋愛
小説家になろうですでに完結済みの作品です。よければお気に入りブックマークなどお願いします。 両親と旅をしている途中、魔物に襲われているところを、魔法師団に助けられたティナ。 両親は亡くなってしまったが、両親が命をかけて守ってくれた自分の命を無駄にせず強く生きていこうと決めた。 しかし、肉親も家もないティナが途方に暮れていると、魔物から助けてくれ、怪我の入院まで面倒を見てくれた魔法師団の団長レオニスから彼の家政婦として住み込みで働かないと誘われた。 魔物から助けられた時から、ひどく憧れていたレオニスの誘いを、ティナはありがたく受ける事にした。 自分はただの家政婦だと強く言い聞かせて、日に日に膨らむ恋心を抑え込むティナだった。 一方、レオニスもティナにどんどん惹かれていっていた。 初めはなくなった妹のようで放っては置けないと家政婦として雇ったが、その健気な様子に強く惹かれていった。 恋人になりたいが、年上で雇い主。 もしティナも同じ気持ちでないなら仕事まで奪ってしまうのではないか。 そんな思いで一歩踏み出せないレオニスだった。 そんな中ある噂から、ティナはレオニスの家政婦を辞めて家を出る決意をする。 レオニスは思いを伝えてティナを引き止めることができるのか? 両片思いのすれ違いのお話です。

転移先で日本語を読めるというだけで最強の男に囚われました

桜あずみ
恋愛
異世界に転移して2年。 言葉も話せなかったこの国で、必死に努力して、やっとこの世界に馴染んできた。 しかし、ただ一つ、抜けなかった癖がある。 ──ふとした瞬間に、日本語でメモを取ってしまうこと。 その一行が、彼の目に留まった。 「この文字を書いたのは、あなたですか?」 美しく、完璧で、どこか現実離れした男。 日本語という未知の文字に強い関心を示した彼は、やがて、少しずつ距離を詰めてくる。 最初はただの好奇心だと思っていた。 けれど、気づけば私は彼の手の中にいた。 彼の正体も、本当の目的も知らないまま。すべてを知ったときには、もう逃げられなかった。 毎日19時に更新予定です。

【R18】純粋無垢なプリンセスは、婚礼した冷徹と噂される美麗国王に三日三晩の初夜で蕩かされるほど溺愛される

奏音 美都
恋愛
数々の困難を乗り越えて、ようやく誓約の儀を交わしたグレートブルタン国のプリンセスであるルチアとシュタート王国、国王のクロード。 けれど、それぞれの執務に追われ、誓約の儀から二ヶ月経っても夫婦の時間を過ごせずにいた。 そんなある日、ルチアの元にクロードから別邸への招待状が届けられる。そこで三日三晩の甘い蕩かされるような初夜を過ごしながら、クロードの過去を知ることになる。 2人の出会いを描いた作品はこちら 「純粋無垢なプリンセスを野盗から助け出したのは、冷徹と噂される美麗国王でした」https://www.alphapolis.co.jp/novel/702276663/443443630 2人の誓約の儀を描いた作品はこちら 「純粋無垢なプリンセスは、冷徹と噂される美麗国王と誓約の儀を結ぶ」 https://www.alphapolis.co.jp/novel/702276663/183445041

私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。

MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。

記憶喪失の私はギルマス(強面)に拾われました【バレンタインSS投下】

かのこkanoko
恋愛
記憶喪失の私が強面のギルドマスターに拾われました。 名前も年齢も住んでた町も覚えてません。 ただ、ギルマスは何だか私のストライクゾーンな気がするんですが。 プロット無しで始める異世界ゆるゆるラブコメになる予定の話です。 小説家になろう様にも公開してます。

「25歳OL、異世界で年上公爵の甘々保護対象に!? 〜女神ルミエール様の悪戯〜」

透子(とおるこ)
恋愛
25歳OL・佐神ミレイは、仕事も恋も完璧にこなす美人女子。しかし本当は、年上の男性に甘やかされたい願望を密かに抱いていた。 そんな彼女の前に現れたのは、気まぐれな女神ルミエール。理由も告げず、ミレイを異世界アルデリア王国の公爵家へ転移させる。そこには恐ろしく気難しいと評判の45歳独身公爵・アレクセイが待っていた。 最初は恐怖を覚えるミレイだったが、公爵の手厚い保護に触れ、次第に心を許す。やがて彼女は甘く溺愛される日々に――。 仕事も恋も頑張るOLが、異世界で年上公爵にゴロニャン♡ 甘くて胸キュンなラブストーリー、開幕! ---

【完結・おまけ追加】期間限定の妻は夫にとろっとろに蕩けさせられて大変困惑しております

紬あおい
恋愛
病弱な妹リリスの代わりに嫁いだミルゼは、夫のラディアスと期間限定の夫婦となる。 二年後にはリリスと交代しなければならない。 そんなミルゼを閨で蕩かすラディアス。 普段も優しい良き夫に困惑を隠せないミルゼだった…

幼い頃に、大きくなったら結婚しようと約束した人は、英雄になりました。きっと彼はもう、わたしとの約束なんて覚えていない

ラム猫
恋愛
 幼い頃に、セレフィアはシルヴァードと出会った。お互いがまだ世間を知らない中、二人は王城のパーティーで時折顔を合わせ、交流を深める。そしてある日、シルヴァードから「大きくなったら結婚しよう」と言われ、セレフィアはそれを喜んで受け入れた。  その後、十年以上彼と再会することはなかった。  三年間続いていた戦争が終わり、シルヴァードが王国を勝利に導いた英雄として帰ってきた。彼の隣には、聖女の姿が。彼は自分との約束をとっくに忘れているだろうと、セレフィアはその場を離れた。  しかし治療師として働いているセレフィアは、彼の後遺症治療のために彼と対面することになる。余計なことは言わず、ただ彼の治療をすることだけを考えていた。が、やけに彼との距離が近い。  それどころか、シルヴァードはセレフィアに甘く迫ってくる。これは治療者に対する依存に違いないのだが……。 「シルフィード様。全てをおひとりで抱え込もうとなさらないでください。わたしが、傍にいます」 「お願い、セレフィア。……君が傍にいてくれたら、僕はまともでいられる」 ※糖度高め、勘違いが激しめ、主人公は鈍感です。ヒーローがとにかく拗れています。苦手な方はご注意ください。 ※『小説家になろう』様『カクヨム』様にも投稿しています。

処理中です...