【完結】引き篭もり娘は、白銀の天使様を崇めたい

ドゴイエちまき

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14.青空のとなり(10.14追加)

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 少し寒さを感じつつ、眩しい朝の光で目覚めたアシュリーは、スッキリした頭で目覚めることが出来た。ただやっぱり硬い床のせいで、体が痛い。

 強ばる体をうんと伸ばしたアシュリーが起き上がると、ブランケットに丸まった銀色の頭がもぞもぞと動き出す。
 しばらく真横で半覚醒のシルヴィスを眺めていると、まだ眠そうな顔で見上げられて、今更ながら恥ずかしさが込み上げてきた。


「お、おはようございます……あの、大丈夫ですか? 起きれます?」
「ああ……」


 のそのそ起き上がったシルヴィスは強張って痛む首に手をやり、眉を顰めてコキコキと左右に倒す。彼も硬い床のダメージを受けているようだ。
 初めて見る寝起きの姿に胸がときめくけども、ぼーっとしたまま黙っているシルヴィスもやっぱり神々しく感じられる。もはや信者と化したアシュリーは思わず手を合わせて拝んでしまった。


「ああー……まるで絵画の天使様のようです……」
「……本当にアホだな」


 心底引いているような顔をしたシルヴィスを心ゆくまで眺めて、しばらくして気の済んだアシュリーは、ふと昨日の言葉を思い出す。一緒に連れて行ってくれると言ったのは、本当だろうか。


「あの、本当に私も連れて行ってくれるんですか?」
「ああ、こんなところにいても仕方ないだろう。それともここから離れたくないのか?」
「そ、そんなことはないです! その、シルヴィスさんと一緒に行けるなんて……信じられないというか……」
「正直、私も信じられない。一人で適当に生きるつもりだったんだが」 


 世界中を適当に見て回り、一人で気ままに生き、誰とも馴れ合わないつもりでいたと漏らすシルヴィスに、アシュリーが嬉しそうに笑う。さすがに世界を旅するつもりはなかったけども、彼女も一人で適当に生きるつもりだったから。


「ふふっ、私もです。あの、少しずつでいいので、シルヴィスさんのこと……沢山知りたいです」
「何が知りたいんだ?」


 何と言われると、少し考える。シルヴィスのことは知らないことばかりなので、言うならば全部知りたいともアシュリーは思う。


「そうですね……ご家族とか、趣味とか、好きなものとか……色々です」
「家族か……そういえば、キアラが海辺の町へ来いと言っていたな。目指してみるか」
「海! 素敵です! 見たことありません! キアラさん、クロウさんにも会いたいですし、是非行きましょう!」


 この町から出たことのないアシュリーは海という単語に胸が躍り、キラキラと空色の瞳が輝く様を見たシルヴィスは優しげに目を細める。その眼差しにつられて、アシュリーも、へにゃりとだらしなく笑ってしまう。
 

「ああ、そうだ。レオにも会わせてやる。腹の立つくらい元気だぞあいつは」
「そ、それは……少し、会い辛いかもしれません……」
「気にするな。あいつのことだ、拉致られた甲斐があるよ、とか言うに決まっている」
「さすが勇者様です。ポジティブな方なんですね」
「鬱陶しいくらいにな」




 シルヴィスの知るレオは、勇者と崇められるような高潔な存在ではなく、明るく見えて、何を考えているのかわからない。しかも、馬鹿力で、強引で、何でも笑顔で押し通す厄介な男だ。

「僕の遺伝子から産まれということは、息子も同然!」と、なぜかシルヴィスを本当の息子のように扱う、変わった人間でもある。きっとアシュリーのことも喜んで歓迎するだろう。


「昔は……私を作った人間を恨んだりもした。でも、今は感謝しているかもしれない。研究所にいた時は毎日が苦痛だったが、食べ物も、景色も、色んなものを知ることができた。ここに来た初日にお前から拉致の話を聞くまで、しばらく忘れていたくらいだ。今は驚くほど、平穏な日々に馴染んでいる」


 ポツリと胸にあることを口にすると、まるで研究所を飛び出すまでの生活が嘘だったかのように、遥か昔のようにも感じられる。シルヴィスはレオのコピーとして造られたが、レオの超人的な能力に妄執する研究者からは毎日のように、こんな事しか出来ないのか、レオはもっと強かった、と劣等感を植え付けられて過ごしていた。

 あの時は、自分を産み出した全ての人間に復讐し、オリジナルであるレオを葬ると意思を固めたものだった。だが、お人好しなレオの一家と出会い、そんな恨みもすぐに飛ばされてしまった事を思い出す。



 シルヴィスが僅かに苦笑すると、アシュリーが出会った日を思い出すかのように、視線を上に向けて少し考えた。

「私の事情を話した時、すごくびっくりされてましたね」
「言っておくが、研究所を飛び出した頃の私だったら、お前はきっと今生きていない」




 脅す風でもなく、冗談でもなく。無表情でただ淡々と語るシルヴィスからはより一層、嘘偽りのない真意が感じられて、アシュリーは一言も漏らさないように彼の言葉に集中する。その辛さを共有することは出来ないけども、せめて感情を受け止めたい。


 ――何か彼の気持ちを軽くするような、そんな言葉をかけたい。でも、うまく想像できないほどの壮絶な過去に、上辺だけのセリフは言いたくない。

 
 迷ったアシュリーは、言葉の代わりにシルヴィスの白い手を取る。そっと握ると、微笑みと共に強く握り返された。

「だが、お前の話を聞いても、特に憎しみも怒りも感じなかった。そんな自分にすごく驚いた。確かにレオの名が出たことにも驚いたが、それだけだ」


 心なしか少しスッキリしたような顔のシルヴィスに、アシュリーも自分が思っていることを伝えたくて、合わせた瞳を逸らさず、両手で彼の手を包むように握り直した。

 
「私は……。あの、こんな事を言うべきではないかもしれませんが、私はシルヴィスさんに会えて良かった。嬉しいです。だから、少し、父に感謝してしまいました……辛い日々だったと思いますが、ごめんなさい。よくわからないんですけど、多分、とっても好きなんです」

 その真剣な告白に驚きを露わにしたシルヴィスは、照れたように笑って、強くアシュリーを引き寄せ少し強引に口付けた。僅かに離して、薄く開いた唇を何度も合わせるだけのキスを繰り返す。
 ふとアシュリーを見ると、まるで茹で蛸のように真っ赤で、空色の瞳がまん丸に見開かれている。

 ややあって、シルヴィスはその様子に思わず肩を震わせて笑い出した。少し不本意ではあるけども、大笑いする彼を初めて見たアシュリーは、驚いた後、つられて一緒に笑ってしまう。ひとしきり笑ってから、再び床に寝転んだシルヴィスはまたアシュリーの腕を引いて、抱え込んだ。


「もう過去のことだ。きっとこれからの時間の方が長い。私も、拉致された間抜けなレオに感謝することにしよう。こうやって愛しい女に会えた事だしな」
「ひっ…!! い、いとっ! 心臓が!」
「いちいち色気のないやつだな……」


 アシュリーに艶っぽい雰囲気を求めるのはきっと無駄らしいと、そう悟ったシルヴィスはひとつ溜息をついて身を起こした。床の硬さがやっぱり気に入らない。


「床は休まらないな。昼までベッドで眠るぞ。寝室はどこだ?」
「へ?! し、寝室ぅ?! だ、ダメです!」
「残念ながらまだ疲労が抜けきらない。申し訳ないが、お前が期待するようなことはない」
「し、してません!」


 慌てる乙女に揶揄うような視線を寄越したシルヴィスは、アシュリーの手を引いて案内をさせながら寝室へ向かう。そう広くはない家なので、すぐに着いた部屋に入ると、そのまま押し倒すようにベッドへとなだれ込んだ。
 もちろん、奇声をあげるアシュリーだったが、うるさいと文句を言われるだけで、シルヴィスは解放してくれない。


「あ、あのっ! お腹も空きましたし、起きましょう?!」
「一人で食ってこい。私は寝る」
「じゃあ離してください!」
「断る」


 言ってる事とやってる事がちぐはぐなシルヴィスに困り果てたアシュリーだが、しがみつくようにも感じられる腕に、ふと可愛らしさを感じてしまった。閉じた瞼が無防備で、なんだか子どものようにも思えてくる。

「もしかして、甘えてます?」
「そうかもな」

 しれっと言うシルヴィスには照れも動揺も見当たらないけれど、なんだかムズムズと母性本能が沸き上がる。惚れた弱みで簡単に降参してしまい、そっと抱きしめ返してみた。

「もう……規則正しく生活しなきゃダメですよ」
「昼からはそうする」

 本当に起きるのかどうか疑わしいが、それほど疲労してるのなら仕方ない。この態度からしておそらく休めば良くなるのだろうと、アシュリーは空腹を抑えて昼まで付き合うことに決めた。
 起きる時刻とは別に、ひとつだけ気になることを思い出す。
 
「いつ出発するんですか?」
「いつでも。焦ることもないだろう? これからずっと、共にいるんだ」
「そう、ですね……はい、ずっと一緒です! 私は眺めていますから、ゆっくり眠って下さいね」

 つかの間の恋と思っていたのに、これから長く共に過ごせるのだ。そう考えるともう、少しの空腹など気にもならない。



 大人しくはなったけども、シルヴィスの顔をうっとり眺めるアシュリーの呼吸が少し荒い気がして、その様子に心底引いた彼は、半分に細めた目を逸らす。

「本当に変な女だな……」

 けれども変なアシュリーだからこそ何のしがらみも疑いもなく、シルヴィスを受け入れるのだろう。この先もきっと、こんなに図々しく、めげない女には、なかなかお目にかかれないに違いない。

 昔、クロウだけを求めるキアラの行動がよくわからず、問いただした折りに「好きな人が出来たらわかるよ」と言われたことを思い出す。

「そうだな……」
「どうしました?」

 ふっと漏れた笑みに首を傾げるアシュリーの髪を掬い、シルヴィスは空色の瞳を見つめる。
 明るい日差しは苦手だが、この空の色は悪くない。きっと二人ですごす日々は曇り空ではなく、穏やかな青空が似合うに違いない。

 そんなことを思いながら白い瞼を閉じて、シルヴィスは再び、心地よい微睡みに身を任せた。
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