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19.それって恋なの?
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「あれ? その人、蒼真のストー……いや、本当に付き合ってるんだ」
「んー。そういうこと」
「そっか。彼女さん、ごめん。これからゲーセン行くんだけど、蒼真連れてっていい?」
「あ、うん……」
いつもなら絶対について行きたいところだけど、今は彼の提案がありがたい。
とにかくナツと蒼真を離すべきだと本能が警告する。
蒼真が人前であれほど感情を昂らせるなんて見たことがなかったから。
頷くミルカに少年は安堵したような表情をした。
癖のない黒髪に、くっきりした二重の瞳。
軽く見える蒼真とは違い、真面目で静かな印象を受ける。
「じゃあまた。行こう蒼真」
ミルカとナツに向かいぺこりと軽く頭を下げ、少年は蒼真の返事を待たず店外へと向かう。
ミルカから腕を解いた蒼真は一度友人に視線を向けて、小さなため息をついた。
「ソウマ様……、あの……」
「あとでミルカの家行くから。また連絡する」
頬杖をつくナツはやり取りを眺めるだけだ。瞳の色もいつの間にか焦茶に戻っている。
ただ見慣れない冷ややかな目線にミルカの心は落ち着かない。
そんなナツとミルカを交互に見た蒼真はそれ以上なにも言わず、友人のあとを追いかけていった。
「ソウマ様……すっごく怒ってた……。契約解かれちゃったらどうしよう……」
あとで会えるのは嬉しいけど、まさかこの流れで機嫌良く会いに来てくれるとは思えない。
悪い想像ばかりが頭を巡り、青ざめるミルカにナツが不機嫌な声で名前を呼んだ。
「あれがいいの?」
「え、めっちゃ格好いいでしょ?! 二十四時間眺めても飽きないし、声も素敵だし♡」
「ミルカ、相当見る目ないわー。あいつヤバいよ。独占欲の塊って言うか、ガキじゃん」
「そこがいいの♡ もっと独占してほしい♡ でも……許してもらえるかな……。あれ? 許す? なんであんなに怒ってるのかわかんないし、どうしよう……。ねえ、ナツ、どうしたらいいかな」
ナツとは幼馴染であって、蒼真だってクラスの女子と気軽に話したりする。
それを目撃するたびに仄かな殺意を滾らせるのだが、そんな自身をミルカはまたもや棚上げした。
ぐるぐる変わる感情に振り回されながら幼馴染に縋りつく。
情けない顔で腕を掴んだミルカの鼻を、ナツは唐突に軽く摘んで離した。
「んぷ。なにするのよう」
「いいじゃん、さっさと契約解かれてこいよ。絶対俺のほうが優良物件だろ。寛大だし、優しいし、顔もいいのに。すっげームカつく」
苛ついた口ぶりにミルカは首を傾げる。ただ単に蒼真が気に食わないというより、それ以上の苛立ちを感じる。
もしかしてこれは嫉妬というものでは?
身に覚えのある感情をまさかナツから向けられるとは予想外にも程がある。
ミルカは思わずぽかんと口を開けた。
「……もしかしてナツって、ミルカのこと好きだったの?」
「好きだけど? ミルカ可愛いし、相性も良いし。ずっと仲良いじゃん俺ら」
「そうだけど……それって恋なのかな?」
ミルカ自身たった一人に心を奪われたなんていまだに不思議で、蒼真に会う前の自分に言っても絶対に信じないだろう。
淫魔にとって、恋など無駄な感情でしかない。同種であるナツもきっと同じだ。
それに長い間一緒にいて、彼から焦がれるような眼差しなど感じたことはない気がする。
「うーん……ミルカがナツ以外から精気をもらったらどうする?」
「別にどうもしない。だって仕方ないだろ。ただの食事だし」
「やっぱりそうだよね。ミルカもそう思ってたの。でもね、ソウマ様は他の人から精気をもらったらミルカのこと殺しちゃうって」
「は?! やっばいだろそれ……俺たちの特性からして無茶振り過ぎ」
ナツの気持ちはよくわかる。以前のミルカなら同じことを言っていた。
先程の驚愕から落ち着いたミルカは細いツインテールの先をくるくると指に巻きつけながら、視線を上に向ける。
「んーとね、契約でソウマ様と繋がってるからそんなにお腹空かないんだよね。それにソウマ様の精気を知っちゃったらもう他のなんて食べられないし♡」
蒼真から与えられる快感、触れる手、キスの感触を思い出しニヤけるミルカをナツは冷めた表情で見つめる。
面白くなさそうな顔のままココアを飲み終えた彼は再度ミルカに手を伸ばした。
「んー。そういうこと」
「そっか。彼女さん、ごめん。これからゲーセン行くんだけど、蒼真連れてっていい?」
「あ、うん……」
いつもなら絶対について行きたいところだけど、今は彼の提案がありがたい。
とにかくナツと蒼真を離すべきだと本能が警告する。
蒼真が人前であれほど感情を昂らせるなんて見たことがなかったから。
頷くミルカに少年は安堵したような表情をした。
癖のない黒髪に、くっきりした二重の瞳。
軽く見える蒼真とは違い、真面目で静かな印象を受ける。
「じゃあまた。行こう蒼真」
ミルカとナツに向かいぺこりと軽く頭を下げ、少年は蒼真の返事を待たず店外へと向かう。
ミルカから腕を解いた蒼真は一度友人に視線を向けて、小さなため息をついた。
「ソウマ様……、あの……」
「あとでミルカの家行くから。また連絡する」
頬杖をつくナツはやり取りを眺めるだけだ。瞳の色もいつの間にか焦茶に戻っている。
ただ見慣れない冷ややかな目線にミルカの心は落ち着かない。
そんなナツとミルカを交互に見た蒼真はそれ以上なにも言わず、友人のあとを追いかけていった。
「ソウマ様……すっごく怒ってた……。契約解かれちゃったらどうしよう……」
あとで会えるのは嬉しいけど、まさかこの流れで機嫌良く会いに来てくれるとは思えない。
悪い想像ばかりが頭を巡り、青ざめるミルカにナツが不機嫌な声で名前を呼んだ。
「あれがいいの?」
「え、めっちゃ格好いいでしょ?! 二十四時間眺めても飽きないし、声も素敵だし♡」
「ミルカ、相当見る目ないわー。あいつヤバいよ。独占欲の塊って言うか、ガキじゃん」
「そこがいいの♡ もっと独占してほしい♡ でも……許してもらえるかな……。あれ? 許す? なんであんなに怒ってるのかわかんないし、どうしよう……。ねえ、ナツ、どうしたらいいかな」
ナツとは幼馴染であって、蒼真だってクラスの女子と気軽に話したりする。
それを目撃するたびに仄かな殺意を滾らせるのだが、そんな自身をミルカはまたもや棚上げした。
ぐるぐる変わる感情に振り回されながら幼馴染に縋りつく。
情けない顔で腕を掴んだミルカの鼻を、ナツは唐突に軽く摘んで離した。
「んぷ。なにするのよう」
「いいじゃん、さっさと契約解かれてこいよ。絶対俺のほうが優良物件だろ。寛大だし、優しいし、顔もいいのに。すっげームカつく」
苛ついた口ぶりにミルカは首を傾げる。ただ単に蒼真が気に食わないというより、それ以上の苛立ちを感じる。
もしかしてこれは嫉妬というものでは?
身に覚えのある感情をまさかナツから向けられるとは予想外にも程がある。
ミルカは思わずぽかんと口を開けた。
「……もしかしてナツって、ミルカのこと好きだったの?」
「好きだけど? ミルカ可愛いし、相性も良いし。ずっと仲良いじゃん俺ら」
「そうだけど……それって恋なのかな?」
ミルカ自身たった一人に心を奪われたなんていまだに不思議で、蒼真に会う前の自分に言っても絶対に信じないだろう。
淫魔にとって、恋など無駄な感情でしかない。同種であるナツもきっと同じだ。
それに長い間一緒にいて、彼から焦がれるような眼差しなど感じたことはない気がする。
「うーん……ミルカがナツ以外から精気をもらったらどうする?」
「別にどうもしない。だって仕方ないだろ。ただの食事だし」
「やっぱりそうだよね。ミルカもそう思ってたの。でもね、ソウマ様は他の人から精気をもらったらミルカのこと殺しちゃうって」
「は?! やっばいだろそれ……俺たちの特性からして無茶振り過ぎ」
ナツの気持ちはよくわかる。以前のミルカなら同じことを言っていた。
先程の驚愕から落ち着いたミルカは細いツインテールの先をくるくると指に巻きつけながら、視線を上に向ける。
「んーとね、契約でソウマ様と繋がってるからそんなにお腹空かないんだよね。それにソウマ様の精気を知っちゃったらもう他のなんて食べられないし♡」
蒼真から与えられる快感、触れる手、キスの感触を思い出しニヤけるミルカをナツは冷めた表情で見つめる。
面白くなさそうな顔のままココアを飲み終えた彼は再度ミルカに手を伸ばした。
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