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金色お月さまと魔女の宵
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ビロードのような闇色の毛並みに、少し大きな耳と、長い尻尾。
使い魔のシキは妖魔で、私の可愛い黒い猫。そしてとっても優しくて、完璧な私の恋人。
今日は依頼人と合流するため、シキと共に近くの町へ出向いている。と言っても、もう何度もやり取りをしている人と言うこともあり、用事はすぐに済んでしまった。大都市でもないけれど、それなりに活発な町はいつもより賑わっていて普段と違う風景が目に楽しい。
この町は昔から猫が多く、当り前のように風景に溶け込んでいる。住んでいる人々も猫好きが多い。
どうやら今日はそんな猫を祭る日らしい。人間ってすぐに特別な日にしたがるわね。変なの。
それでもお祭りは好き。活気づいた雰囲気に心が躍る。さっきからシキとふたり、露店が並ぶ街を好奇心に任せてふらふらと眺めながら歩いてる。
トテトテと私の足元を歩く妖魔のシキは、猫にしては少し耳と体が大きいけれど、この町にいるとより一層普通の猫ちゃんに見える。
「猫の日なんだって。シキ、何か買ってあげるわ。おやつとか」
「いらないよ。俺は妖魔だから」
「あっそ。じゃあ、あのおやつもいらないのね」
「……いる」
最近シキのお気に入りのおやつ。それは猫用に開発された、魚や肉をペースト状にした私にはよくわからない食べ物。成分を調べたところ悪くはなさそうなので、先日何となく試しに買ってみた。
猫扱いするなと文句を言うシキに舐めさせると、金色の瞳を輝かせながら、あっという間に間食した。あまりにも早くてちょっと面白かったわ。
その姿はやっぱりどこからどう見ても可愛い猫ちゃんで、つい頬をゆるゆると緩めてしまったのは内緒の話。
人型になると、妖魔のシキはとっても格好いい青年になる。柔らかな猫っ毛はつやつやした黒髪で、しっかり引き締まった褐色の体。ツンとした耳としっぽはそのままだけど。ぱっちり二重の吊り上がった金の瞳はお月さまみたいで、その目に見つめられるとうっとりしちゃう。私の彼氏はとっても顔がいい。
なのに魔女である私の成長は遅い。もうとっくにいい歳なのに、見た目はまだ思春期に入りたての少女。シキが人の形をとると、どう見ても恋人には見えない。だけど優秀な魔女である私は、体の成長を促す魔法薬を作ることが出来る。
あの薬を使えばシキと並んでも恋人に見える。でも今の私の姿も好きと言い張るシキのおかげで、あまり使用することもない。そう、昼間は。
沢山の猫グッズや食品が並ぶ露店で、せっかくだからとおやつと玩具を見て回る。シキは少し不服そうだけど、私は可愛い猫のシキも好きだもの。それになんだかんだシキだって、私が見ていない(フリをしている)ところでたまにコッソリ玩具を追いかけたりしている。どうやら猫の姿の時は、より一層普通の猫に近付くみたい。
少しだけ買うつもりが気付けば荷物は増えていて、お祭りだからとオマケも沢山いただいた。小柄な私には少し重い荷物に、シキがポンと人の形をとる。私より遥かに高い位置にある顔を見上げると、優しく微笑んで当たり前のように荷物を抱えてくれた。今日も最高に格好いい。好き。
「ありがと」
「どういたしまして、俺の可愛いご主人様」
人型のシキと手を繋いで露店で食べ歩き、猫と戯れ、お祭りを堪能する。露店だけじゃなく、あちこちに飾られた猫の絵や人形がとっても可愛くて随分歩き回ってしまった。思ってたよりもずっと楽しいお祭りに、気付けば空はすっかり茜色に染まっていた。十分に満喫したし暗くならないうちに帰ろうとシキに促され、手を繋いだまま帰路に着く。のんびり歩いていると家に到着する頃には、もう薄っすらと欠けた月が顔を出していた。
料理中のパパにご飯は食べてきたからと告げて、さっさと湯浴みを済ますと疲れがどっと押し寄せてきた。
そんなわけで現在、シキとベッドに寝転がり疲労を解放してる。楽しかったけど、さすがに歩き過ぎちゃった。ちなみに彼はずっと人型を保っているのでモフモフの癒しは期待できない。それでも端正な顔は十分な目の保養だから問題はない。うん、好き。
「疲れたぁ~……」
「ああ。でもカルアと祭りを楽しめて、俺は嬉しかったよ」
「そんなの、私もそうに決まってるでしょ」
見た目よりずっと逞しい体にすり寄ると、優しい手つきで髪を撫でられる。その心地よさに思わずうとうと微睡みかけて、今日の戦利品を思い出した。
「あ、ちょっと待って。せっかくだから何かあげるわ」
シキから離れてベッドから降りた私は、机に置かれた荷物の元へ向かう。なんせ大量におやつを買い込んでしまったので、日持ちのしないものから消費していかなければいけない。細々した物がたくさん入った紙袋を探っていると、買った覚えのない茶色い粉が目に入った。
「なんだっけこれ……」
そういえばオマケにもらった気がする。
透明な袋を開けてすんすん匂いを嗅いでみると少し独特な香りが鼻をつく。猫祭りのオマケだしこれはもしかして……。そう思い当たったところで袋に顔を近づけすぎた私はムズムズくしゃみがこみ上げてきた。
「っくしゅん!」
やってしまった。当たり前の事ながら袋の中身が舞って、顔から首へと粉が付着する。
「ふ、くしゅんっ! けほっ、最悪……」
「カルア、それって……マタタビ?」
「そうみたいね。うぅ、粉まみれだわ」
ぷるぷる顔を振ると僅かに粉が床へと落ちた。掃除しなきゃ……なんて面倒に思った矢先、いつの間にか後ろに寄ったシキに背後から突然抱きしめられて、純粋な驚きで心臓が跳ねる。
「びっくりしたぁ……! なによ急に」
「ヤバい。その匂い本当ダメ。それだけ香ると、めちゃくちゃたまらないんだけど」
「んん? あんた本当に普通の猫だったの?」
腕の中で後ろのシキを見上げるとおでこに付いた粉をぺろりと舐められる。既に吐息は熱くなっていて、心なしか体温も熱い。一旦向きを変えてもう一度顔を見上げると、綺麗な金色の瞳が熱っぽく潤んで、何その顔やばい最高……じゃなかった、完全に発情してる。
未発達な体に無理はさせたくないからと、思春期の姿の私に頑なに手を出さないシキなのに。つまり、あり得ない行動。これはちょっとマズったかもしれない。
「猫じゃない。けどネコ科には変わりない。カルア……俺めちゃくちゃセックスしたい。いい?」
「ば、ばっかじゃないの……もう……」
もとはと言えば私が粉をぶち撒けたのが原因だし、使い魔の面倒を見るのも主人の義務だし。別に、シキの色気が半端なくてウズウズするとか、そういうのじゃないから。そう、違うから。
目の前にある机の引き出しを開けると、透明な赤い液体が揺れる瓶が数個顔を見せる。もう何度も使用してる、体を成長させる魔法の薬。昼はあまり出番がないこの薬を使うのは、主にシキがおねだりして来る夜。
薬を使用するイコール彼に抱かれる、という我ながらなんとも卑猥なアイテムなんだけど、初めにきっかけを作ったのはこの私。
手のひらに収まる小さな瓶を一つ取り出して飲み干せば一瞬体が熱くなり、手足と身長が伸びて少し成長した私になる。魔女の薬は魔法の薬。痛みも苦しさも何もない。たまに悪趣味な魔女はわざと悶絶するような副作用を加えるけれど、不思議な力はそれぞれの企業秘密。
身長が伸びても小柄な私に対して、シキの背は高い。さっきよりは近い距離に屈んだ彼は顔から首にかけて付着したマタタビを舐めとり、いつもより荒い動作で顔中に口付けを落とす。顎に手をかけて、親指は下の前歯に。いつもなら絶対しない性急さで僅かに口をこじ開けられて、またびっくりした。
開いた隙間からざらつく舌が入り込んで、強引に絡めとって、奥まで舐めるような。食べられちゃいそうな錯覚に思わずしがみつくと、強く腰を引き寄せられた。いつもより強い力でぴたりと密着させられて、少し苦しいけど圧迫感が心地よくて息が上がる。
「んっ、んぅっ! はぁっ、んっ、んんーっ! あっ、あんっ」
「はぁっ、カルア……。今日もかわいいな……」
かき混ぜるようなキスから解放されると口端から唾液が垂れて、顎に伝う雫を少しざらつく舌で舐めとられる。顔を固定していた手が背中を滑り、屈んだシキが右の肩に顎を置く。そうされると、ぞくりと強い刺激に体が何度も痙攣するように震えて、快感が止まらない。
「きゃうっ! やあん……っ! そこっ、だめ……っ」
「知ってる。カルアは肩が弱いから」
「んっ! ひゃあんっ! や、やだぁ……っ」
シキは楽し気に囁きながら頸で結んであるリボンを解き、露わになった肩に口付けては甘く噛んで吸い付く。リボンで固定していた黒のナイトウェアは肩先から容易く足元に落ちてしまった。シキの柔らかい猫っ毛が触れるだけで、荒い吐息が霞めるだけで、もう頭がおかしくなりそうなのに。弱く強く不規則な刺激を与えられて腰と足が、ふるふる震えてしまう。
急くように背中を伝う大きな右手は強くお尻を掴んで、荒い手つきで形を確かめるように揉みしだく。こんな風にされるのは初めてかもしれない。いつもと全然違う動きが余計に頭をくらくらさせて、目の前のシャツに必死にしがみついて堪える。精悍な腕に支えられてなんとか立ってるけど、そろそろ限界。もうすでに潤む秘所から伝うほどの水滴があふれ出て、私の体も相当おかしい。
「ら、らめぇっ……! そこ、おかしくなっちゃうからぁ……っ!」
「うん。知ってるよ。肩だけでこんなに反応して……ほんと可愛い。最高だよカルア」
「きゃあっ?!」
崩れそうな私を勢いよく抱き上げたシキは、少し乱暴にベッドにおろす。跳ねる私の頼りない体を押さえつけるように指を絡めて、また貪るような荒々しいキス。いつもは蕩けるほど優しいシキなのに、珍しく余裕のない姿が余計にキュンとくる。くちびるを離して至近距離で見る切なげに揺れる月の瞳も、本当に素敵。私の彼氏は今日も最高に顔がいい。
「カルアの瞳、俺めっちゃ好き。宝石みたいに紅くて綺麗で、潤んで溶けそうになってるのも、すごくいい」
「んっ……。私も、シキの瞳とっても好きよ。お月さまみたいですごく綺麗」
「嬉しいな。俺の瞳も、心も体も全部カルアのものだよ。カルアも俺のだけど。もっと潤ませたいな。いっぱい泣いてよ」
「んうっ!」
突然噛みつくように口をふさがれる。その勢いに目を白黒させてると、唯一身に着けていた下着の紐を一気に解かれてポイと投げられた。左の指はまだシキに絡められたまま。
いつもはゆっくりと脱がされるのに、もう本当今日はいちいち所作が荒くて、そんなところもいい。すごくいい。いつもとのギャップがたまらない。
自由な右手を凛々しい首に回すと、体の距離が近くなる。唇に噛みついていたシキがそのまま顎を噛んで、首に、鎖骨に緩く歯を立てながら移動していく。鋭い牙で柔らかく噛まれると少し痛いけど。そのチクチクした刺激も、おかしくなるくらい気持ちいい。
「はぁっ……! あっ、しき……っ! ひゃあんっ! ら、らめぇっ!!」
鎖骨から移動した牙はまた弱い肩に軽く食い込んで、執拗にそこを舐めては噛みついて、しつこいほどに責め立ててくる。シキに抱かれるたびにいつの間にか敏感になっていった肩は、少し刺激されるだけで全身が震えてしまう。
「ほんとここ弱くなったよな……。俺がカルアの体を変えたと思うと、余計にたまらないよ。なんでそんなに可愛いの?」
肩から牙を離し、軽く音を立てて一度くちびるにキスされた。強い快感によって涙が零れる私をうっとりと眺めたシキは、ささやかな胸の尖りを緩くきゅっと摘まむ。ぼうっと放心状態だったところへの不意打ちで跳ね上がると、繋いだままの左手がより強く握られた。
親指と人差し指で摘んだ胸の小さな蕾をくりくりと弄られて、また生理的な涙が零れていく。肩への執拗な愛撫で敏感に張りつめている体は、少しの快感も大きく響いて仕方なくて。おかげで甘ったるい声が止まらない。ぽろぽろ流れる涙を舐めとるシキはとても嬉しそうで、その顔はすごく好きだけど。刺激が強すぎてうまく頭が働かない。
「きゃうぅっ! や、やんっ! あっ! あんっ! やあぁぁっ!」
「可愛い、カルア。俺の指でこんなに蕩けて、ほんと最高に可愛い。好きだよ」
指での愛撫を続けながら、かぷりとまた肩に噛みつかれて一段と高い声が上がる。背中も足も、全身がひくひく痙攣するように震えているのに、まだ肩はシキに噛みつかれたまま。
「やっ……、しきっ、も、ほんとっ、むり……あっ!」
「まだだよ。無理じゃないだろ? ほら、とろとろになってる」
もう苦しくて、呼吸だけで精一杯。なのに胸から滑るように移動した指で、くちゅっと淫らな水音と共に刺激を与えられてまた高い声が上がる。私の体を知り尽くしてるシキの中指が入り込んでかき混ぜたかと思うと、すぐにもう一本が追加されて、中で別々に動きだした。強く感じる場所を刺激され、その度に水音が響いて大きくなる。
「あんっ! やぁっ! んっ、あんっ!」
「俺の指、食べられそうだよ。このままもう一回イく?」
「や、やらぁっ! あんっ! しき、ゆびじゃなくって……っ」
シキの長い指も気持ちよくって、おかしくなっちゃうけど、もっと奥に触れてほしい。ぴったりくっついて、優しくしてほしい。なんか……多分今日は無理そうだけど。
「なに? カルアの可愛い声で教えてよ。どうしたい?」
「やぁ……っ、調子に、乗らないで……っ」
いつもは私のお願いを何だって聞いてくれるシキは、なぜかエッチの時はやたらと強気になる。ちょっとイラっとするけど、意地悪に目を細める顔は、こういう時しか見れなくて……悔しいけど、とても、好きだったりする。なので私はつい釣られて、いつもよりほんの少しだけ弱気になってしまう。
「ばか……指じゃなくて、早く、あんたの、い、いれなさいよ……っ」
なんでこんなこと言ってるのかしら。すごくバカみたいだし恥ずかしい。目線を逸らして、誤魔化すようにすりすりと太ももをシキの腰に擦りつける。もう一度ちらりと見上げると、軽く吹き出した彼はご機嫌の極みといった顔でにっこり笑った。
「ここで命令とは思わなかったな。やっぱカルア最高。いいよ、ご主人様。俺も早く挿れたいし」
「な、なによっ! んぅっ!」
それなら恥ずかしいこと言わせないでよ! と、抗議しようとした口を素早く塞がれて、数回擦り付けられた熱い杭が一気に奥まで侵入してきた。最奥を突く急な強い刺激に背中がしなり、また体がびくびくと震えて涙が溢れていく。絶頂に締まる体にシキの耐えるような息遣いが耳元で聴こえて、余計に心が反応する。
「んんーーーーっ!! ふはっ! あっ!あんっ!」
「あー……最っ高。めっちゃいい……俺のカルア」
強い刺激に頭も体もびっくりして、喘ぎながら酸素を求める。そんな私を見下ろしながら少しの間、奥を堪能していたシキは瞳を捕らえたまま、ゆっくりと律動を開始した。
「あっ! ま、まってぇっ……! イったからぁっ! やぁんっ! ら、らめぇっ! ひあっ! あ、あっ!」
「もっとイってよ。ほら、カルアが好きなの、いっぱいしてやるから」
「やっ! きゃあぁんっ!」
挿入したまま肩に噛みつかれて、思わずシキの頭を掻き抱く。緩く噛み付いたままで抽送されて、視界も頭もくらくらして、もう何がなんだか、わけがわかんない。快感が強すぎていつも以上に頭がついていかない。なぜだかエッチの時はいつも意地悪だけど、今日は一段と意地悪……というか調子に乗ってるわ。マタタビおそるべし。
「あーあ、よだれと涙でぐちゃぐちゃ……可愛すぎるんだけど……。このまま閉じ込めて、カルアの時間も体も心も、全部俺だけのものにして、一日中セックスしたいな」
突然ぴたりと動きを止めたシキは物騒なことを口にした。本人曰く心配症な彼は、なぜか事あるごとに私を閉じ込めたがる。いつもは軽くあしらうけども、今日の瞳はちょっとかなりシャレにならなくて、少し背筋にゾッと寒気を感じてしまった。熱い視線のはずなのに。しかも、うっとりと夢見心地な表情が余計に恐ろしい。
もうとっくにシキのものなのに、今更何言ってんのとか、バカな事言わないでとか、色々言いたいことはあるのに、息が上がってなかなか言葉を紡げない。
「ば、ばかぁ……っ、あっ! んんっ!」
「ほんと可愛すぎて心配だよ……。何もかも全部、俺だけのものになってよ」
返事をする前にまた口を塞がれ、喘ぎ声すら食べられてしまう。
食むように口付けたまま、遠慮なしに好きに突かれて、体のどこもかしこも食べられてるみたい。まさかシキは私を食べたいのかしら。たしかに人を食べる肉食妖魔もいる。もしかすると彼はとんでもない猫被りなのかもしれない。
いつも通り、ううん、いつも以上にシキが満足するまで抱かれて、気付いたらもう昼という時刻に目が覚めた。こんなの久しぶり。
全身怠いし、喉は乾くし、腰が痛い。もう絶対にマタタビなんか一生手にしない。オマケをくれた店主にやつ当たりしたくなる。
恨めしい目で隣のシキを見ると、もう既に目覚めていたらしい彼は、ぴるぴると猫耳を下げて心配そうな視線を私に向けていた。ちなみに元の体に戻った私はいつものように、胸から膝下までぐるぐるとブランケットで巻かれている。これは未発達な体に手を出さないための、シキなりの気遣いらしい。
「カルア、ごめん。調子に乗った……大丈夫か?」
「大丈夫じゃないわよぉ……。あんた、覚えてなさいよ……」
「ごめん! 何でもする! 許して! 使い魔の契約解かれたら俺、生きていけないよ」
涙目で懇願するシキを見てると、昨夜のあの強気な態度は幻かと思うくらい情けなくて……かわいい。こういうところも好き。私だって、シキには相当甘い。
「ばかね……解くわけないじゃない」
「よかった……」
まだ猫耳を伏せてホッと安心したように胸を撫で下ろす姿は、どこからどう見ても人畜無害な顔のいいお兄さん。
それでも昨夜ふと感じた疑問が頭を過ぎる。
「シキは私を食べたいの?」
質問の意味がわからなかったらしく、怪訝な顔をしてから少し考えたシキは、またいつもの優しい微笑みを零す。私の頬にかかる髪を掬う指も同じように優しくて、とっても心地いい。
「そうだな、それもいいけど俺はカルアに食べられたいよ」
「そう……つくづくよくわかんないわ。あんた」
「カルアがいない世界で生きるなんてあり得ないだろ。そうだな、カルアが死ぬ前に俺を殺してよ」
何てこと言うのこの人、じゃない、この使い魔は。最悪な提案にじっとりと目を細めるけど、シキは平然とした顔をしている。というか、むしろうっとりと私を見つめている。
「悪趣味ね。絶対に嫌よ、そんなの」
「俺にしたら最高の死に方だけど」
なんかすごく陰気な事を言ってるのに、表情は穏やかな笑み。やっぱりとんでもない猫だわ。それとも妖魔と人(魔女だけど)はやっぱり価値観が違うのかしら。種族間の価値観の違いはどうしようもないことを知っているので、もう追求することはやめておく。
「のど渇いた……」
「はい、ご主人様。カルアの好きな甘い水だよ」
欲求をポソっと呟くと、どこから取り出したのか待ってましたとばかりにシキは水の入った瓶を手に掲げた。少し得意げな顔がちょっと面白い。
「先に起きたから持ってきておいた。俺って出来る使い魔だろ?」
「そうね、ありがと」
起き上がって手を伸ばしたのに、なぜかじっと私を見るシキからは水を渡される気配がない。何か考えるような顔をしているけど、きっとロクでもない事に違い。
「……いくらなんでも、小さいカルアに口移しはできないよな。止まらなくなったら色々とヤバい」
「やっぱりロクでもないこと考えてたのね」
「酷いな。これでも結構真剣に考えてるんだけど……。俺はいつだってカルアをでろでろに甘やかしたいだけだよ」
「あ、甘すぎるのよシキは」
真剣な顔でやっぱりバカみたいな宣言をしたシキからやっと渡された瓶から水を飲む。じっと眺めてくるシキの視線が気になって、瓶を持つ両手が変に緊張してしまう。ちびちび飲み込んだせいでやたらと時間がかかって、やっと瓶の中身を飲み干すと催促するように手が出される。
当たり前のように空の瓶をシキに渡そうとして、はたと思いとどまった。空の瓶くらい自分で片付けるべきなのに。こういうところがもう既に甘やかされてるんだわ。何となく目を合わせると綺麗なお月さまがふたつ、キラキラ輝いている。
「いいんだよ、俺に甘えて。全力で甘やかしてるんだからさ」
一瞬躊躇して動きを止めた私に手を伸ばしたシキは、頬にキスしてそのまま抱きしめてくる。夜にしか聞かない声音で名前を呼ばれて思わず見上げると、昨夜を彷彿させるような、そんなシキと視線が合った。
昼だというのに妖艶に光るお月さまの瞳。その色香を乗せた声と、この視線は、どれだけ経っても免疫が出来ない。
「もっと、俺がいないとダメになってよ」
キスするような距離感の囁き。真っ赤になっているであろう私に満足そうに笑い、シキはひょいと空の瓶を取り上げる。
「な、なるわけないでしょ!」
「そう?」
「そうよ!」
あと少しだと思うんだけど、と呟く声は聞こえないフリでスルーよ。さっきの色情を宿す視線が嘘のように、ニコニコと笑うシキはやっぱりとんでもない猫かぶりだわ。私はもしかしたら、ものすごく恐ろしい使い魔を選んでしまったのかもしれない。
それでも、優しく甘やかす彼の手を離すなんて今更出来るわけがない。もうきっと、とっくにダメになってる。そんなことは絶対に秘密。
使い魔のシキは妖魔で、私の可愛い黒い猫。そしてとっても優しくて、完璧な私の恋人。
今日は依頼人と合流するため、シキと共に近くの町へ出向いている。と言っても、もう何度もやり取りをしている人と言うこともあり、用事はすぐに済んでしまった。大都市でもないけれど、それなりに活発な町はいつもより賑わっていて普段と違う風景が目に楽しい。
この町は昔から猫が多く、当り前のように風景に溶け込んでいる。住んでいる人々も猫好きが多い。
どうやら今日はそんな猫を祭る日らしい。人間ってすぐに特別な日にしたがるわね。変なの。
それでもお祭りは好き。活気づいた雰囲気に心が躍る。さっきからシキとふたり、露店が並ぶ街を好奇心に任せてふらふらと眺めながら歩いてる。
トテトテと私の足元を歩く妖魔のシキは、猫にしては少し耳と体が大きいけれど、この町にいるとより一層普通の猫ちゃんに見える。
「猫の日なんだって。シキ、何か買ってあげるわ。おやつとか」
「いらないよ。俺は妖魔だから」
「あっそ。じゃあ、あのおやつもいらないのね」
「……いる」
最近シキのお気に入りのおやつ。それは猫用に開発された、魚や肉をペースト状にした私にはよくわからない食べ物。成分を調べたところ悪くはなさそうなので、先日何となく試しに買ってみた。
猫扱いするなと文句を言うシキに舐めさせると、金色の瞳を輝かせながら、あっという間に間食した。あまりにも早くてちょっと面白かったわ。
その姿はやっぱりどこからどう見ても可愛い猫ちゃんで、つい頬をゆるゆると緩めてしまったのは内緒の話。
人型になると、妖魔のシキはとっても格好いい青年になる。柔らかな猫っ毛はつやつやした黒髪で、しっかり引き締まった褐色の体。ツンとした耳としっぽはそのままだけど。ぱっちり二重の吊り上がった金の瞳はお月さまみたいで、その目に見つめられるとうっとりしちゃう。私の彼氏はとっても顔がいい。
なのに魔女である私の成長は遅い。もうとっくにいい歳なのに、見た目はまだ思春期に入りたての少女。シキが人の形をとると、どう見ても恋人には見えない。だけど優秀な魔女である私は、体の成長を促す魔法薬を作ることが出来る。
あの薬を使えばシキと並んでも恋人に見える。でも今の私の姿も好きと言い張るシキのおかげで、あまり使用することもない。そう、昼間は。
沢山の猫グッズや食品が並ぶ露店で、せっかくだからとおやつと玩具を見て回る。シキは少し不服そうだけど、私は可愛い猫のシキも好きだもの。それになんだかんだシキだって、私が見ていない(フリをしている)ところでたまにコッソリ玩具を追いかけたりしている。どうやら猫の姿の時は、より一層普通の猫に近付くみたい。
少しだけ買うつもりが気付けば荷物は増えていて、お祭りだからとオマケも沢山いただいた。小柄な私には少し重い荷物に、シキがポンと人の形をとる。私より遥かに高い位置にある顔を見上げると、優しく微笑んで当たり前のように荷物を抱えてくれた。今日も最高に格好いい。好き。
「ありがと」
「どういたしまして、俺の可愛いご主人様」
人型のシキと手を繋いで露店で食べ歩き、猫と戯れ、お祭りを堪能する。露店だけじゃなく、あちこちに飾られた猫の絵や人形がとっても可愛くて随分歩き回ってしまった。思ってたよりもずっと楽しいお祭りに、気付けば空はすっかり茜色に染まっていた。十分に満喫したし暗くならないうちに帰ろうとシキに促され、手を繋いだまま帰路に着く。のんびり歩いていると家に到着する頃には、もう薄っすらと欠けた月が顔を出していた。
料理中のパパにご飯は食べてきたからと告げて、さっさと湯浴みを済ますと疲れがどっと押し寄せてきた。
そんなわけで現在、シキとベッドに寝転がり疲労を解放してる。楽しかったけど、さすがに歩き過ぎちゃった。ちなみに彼はずっと人型を保っているのでモフモフの癒しは期待できない。それでも端正な顔は十分な目の保養だから問題はない。うん、好き。
「疲れたぁ~……」
「ああ。でもカルアと祭りを楽しめて、俺は嬉しかったよ」
「そんなの、私もそうに決まってるでしょ」
見た目よりずっと逞しい体にすり寄ると、優しい手つきで髪を撫でられる。その心地よさに思わずうとうと微睡みかけて、今日の戦利品を思い出した。
「あ、ちょっと待って。せっかくだから何かあげるわ」
シキから離れてベッドから降りた私は、机に置かれた荷物の元へ向かう。なんせ大量におやつを買い込んでしまったので、日持ちのしないものから消費していかなければいけない。細々した物がたくさん入った紙袋を探っていると、買った覚えのない茶色い粉が目に入った。
「なんだっけこれ……」
そういえばオマケにもらった気がする。
透明な袋を開けてすんすん匂いを嗅いでみると少し独特な香りが鼻をつく。猫祭りのオマケだしこれはもしかして……。そう思い当たったところで袋に顔を近づけすぎた私はムズムズくしゃみがこみ上げてきた。
「っくしゅん!」
やってしまった。当たり前の事ながら袋の中身が舞って、顔から首へと粉が付着する。
「ふ、くしゅんっ! けほっ、最悪……」
「カルア、それって……マタタビ?」
「そうみたいね。うぅ、粉まみれだわ」
ぷるぷる顔を振ると僅かに粉が床へと落ちた。掃除しなきゃ……なんて面倒に思った矢先、いつの間にか後ろに寄ったシキに背後から突然抱きしめられて、純粋な驚きで心臓が跳ねる。
「びっくりしたぁ……! なによ急に」
「ヤバい。その匂い本当ダメ。それだけ香ると、めちゃくちゃたまらないんだけど」
「んん? あんた本当に普通の猫だったの?」
腕の中で後ろのシキを見上げるとおでこに付いた粉をぺろりと舐められる。既に吐息は熱くなっていて、心なしか体温も熱い。一旦向きを変えてもう一度顔を見上げると、綺麗な金色の瞳が熱っぽく潤んで、何その顔やばい最高……じゃなかった、完全に発情してる。
未発達な体に無理はさせたくないからと、思春期の姿の私に頑なに手を出さないシキなのに。つまり、あり得ない行動。これはちょっとマズったかもしれない。
「猫じゃない。けどネコ科には変わりない。カルア……俺めちゃくちゃセックスしたい。いい?」
「ば、ばっかじゃないの……もう……」
もとはと言えば私が粉をぶち撒けたのが原因だし、使い魔の面倒を見るのも主人の義務だし。別に、シキの色気が半端なくてウズウズするとか、そういうのじゃないから。そう、違うから。
目の前にある机の引き出しを開けると、透明な赤い液体が揺れる瓶が数個顔を見せる。もう何度も使用してる、体を成長させる魔法の薬。昼はあまり出番がないこの薬を使うのは、主にシキがおねだりして来る夜。
薬を使用するイコール彼に抱かれる、という我ながらなんとも卑猥なアイテムなんだけど、初めにきっかけを作ったのはこの私。
手のひらに収まる小さな瓶を一つ取り出して飲み干せば一瞬体が熱くなり、手足と身長が伸びて少し成長した私になる。魔女の薬は魔法の薬。痛みも苦しさも何もない。たまに悪趣味な魔女はわざと悶絶するような副作用を加えるけれど、不思議な力はそれぞれの企業秘密。
身長が伸びても小柄な私に対して、シキの背は高い。さっきよりは近い距離に屈んだ彼は顔から首にかけて付着したマタタビを舐めとり、いつもより荒い動作で顔中に口付けを落とす。顎に手をかけて、親指は下の前歯に。いつもなら絶対しない性急さで僅かに口をこじ開けられて、またびっくりした。
開いた隙間からざらつく舌が入り込んで、強引に絡めとって、奥まで舐めるような。食べられちゃいそうな錯覚に思わずしがみつくと、強く腰を引き寄せられた。いつもより強い力でぴたりと密着させられて、少し苦しいけど圧迫感が心地よくて息が上がる。
「んっ、んぅっ! はぁっ、んっ、んんーっ! あっ、あんっ」
「はぁっ、カルア……。今日もかわいいな……」
かき混ぜるようなキスから解放されると口端から唾液が垂れて、顎に伝う雫を少しざらつく舌で舐めとられる。顔を固定していた手が背中を滑り、屈んだシキが右の肩に顎を置く。そうされると、ぞくりと強い刺激に体が何度も痙攣するように震えて、快感が止まらない。
「きゃうっ! やあん……っ! そこっ、だめ……っ」
「知ってる。カルアは肩が弱いから」
「んっ! ひゃあんっ! や、やだぁ……っ」
シキは楽し気に囁きながら頸で結んであるリボンを解き、露わになった肩に口付けては甘く噛んで吸い付く。リボンで固定していた黒のナイトウェアは肩先から容易く足元に落ちてしまった。シキの柔らかい猫っ毛が触れるだけで、荒い吐息が霞めるだけで、もう頭がおかしくなりそうなのに。弱く強く不規則な刺激を与えられて腰と足が、ふるふる震えてしまう。
急くように背中を伝う大きな右手は強くお尻を掴んで、荒い手つきで形を確かめるように揉みしだく。こんな風にされるのは初めてかもしれない。いつもと全然違う動きが余計に頭をくらくらさせて、目の前のシャツに必死にしがみついて堪える。精悍な腕に支えられてなんとか立ってるけど、そろそろ限界。もうすでに潤む秘所から伝うほどの水滴があふれ出て、私の体も相当おかしい。
「ら、らめぇっ……! そこ、おかしくなっちゃうからぁ……っ!」
「うん。知ってるよ。肩だけでこんなに反応して……ほんと可愛い。最高だよカルア」
「きゃあっ?!」
崩れそうな私を勢いよく抱き上げたシキは、少し乱暴にベッドにおろす。跳ねる私の頼りない体を押さえつけるように指を絡めて、また貪るような荒々しいキス。いつもは蕩けるほど優しいシキなのに、珍しく余裕のない姿が余計にキュンとくる。くちびるを離して至近距離で見る切なげに揺れる月の瞳も、本当に素敵。私の彼氏は今日も最高に顔がいい。
「カルアの瞳、俺めっちゃ好き。宝石みたいに紅くて綺麗で、潤んで溶けそうになってるのも、すごくいい」
「んっ……。私も、シキの瞳とっても好きよ。お月さまみたいですごく綺麗」
「嬉しいな。俺の瞳も、心も体も全部カルアのものだよ。カルアも俺のだけど。もっと潤ませたいな。いっぱい泣いてよ」
「んうっ!」
突然噛みつくように口をふさがれる。その勢いに目を白黒させてると、唯一身に着けていた下着の紐を一気に解かれてポイと投げられた。左の指はまだシキに絡められたまま。
いつもはゆっくりと脱がされるのに、もう本当今日はいちいち所作が荒くて、そんなところもいい。すごくいい。いつもとのギャップがたまらない。
自由な右手を凛々しい首に回すと、体の距離が近くなる。唇に噛みついていたシキがそのまま顎を噛んで、首に、鎖骨に緩く歯を立てながら移動していく。鋭い牙で柔らかく噛まれると少し痛いけど。そのチクチクした刺激も、おかしくなるくらい気持ちいい。
「はぁっ……! あっ、しき……っ! ひゃあんっ! ら、らめぇっ!!」
鎖骨から移動した牙はまた弱い肩に軽く食い込んで、執拗にそこを舐めては噛みついて、しつこいほどに責め立ててくる。シキに抱かれるたびにいつの間にか敏感になっていった肩は、少し刺激されるだけで全身が震えてしまう。
「ほんとここ弱くなったよな……。俺がカルアの体を変えたと思うと、余計にたまらないよ。なんでそんなに可愛いの?」
肩から牙を離し、軽く音を立てて一度くちびるにキスされた。強い快感によって涙が零れる私をうっとりと眺めたシキは、ささやかな胸の尖りを緩くきゅっと摘まむ。ぼうっと放心状態だったところへの不意打ちで跳ね上がると、繋いだままの左手がより強く握られた。
親指と人差し指で摘んだ胸の小さな蕾をくりくりと弄られて、また生理的な涙が零れていく。肩への執拗な愛撫で敏感に張りつめている体は、少しの快感も大きく響いて仕方なくて。おかげで甘ったるい声が止まらない。ぽろぽろ流れる涙を舐めとるシキはとても嬉しそうで、その顔はすごく好きだけど。刺激が強すぎてうまく頭が働かない。
「きゃうぅっ! や、やんっ! あっ! あんっ! やあぁぁっ!」
「可愛い、カルア。俺の指でこんなに蕩けて、ほんと最高に可愛い。好きだよ」
指での愛撫を続けながら、かぷりとまた肩に噛みつかれて一段と高い声が上がる。背中も足も、全身がひくひく痙攣するように震えているのに、まだ肩はシキに噛みつかれたまま。
「やっ……、しきっ、も、ほんとっ、むり……あっ!」
「まだだよ。無理じゃないだろ? ほら、とろとろになってる」
もう苦しくて、呼吸だけで精一杯。なのに胸から滑るように移動した指で、くちゅっと淫らな水音と共に刺激を与えられてまた高い声が上がる。私の体を知り尽くしてるシキの中指が入り込んでかき混ぜたかと思うと、すぐにもう一本が追加されて、中で別々に動きだした。強く感じる場所を刺激され、その度に水音が響いて大きくなる。
「あんっ! やぁっ! んっ、あんっ!」
「俺の指、食べられそうだよ。このままもう一回イく?」
「や、やらぁっ! あんっ! しき、ゆびじゃなくって……っ」
シキの長い指も気持ちよくって、おかしくなっちゃうけど、もっと奥に触れてほしい。ぴったりくっついて、優しくしてほしい。なんか……多分今日は無理そうだけど。
「なに? カルアの可愛い声で教えてよ。どうしたい?」
「やぁ……っ、調子に、乗らないで……っ」
いつもは私のお願いを何だって聞いてくれるシキは、なぜかエッチの時はやたらと強気になる。ちょっとイラっとするけど、意地悪に目を細める顔は、こういう時しか見れなくて……悔しいけど、とても、好きだったりする。なので私はつい釣られて、いつもよりほんの少しだけ弱気になってしまう。
「ばか……指じゃなくて、早く、あんたの、い、いれなさいよ……っ」
なんでこんなこと言ってるのかしら。すごくバカみたいだし恥ずかしい。目線を逸らして、誤魔化すようにすりすりと太ももをシキの腰に擦りつける。もう一度ちらりと見上げると、軽く吹き出した彼はご機嫌の極みといった顔でにっこり笑った。
「ここで命令とは思わなかったな。やっぱカルア最高。いいよ、ご主人様。俺も早く挿れたいし」
「な、なによっ! んぅっ!」
それなら恥ずかしいこと言わせないでよ! と、抗議しようとした口を素早く塞がれて、数回擦り付けられた熱い杭が一気に奥まで侵入してきた。最奥を突く急な強い刺激に背中がしなり、また体がびくびくと震えて涙が溢れていく。絶頂に締まる体にシキの耐えるような息遣いが耳元で聴こえて、余計に心が反応する。
「んんーーーーっ!! ふはっ! あっ!あんっ!」
「あー……最っ高。めっちゃいい……俺のカルア」
強い刺激に頭も体もびっくりして、喘ぎながら酸素を求める。そんな私を見下ろしながら少しの間、奥を堪能していたシキは瞳を捕らえたまま、ゆっくりと律動を開始した。
「あっ! ま、まってぇっ……! イったからぁっ! やぁんっ! ら、らめぇっ! ひあっ! あ、あっ!」
「もっとイってよ。ほら、カルアが好きなの、いっぱいしてやるから」
「やっ! きゃあぁんっ!」
挿入したまま肩に噛みつかれて、思わずシキの頭を掻き抱く。緩く噛み付いたままで抽送されて、視界も頭もくらくらして、もう何がなんだか、わけがわかんない。快感が強すぎていつも以上に頭がついていかない。なぜだかエッチの時はいつも意地悪だけど、今日は一段と意地悪……というか調子に乗ってるわ。マタタビおそるべし。
「あーあ、よだれと涙でぐちゃぐちゃ……可愛すぎるんだけど……。このまま閉じ込めて、カルアの時間も体も心も、全部俺だけのものにして、一日中セックスしたいな」
突然ぴたりと動きを止めたシキは物騒なことを口にした。本人曰く心配症な彼は、なぜか事あるごとに私を閉じ込めたがる。いつもは軽くあしらうけども、今日の瞳はちょっとかなりシャレにならなくて、少し背筋にゾッと寒気を感じてしまった。熱い視線のはずなのに。しかも、うっとりと夢見心地な表情が余計に恐ろしい。
もうとっくにシキのものなのに、今更何言ってんのとか、バカな事言わないでとか、色々言いたいことはあるのに、息が上がってなかなか言葉を紡げない。
「ば、ばかぁ……っ、あっ! んんっ!」
「ほんと可愛すぎて心配だよ……。何もかも全部、俺だけのものになってよ」
返事をする前にまた口を塞がれ、喘ぎ声すら食べられてしまう。
食むように口付けたまま、遠慮なしに好きに突かれて、体のどこもかしこも食べられてるみたい。まさかシキは私を食べたいのかしら。たしかに人を食べる肉食妖魔もいる。もしかすると彼はとんでもない猫被りなのかもしれない。
いつも通り、ううん、いつも以上にシキが満足するまで抱かれて、気付いたらもう昼という時刻に目が覚めた。こんなの久しぶり。
全身怠いし、喉は乾くし、腰が痛い。もう絶対にマタタビなんか一生手にしない。オマケをくれた店主にやつ当たりしたくなる。
恨めしい目で隣のシキを見ると、もう既に目覚めていたらしい彼は、ぴるぴると猫耳を下げて心配そうな視線を私に向けていた。ちなみに元の体に戻った私はいつものように、胸から膝下までぐるぐるとブランケットで巻かれている。これは未発達な体に手を出さないための、シキなりの気遣いらしい。
「カルア、ごめん。調子に乗った……大丈夫か?」
「大丈夫じゃないわよぉ……。あんた、覚えてなさいよ……」
「ごめん! 何でもする! 許して! 使い魔の契約解かれたら俺、生きていけないよ」
涙目で懇願するシキを見てると、昨夜のあの強気な態度は幻かと思うくらい情けなくて……かわいい。こういうところも好き。私だって、シキには相当甘い。
「ばかね……解くわけないじゃない」
「よかった……」
まだ猫耳を伏せてホッと安心したように胸を撫で下ろす姿は、どこからどう見ても人畜無害な顔のいいお兄さん。
それでも昨夜ふと感じた疑問が頭を過ぎる。
「シキは私を食べたいの?」
質問の意味がわからなかったらしく、怪訝な顔をしてから少し考えたシキは、またいつもの優しい微笑みを零す。私の頬にかかる髪を掬う指も同じように優しくて、とっても心地いい。
「そうだな、それもいいけど俺はカルアに食べられたいよ」
「そう……つくづくよくわかんないわ。あんた」
「カルアがいない世界で生きるなんてあり得ないだろ。そうだな、カルアが死ぬ前に俺を殺してよ」
何てこと言うのこの人、じゃない、この使い魔は。最悪な提案にじっとりと目を細めるけど、シキは平然とした顔をしている。というか、むしろうっとりと私を見つめている。
「悪趣味ね。絶対に嫌よ、そんなの」
「俺にしたら最高の死に方だけど」
なんかすごく陰気な事を言ってるのに、表情は穏やかな笑み。やっぱりとんでもない猫だわ。それとも妖魔と人(魔女だけど)はやっぱり価値観が違うのかしら。種族間の価値観の違いはどうしようもないことを知っているので、もう追求することはやめておく。
「のど渇いた……」
「はい、ご主人様。カルアの好きな甘い水だよ」
欲求をポソっと呟くと、どこから取り出したのか待ってましたとばかりにシキは水の入った瓶を手に掲げた。少し得意げな顔がちょっと面白い。
「先に起きたから持ってきておいた。俺って出来る使い魔だろ?」
「そうね、ありがと」
起き上がって手を伸ばしたのに、なぜかじっと私を見るシキからは水を渡される気配がない。何か考えるような顔をしているけど、きっとロクでもない事に違い。
「……いくらなんでも、小さいカルアに口移しはできないよな。止まらなくなったら色々とヤバい」
「やっぱりロクでもないこと考えてたのね」
「酷いな。これでも結構真剣に考えてるんだけど……。俺はいつだってカルアをでろでろに甘やかしたいだけだよ」
「あ、甘すぎるのよシキは」
真剣な顔でやっぱりバカみたいな宣言をしたシキからやっと渡された瓶から水を飲む。じっと眺めてくるシキの視線が気になって、瓶を持つ両手が変に緊張してしまう。ちびちび飲み込んだせいでやたらと時間がかかって、やっと瓶の中身を飲み干すと催促するように手が出される。
当たり前のように空の瓶をシキに渡そうとして、はたと思いとどまった。空の瓶くらい自分で片付けるべきなのに。こういうところがもう既に甘やかされてるんだわ。何となく目を合わせると綺麗なお月さまがふたつ、キラキラ輝いている。
「いいんだよ、俺に甘えて。全力で甘やかしてるんだからさ」
一瞬躊躇して動きを止めた私に手を伸ばしたシキは、頬にキスしてそのまま抱きしめてくる。夜にしか聞かない声音で名前を呼ばれて思わず見上げると、昨夜を彷彿させるような、そんなシキと視線が合った。
昼だというのに妖艶に光るお月さまの瞳。その色香を乗せた声と、この視線は、どれだけ経っても免疫が出来ない。
「もっと、俺がいないとダメになってよ」
キスするような距離感の囁き。真っ赤になっているであろう私に満足そうに笑い、シキはひょいと空の瓶を取り上げる。
「な、なるわけないでしょ!」
「そう?」
「そうよ!」
あと少しだと思うんだけど、と呟く声は聞こえないフリでスルーよ。さっきの色情を宿す視線が嘘のように、ニコニコと笑うシキはやっぱりとんでもない猫かぶりだわ。私はもしかしたら、ものすごく恐ろしい使い魔を選んでしまったのかもしれない。
それでも、優しく甘やかす彼の手を離すなんて今更出来るわけがない。もうきっと、とっくにダメになってる。そんなことは絶対に秘密。
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やっぱり可愛くて大好きなお話です(*´꒳`*)
カルアちゃんの「燃やすわよ」が大好き!
強気なカルアちゃん、めちゃくちゃ可愛いです。
猫ちゃんで可愛くて、人型になったらイケメンとか、めっちゃいいですよね。
カルアちゃんのことが大切で仕方ないシキも大好きです(๑˃̵ᴗ˂̵)
素敵なお話ありがとうございました♡
夕月さんありがとうございます!
二人を大好きと言ってもらえてめっちゃ嬉しいです〜♡
カルアは魔法ではなく化学の力で燃やすと思われます(笑)
いつもありがとうございます♪
めちゃくちゃ励みです(´°̥̥̥̥̥̥̥̥ω°̥̥̥̥̥̥̥̥`)