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伯爵家にて
彼女の棲み処は
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エラの挑発に、ヴァンパイアたちが牙をむく。無策に飛び掛かったヴァンパイアはあっという間に消された。あまりに華麗な早業に、あの子はヴァンパイアハンターだったっけ? と、呟いたのは継母だったか義姉だったか。
「……さぁ、消されたいやつは遠慮なく来なさい」
大広間に響く声。
エラの強さを目の当たりにしたヴァンパイアたちが慌てて部屋のあちこちに隠れる。エラはそちらを鋭く睨みつけ、銃に新しい弾をこめながら、
「さぁ、無事な人から順番にこの部屋から逃げてください!」
と叫んだ。招待客はエラの変貌に驚きながらも、エラの邪魔にならないよう地面に伏せながら移動を開始する。我が子や恋人を喪った人々は呆然としているが、何とか正気を保っている人たちが手助けして逃げ出す。
「あの子はいったい何者だい……? 伯爵さまの忘れ形見の美貌の令嬢だだと思っていたんだけど……」
「それであってるさ。ただちょっと銃に馴染んでいてヴァンパイアの処理にも慣れている。それだけのこと。さ、ガブリエラ嬢が屋敷の外へ出ろと言っている。従って外へ急ごうじゃないか」
パンパン、と銃声が響いて恐ろしい声がする。
これまでに銃など触ったこともないであろうに、軌道は安定し命中率も抜群である。
「ちっ……銀の弾は尽きたわ……」
籠から取り出した普通の弾丸に、チョークで何やら呪文を書きつける。その弾が当たったヴァンパイアも、悲鳴を残して消えた。一体どこでそんな術を覚えたのか、と、やっぱり継母が言う。
「さぁ、次は誰?」
エラの挑発に乗って先頭きって飛び掛かるヴァンパイアたちは、聖杯から繰り出された聖なるワインを被って悶絶し、その次の集団は塩水を盛大に浴びてもんどりうった。
だが、弾丸程の威力はないらしく、もがき苦しむばかりである。
「……楽にしてやる」
黒尽くめの紳士が、淡く光る短剣で仲間を苦しみから解放してやる。
「おい、まずいぞ……」
「どうしたのよ?」
「吸血が中途半端なことになった連中がごろごろいる。血を吸われたのに生き延びたら……レディたちがヴァンパイアになってしまう可能性が高いぞ」
いつの間にか隣に来ていたエラに、黒尽くめの紳士が呟く。彼の目線は、足元で呻いているレディ・エルザに向けられている。その白い喉には赤い噛み傷が残っている。
「そんな……どうしたらいいのですか!」
「人間社会に置いておくわけにはいかない。噛まれて息がある連中は――我らの村に隔離し、療養させる」
ヴァンパイアの村――そんな村が存在したとは。男は、にやり、と笑った。
「俺たちの村とは言っても、村人の三分の一は何も知らない人間だ。のこりがヴァンパイアなわけだが、純粋なヴァンパイアがのこりの半分。もう半分には、人間とヴァンパイアのハーフ、それから、他の怪物たちがいる」
想像するだに恐ろしい。ぶるり、とエラが震えた。
「おいおい。これだけ朝から人並み外れた大活躍をしておいて、その程度で震えるのか」
「仕方ないでしょう! お菓子作りだって、バッハだって、ヴァンパイア退治だって、やりたくてやったわけじゃないわ!」
自分がやらなければならないから、やっただけのこと。代わりにやってくれる人がいるなら、エラだって大人しく『レディ・ガブリエラ』のままでいただろう。
「……おい。ぼうっとするな。レディたちを、運ぶぞ」
「え? あ、ああ、そうね。あなたたちの村で過ごして……人のままだったら王都へ戻ればいいし、ヴァンパイア化したらそのまま村に住めばいい、ってことね?」
理解が早くて助かる、と、紳士は小さく頷いた。
その日、毒々しいほどの月が照らす中を、馬車が一台急いで進む。
不思議なことにその馬車は、空っぽの大きな荷車を引いていた。
「ねぇ、荷車にのせた棺桶、大丈夫なの? 山積みにしたけど紐で軽く縛っただけよ。落ちないの?」
「ああ、大丈夫だ。純血ヴァンパイアに伝わる術で固定、保護した」
「純血にハーフに……いろいろありそうね。そちらも」
エラの目には、なぜか山積みの棺桶が見えている。黒尽くめの紳士は不思議がったが、見えるのだから仕方がない。そして全ての棺桶に、噛まれたものの息のある令嬢たちが入っている。
朝になれば彼女たちはパニックになるだろうし、娘が消えたと騒ぎになるだろう。だが、人間界にヴァンパイアを放置するわけにいかない。
「――それにしても、お前……よかったのか?」
「なに?」
「あそこ、生まれ育った家、だったんだろう? 捨てていいのか?」
紳士の問いかけに、エラははっきり頷いた。
「もう、いいの。お父さまとの思い出は銃を持ってきたし、お母さまとの思い出はドレスを持ってきた。あとは三人の肖像画があるから十分よ。動物たちは遊びに来てくれるって」
「野生動物とも仲がいいのか……」
「ええ。使用人のみんなと動物たちがいてくれたから、これまで生きてこられたのだと思うわ」
大惨事が起こった館は――きっと、使用人も誰もかれもが逃げ出すだろう。建物は廃墟になるか、継母が売りに出して物好きな人が買うだろう。
「伯爵の爵位はどうなってるんだ?」
それがね、と、エラが笑った。
「王家に提出した書類上は、わたくしが女当主なの。お父さまが血族相続を申請していたから」
「ほう。ならば一生、金には困らないわけか」
「領地がちゃんと管理運営されてればね」
領地の運営を誰かに委託しなくてはならないが――それは、村に落ち着いてから考える。
馬車がゆっくりと夜道を走る。
エラは振り返ることもなかった。
「……さぁ、消されたいやつは遠慮なく来なさい」
大広間に響く声。
エラの強さを目の当たりにしたヴァンパイアたちが慌てて部屋のあちこちに隠れる。エラはそちらを鋭く睨みつけ、銃に新しい弾をこめながら、
「さぁ、無事な人から順番にこの部屋から逃げてください!」
と叫んだ。招待客はエラの変貌に驚きながらも、エラの邪魔にならないよう地面に伏せながら移動を開始する。我が子や恋人を喪った人々は呆然としているが、何とか正気を保っている人たちが手助けして逃げ出す。
「あの子はいったい何者だい……? 伯爵さまの忘れ形見の美貌の令嬢だだと思っていたんだけど……」
「それであってるさ。ただちょっと銃に馴染んでいてヴァンパイアの処理にも慣れている。それだけのこと。さ、ガブリエラ嬢が屋敷の外へ出ろと言っている。従って外へ急ごうじゃないか」
パンパン、と銃声が響いて恐ろしい声がする。
これまでに銃など触ったこともないであろうに、軌道は安定し命中率も抜群である。
「ちっ……銀の弾は尽きたわ……」
籠から取り出した普通の弾丸に、チョークで何やら呪文を書きつける。その弾が当たったヴァンパイアも、悲鳴を残して消えた。一体どこでそんな術を覚えたのか、と、やっぱり継母が言う。
「さぁ、次は誰?」
エラの挑発に乗って先頭きって飛び掛かるヴァンパイアたちは、聖杯から繰り出された聖なるワインを被って悶絶し、その次の集団は塩水を盛大に浴びてもんどりうった。
だが、弾丸程の威力はないらしく、もがき苦しむばかりである。
「……楽にしてやる」
黒尽くめの紳士が、淡く光る短剣で仲間を苦しみから解放してやる。
「おい、まずいぞ……」
「どうしたのよ?」
「吸血が中途半端なことになった連中がごろごろいる。血を吸われたのに生き延びたら……レディたちがヴァンパイアになってしまう可能性が高いぞ」
いつの間にか隣に来ていたエラに、黒尽くめの紳士が呟く。彼の目線は、足元で呻いているレディ・エルザに向けられている。その白い喉には赤い噛み傷が残っている。
「そんな……どうしたらいいのですか!」
「人間社会に置いておくわけにはいかない。噛まれて息がある連中は――我らの村に隔離し、療養させる」
ヴァンパイアの村――そんな村が存在したとは。男は、にやり、と笑った。
「俺たちの村とは言っても、村人の三分の一は何も知らない人間だ。のこりがヴァンパイアなわけだが、純粋なヴァンパイアがのこりの半分。もう半分には、人間とヴァンパイアのハーフ、それから、他の怪物たちがいる」
想像するだに恐ろしい。ぶるり、とエラが震えた。
「おいおい。これだけ朝から人並み外れた大活躍をしておいて、その程度で震えるのか」
「仕方ないでしょう! お菓子作りだって、バッハだって、ヴァンパイア退治だって、やりたくてやったわけじゃないわ!」
自分がやらなければならないから、やっただけのこと。代わりにやってくれる人がいるなら、エラだって大人しく『レディ・ガブリエラ』のままでいただろう。
「……おい。ぼうっとするな。レディたちを、運ぶぞ」
「え? あ、ああ、そうね。あなたたちの村で過ごして……人のままだったら王都へ戻ればいいし、ヴァンパイア化したらそのまま村に住めばいい、ってことね?」
理解が早くて助かる、と、紳士は小さく頷いた。
その日、毒々しいほどの月が照らす中を、馬車が一台急いで進む。
不思議なことにその馬車は、空っぽの大きな荷車を引いていた。
「ねぇ、荷車にのせた棺桶、大丈夫なの? 山積みにしたけど紐で軽く縛っただけよ。落ちないの?」
「ああ、大丈夫だ。純血ヴァンパイアに伝わる術で固定、保護した」
「純血にハーフに……いろいろありそうね。そちらも」
エラの目には、なぜか山積みの棺桶が見えている。黒尽くめの紳士は不思議がったが、見えるのだから仕方がない。そして全ての棺桶に、噛まれたものの息のある令嬢たちが入っている。
朝になれば彼女たちはパニックになるだろうし、娘が消えたと騒ぎになるだろう。だが、人間界にヴァンパイアを放置するわけにいかない。
「――それにしても、お前……よかったのか?」
「なに?」
「あそこ、生まれ育った家、だったんだろう? 捨てていいのか?」
紳士の問いかけに、エラははっきり頷いた。
「もう、いいの。お父さまとの思い出は銃を持ってきたし、お母さまとの思い出はドレスを持ってきた。あとは三人の肖像画があるから十分よ。動物たちは遊びに来てくれるって」
「野生動物とも仲がいいのか……」
「ええ。使用人のみんなと動物たちがいてくれたから、これまで生きてこられたのだと思うわ」
大惨事が起こった館は――きっと、使用人も誰もかれもが逃げ出すだろう。建物は廃墟になるか、継母が売りに出して物好きな人が買うだろう。
「伯爵の爵位はどうなってるんだ?」
それがね、と、エラが笑った。
「王家に提出した書類上は、わたくしが女当主なの。お父さまが血族相続を申請していたから」
「ほう。ならば一生、金には困らないわけか」
「領地がちゃんと管理運営されてればね」
領地の運営を誰かに委託しなくてはならないが――それは、村に落ち着いてから考える。
馬車がゆっくりと夜道を走る。
エラは振り返ることもなかった。
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