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シーヴァニャ村にて
あれから彼女は
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「エラちゃん、ちょっと助けてくれるかい?」
「はーい、どうなさいました?」
馬車が頻繁に行き交う大きな村。
だが、のどかな村の端には黒くて威圧感のある大きな館が聳えている。その館は領主が暮らす館である。この村の領主は例の黒尽くめの紳士であり、彼はヴァンパイアたちの頭領でもあった。エラが放つ始祖の血を不審に思い、調べていたそうである。
彼は国中に散らばるヴァンパイアたちの面倒を見るため、頻繁に村を留守にする。そのため、館も放置されて荒れかけている。領主の館がそれではよくない。
「助けてくださったお礼にわたくしが館を綺麗にしますね」
「……館は好きにしろ。しばらく出かけるので留守を頼む」
「はい、わかりました」
とはいえ修繕に必要な材料を買うお金がない。
「稼げばいいのよね……」
好きにしていいと言われたのでーー。
エラは、一階の大部分を店舗へと改築し、便利屋さんを始めた。
お客は庭から店に直接入る仕組みで、初日から大判事だ。
「オリビアさんご夫妻! いらっしゃいませー!」
床に届くほど長く明るい金髪にルビーレッドの瞳、そして驚くほどの美貌の少女が、店主である。
王都育ちの伯爵令嬢ガブリエラ、愛称エラ。
彼女が、ヴァンパイアの頭領に連れられてこの村に来たときは悲壮感が彼女を覆っていた。だが、今はその影はほとんどない。
「エラちゃん……今晩急に王都から息子たちが友達を連れて来ることになってね……屋敷の掃除と夜会の用意を手伝ってくれないかい?」
フードを目深にかぶった紳士がボソボソと告げる側で、青いワンピースの夫人が頭を下げる。
「はい、構いませんよ!」
「すまないね。この村のことを知らない人間もかなりまざっているらしい。それに今時の若い人たちが何を喜ぶのかわからないんだ」
「お任せください」
御礼だよ、と金貨が手渡される。エラは丁寧にそれを受け取った。
この夫妻、長くこの村に住んでいるらしい。
夫は王都生まれの人間だが、妻はヴァンパイアでこの村で育った。どういった経緯で結婚したのかは知らないが、二人はたくさんの子宝にも恵まれた。
彼らの子供たちは人間とヴァンパイア両方の血を引いているのだが、みな王都で就職や結婚をし、人間として暮らしている。
どうやら人間の血が入るとヴァンパイアの能力は変化するらしく、能力が強化されることもあれば、反対に大きく欠落することもある。それは、この世に生まれてみなければわからない。
夫妻の子供たちは全員男の子だが、ヴァンパイアとしての能力がごっそり欠落したタイプだった。見た目は普通の人間より美形で多少便利な術が使える程度、王都暮らしが可能である。その息子たちが、何を思ったのか友だちや妻子を連れて急に里帰りしてくるのである。
「あの、お孫さまもヴァンパイアの血を引いているのですよね。能力の方は……」
「8人孫がいるが、1人明らかに強化された強烈なのがいてねぇ……」
夫人がため息をつく。
「騒動が起きる前に、この村に引き取らなくてはならないだろうね」
騒動。
それは主にヴァンパイアが人を襲うことを言う。エラが住んでいた屋敷で、夜会に紛れ込んだヴァンパイアが令嬢を襲ったように。
この国のヴァンパイアは基本、無闇矢鱈に人を襲うことはない。遥かかなたに人間とヴァンパイア族との間でそのように決められたとのことだ。見境なく人を襲えば王都はパニックに陥り、ヴァンパイアが討伐の対象となり人間と不仲になる。共存が不可能になってしまう。ゆえに、この国のヴァンパイアたちは人間の血を吸わなくとも生きていける。
それでもたまには、吸血する。血の渇望には逆らえない。その時は相手を殺さないしヴァンパイア化しないよう術を使うのも忘れない。
「夕方、わたくしともう1人……レディ・ディアナかレディ・シャイリーンのどちらかとお手伝いに行きますね」
ありがとう、と夫妻は頭を下げた。
「事情を把握している若く美しいお嬢さんが来てくれると助かる」
「彼女たちも、小規模とはいえ夜会に参加と聞いたら張り切ると思うのです」
「そうだろうねぇ。ここには楽しみはほとんどないから」
エラがあげた名前はーー例の襲撃の被害者である。命が助かったもののヴァンパイア化してしまい、王都での暮らしがままならないと判断されたレディたちだ。
いまは、この村で、純血のヴァンパイアたちの保護のもと暮らしている。
いきなり生家や社交界から引き離されて寂しくないはずがない。だが彼女たちはヴァンパイア化を理解して受け入れて、能力や血の渇望をコントロールしなければならない。それはヴァンパイアたちから直接学ぶしかない。
あの日の襲撃はーー予定外のものだったらしい。
王都で暮らしてるヴァンパイアを訪ねていった村のヴァンパイアたちが勝手に夜会に参加した。
処女の血の匂いと、その屋敷に漂う始祖の血の匂いに悪酔いし、理性をなくして人間を襲った。
ーーまさかわたくしに始祖の血が流れているなんて……
「はーい、どうなさいました?」
馬車が頻繁に行き交う大きな村。
だが、のどかな村の端には黒くて威圧感のある大きな館が聳えている。その館は領主が暮らす館である。この村の領主は例の黒尽くめの紳士であり、彼はヴァンパイアたちの頭領でもあった。エラが放つ始祖の血を不審に思い、調べていたそうである。
彼は国中に散らばるヴァンパイアたちの面倒を見るため、頻繁に村を留守にする。そのため、館も放置されて荒れかけている。領主の館がそれではよくない。
「助けてくださったお礼にわたくしが館を綺麗にしますね」
「……館は好きにしろ。しばらく出かけるので留守を頼む」
「はい、わかりました」
とはいえ修繕に必要な材料を買うお金がない。
「稼げばいいのよね……」
好きにしていいと言われたのでーー。
エラは、一階の大部分を店舗へと改築し、便利屋さんを始めた。
お客は庭から店に直接入る仕組みで、初日から大判事だ。
「オリビアさんご夫妻! いらっしゃいませー!」
床に届くほど長く明るい金髪にルビーレッドの瞳、そして驚くほどの美貌の少女が、店主である。
王都育ちの伯爵令嬢ガブリエラ、愛称エラ。
彼女が、ヴァンパイアの頭領に連れられてこの村に来たときは悲壮感が彼女を覆っていた。だが、今はその影はほとんどない。
「エラちゃん……今晩急に王都から息子たちが友達を連れて来ることになってね……屋敷の掃除と夜会の用意を手伝ってくれないかい?」
フードを目深にかぶった紳士がボソボソと告げる側で、青いワンピースの夫人が頭を下げる。
「はい、構いませんよ!」
「すまないね。この村のことを知らない人間もかなりまざっているらしい。それに今時の若い人たちが何を喜ぶのかわからないんだ」
「お任せください」
御礼だよ、と金貨が手渡される。エラは丁寧にそれを受け取った。
この夫妻、長くこの村に住んでいるらしい。
夫は王都生まれの人間だが、妻はヴァンパイアでこの村で育った。どういった経緯で結婚したのかは知らないが、二人はたくさんの子宝にも恵まれた。
彼らの子供たちは人間とヴァンパイア両方の血を引いているのだが、みな王都で就職や結婚をし、人間として暮らしている。
どうやら人間の血が入るとヴァンパイアの能力は変化するらしく、能力が強化されることもあれば、反対に大きく欠落することもある。それは、この世に生まれてみなければわからない。
夫妻の子供たちは全員男の子だが、ヴァンパイアとしての能力がごっそり欠落したタイプだった。見た目は普通の人間より美形で多少便利な術が使える程度、王都暮らしが可能である。その息子たちが、何を思ったのか友だちや妻子を連れて急に里帰りしてくるのである。
「あの、お孫さまもヴァンパイアの血を引いているのですよね。能力の方は……」
「8人孫がいるが、1人明らかに強化された強烈なのがいてねぇ……」
夫人がため息をつく。
「騒動が起きる前に、この村に引き取らなくてはならないだろうね」
騒動。
それは主にヴァンパイアが人を襲うことを言う。エラが住んでいた屋敷で、夜会に紛れ込んだヴァンパイアが令嬢を襲ったように。
この国のヴァンパイアは基本、無闇矢鱈に人を襲うことはない。遥かかなたに人間とヴァンパイア族との間でそのように決められたとのことだ。見境なく人を襲えば王都はパニックに陥り、ヴァンパイアが討伐の対象となり人間と不仲になる。共存が不可能になってしまう。ゆえに、この国のヴァンパイアたちは人間の血を吸わなくとも生きていける。
それでもたまには、吸血する。血の渇望には逆らえない。その時は相手を殺さないしヴァンパイア化しないよう術を使うのも忘れない。
「夕方、わたくしともう1人……レディ・ディアナかレディ・シャイリーンのどちらかとお手伝いに行きますね」
ありがとう、と夫妻は頭を下げた。
「事情を把握している若く美しいお嬢さんが来てくれると助かる」
「彼女たちも、小規模とはいえ夜会に参加と聞いたら張り切ると思うのです」
「そうだろうねぇ。ここには楽しみはほとんどないから」
エラがあげた名前はーー例の襲撃の被害者である。命が助かったもののヴァンパイア化してしまい、王都での暮らしがままならないと判断されたレディたちだ。
いまは、この村で、純血のヴァンパイアたちの保護のもと暮らしている。
いきなり生家や社交界から引き離されて寂しくないはずがない。だが彼女たちはヴァンパイア化を理解して受け入れて、能力や血の渇望をコントロールしなければならない。それはヴァンパイアたちから直接学ぶしかない。
あの日の襲撃はーー予定外のものだったらしい。
王都で暮らしてるヴァンパイアを訪ねていった村のヴァンパイアたちが勝手に夜会に参加した。
処女の血の匂いと、その屋敷に漂う始祖の血の匂いに悪酔いし、理性をなくして人間を襲った。
ーーまさかわたくしに始祖の血が流れているなんて……
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