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シーヴァニャ村にて
想定外は続く
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日が傾き始めるのにあわせて村は徐々に活気に満ちてくる。しかしそれでは村の三分の一ほどを占める生粋の人間に不振がられてしまうため、必死で人間の真似をして普通の村を維持している。だが、生粋のヴァンパイアたちが生き生きしてしまうのだ。習性なのだから仕方がない。
そんな中、オリビア夫妻の屋敷に馬車が続々と到着する。
「え!? ものすごい馬車の数ですけれど全部お子様ですか?」
ドレスにエプロン姿で料理の指揮をとっていたエラがあわててオリビア夫妻のところへ走る。窓から見える村への道が、立派な馬車が連なって渋滞しているのだ。エラが慌てるのも当然だった。
違う違う、と、夫妻は揃って首を横に振る。
「あなた、うちの息子たちは想定外のバカなのかもしれませんね……」
「……そうかもしれん。いろいろ失敗したな……あいつらを王都に出すんじゃなかった……」
両親が真っ青になるのも無理はない。
ヴァンパイアだらけの村に、非ヴァンパイアの若い女性を山のように連れ込むとは何を考えているのか。
「エラちゃん……悲劇を防ぐ手立ては何かあるかい……?」
少し考えて、エラははっきり頷いた。
「いよいよヤバくなったらわたくしが制圧します」
任せて! と力瘤を作って見せるエラは逞しい。逞しすぎて心配になる。
「あの……制圧というのは始祖の力で、ですわよね? 可憐なレディが腕力にものを言わせたり武器を手にしたり……なんて、なさらないわよね?」
夫人の言葉に、え、とエラの目が泳いだ。後ろ手に持っていたハンマーをすかさず遠くに放り投げる。ガラガラがしゃん! と賑やかな音がしてすぐにバレてしまった。
「レディ!」
夫人がす
「だ、大丈夫です! わたくしも年頃のレディですから……社交界で恥ずかしくないレディらしくいたします」
「お願いしますね、レディ。ヴァンパイア村のレディははしたない、なんて噂が立っては大変ですから」
気をつけます、と、エラは頷いた。
「よし! 人数分のお料理の仕上げと……ダンスホールの飾りつけもしなくちゃいけないですね」
「ダンスは我が家の大広間で、と思っていたがあの人数は入らないだろう」
「……でしたら……領主の館の大広間を使いましょう! 何年も使ってないみたいだけどきっと大丈夫!」
その手があったか、と、三人は領主の館へと移動した。
日頃は長閑な村が俄に活気付く。
若い村人たちが王都からのお客を見てソワソワする。
「飛び込み参加可能にしましょうか」
夫人の提案にエラがクスクス笑いながら頷いた。
が。
想定外の出来事というものは、いつでも起こる。
エラが大広間の扉をひょいと開けた瞬間、夫妻とエラはその場に棒立ちになってしまった。
「な……?」
「……大変、ドア閉めて!」
真っ先に我に返った夫人が、細腕でドアを閉じる。夫も慌てて手伝うものの、黒い木ではなく岩で作られたのかと思うほどに重たい扉はなかなか動いてくれない。たちまち夫妻の顔は真っ赤になり額に汗が浮かぶ。それでもじわり、じわり、としか動かない。
「エラ、ちゃん……手伝って、くれ……」
「扉が……重たくて……」
「あ、ごめんなさい」
ーーぱたん。
「…………」
「…………」
「あ、あなた、これは始祖の力ですよ。レディが怪力というわけではないのです。ほら、顎が落ちてましてよ」
「そう言うお前も呆れ顔だぞ。おまえは同じヴァンパイアなのに、こんな力はないな」
「わたくし固有の力は治癒だけよ」
唖然とする夫妻のそばに、エラがすっと歩み寄る。
「あの。ヴァンパイアとゾンビは仲間なのですか?」
いいえ、と、夫人が首を横に振る。
「互いに夜行性ですけれど、あちらはとにかく凶暴です。一部のゾンビは人として暮らしているようですが、大半のゾンビは理性が働くことはまずないでしょう。手当たり次第に獲物を襲うので、我々も被害に遭うことがありますわ」
ヴァンパイアを襲うゾンビ。なかなか恐ろしいシチュエーションである。
さすがにエラの顔が曇った。
「あの、ゾンビに襲われたらどうなるのでしょう?」
「そうだな……大抵は人間が襲われるわけだが、襲われた人間はゾンビ化する。が、その過程で耐えられなくて灰になる
「それに耐えられた生き物がゾンビになるわけですね……」
ならばゾンビ化したヴァンパイアに噛まれた人間はどうなるのだろう……と思わなくもないが、大惨事しか招かない存在は消すに限る、とさっさと結論を下す。
「レディ、決定的な違いもありましてよ。我々は昼間も活動しますが、ゾンビ一族は昼間に動くことはありません。明るいところだと目が見えないようなのです」
「だから、黒尽くめの部屋にゾンビが住み着いたのね! これはシャンデリアひとつ付けずにいた領主の責任よ! 成敗してくれる!」
夫妻は慌てた。どうやってゾンビを退治するのか。しかもエラは素手である。殴ってどうにかなる相手ではない。
「レディ! どうやって退治するおつもりですかー!」
「えっと、ポイっ! と捨てればいっかな、って……」
どこへ! と、夫妻の悲鳴が重なった。
そんな中、オリビア夫妻の屋敷に馬車が続々と到着する。
「え!? ものすごい馬車の数ですけれど全部お子様ですか?」
ドレスにエプロン姿で料理の指揮をとっていたエラがあわててオリビア夫妻のところへ走る。窓から見える村への道が、立派な馬車が連なって渋滞しているのだ。エラが慌てるのも当然だった。
違う違う、と、夫妻は揃って首を横に振る。
「あなた、うちの息子たちは想定外のバカなのかもしれませんね……」
「……そうかもしれん。いろいろ失敗したな……あいつらを王都に出すんじゃなかった……」
両親が真っ青になるのも無理はない。
ヴァンパイアだらけの村に、非ヴァンパイアの若い女性を山のように連れ込むとは何を考えているのか。
「エラちゃん……悲劇を防ぐ手立ては何かあるかい……?」
少し考えて、エラははっきり頷いた。
「いよいよヤバくなったらわたくしが制圧します」
任せて! と力瘤を作って見せるエラは逞しい。逞しすぎて心配になる。
「あの……制圧というのは始祖の力で、ですわよね? 可憐なレディが腕力にものを言わせたり武器を手にしたり……なんて、なさらないわよね?」
夫人の言葉に、え、とエラの目が泳いだ。後ろ手に持っていたハンマーをすかさず遠くに放り投げる。ガラガラがしゃん! と賑やかな音がしてすぐにバレてしまった。
「レディ!」
夫人がす
「だ、大丈夫です! わたくしも年頃のレディですから……社交界で恥ずかしくないレディらしくいたします」
「お願いしますね、レディ。ヴァンパイア村のレディははしたない、なんて噂が立っては大変ですから」
気をつけます、と、エラは頷いた。
「よし! 人数分のお料理の仕上げと……ダンスホールの飾りつけもしなくちゃいけないですね」
「ダンスは我が家の大広間で、と思っていたがあの人数は入らないだろう」
「……でしたら……領主の館の大広間を使いましょう! 何年も使ってないみたいだけどきっと大丈夫!」
その手があったか、と、三人は領主の館へと移動した。
日頃は長閑な村が俄に活気付く。
若い村人たちが王都からのお客を見てソワソワする。
「飛び込み参加可能にしましょうか」
夫人の提案にエラがクスクス笑いながら頷いた。
が。
想定外の出来事というものは、いつでも起こる。
エラが大広間の扉をひょいと開けた瞬間、夫妻とエラはその場に棒立ちになってしまった。
「な……?」
「……大変、ドア閉めて!」
真っ先に我に返った夫人が、細腕でドアを閉じる。夫も慌てて手伝うものの、黒い木ではなく岩で作られたのかと思うほどに重たい扉はなかなか動いてくれない。たちまち夫妻の顔は真っ赤になり額に汗が浮かぶ。それでもじわり、じわり、としか動かない。
「エラ、ちゃん……手伝って、くれ……」
「扉が……重たくて……」
「あ、ごめんなさい」
ーーぱたん。
「…………」
「…………」
「あ、あなた、これは始祖の力ですよ。レディが怪力というわけではないのです。ほら、顎が落ちてましてよ」
「そう言うお前も呆れ顔だぞ。おまえは同じヴァンパイアなのに、こんな力はないな」
「わたくし固有の力は治癒だけよ」
唖然とする夫妻のそばに、エラがすっと歩み寄る。
「あの。ヴァンパイアとゾンビは仲間なのですか?」
いいえ、と、夫人が首を横に振る。
「互いに夜行性ですけれど、あちらはとにかく凶暴です。一部のゾンビは人として暮らしているようですが、大半のゾンビは理性が働くことはまずないでしょう。手当たり次第に獲物を襲うので、我々も被害に遭うことがありますわ」
ヴァンパイアを襲うゾンビ。なかなか恐ろしいシチュエーションである。
さすがにエラの顔が曇った。
「あの、ゾンビに襲われたらどうなるのでしょう?」
「そうだな……大抵は人間が襲われるわけだが、襲われた人間はゾンビ化する。が、その過程で耐えられなくて灰になる
「それに耐えられた生き物がゾンビになるわけですね……」
ならばゾンビ化したヴァンパイアに噛まれた人間はどうなるのだろう……と思わなくもないが、大惨事しか招かない存在は消すに限る、とさっさと結論を下す。
「レディ、決定的な違いもありましてよ。我々は昼間も活動しますが、ゾンビ一族は昼間に動くことはありません。明るいところだと目が見えないようなのです」
「だから、黒尽くめの部屋にゾンビが住み着いたのね! これはシャンデリアひとつ付けずにいた領主の責任よ! 成敗してくれる!」
夫妻は慌てた。どうやってゾンビを退治するのか。しかもエラは素手である。殴ってどうにかなる相手ではない。
「レディ! どうやって退治するおつもりですかー!」
「えっと、ポイっ! と捨てればいっかな、って……」
どこへ! と、夫妻の悲鳴が重なった。
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