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シーヴァニャ村にて
シソの味
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「大丈夫ですよ、わたくしには始祖の力があります!」
ふんっ! と力瘤を作って見せるエラは頼もしい。
「しかし、東棟の状態を見なくてはならないね。今から行こう」
「はい」
二人連れ立って廊下を歩く。話題はもちろん、夜会のことである。
「ガブリエラ、そろそろダンスの曲目を変えたいんだが何がいいだろうか」
「なら、ぜひ、ワルツを減らしてください」
「ん? 減らすのかい?」
「はい……」
ゆらり、エラの体が怪しく揺れた。妖気のようなものがドロドロと流れる。
「ど、どうしたのかな……?」
「ワルツでレディとぴったりくっついて発情するヴァンパイアが後をたちません。紫蘇ジュースがね、足らないんですよぉ……」
「紫蘇ジュース!?」
「人間の令嬢に噛みつこうとした不埒者に、鼻から飲ませるんです」
頭領は思わず己の鼻をおさえた。想像するだに痛い。
「わたくし、令嬢が噛みつかれる前に電流流してバカの頭と下半身に集まった血を下げるんですけど、たいてい、始祖って口走るんです」
「あ、あー……レディたちがシソ? と聞き返すわけだ」
もはや定番の問答と言っていい。聞き慣れない単語を復唱するのは不思議でもなんでもない。そして紫蘇ジュースを取り出してその場を取り繕い、鼻から飲ませてお仕置きとする。
「ところでガブリエラ、我が館に、紫蘇はそんなに備蓄してないと思うんだが……」
「はい、足らないので育成中です」
ん? と、頭領の足が止まり、顔色が悪くなった。
「も、もしかして……」
「はい?」
「ぎゃーっ、俺の自慢のハーブ園が紫蘇園になってる」
はい、と、エラは満面の笑み。対して、頭領の方は、しばらくその場で打ちひしがれていたとかーー。
「わたくしの父が紫蘇ジュースが好きで……そのレシピを思い出して作ったら、人間に好評だったのです」
コレどうぞ、と、ワイングラスに注がれた紫蘇ジュースを渡された。機械的にテイスティングをし、紫蘇ジュースであると確認した頭領は、再び元ハーブ園を見た。
紫蘇がびっしりである。
「こんなに紫蘇ばかり……」
「紫蘇ジュースはこの村の名物ですから」
「な、なんだと!?」
ふふ、と、エラは嬉しそうに笑う。
大量に生産して瓶に詰め便利屋で売ってみたところ発売即完売、予約もびっしり、村の新名物になりつつある。
「領主さま、これを王都で売れば村の収入になりますよ。民からの税だけでやり繰りするより楽になると思いますーー領主さま? おーい、領主さま、頭領……?」
目玉を見開いたまま気絶したのか。呼んでも揺すっても動かない。
「んもうっ! 返事しないとキスしちゃうぞ!」
ずいっ、と顔を近付ける。
あら近くで見ればかなりキレイな顔だわね、と、思いながらさらに唇を近付ける。
「領主さま、いいのですね?」
あと少しで唇が触れるが、それでも領主は動かない。
「なんだ、つまんなーい……」
エラがはなれようとした瞬間。
「!?」
唇が塞がれた。しばらくして、そっと離れていく頭領の唇。
「ごちそうさま。紫蘇ジュースは紫蘇味だが、こちらのシソはずいぶんと美味そうだ……」
「と、頭領!?」
「俺を誘惑するということは食べて構わないという意思表示だろう?」
違います、と、エラは慌てて叫ぶ。
「オトナを揶揄うとはいい度胸だ……だが、もっと慎重にしないとね。やり直し」
仕上げに耳元で囁かれ、エラ完敗。真っ赤になってその場にへなへなと崩れ落ちてしまった。
「や、やり直しって何よ! わたくしは頭領を誘ったわけではなくてよ!」
頬を膨らませるエラの横で、頭領はくすくす笑っていた。
その後、気を取り直した頭領と、東棟を目指す。もやもやがおさまらず黙って歩いていたエラが、急に空を指差して立ち止まった。
「どうした?」
「頭領! 未確認生物が接近中です」
「なに?」
「ほら、あそこ! 上空に黒い点が」
頭領の目がぐっと細められた。なんらかの力を使ったのがエラにはわかった。
「大変だ……敵襲! エラ、純血種を野外ダンスフロアへ呼び集めろ! 純粋な人間は全員この館の地下へ避難だ!」
「はい!」
ふんっ! と力瘤を作って見せるエラは頼もしい。
「しかし、東棟の状態を見なくてはならないね。今から行こう」
「はい」
二人連れ立って廊下を歩く。話題はもちろん、夜会のことである。
「ガブリエラ、そろそろダンスの曲目を変えたいんだが何がいいだろうか」
「なら、ぜひ、ワルツを減らしてください」
「ん? 減らすのかい?」
「はい……」
ゆらり、エラの体が怪しく揺れた。妖気のようなものがドロドロと流れる。
「ど、どうしたのかな……?」
「ワルツでレディとぴったりくっついて発情するヴァンパイアが後をたちません。紫蘇ジュースがね、足らないんですよぉ……」
「紫蘇ジュース!?」
「人間の令嬢に噛みつこうとした不埒者に、鼻から飲ませるんです」
頭領は思わず己の鼻をおさえた。想像するだに痛い。
「わたくし、令嬢が噛みつかれる前に電流流してバカの頭と下半身に集まった血を下げるんですけど、たいてい、始祖って口走るんです」
「あ、あー……レディたちがシソ? と聞き返すわけだ」
もはや定番の問答と言っていい。聞き慣れない単語を復唱するのは不思議でもなんでもない。そして紫蘇ジュースを取り出してその場を取り繕い、鼻から飲ませてお仕置きとする。
「ところでガブリエラ、我が館に、紫蘇はそんなに備蓄してないと思うんだが……」
「はい、足らないので育成中です」
ん? と、頭領の足が止まり、顔色が悪くなった。
「も、もしかして……」
「はい?」
「ぎゃーっ、俺の自慢のハーブ園が紫蘇園になってる」
はい、と、エラは満面の笑み。対して、頭領の方は、しばらくその場で打ちひしがれていたとかーー。
「わたくしの父が紫蘇ジュースが好きで……そのレシピを思い出して作ったら、人間に好評だったのです」
コレどうぞ、と、ワイングラスに注がれた紫蘇ジュースを渡された。機械的にテイスティングをし、紫蘇ジュースであると確認した頭領は、再び元ハーブ園を見た。
紫蘇がびっしりである。
「こんなに紫蘇ばかり……」
「紫蘇ジュースはこの村の名物ですから」
「な、なんだと!?」
ふふ、と、エラは嬉しそうに笑う。
大量に生産して瓶に詰め便利屋で売ってみたところ発売即完売、予約もびっしり、村の新名物になりつつある。
「領主さま、これを王都で売れば村の収入になりますよ。民からの税だけでやり繰りするより楽になると思いますーー領主さま? おーい、領主さま、頭領……?」
目玉を見開いたまま気絶したのか。呼んでも揺すっても動かない。
「んもうっ! 返事しないとキスしちゃうぞ!」
ずいっ、と顔を近付ける。
あら近くで見ればかなりキレイな顔だわね、と、思いながらさらに唇を近付ける。
「領主さま、いいのですね?」
あと少しで唇が触れるが、それでも領主は動かない。
「なんだ、つまんなーい……」
エラがはなれようとした瞬間。
「!?」
唇が塞がれた。しばらくして、そっと離れていく頭領の唇。
「ごちそうさま。紫蘇ジュースは紫蘇味だが、こちらのシソはずいぶんと美味そうだ……」
「と、頭領!?」
「俺を誘惑するということは食べて構わないという意思表示だろう?」
違います、と、エラは慌てて叫ぶ。
「オトナを揶揄うとはいい度胸だ……だが、もっと慎重にしないとね。やり直し」
仕上げに耳元で囁かれ、エラ完敗。真っ赤になってその場にへなへなと崩れ落ちてしまった。
「や、やり直しって何よ! わたくしは頭領を誘ったわけではなくてよ!」
頬を膨らませるエラの横で、頭領はくすくす笑っていた。
その後、気を取り直した頭領と、東棟を目指す。もやもやがおさまらず黙って歩いていたエラが、急に空を指差して立ち止まった。
「どうした?」
「頭領! 未確認生物が接近中です」
「なに?」
「ほら、あそこ! 上空に黒い点が」
頭領の目がぐっと細められた。なんらかの力を使ったのがエラにはわかった。
「大変だ……敵襲! エラ、純血種を野外ダンスフロアへ呼び集めろ! 純粋な人間は全員この館の地下へ避難だ!」
「はい!」
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