その伯爵令嬢(ヴァンパイアの始祖の血を引いているので)万能につき

鋼雅 暁

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シーヴァニャ村にて

彼女の敵は

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「下がれ! 村人を守るんだ!」
 村に、領主の命令が響く。その声にあわせて、純血種たちが走る。

 エラの見たとおり、未確認飛行物体が村へぐんぐん接近、それらはゆったりと着地した。
「きゃあ」
 悲鳴が上がった。獣は、着地するなり屈強な前脚を振り回し、村人数人をまとめて引き裂いた。
「大変!」
 唖然とするエラをおしのけ、咄嗟に回復魔法をかける純血種。
 非力な村人ーーつまり純然たる人間はほぼ全員、種族関係なく女性や子供たちーーは、レディ・ディアナとレディ・シャイリーンに導かれて急いで領主の館へ避難し、戦闘力になるはずの成人男性のヴァンパイアたちは爪や牙を研いで領主のもとへ集う。
「頭領……これは……」
「我らの天敵の来襲かと思いましたが……」
「油断するな、この村を襲った敵に違いはない」
 領主の言葉に一同、表情を引き締める。なにせ、敵意は剥き出しであるものの、襲ってきた彼らのターゲットが、ヴァンパイアたちなのか人間たちなのか、それがわからない。
「だが、種族関係なく村人は守る
。それが王家から伯爵位を賜った俺の仕事だ」
 そういいながら、頭領が腰の細い剣を抜いた。王家から拝領の剣である。領主としての覚悟が垣間見える。
「へぇ……顔つきもかわるのね」
 すぐ側で見ていたエラは、ほんの少しだけ彼に見惚れた。

 村の教会前広場に降りたのは、二頭の巨大な獣だった。
 立派な鬣は妖気で靡き、四肢は瑞雲で隠れている。明らかに格の高い、化け物ライオンである。
「成人男性と同じくらいの体高ってのも驚きだけど、ライオンに翼がはえてるとかおかしいわよね……」
 エラが知るライオンは、地面を走る肉食獣である。このライオンの足は地面から浮いているのだ。
 エラの目が丸くなってまじまじと見つめ、今にも撫でそうな勢いである。
「ガブリエラ、気をつけろ!」
「わかってます。こんなの、もふもふしてても可愛くないからあんまり飼う気になれません」
 飼えるかーっ! と、背後でヴァンパイアたちが合唱する。
「そうかなぁ……」
 エラの言葉がわかったのか、ライオンたちがそれぞれ唸りを上げた。
「小娘! 我らを飼うとは笑止」
「あれ、喋れるんですね。失礼しました。わたくし、この村の領主の養女であるガブリエラと申します」
「貴様らに名乗る名はない。この地を返してもらいに来た」
 と、若干赤味が強い毛のライオンが吠える。
「え? それはどういう意味ですか?」
「この地はかつて、太古の昔、我らの土地であった。人が我らより奪いし土地。返してもらう」
 二頭の獣が、ぐるると低く唸って交互に飛びかかってきた。
「あらあら。友好的に、とは行かなさそうね……」
 くるり、と、エラが背後を振り返った。
「この空飛ぶライオン……わたくしが退治してもよろしくて?」
 え、と、頭領は焦った。エラが、始祖の血を引いているためあらゆる意味で強いのは知っている。純血種ですら使えない不思議な力も備えているようである。だが、始祖の力が化け物ライオンに通用するのかは不明、化け物ライオンの強さも不明。心配するな、という方が無理だろう。
「エラーー俺も共に戦おう」
「でも領主さまに何かあっては……」
「心配無用、俺は、剣と術には定評がある」
 エラは、自分と頭領に術をかけた。
「筋力、体力、防御力、攻撃力をあげましたーーはい、この戦い勝てます」
「わかるぞ……これはすごい!」
 エラはいつの間にか近くの木の枝を折り、武器としている。
「さぁ、来なさい」
 
 そんな棒切れでーー。
 と、誰もが思った。見たところ、棒に強化は施されていない。が、エラはお構いなしで棒をブンブン振り回す。とりゃー! と、伯爵令嬢らしからぬ気合いはもはやお馴染みだ。誰に棒術を習ったのか、など気にしてはいけない。
 ライオンたちは隙を見てはヴァンパイアたちに飛びかかる。そのたびに血が流れる。
「許さない!」
「生意気な女……ん!?」
「わたくしに逆らうとはいい度胸ですわ!」
 怒気を闘気へと変換したエラが舞うように闘う。着ているブルーのスカートが軍旗のようにはためいて綺麗ですらある。
 棒がしなり、ライオンの攻撃はほとんどが無効化している。
「空中戦もこなしてしまうのか」
 剣でライオンを牽制しながら戦況を見守る頭領が苦笑いを浮かべた。エラの棒が光ったり効果音が鳴らないのがいっそ不思議なくらいである。
 ライオンも、エラにどれだけ攻撃をかわされようとも諦めずに牙や爪、雷撃を繰り出す。
「エラ、もう片方は炎を吐くぞ、気をつけろっ!」
「はいっ!」
 炎を吐くために口をあけたライオンは鼻柱をエラにぶっ叩かれ、エラを薙ぎ倒そうと前脚を振り上げたもう一頭は頭領の剣に阻まれる。
「エラ、背中が無防備だぞ」
「頭領! ありがとうございます」
 にっこり笑うエラは、頭領の応援のおかげで力を得たらしい。翼こそ生えていないが、村を襲われた怒りと驚異のジャンプ力で、人並み外れた空中滞在時間を生んでいる。

 こうして二頭のライオンは、エラの支配下に置かれてしまった。広場に横倒しになってしまった二頭は首輪と首紐をつけられ、矜持をへし折られ、エラに降ったらしかった。
「なかなか手強い敵でしたわ」
「そ、そうかい……無事でなにより」
 汗をかいて多少の傷はあるがケロッとしている。二頭のライオンは彼女の敵ではなかったらしい。

 二頭のライオンを従えたエラを見た住人がぽつりと呟いた。
「イシュタルさまみたいね……」
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