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シーヴァニャ村にて

彼女の敵は リプライズ1

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「下がれ! 村人を守るんだ!」
 村に、領主の命令が響く。その声にあわせて、純血種たちが次々と術を放つ。
 ある者は村に保護シールドを展開し別の者がそれを強化する。
 さらに別の人々は、エラに術をかけた。

「ちょっと! どうしてわたくしに、弱体化や拘束の術をかけるの!」
 答えるものはない。

 翌日再び、未確認飛行物体が村へぐんぐん接近した。それらはかなり荒っぽく着地した。引いていた筐体が激しく揺れて扉がバタバタ鳴る。
「きゃあ」
「ぎゃっ!」
「うわわっ……」
 女性の悲鳴が3つ上がった。獣は、着地するなり屈強な四肢を振り回し、引いていた車両を外してしまったた。よほど重たかったのだろう。
「大変!」
 思わぬ事態に唖然とするエラをおしのけ、咄嗟に回復魔法を獣たちにかける純血種。
「わたくしたちを、助けなさい。ふん、無礼な村だね。まったくお前を引き取ろうとする物好きが統治しているだけのことはあるね」
 エラが慌てて招かれざる客を見る。
「ご安心ください。見たところ傷一つありませんわ……」
 その間に、非力な村人ーーつまり純然たる人間はほぼ全員、種族関係なく女性や子供たちーーは、レディ・ディアナとレディ・シャイリーンに導かれて急いで領主の館へ避難し、成人男性のヴァンパイアたちは漏れなく美形なので、エラの指図で館へと退避。
 その場に残ったのは、エラと頭領と数名の村人。
「大きな村だこと。舞踏会の会場はどこだい? うまくすれば子作りまでこなせると聞いたよ」
 大きな鳥の羽を頭にさした中年女性が大声で叫び、彼女の実の娘二人は流石に顔を赤らめている。
「頭領……これはどういうことでしょう……」
 エラが、頭領の腕にそっと己の手を置いた。
「今度こそ我らの天敵の来襲かと思ったが……」
 頭領が、エラを心配そうに見つめる。
「頭領、エラさま、この者たちはーー純粋な人間三人、伯爵夫人とその娘たちとのことですが……」
「ああ、相違ない。だが油断するな、エラが暴発するかもしれない」
 領主の言葉に一同、表情を引き締める。なにせ、黙ってはいるがエラの敵意は剥き出しである。だが、訪問者たちのターゲットが、ヴァンパイアたちなのか人間たちなのか、それがわからない。

 とはいえ三人は一応、招待状を持っているので、レディ・ディアナとレディ・シャイリーンが宿へと案内していく。
 三人は、そのレディ二人がかつて起こった己の館での大惨事の被害者だとは気付いていないようであった。エラが首を傾げる。
「……おかあさまたちは……あの事件を忘れたのかしら?」
 はい、と、近くにいた純血種の青年が頷いた。
「あまりに気の毒で凄惨な事件だったので、あの三人と、夜会参加者の記憶は改竄してあります」
「ではおかあさまたちは、わたくしのことは……?」
「夜会でこの村の領主と出会い、子どもがない領主が養女として迎えたことになっています」
 しかし見た目が変わったことはどう説明すれば良いのだろうか。輝くような金髪は非常に明るい白に近い金髪になり、何より赤い目に変化した。始祖の力が解放されるにつれ、エラの容姿も変わっている。
「さっきの様子じゃ、きみに気付いたが容姿の変化は気にしていない。このままでも構わないと思うよ」
 はい、と、エラは俯く。また、あの理不尽な要求に応えなければならないのかと思うと気が滅入る。
「種族関係なく村人は守る。それが王家から伯爵位を賜った俺の仕事だからな」
 そういいながら、頭領がエラの身体を抱き寄せた。
「領主さま?」
「今のお前は俺の養女、お前も守る対象だ。もしお前を傷つけるようなら即座にお引き取りいただく」
「だ、だめですよ! 領主さまは伯爵、おかあさまは伯爵夫人ーーおかあさまが社交界で、ないことないこと言いふらしてスキャンダルになってしまう!」
「気にするな。そんなもの数年もすれば消え去るし、数十年もすれば貴族など顔ぶれがかわるさ。だから俺は醜聞を恐れはしない」
「へぇ……領主さま、顔つきもかわるのね」
「驚いたか?」
 すぐ側で見ていたエラは、ほんの少しだけ彼に見惚れた。頼もしいとさえ思った。
「領主さま……ありがとうございます」
「お? 珍しく素直だな」
 はい、と、エラが笑った。
「わたくしが、この村で自分らしく暮らせるのは引き取ってくださった領主さまのおかげですから」
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