その伯爵令嬢(ヴァンパイアの始祖の血を引いているので)万能につき

鋼雅 暁

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シーヴァニャ村にて

彼女の敵は リプライズ2

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 その日、サブのダンスホールである村の教会前広場に降りたのは、二頭の巨大な獣ーーアンジェラとミカエラ姉妹。
 立派な体格なのは相変わらず、結婚したいという焦りが妖気となり渦巻き、化け物のようになっている。
「成人男性はどこ?」
「さぁ、エラ、仕事よ。わたくしたちを磨き上げなさい」
 エラが知る二人と、目の前の二人、何も変わってはいない。
 相変わらず白粉をはたき過ぎであるし、髪も盛りすぎである。エラが手伝わなくなったぶん、諸々酷くなっている。
 これで結婚相手探しとは……エラの目が丸くなってまじまじと見つめる。
「ガブリエラ、大丈夫かい?」
 ふいに、頭の中に頭領の声がした。
「見た目よりも中身が問題ありまくりなので誰かに紹介する気はありません。あ……多少なら吸血しても死なないと思うので、吸血用として飼いますか?」
 飼えるかーっ! と、背後でヴァンパイアたちが合唱する。
「そうかなぁ……少し前まで食用に飼ってたみたいなのに……」

 この村に、生贄として近隣の村から少女たちが差し出されていた記録がある。彼女たちを差し出すから他の人間を襲わない、人間を襲わないからヴァンパイア狩をしないーーという協定だったらしい。それでも人間の血は足らないし、生贄は人道的とは言い難い。ヴァンパイアたちは人間の血に似たドリンクを開発し、協定は残っているものの生贄は廃止された。
「飼育すら拒否されるなんてね……」

 エラの言葉がわかったのか、義姉たちがそれぞれ唸りを上げた。
「エラ! はやく磨きなさい。遅れをとってしまうわ」
「あ、失礼しました。えっと……お白粉多めと髪はクルクル……」
「そうよ、忘れていなかったのね」
 と、そばかすとなぜか傷が増えた獣が吠える。
「一つ残らず消すのよ!」
 大変な厚化粧になるな、と、エラは思う。
「さぁ、髪はどこで整えるの? はやくなさい。相変わらずなんだから……」
「ごめんなさい、お義姉さま」
 反射的に言葉が飛び出してくる。二頭の獣が、ぐるると低く唸って交互に好き勝手を言ってエラを困らせる。
「友好的に、とは行かなさそうね……」
 くるり、と、エラが背後を振り返った。
 え、と、頭領は焦った。エラの目が据わっている。エラが、始祖の血を引いているためあらゆる意味で強いのは知っている。純血種ですら使えない不思議な力も備えているようである。だが、始祖の力が人間にどの程度通用するのかは不明、術を使われた人間を心配するな、という方が無理だろう。
「エラーー俺も共に戦おう」
「でも領主さまに何かあっては……」
「心配無用、俺は、剣と術には定評がある」
 エラに、微笑みかける頭領を間近で見た二人の目がハートになったのをエラは視界の端に捉えた。
「た、大変! 領主さま、筋力、体力、防御力、攻撃力をあげましたーーはい、この戦い勝てます」
「わかるぞ……これはすごい!」
 頭領は、突進してくる二頭の獣ーーいや、二人のレディをあっさりと抱き留めた。
 えい、やぁ! と、レディを抱き抱えているとは思えない気合いが響く。
「レディたち、夜会が始まるまで、宿でじっとしてるんだ……」
 
 そんな甘い囁きだけじゃーー。
 と、誰もが思った。見たところ、特に魅力強化などは施されていない。
 案の定、義姉たちは交互に頭領に飛びかかりしなだれかかる。が、頭領は二人に靡くはずもなくーー大人の余裕でレディを捌く。
「わたくしたちを相手にしないとは、許し難い男ですわ」
「生憎、俺の好みから遠いんだ、きみたちは……ん!?」
 無理矢理アンジェラにキスをされ、頭領の目が点になる。
「まあ! わたくしの男よ!」
 と、ミカエラ。二人にそれぞれキスされる頭領の顔が、ふいに青ざめた。
「……領主さま……モテ期ですわね」
「え、エラ……これは、その……」
「往来でレディとキス三昧とはいい度胸ですわ!」
「いや、その……」
「女性なら誰でもいいのですね、見損ないましたわ」
 怒気を闘気へと変換したエラが舞うように闘う。着ているブルーのスカートが軍旗のようにはためいて綺麗ですらある。
「……いくら処女で伯爵令嬢でも……好きでしてるわけじゃないさ」
 頭領が苦笑いを浮かべた。エラの目が光ったり効果音が鳴らないのがいっそ不思議なくらいの不機嫌さである。
 二人とも頭領にどれだけキスをかわされようとも諦めずに抱きつき、舌を絡め、あろうことか頭領の下半身に指を這わせる。ベッドへ連れ込もうという算段である
「お義姉さま方! 人目を憚らぬ男漁りははしたない! 外で淫らな行為はお控えください」
 ピシャ! と電流が走り二人の体がビリビリと痺れた。
「は、はいーっ!」

 こうして二頭の義姉は、エラの支配下に置かれてしまった。広場にへたりこんでしまった二人はすっかり項垂れ、格下だと思っていたエラの美しさと始祖の力の前に矜持をへし折られ、エラに降ったらしかった。
「なかなか手強い敵でしたわ」
「そ、そうかい……無事でなにより」
 汗をかいて多少の傷はあるがケロッとしている。二人の義姉は、この村でしっかり生きているエラの敵ではなかったらしい。

 二人の義姉を左右に従えたエラを見た住人がぽつりと呟いた。
「獣を従えてイシュタルさまみたいね……」
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