21 / 22
気を取り直して(大人しく)便利屋さん
村のために!
しおりを挟む
連日の夜会のせいで、村は異常にテンションがあがっていた。
無理もない。伯爵領の大きな村とはいえ田舎である。着飾った貴族の子息令嬢と保護者たちが、王都から続々と毎日やってきて泊まって遊び回ればそれだけでお祭り気分になる。
「何事も起きませんように……」
エラの知らないところではイロイロ起こっているのだがそれはまた別の話である。
「エラさま、こちらでしたか!」
領主の館の食堂で、長机にお皿をずらりと並べて大口を開けて試食をしていたエラのもとへパタパタと走ってきたのは、村の娘リリィである。新しい白いエプロンと赤い三角巾がよく似合っている。
領主の館を掃除して宿として解放するにあたりメイドが不足し、急遽、村から多くの女性たちに働きに来てもらっている。その中のひとりである。
「リリィ、どうしたの?」
「王都からお手紙がとどきまして、明後日、ふた家族8名さまが追加でいらっしゃるとのこと。ご家族は二つですが、紹介者と片方のシャペロンが男性だとかで部屋は都合四つ必要です」
「な……なんてこと……」
「足りませんよね……」
「リリィ……見なかったことに……は、できないわよね」
リリィと呼ばれた少女は、白い髪に白い肌、目は赤いのでヴァンパイアかと思われがちだが、彼女は純然たる人間である。それも、相当美形で人当たりも良い働き者だ。
なんでも、幼い頃から容姿のせいであちこちの村でいじめにあい、家族はいつも村から追い出されてあちらこちらを彷徨っていた。ある日道端に座り込んでいたところを、偶然通りがかったここの領主に拾われて住むようになったらしい。
いかんせんここは、ヴァンパイアたちが暮らす村である。
多少容姿が大多数と異なるからといって気にするものはなく、むしろ、「人間の御一家! 大切に!」である。
迫害されてきた彼女たちが心を癒し、のびのび暮らすにはピッタリであった。
「それが……もうみんな、エラさまのご指示を待つために館の前に集まっています」
「わかったわ、すぐ使ってない東棟の掃除をして調えましょ!」
パタパタと二人して館の玄関へ走る。人種関係なく人が集まり、エラの指示を待っていた。
「よしっ、東棟をみんなで綺麗にしましょう、そうね……大変な作業になると思うから、領主さまに掛け合って少し日当に上乗せしてもらいましょ」
やった、と、村人が喜ぶ。
その傍ら、きぃぃん……と、エラが自身に各種強化の術がかけられる。ヴァンパイアの血を引く村人にとってはおなじみの術だが、人間たちは何もわからない。
これでエラは、一騎当千の働きが可能になる。
バケツやハタキ、工具一式を手にしたところで、
「あ……」
と、動きを止めた。
数日前、領主さまに呼ばれたエラは、
「エラ、始祖の力というのはそんな自己強化に使うのではなくて……その、なんだ。統率や伝達、兵力増強などに使うのがメインなのだよ」
と、教えられた。
ピンとこないが皆のために使えばいいに違いない。
「さ……これでよし!」
ヴァンパイアたちは目をまんまるにした。
全身に力が漲り、あらゆる力が増強されたのがわかる。しかも、脳内にエラの命令が直接響く。
しかし、人間の血が混ざっているヴァンパイアはしんどそうである。
「エラさま、これ、人間にはきついです……」
「あら、そう……村の全員にかければ、みんなパワフル元気に過ごせるかと思ったんだけど……やめとくわ」
こうして、エラに率いられたヴァンパイアたちは東棟を綺麗にしようと試みたのだがーー
「あっ! 踏み抜いた!」
「ぎゃっ、窓枠壊してしまった!」
「きゃー。誰よ、ドア壊した人!」
「わ、壁が外れて落ちた!」
強化された己の肉体をコントロールできず、あちこちが意図せず破壊されてしまったのである。
「リリィ……東棟はしばらく無理そうよ」
「そのようですね……この方々はお断りいたしますね」
リリィがしょんぼりとしたのを、エラは見逃さなかった。
「リリィ、何かあったの?」
「えっ」
「何? もしかして……この人たちに会えるのを楽しみにしていた、とか?」
かぁっとリリィの頬が染まった。
「い、いえ、いいんですっ……わたしは貴族でもないしドレスもないし……身分違いの恋なので諦めてます」
パチパチと瞬きしたエラは、にっこりと笑い、リリィの手を取った。
「諦めるのははやいわ。リリィ……わたくしは便利屋さんよ。何か、依頼してみて?」
無理もない。伯爵領の大きな村とはいえ田舎である。着飾った貴族の子息令嬢と保護者たちが、王都から続々と毎日やってきて泊まって遊び回ればそれだけでお祭り気分になる。
「何事も起きませんように……」
エラの知らないところではイロイロ起こっているのだがそれはまた別の話である。
「エラさま、こちらでしたか!」
領主の館の食堂で、長机にお皿をずらりと並べて大口を開けて試食をしていたエラのもとへパタパタと走ってきたのは、村の娘リリィである。新しい白いエプロンと赤い三角巾がよく似合っている。
領主の館を掃除して宿として解放するにあたりメイドが不足し、急遽、村から多くの女性たちに働きに来てもらっている。その中のひとりである。
「リリィ、どうしたの?」
「王都からお手紙がとどきまして、明後日、ふた家族8名さまが追加でいらっしゃるとのこと。ご家族は二つですが、紹介者と片方のシャペロンが男性だとかで部屋は都合四つ必要です」
「な……なんてこと……」
「足りませんよね……」
「リリィ……見なかったことに……は、できないわよね」
リリィと呼ばれた少女は、白い髪に白い肌、目は赤いのでヴァンパイアかと思われがちだが、彼女は純然たる人間である。それも、相当美形で人当たりも良い働き者だ。
なんでも、幼い頃から容姿のせいであちこちの村でいじめにあい、家族はいつも村から追い出されてあちらこちらを彷徨っていた。ある日道端に座り込んでいたところを、偶然通りがかったここの領主に拾われて住むようになったらしい。
いかんせんここは、ヴァンパイアたちが暮らす村である。
多少容姿が大多数と異なるからといって気にするものはなく、むしろ、「人間の御一家! 大切に!」である。
迫害されてきた彼女たちが心を癒し、のびのび暮らすにはピッタリであった。
「それが……もうみんな、エラさまのご指示を待つために館の前に集まっています」
「わかったわ、すぐ使ってない東棟の掃除をして調えましょ!」
パタパタと二人して館の玄関へ走る。人種関係なく人が集まり、エラの指示を待っていた。
「よしっ、東棟をみんなで綺麗にしましょう、そうね……大変な作業になると思うから、領主さまに掛け合って少し日当に上乗せしてもらいましょ」
やった、と、村人が喜ぶ。
その傍ら、きぃぃん……と、エラが自身に各種強化の術がかけられる。ヴァンパイアの血を引く村人にとってはおなじみの術だが、人間たちは何もわからない。
これでエラは、一騎当千の働きが可能になる。
バケツやハタキ、工具一式を手にしたところで、
「あ……」
と、動きを止めた。
数日前、領主さまに呼ばれたエラは、
「エラ、始祖の力というのはそんな自己強化に使うのではなくて……その、なんだ。統率や伝達、兵力増強などに使うのがメインなのだよ」
と、教えられた。
ピンとこないが皆のために使えばいいに違いない。
「さ……これでよし!」
ヴァンパイアたちは目をまんまるにした。
全身に力が漲り、あらゆる力が増強されたのがわかる。しかも、脳内にエラの命令が直接響く。
しかし、人間の血が混ざっているヴァンパイアはしんどそうである。
「エラさま、これ、人間にはきついです……」
「あら、そう……村の全員にかければ、みんなパワフル元気に過ごせるかと思ったんだけど……やめとくわ」
こうして、エラに率いられたヴァンパイアたちは東棟を綺麗にしようと試みたのだがーー
「あっ! 踏み抜いた!」
「ぎゃっ、窓枠壊してしまった!」
「きゃー。誰よ、ドア壊した人!」
「わ、壁が外れて落ちた!」
強化された己の肉体をコントロールできず、あちこちが意図せず破壊されてしまったのである。
「リリィ……東棟はしばらく無理そうよ」
「そのようですね……この方々はお断りいたしますね」
リリィがしょんぼりとしたのを、エラは見逃さなかった。
「リリィ、何かあったの?」
「えっ」
「何? もしかして……この人たちに会えるのを楽しみにしていた、とか?」
かぁっとリリィの頬が染まった。
「い、いえ、いいんですっ……わたしは貴族でもないしドレスもないし……身分違いの恋なので諦めてます」
パチパチと瞬きしたエラは、にっこりと笑い、リリィの手を取った。
「諦めるのははやいわ。リリィ……わたくしは便利屋さんよ。何か、依頼してみて?」
0
あなたにおすすめの小説
スラム街の幼女、魔導書を拾う。
海夏世もみじ
ファンタジー
スラム街でたくましく生きている六歳の幼女エシラはある日、貴族のゴミ捨て場で一冊の本を拾う。その本は一人たりとも契約できた者はいない伝説の魔導書だったが、彼女はなぜか契約できてしまう。
それからというもの、様々なトラブルに巻き込まれいくうちにみるみる強くなり、スラム街から世界へと羽ばたいて行く。
これは、その魔導書で人々の忘れ物を取り戻してゆき、決して忘れない、忘れられない〝忘れじの魔女〟として生きるための物語。
1人生活なので自由な生き方を謳歌する
さっちさん
ファンタジー
大商会の娘。
出来損ないと家族から追い出された。
唯一の救いは祖父母が家族に内緒で譲ってくれた小さな町のお店だけ。
これからはひとりで生きていかなくては。
そんな少女も実は、、、
1人の方が気楽に出来るしラッキー
これ幸いと実家と絶縁。1人生活を満喫する。
【第2部開始】ぬいぐるみばかり作っていたら実家を追い出された件〜だけど作ったぬいぐるみが意志を持ったので何も不自由してません〜
月森かれん
ファンタジー
中流貴族シーラ・カロンは、ある日勘当された。理由はぬいぐるみ作りしかしないから。
戸惑いながらも少量の荷物と作りかけのぬいぐるみ1つを持って家を出たシーラは1番近い町を目指すが、その日のうちに辿り着けず野宿をすることに。
暇だったので、ぬいぐるみを完成させようと意気込み、ついに夜更けに完成させる。
疲れから眠りこけていると聞き慣れない低い声。
なんと、ぬいぐるみが喋っていた。
しかもぬいぐるみには帰りたい場所があるようで……。
天真爛漫娘✕ワケアリぬいぐるみのドタバタ冒険ファンタジー。
※この作品は小説家になろう・ノベルアップ+にも掲載しています。
クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?
青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。
最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。
普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた?
しかも弱いからと森に捨てられた。
いやちょっとまてよ?
皆さん勘違いしてません?
これはあいの不思議な日常を書いた物語である。
本編完結しました!
相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです!
1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…
アリエッタ幼女、スラムからの華麗なる転身
にゃんすき
ファンタジー
冒頭からいきなり主人公のアリエッタが大きな男に攫われて、前世の記憶を思い出し、逃げる所から物語が始まります。
姉妹で力を合わせて幸せを掴み取るストーリーになる、予定です。
生きるために逃げだした。幸せになりたい。
白水緑
ファンタジー
屋敷内に軟禁状態だったリリアは、宝物を取り戻したことをきっかけに屋敷から逃げ出した。幸せになるために。体力も力もない。成り行きに身を任せる結果になっても、自分の道は自分で選びたい。
2020/9/19 第一章終了
続きが書け次第また連載再開します。
2021/2/14 第二章開幕
2021/2/28 完結
悪女の針仕事〜そのほころび、見逃しません!〜
陰陽@4作品商業化(コミカライズ他)
ファンタジー
公爵令嬢として生まれながら、子ども時代からメイドや周囲の陰謀で、次々と濡れ衣を着せられ、「悪女」扱いされてきたミリアム。
第3王子との婚約を聖女に奪われ、聖女への嫌がらせの冤罪で国外追放された後、平民として生き延びる中で、何度も5年前へのロールバック(逆行)を繰り返すことに。
生計をたてる為に、追放後の平民生活で極めた針仕事が、ロールバックが繰り返されることで、針仕事の能力だけは引き継がれ、天才的な実力を手に入れる。
その時女神「アテナ」の加護を得て、2つの力を手にすることに。
「加護縫い」
(縫った布に強力な祝福を込められる)
「嘘のほころびを見抜く力」
(相手の嘘を布のほころびとして視覚的に捉え、引き抜く、または繕うことで、真実を暴いたり修正したりする)
を手にしたミリアムは、5歳の幼女時代まで遡り、2つの力で悪評をぬりかえ、仲違いしていた家族も、加護の力を与えることで協力な味方へと変貌。
さらに、女神から可愛いしもべ「アリアドネ」を授かり、元婚約者と聖女にザマァを狙う中、加護縫いの能力が最も高い人間を王太子妃に迎える決まりのある大国、ルーパート王国の王子が近付いて来て……?
ここは少女マンガの世界みたいだけど、そんなこと知ったこっちゃない
ゆーぞー
ファンタジー
気がつけば昔読んだ少女マンガの世界だった。マンガの通りなら決して幸せにはなれない。そんなわけにはいかない。自分が幸せになるためにやれることをやっていこう。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる