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第九話 天下一の美貌は隠せない
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「「「ぎゃああああああ!!!」」」
三人の乞食――否、強盗たちが醜い絶叫を上げている。
「た、だすけてぐれぇっ」
「あぢっ。あ、あづ!」
「うあああぁああぅぅぅあ」
心底醜い雄叫びだ。こんな弱虫のくせに強盗などという凶行に及ぼうというのか、所詮雑魚だな。
ああ、悲鳴を聞くのはなんとも愉快だ。
いつからこんな残虐非道な性格になってしまったのだろう……とグレースは考え、多分自身の気質ではないかと推論を立てる。
元々淑女の皮を被っていただけで、彼女は嗜虐趣味なのかも知れない。そもそも、侯爵家を追い出されて最初に思いつくのが復讐という時点でそれは確定なのだが。
「罪を自覚なさい。たとえあなた方が飢えていようと、ワタクシの身を汚そうとしたことは許しません」
赤と青と黄色の激しい炎が、三人の男の全身を焼き尽くす。
あれはグレースの魔力から生まれたもの、つまり魔法だ。グレースは幼い頃より火の魔法使いとして知られ、それは王国有数だとも言われていた。
……よく考えてみればどうしてこんな魔力を誇る娘を何の措置もなしに野に放ったのかが不明。最悪、王都を業火の海にしていた可能性だってあるのに。
「仕方がありませんね。殿下とその周辺は脳みそが腐っていますから」
そんなことを呟いている間にも、男たちの悲鳴は続く。
彼らをどうしようか。じわじわ殺すか、一思いにやるか。悩んだ挙句にグレースは一つの結論を出した。
「所詮この者たちは平民。ワタクシが貴族であった頃ならともかくあまり厳しく罰しすぎるのも不自然ですから、多少の慈悲を与えて差し上げてもよろしいでしょう。……少なくとも一生一人では生きていけないようにはしますけれども」
その瞬間、ヴォッと音を立てて赤い炎が強まり、青と黄色が静かになった。
赤い炎は普通の火であるが、青は魂すら焼く怒りの炎であるし、金はその熱と痛みだけを与えるという残虐性極まりないものだ。それを一瞬でも同時に浴びたのだからあの男たちはまぁ、数日間はまともに生きられないだろう。
そして紅の炎を強めて彼らを真っ黒焦げにしてしまうと彼女は魔力を収めた。その頃には三人とも呻きもしなくなってしまったが。
おそらくはいつか優しい誰かに拾われるに違いない。だからグレースはわざわざ彼らを助け起こすなどせず、静かにその路地を立ち去ることにしたのである。
男どもに対し、なんら感情を抱くことはなかった。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆
「――はぁ。どうやらワタクシの天下一の美貌は隠せないようですね」
いくら変装して大きく見た目が変わったとはいえ、グレースの容姿は誰が見ても美しいと思うだろう。
社交界の華と呼ばれ、美貌は世界一と言われていたのだ。あのジェイミーでさえ美貌では敵わなかった。だからこそグレースを妬んでいたのだから当然だ。
美貌の上に武器を持たず無防備。このような好都合な女が街を彷徨っていたら当然ながら狙われるに決まっている。
「まあ、今回の彼らは金目当てでしたが、これからは体目当ての方もいるかも知れませんし、他国の違法な奴隷商などにも注意する必要がありそうですね。この美貌に困らせられるとは思っても見ませんでした」
まあ、誰に襲われたところで今のように撃退するだけなのだが。
でも魔法を使うと疲れる。最近使っていなかったので特にだ。
「王妃教育の間は魔法を修練する暇もありませんでしたからね……。そうです、グダグダしている場合ではありませんでした。早く次の目的地へ向かわなければ」
グレースはそれからもあちらこちらで襲われ、その度に得意の魔法を使い、ぶっ飛ばしていった。
まさかここまで狙われるとは。正直驚きを隠せないでいるが、まあ何事もないのだしそこまで心配はしていない。
そうして彼女はせっせと徒歩で来る日も来る日も南下していく。
目指す場所は王国の最南端である海辺の町。そろそろ目的地も近いようで、それにつれ、得られる情報量も増えてきた。
冒険者は態度が大きいために一般の人々にはあまり歓迎されていないこと。
治安が悪く、ここ最近は強盗や魔物被害が絶えないこと。
どうやら、平民の世界は野蛮で危険に満ちているようだ。
でもそれでこそ張り合いがあるというものだった。
「いつか彼らを見返してやるんですから……! この牛のような歩みの遅さが鬱陶しくてなりませんね」
せめて風魔法を使えれば空を飛んで早く行けただろうに。
でももう少しの辛抱のはず。必死に足を動かしながらグレースは歯を食いしばり、前へ前へ。
そんな彼女の目の前に、またいかにもな男たちが現れた。
彼女は内心「はぁ」とため息を吐きたくなる。もう少し人目が多い道を通れば良かったと少しばかり後悔しながら――。
「『愚かで邪悪な者たちよ、黄金の炎でもがき苦しみなさい』」
そうして目を瞠るような黄金の業火が彼らを焼き始める。
永遠に続く痛みの地獄を与えながら、グレースは知らんぷりのままで彼らの横を通り過ぎる。
「やはりこの美貌はどうにも厄介ですね」なんて呟きながら。
三人の乞食――否、強盗たちが醜い絶叫を上げている。
「た、だすけてぐれぇっ」
「あぢっ。あ、あづ!」
「うあああぁああぅぅぅあ」
心底醜い雄叫びだ。こんな弱虫のくせに強盗などという凶行に及ぼうというのか、所詮雑魚だな。
ああ、悲鳴を聞くのはなんとも愉快だ。
いつからこんな残虐非道な性格になってしまったのだろう……とグレースは考え、多分自身の気質ではないかと推論を立てる。
元々淑女の皮を被っていただけで、彼女は嗜虐趣味なのかも知れない。そもそも、侯爵家を追い出されて最初に思いつくのが復讐という時点でそれは確定なのだが。
「罪を自覚なさい。たとえあなた方が飢えていようと、ワタクシの身を汚そうとしたことは許しません」
赤と青と黄色の激しい炎が、三人の男の全身を焼き尽くす。
あれはグレースの魔力から生まれたもの、つまり魔法だ。グレースは幼い頃より火の魔法使いとして知られ、それは王国有数だとも言われていた。
……よく考えてみればどうしてこんな魔力を誇る娘を何の措置もなしに野に放ったのかが不明。最悪、王都を業火の海にしていた可能性だってあるのに。
「仕方がありませんね。殿下とその周辺は脳みそが腐っていますから」
そんなことを呟いている間にも、男たちの悲鳴は続く。
彼らをどうしようか。じわじわ殺すか、一思いにやるか。悩んだ挙句にグレースは一つの結論を出した。
「所詮この者たちは平民。ワタクシが貴族であった頃ならともかくあまり厳しく罰しすぎるのも不自然ですから、多少の慈悲を与えて差し上げてもよろしいでしょう。……少なくとも一生一人では生きていけないようにはしますけれども」
その瞬間、ヴォッと音を立てて赤い炎が強まり、青と黄色が静かになった。
赤い炎は普通の火であるが、青は魂すら焼く怒りの炎であるし、金はその熱と痛みだけを与えるという残虐性極まりないものだ。それを一瞬でも同時に浴びたのだからあの男たちはまぁ、数日間はまともに生きられないだろう。
そして紅の炎を強めて彼らを真っ黒焦げにしてしまうと彼女は魔力を収めた。その頃には三人とも呻きもしなくなってしまったが。
おそらくはいつか優しい誰かに拾われるに違いない。だからグレースはわざわざ彼らを助け起こすなどせず、静かにその路地を立ち去ることにしたのである。
男どもに対し、なんら感情を抱くことはなかった。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆
「――はぁ。どうやらワタクシの天下一の美貌は隠せないようですね」
いくら変装して大きく見た目が変わったとはいえ、グレースの容姿は誰が見ても美しいと思うだろう。
社交界の華と呼ばれ、美貌は世界一と言われていたのだ。あのジェイミーでさえ美貌では敵わなかった。だからこそグレースを妬んでいたのだから当然だ。
美貌の上に武器を持たず無防備。このような好都合な女が街を彷徨っていたら当然ながら狙われるに決まっている。
「まあ、今回の彼らは金目当てでしたが、これからは体目当ての方もいるかも知れませんし、他国の違法な奴隷商などにも注意する必要がありそうですね。この美貌に困らせられるとは思っても見ませんでした」
まあ、誰に襲われたところで今のように撃退するだけなのだが。
でも魔法を使うと疲れる。最近使っていなかったので特にだ。
「王妃教育の間は魔法を修練する暇もありませんでしたからね……。そうです、グダグダしている場合ではありませんでした。早く次の目的地へ向かわなければ」
グレースはそれからもあちらこちらで襲われ、その度に得意の魔法を使い、ぶっ飛ばしていった。
まさかここまで狙われるとは。正直驚きを隠せないでいるが、まあ何事もないのだしそこまで心配はしていない。
そうして彼女はせっせと徒歩で来る日も来る日も南下していく。
目指す場所は王国の最南端である海辺の町。そろそろ目的地も近いようで、それにつれ、得られる情報量も増えてきた。
冒険者は態度が大きいために一般の人々にはあまり歓迎されていないこと。
治安が悪く、ここ最近は強盗や魔物被害が絶えないこと。
どうやら、平民の世界は野蛮で危険に満ちているようだ。
でもそれでこそ張り合いがあるというものだった。
「いつか彼らを見返してやるんですから……! この牛のような歩みの遅さが鬱陶しくてなりませんね」
せめて風魔法を使えれば空を飛んで早く行けただろうに。
でももう少しの辛抱のはず。必死に足を動かしながらグレースは歯を食いしばり、前へ前へ。
そんな彼女の目の前に、またいかにもな男たちが現れた。
彼女は内心「はぁ」とため息を吐きたくなる。もう少し人目が多い道を通れば良かったと少しばかり後悔しながら――。
「『愚かで邪悪な者たちよ、黄金の炎でもがき苦しみなさい』」
そうして目を瞠るような黄金の業火が彼らを焼き始める。
永遠に続く痛みの地獄を与えながら、グレースは知らんぷりのままで彼らの横を通り過ぎる。
「やはりこの美貌はどうにも厄介ですね」なんて呟きながら。
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