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第四十七話 帰り着いた夜の海辺で
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「今日はお疲れ様でした。ワタクシ、セイド様のおかげでまた助けられてしまいましたね」
「助けたって言っても、僕は君の言う通りにしただけだよ。君はわざわざ自分で捕まってあんな舞台を演じるんだから尊敬するよ」
ハーピー公爵が手配した馬車に乗ってオーネッタ男爵領へ戻って来たグレースとセイドは、笑顔でそんな言葉を交わしていた。
もうすっかり夜遅い。今日はあれだけのことがあったのだから、当然か。
朝、ギルドへ行った途端王国兵に見つかり、追われ、牢屋にぶち込まれ、断罪劇を切り抜け……。
思い出すと笑えてくる。よくもまあ無事に帰って来られたものだ。
「今日もワタクシの屋敷まで送ってくださるのですね」
「うん。もしもまた捕まったりしたら心配だろう?」
「もう捕らえられたりはしませんよ。ワタクシはもう悪女グレースではないのですから」
そう言っている間にも、すぐ隣の彼の存在を感じてしまって胸がドキドキする。
魔犬騒動があった日の夜と同じだ。しかしグレースの心境は、少しばかり変わっていた。
――覚悟ができたのだ。
「……あの、セイド様」
「なんだい?」月夜に煌めく白髪を揺らし、彼が首を傾げた。
ルビー色の瞳と目が合い、途端に頬が熱くなった。
しかしグレースは唇を震わせながらも恥ずかしさに屈しない決意をする。そして、言い切った。
「ワタクシ、セイド様のことが好きです」
◆◇◆◇◆◇◆◇◆
しばらくの沈黙が流れ、夜の海辺には波の音だけが静かに響いていた。
砂浜を歩いていた二人の足音がぴたりと止まる。それに反して胸の鼓動がさらに早くなった。
「……それは、どういう」
「す、すみません突然で。でも思ったんです。いいえ、ずっと前から思っておりました。ワタクシはセイド様のことをお慕いいたしております。心から誰よりも。……今日かつての婚約者に会いましたが、情は湧きませんでした。ワタクシの心はすでにあなた様にあるからです。だから、あのっ」
自分で言っていて何を言いたいのかてんでわからない。
それでも必死に失神してしまわないように意識を保ち、言葉を続ける。
「ど、どうかワタクシと婚約をしていただけませんか!?」
「――――」
「これからも共に仲間として過ごして行きたいのです。で、ですがっ、それではワタクシは満足できません。どうか、受け入れてはくださいませんか」
「――――」
「ワタクシ、セイド様に救われたんです。復讐に狂っていたワタクシに気づかせてくださったのはセイド様です。あなたの優しさがあったから、ワタクシは屈さずにいられました。……その上あなたに愛されたいと思うのは傲慢なことなのだろうとわかっております。それでもこの気持ちを抑えることができないのです」
これはグレースにとっての一世一代のプロポーズだった。
じっとこちらを見つめ、黙っているセイド。彼は何度か瞬きし、固まっていた。
「ダメ……ですか?」
情けないとはわかっていても不安になって、思わずそう問いかけてしまう。
しかし、彼から帰って来た言葉は意外なもので。
「――僕と君とは、互いを何も知らなさすぎる。嬉しいけど、君とこれ以上の仲になろうだなんて、僕には到底許されないことなんだよ」
セイドは悲しげな微笑みを浮かべる。
彼がどうしてそんな表情をするのか、グレースにはわからなかった。
目を見開いて呆然とするグレースが「……え」と漏らした声は、波が打ち押せる音によってかき消され、彼女自身の耳にすら届かない。
海面に映る月が、あの日と同じように光り、ゆらゆらと揺れていた。
「助けたって言っても、僕は君の言う通りにしただけだよ。君はわざわざ自分で捕まってあんな舞台を演じるんだから尊敬するよ」
ハーピー公爵が手配した馬車に乗ってオーネッタ男爵領へ戻って来たグレースとセイドは、笑顔でそんな言葉を交わしていた。
もうすっかり夜遅い。今日はあれだけのことがあったのだから、当然か。
朝、ギルドへ行った途端王国兵に見つかり、追われ、牢屋にぶち込まれ、断罪劇を切り抜け……。
思い出すと笑えてくる。よくもまあ無事に帰って来られたものだ。
「今日もワタクシの屋敷まで送ってくださるのですね」
「うん。もしもまた捕まったりしたら心配だろう?」
「もう捕らえられたりはしませんよ。ワタクシはもう悪女グレースではないのですから」
そう言っている間にも、すぐ隣の彼の存在を感じてしまって胸がドキドキする。
魔犬騒動があった日の夜と同じだ。しかしグレースの心境は、少しばかり変わっていた。
――覚悟ができたのだ。
「……あの、セイド様」
「なんだい?」月夜に煌めく白髪を揺らし、彼が首を傾げた。
ルビー色の瞳と目が合い、途端に頬が熱くなった。
しかしグレースは唇を震わせながらも恥ずかしさに屈しない決意をする。そして、言い切った。
「ワタクシ、セイド様のことが好きです」
◆◇◆◇◆◇◆◇◆
しばらくの沈黙が流れ、夜の海辺には波の音だけが静かに響いていた。
砂浜を歩いていた二人の足音がぴたりと止まる。それに反して胸の鼓動がさらに早くなった。
「……それは、どういう」
「す、すみません突然で。でも思ったんです。いいえ、ずっと前から思っておりました。ワタクシはセイド様のことをお慕いいたしております。心から誰よりも。……今日かつての婚約者に会いましたが、情は湧きませんでした。ワタクシの心はすでにあなた様にあるからです。だから、あのっ」
自分で言っていて何を言いたいのかてんでわからない。
それでも必死に失神してしまわないように意識を保ち、言葉を続ける。
「ど、どうかワタクシと婚約をしていただけませんか!?」
「――――」
「これからも共に仲間として過ごして行きたいのです。で、ですがっ、それではワタクシは満足できません。どうか、受け入れてはくださいませんか」
「――――」
「ワタクシ、セイド様に救われたんです。復讐に狂っていたワタクシに気づかせてくださったのはセイド様です。あなたの優しさがあったから、ワタクシは屈さずにいられました。……その上あなたに愛されたいと思うのは傲慢なことなのだろうとわかっております。それでもこの気持ちを抑えることができないのです」
これはグレースにとっての一世一代のプロポーズだった。
じっとこちらを見つめ、黙っているセイド。彼は何度か瞬きし、固まっていた。
「ダメ……ですか?」
情けないとはわかっていても不安になって、思わずそう問いかけてしまう。
しかし、彼から帰って来た言葉は意外なもので。
「――僕と君とは、互いを何も知らなさすぎる。嬉しいけど、君とこれ以上の仲になろうだなんて、僕には到底許されないことなんだよ」
セイドは悲しげな微笑みを浮かべる。
彼がどうしてそんな表情をするのか、グレースにはわからなかった。
目を見開いて呆然とするグレースが「……え」と漏らした声は、波が打ち押せる音によってかき消され、彼女自身の耳にすら届かない。
海面に映る月が、あの日と同じように光り、ゆらゆらと揺れていた。
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