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第五章

55:魔法使いは万能万能!

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 最初からΩ級魔法を使うと、体力の消費が激しいので普通はしない。
 しかしダームはこの作戦を選んだ。なぜって、戦場の範囲を狭くしなくてはならないから。

 炎はエペ目がけてでなく、周囲の草むらへ引火。彼女たち二人を囲む地面が、ぼぅっと燃え上がる。
 それと同時にエペから攻撃が飛んでくるが、ひらりと身をかわした。それでも剣のように細い体をくるりとこちらへ向けて、エペが追ってくる。

「貴様、奇怪な戦術を思いつくな。女とは思えない」

「いいや、逆に女だからこそかもね! 『ウインドΓ 浮遊』っ!」

 胸へ届きそうな剣先を避け、同時に魔法を詠唱。
 ふわりと体が宙に浮き、ずっと高くまで登って行った。

「何っ。それはルール違反ではないのか?」

「ルールは一対一だけだよ? あたしは逃げたんじゃない。ここから攻撃を仕掛けるの」

 眼下には輪状に燃え上がる炎と、その中心でこちらを見上げる銀髪剣士の姿。
 彼女がどれだけ剣が強かろうと、空中に浮くこちらには勝てまい。ダームは次々と攻撃を放った。

「どんどん行くよ! 『ファイアーβ』、『アイスΓ』、もういっちょ『ファイアーΓ』!」

 火球が降り注ぎ、かと思えば氷の雨が降って直後は大きな炎が落ちて、草原を燃やす火力に加勢する。

 一方的に追い詰められた形の相手はなんとか無事だったが、かなり苦しい状況には違いなかった。

 と、その瞬間だった。

「ふっ、油断したな」

 エペがそう言って、ニヤリと笑う。
 見るとダームめがけて、エペの剣が飛んできていた。恐らく放り投げたのだろうが全然気づかなかった。
 あと二秒もあればダームへ届いてしまう。どうしたらいいか? と考える間もなく、彼女は魔法を放出していた。

「『アイスΓ 壁』!」

 咄嗟に氷の壁を作り、ガード。
 一枚では簡単に貫通されてしまうので、一気に五枚の氷壁を設けた。

 厚い氷に行く手を阻まれた剣は、まっすぐそれに突き刺さる。一つ目、二つ目は貫通したが、三つ目で勢いを弱め、四つ目でかなり減速し、五つ目で完全に止まってしまった。

「ねっ、魔法使いは万能でしょ?」

 盾などなくても咄嗟に盾を作れる。ある意味、普通の人間よりは万能と言える。
 そしてそのまま叫んだ。「『ファイアーΓ』!」

 またもや火球が降り注ぐ。今度は特大だった。
 それに直撃される寸前、エペは避けようとした。しかし周りも火の海だ。どちらに焼かれる選択をするか、としばし考えたあと、そっと指を鳴らした。

 するとどうしたことだろう、炎の海は消え去り、落下するはずだった火球も掻き消えてしまった。

「何をしたの?」

 慌てて、氷壁から引き抜いた剣片手に地面へ降り立つダーム。エペが一体何をしでかし始めるつもりなのかと警戒したが――。

「エペは負けを認めた。故に、試練を構成する物が消えた。……貴様の勝ちだ、魔法使いダーム。第二の試練、その突破を宣言しよう」

 しばらくポカンとし、やっとその言葉の意味を理解したダームは、「やったぁ!」と叫んでいた。

 自分が試練を突破したんだ。そう思うと、なんだかとても嬉しくなったのである。

「すげえな。あの発想は俺もなかったぜ」

「ダーム殿、おめでとうございます!」

「ダーム嬢はさすがだな! 魔力が多い上に洗練されている! あれほど美しい戦いっぷりはないだろう!」

 皆から賞賛を受け、本当に天にものぼる気持ちだった。
 ――こうして一つ目、二つ目と難なくクリアした勇者チームは、三つ目の試練に挑むことになる。

 エペは先ほどの戦闘の疲れを微塵も見せず、剣のように鋭い声を響かせた。

「最後の試練。それは……」
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