55 / 101
第五章
55:魔法使いは万能万能!
しおりを挟む
最初からΩ級魔法を使うと、体力の消費が激しいので普通はしない。
しかしダームはこの作戦を選んだ。なぜって、戦場の範囲を狭くしなくてはならないから。
炎はエペ目がけてでなく、周囲の草むらへ引火。彼女たち二人を囲む地面が、ぼぅっと燃え上がる。
それと同時にエペから攻撃が飛んでくるが、ひらりと身をかわした。それでも剣のように細い体をくるりとこちらへ向けて、エペが追ってくる。
「貴様、奇怪な戦術を思いつくな。女とは思えない」
「いいや、逆に女だからこそかもね! 『ウインドΓ 浮遊』っ!」
胸へ届きそうな剣先を避け、同時に魔法を詠唱。
ふわりと体が宙に浮き、ずっと高くまで登って行った。
「何っ。それはルール違反ではないのか?」
「ルールは一対一だけだよ? あたしは逃げたんじゃない。ここから攻撃を仕掛けるの」
眼下には輪状に燃え上がる炎と、その中心でこちらを見上げる銀髪剣士の姿。
彼女がどれだけ剣が強かろうと、空中に浮くこちらには勝てまい。ダームは次々と攻撃を放った。
「どんどん行くよ! 『ファイアーβ』、『アイスΓ』、もういっちょ『ファイアーΓ』!」
火球が降り注ぎ、かと思えば氷の雨が降って直後は大きな炎が落ちて、草原を燃やす火力に加勢する。
一方的に追い詰められた形の相手はなんとか無事だったが、かなり苦しい状況には違いなかった。
と、その瞬間だった。
「ふっ、油断したな」
エペがそう言って、ニヤリと笑う。
見るとダームめがけて、エペの剣が飛んできていた。恐らく放り投げたのだろうが全然気づかなかった。
あと二秒もあればダームへ届いてしまう。どうしたらいいか? と考える間もなく、彼女は魔法を放出していた。
「『アイスΓ 壁』!」
咄嗟に氷の壁を作り、ガード。
一枚では簡単に貫通されてしまうので、一気に五枚の氷壁を設けた。
厚い氷に行く手を阻まれた剣は、まっすぐそれに突き刺さる。一つ目、二つ目は貫通したが、三つ目で勢いを弱め、四つ目でかなり減速し、五つ目で完全に止まってしまった。
「ねっ、魔法使いは万能でしょ?」
盾などなくても咄嗟に盾を作れる。ある意味、普通の人間よりは万能と言える。
そしてそのまま叫んだ。「『ファイアーΓ』!」
またもや火球が降り注ぐ。今度は特大だった。
それに直撃される寸前、エペは避けようとした。しかし周りも火の海だ。どちらに焼かれる選択をするか、としばし考えたあと、そっと指を鳴らした。
するとどうしたことだろう、炎の海は消え去り、落下するはずだった火球も掻き消えてしまった。
「何をしたの?」
慌てて、氷壁から引き抜いた剣片手に地面へ降り立つダーム。エペが一体何をしでかし始めるつもりなのかと警戒したが――。
「エペは負けを認めた。故に、試練を構成する物が消えた。……貴様の勝ちだ、魔法使いダーム。第二の試練、その突破を宣言しよう」
しばらくポカンとし、やっとその言葉の意味を理解したダームは、「やったぁ!」と叫んでいた。
自分が試練を突破したんだ。そう思うと、なんだかとても嬉しくなったのである。
「すげえな。あの発想は俺もなかったぜ」
「ダーム殿、おめでとうございます!」
「ダーム嬢はさすがだな! 魔力が多い上に洗練されている! あれほど美しい戦いっぷりはないだろう!」
皆から賞賛を受け、本当に天にものぼる気持ちだった。
――こうして一つ目、二つ目と難なくクリアした勇者チームは、三つ目の試練に挑むことになる。
エペは先ほどの戦闘の疲れを微塵も見せず、剣のように鋭い声を響かせた。
「最後の試練。それは……」
しかしダームはこの作戦を選んだ。なぜって、戦場の範囲を狭くしなくてはならないから。
炎はエペ目がけてでなく、周囲の草むらへ引火。彼女たち二人を囲む地面が、ぼぅっと燃え上がる。
それと同時にエペから攻撃が飛んでくるが、ひらりと身をかわした。それでも剣のように細い体をくるりとこちらへ向けて、エペが追ってくる。
「貴様、奇怪な戦術を思いつくな。女とは思えない」
「いいや、逆に女だからこそかもね! 『ウインドΓ 浮遊』っ!」
胸へ届きそうな剣先を避け、同時に魔法を詠唱。
ふわりと体が宙に浮き、ずっと高くまで登って行った。
「何っ。それはルール違反ではないのか?」
「ルールは一対一だけだよ? あたしは逃げたんじゃない。ここから攻撃を仕掛けるの」
眼下には輪状に燃え上がる炎と、その中心でこちらを見上げる銀髪剣士の姿。
彼女がどれだけ剣が強かろうと、空中に浮くこちらには勝てまい。ダームは次々と攻撃を放った。
「どんどん行くよ! 『ファイアーβ』、『アイスΓ』、もういっちょ『ファイアーΓ』!」
火球が降り注ぎ、かと思えば氷の雨が降って直後は大きな炎が落ちて、草原を燃やす火力に加勢する。
一方的に追い詰められた形の相手はなんとか無事だったが、かなり苦しい状況には違いなかった。
と、その瞬間だった。
「ふっ、油断したな」
エペがそう言って、ニヤリと笑う。
見るとダームめがけて、エペの剣が飛んできていた。恐らく放り投げたのだろうが全然気づかなかった。
あと二秒もあればダームへ届いてしまう。どうしたらいいか? と考える間もなく、彼女は魔法を放出していた。
「『アイスΓ 壁』!」
咄嗟に氷の壁を作り、ガード。
一枚では簡単に貫通されてしまうので、一気に五枚の氷壁を設けた。
厚い氷に行く手を阻まれた剣は、まっすぐそれに突き刺さる。一つ目、二つ目は貫通したが、三つ目で勢いを弱め、四つ目でかなり減速し、五つ目で完全に止まってしまった。
「ねっ、魔法使いは万能でしょ?」
盾などなくても咄嗟に盾を作れる。ある意味、普通の人間よりは万能と言える。
そしてそのまま叫んだ。「『ファイアーΓ』!」
またもや火球が降り注ぐ。今度は特大だった。
それに直撃される寸前、エペは避けようとした。しかし周りも火の海だ。どちらに焼かれる選択をするか、としばし考えたあと、そっと指を鳴らした。
するとどうしたことだろう、炎の海は消え去り、落下するはずだった火球も掻き消えてしまった。
「何をしたの?」
慌てて、氷壁から引き抜いた剣片手に地面へ降り立つダーム。エペが一体何をしでかし始めるつもりなのかと警戒したが――。
「エペは負けを認めた。故に、試練を構成する物が消えた。……貴様の勝ちだ、魔法使いダーム。第二の試練、その突破を宣言しよう」
しばらくポカンとし、やっとその言葉の意味を理解したダームは、「やったぁ!」と叫んでいた。
自分が試練を突破したんだ。そう思うと、なんだかとても嬉しくなったのである。
「すげえな。あの発想は俺もなかったぜ」
「ダーム殿、おめでとうございます!」
「ダーム嬢はさすがだな! 魔力が多い上に洗練されている! あれほど美しい戦いっぷりはないだろう!」
皆から賞賛を受け、本当に天にものぼる気持ちだった。
――こうして一つ目、二つ目と難なくクリアした勇者チームは、三つ目の試練に挑むことになる。
エペは先ほどの戦闘の疲れを微塵も見せず、剣のように鋭い声を響かせた。
「最後の試練。それは……」
応援ありがとうございます!
0
お気に入りに追加
237
1 / 5
この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる