1 / 2
前編
しおりを挟む
「シャルロット・アンディース公爵令嬢! 今ここでお前との婚約を破棄するッ!」
――私たちの通う貴族学園の新入生歓迎会でのこと。
突然響いた鋭い声に、私はピクリと眉を上げました。
声の主はこの国の第二王子でいらっしゃるアバカーム殿下。彼の腕には、金髪の麗しい美少女を抱きし目られています。
……はて、一体何の騒ぎでしょう? 確かに今呼ばれたのは私の名前で間違いありませんけれど……。
私の耳がおかしくなったのでなければ、確かに婚約破棄と聞こえました。
密室や王宮に呼び出されてのことならまだしも、今私たちがいるのは貴族学園で開かれた新入生の歓迎会。いよいよ殿下の脳みそが爆発してしまったのでしょうか。
「殿下。ここがどこかわかっていらっしゃいますか? 新入生の皆さんが固まってしまっているではありませんか」
「だから何だというのだ! つまらない言い逃れはできないぞ、シャルロット! お前が!この!ミーシャをいじめたんだろうが!!」
ぎろりと視線で睨まれた上、はしたなくも指を突きつけられてしまいました。とても不快ですが、それを咎めても余計ことを荒立てるだけだと判断した私は言いました。
「場所を移しましょう」
「ならん!」
はぁぁ、とため息を吐きたくなるのをグッと呑み込みます。
新入生たちが慄いてしまっている上に、学園長含む先生方が硬直しているのがこの方には見えないのでしょうか。
アバカーム殿下は昔から周囲が見えないのがいけませんね。そのおつむさえ改善すれば完全無欠の王子なのですけど。
周りが騒がしくなり始めます。こんな場で婚約破棄したんですもの、一大スキャンダルになりますよね。アンディース公爵家の失墜を狙っている貴族家なんて大喜びでしょうねぇ。後でお父様に言ってあの伯爵家とあちらの男爵家は潰しておいていただきましょうか。
それにしても、殿下ったらなんてことをしでかしてくれたのでしょう。これじゃ静かにことを収めようにも手に負えませんよ。
私はもう面倒臭くなって、殿下の馬鹿さ加減を公にしてしまうことにしました。
「――あの。殿下、さっき婚約破棄とおっしゃいましたね?」
「ああ」
「でも私、あなたの婚約者じゃありませんよ?」
――会場のほぼ全員が絶句しました。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆
「アバカーム殿下。あなたの愚鈍さにはいつも困らされていますが、このような公衆の面前で婚約破棄するとは情けないですね。さすがの私でも呆れますよ。それも婚約者でない私に、です」
「ど、どういうことだシャルロット!? 愚かなのはお前だろう。自分の罪をはぐらかそうとしているにしたって言い訳が幼稚すぎるぞ! 俺とお前が婚約していないわけがあるか!」
「と、言われましてもしていないものはしていません。……あなたの婚約者様はそこにいらっしゃいますが?」
私はそう言いながら、彼の隣の少女に視線を向けます。
エリディ侯爵家のご令嬢、ミーシャ・エリディ嬢です。彼女は今にも倒れそうな蒼白な顔をしていらっしゃいます。どうやら、婚約者のあまりの暴挙に恐れ慄いているご様子。お可哀想に……。
「はぁ!? ミーシャが俺の婚約者だと!? そんな馬鹿な話あるかぁ!」
「恐れながら馬鹿はあなたです、殿下。否定なさりたいならばミーシャ様ご本人に聞いてみてくださいよ」
私が嘘吐きだとでも言うのでしょうか、この馬鹿王子は。
私は彼の幼馴染で、十年以上の月日を共にしています。ですから信頼はあったと思っていたのですが、婚約破棄だの何だのと馬鹿なことばかり言って……。まるで私のことなど頼りにしてくださっていなかったことは少々悲しく思います。が、愚かな殿下のことなのでもはや深く考えようとは思いません。
怒りに赤面する殿下に迫られ、ミーシャ嬢はブルブルと震えながらおっしゃいました。
「わ……わたくし、は。アバカーム様の婚約者ですわ……。証拠の正面だって、ございます。も、もし、そうでなかったとしたら、こんなに近い距離にいるはずがございませんもの。おわかりいただいていると、思っていたのですけど……?」
「なっ!?」
「『なっ!?』ではありませんよ殿下。ミーシャ嬢はあなたと違って常識外れな方ではないのです。あなたの婚約者であるからこそ気を許していたのでしょう。まさかそんなことも分からなかったとは。私も殿下の愚かさを甘く見ていましたね」
今度から気をつけませんと。
そんなことを考えながら、私は言葉を続けます。
「私がミーシャ嬢を虐げた、とおっしゃいましたっけ? 一体どうして私がそんなことをしなければならないのです? 理由が全く見当たりませんし、第一私と彼女は友人なのですが」
私とミーシャ嬢は共に三年生になったばかり。
同学年であり、同じ上級貴族であり、しかも殿下との繋がりがあった私たち二人は結構仲が良いのです。そんな私がミーシャ嬢を貶めるはずがありません。
「そ、それは、シャルロットがミーシャに嫉妬して……!」
「私はあなたの婚約者でなくただの幼馴染なのです。そんな私が、どうしてミーシャ嬢に嫉妬を? 婚約者同士がそばにいるのは当然のことだと思っていますし、それに泥棒猫のように割り込む気など毛頭ございませんが?」
「そうですわ……! アバカーム殿下、シャルロットをそんなはしたない人だと思っていただなんて……ひどいですわっ」
あらあら。あまりの馬鹿さに呆れて仲良しの婚約者様からも愛想を尽かされてしまったご様子です。まあ、殿下は浮気相手のつもりだったのでしょうけど?
それにしても殿下、近くにいることが多かったからと私を婚約者と思い込むだなんて……。私も婚約者のいる身だというのに!
「ミーシャ! おいシャルロット。これはお前の仕業だろう!? ミーシャを騙し、さも自分に非がないように状況を作り上げたんだ! ミーシャはお前に洗脳されて……」
――プチッ!
突然、私の中で音がしました。
その途端、握りしめていた私の扇子が手の中で粉々に砕けます。新入生たちが震えていますが……私はもうこれ以上抑えることができませんでした。
「殿下、私にも堪忍袋の緒というものがあってですね。それが今、切れてしまいました」
「何を――」
「いい加減うるさいんですよこの馬鹿クソボケ王子が!!!」
――私たちの通う貴族学園の新入生歓迎会でのこと。
突然響いた鋭い声に、私はピクリと眉を上げました。
声の主はこの国の第二王子でいらっしゃるアバカーム殿下。彼の腕には、金髪の麗しい美少女を抱きし目られています。
……はて、一体何の騒ぎでしょう? 確かに今呼ばれたのは私の名前で間違いありませんけれど……。
私の耳がおかしくなったのでなければ、確かに婚約破棄と聞こえました。
密室や王宮に呼び出されてのことならまだしも、今私たちがいるのは貴族学園で開かれた新入生の歓迎会。いよいよ殿下の脳みそが爆発してしまったのでしょうか。
「殿下。ここがどこかわかっていらっしゃいますか? 新入生の皆さんが固まってしまっているではありませんか」
「だから何だというのだ! つまらない言い逃れはできないぞ、シャルロット! お前が!この!ミーシャをいじめたんだろうが!!」
ぎろりと視線で睨まれた上、はしたなくも指を突きつけられてしまいました。とても不快ですが、それを咎めても余計ことを荒立てるだけだと判断した私は言いました。
「場所を移しましょう」
「ならん!」
はぁぁ、とため息を吐きたくなるのをグッと呑み込みます。
新入生たちが慄いてしまっている上に、学園長含む先生方が硬直しているのがこの方には見えないのでしょうか。
アバカーム殿下は昔から周囲が見えないのがいけませんね。そのおつむさえ改善すれば完全無欠の王子なのですけど。
周りが騒がしくなり始めます。こんな場で婚約破棄したんですもの、一大スキャンダルになりますよね。アンディース公爵家の失墜を狙っている貴族家なんて大喜びでしょうねぇ。後でお父様に言ってあの伯爵家とあちらの男爵家は潰しておいていただきましょうか。
それにしても、殿下ったらなんてことをしでかしてくれたのでしょう。これじゃ静かにことを収めようにも手に負えませんよ。
私はもう面倒臭くなって、殿下の馬鹿さ加減を公にしてしまうことにしました。
「――あの。殿下、さっき婚約破棄とおっしゃいましたね?」
「ああ」
「でも私、あなたの婚約者じゃありませんよ?」
――会場のほぼ全員が絶句しました。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆
「アバカーム殿下。あなたの愚鈍さにはいつも困らされていますが、このような公衆の面前で婚約破棄するとは情けないですね。さすがの私でも呆れますよ。それも婚約者でない私に、です」
「ど、どういうことだシャルロット!? 愚かなのはお前だろう。自分の罪をはぐらかそうとしているにしたって言い訳が幼稚すぎるぞ! 俺とお前が婚約していないわけがあるか!」
「と、言われましてもしていないものはしていません。……あなたの婚約者様はそこにいらっしゃいますが?」
私はそう言いながら、彼の隣の少女に視線を向けます。
エリディ侯爵家のご令嬢、ミーシャ・エリディ嬢です。彼女は今にも倒れそうな蒼白な顔をしていらっしゃいます。どうやら、婚約者のあまりの暴挙に恐れ慄いているご様子。お可哀想に……。
「はぁ!? ミーシャが俺の婚約者だと!? そんな馬鹿な話あるかぁ!」
「恐れながら馬鹿はあなたです、殿下。否定なさりたいならばミーシャ様ご本人に聞いてみてくださいよ」
私が嘘吐きだとでも言うのでしょうか、この馬鹿王子は。
私は彼の幼馴染で、十年以上の月日を共にしています。ですから信頼はあったと思っていたのですが、婚約破棄だの何だのと馬鹿なことばかり言って……。まるで私のことなど頼りにしてくださっていなかったことは少々悲しく思います。が、愚かな殿下のことなのでもはや深く考えようとは思いません。
怒りに赤面する殿下に迫られ、ミーシャ嬢はブルブルと震えながらおっしゃいました。
「わ……わたくし、は。アバカーム様の婚約者ですわ……。証拠の正面だって、ございます。も、もし、そうでなかったとしたら、こんなに近い距離にいるはずがございませんもの。おわかりいただいていると、思っていたのですけど……?」
「なっ!?」
「『なっ!?』ではありませんよ殿下。ミーシャ嬢はあなたと違って常識外れな方ではないのです。あなたの婚約者であるからこそ気を許していたのでしょう。まさかそんなことも分からなかったとは。私も殿下の愚かさを甘く見ていましたね」
今度から気をつけませんと。
そんなことを考えながら、私は言葉を続けます。
「私がミーシャ嬢を虐げた、とおっしゃいましたっけ? 一体どうして私がそんなことをしなければならないのです? 理由が全く見当たりませんし、第一私と彼女は友人なのですが」
私とミーシャ嬢は共に三年生になったばかり。
同学年であり、同じ上級貴族であり、しかも殿下との繋がりがあった私たち二人は結構仲が良いのです。そんな私がミーシャ嬢を貶めるはずがありません。
「そ、それは、シャルロットがミーシャに嫉妬して……!」
「私はあなたの婚約者でなくただの幼馴染なのです。そんな私が、どうしてミーシャ嬢に嫉妬を? 婚約者同士がそばにいるのは当然のことだと思っていますし、それに泥棒猫のように割り込む気など毛頭ございませんが?」
「そうですわ……! アバカーム殿下、シャルロットをそんなはしたない人だと思っていただなんて……ひどいですわっ」
あらあら。あまりの馬鹿さに呆れて仲良しの婚約者様からも愛想を尽かされてしまったご様子です。まあ、殿下は浮気相手のつもりだったのでしょうけど?
それにしても殿下、近くにいることが多かったからと私を婚約者と思い込むだなんて……。私も婚約者のいる身だというのに!
「ミーシャ! おいシャルロット。これはお前の仕業だろう!? ミーシャを騙し、さも自分に非がないように状況を作り上げたんだ! ミーシャはお前に洗脳されて……」
――プチッ!
突然、私の中で音がしました。
その途端、握りしめていた私の扇子が手の中で粉々に砕けます。新入生たちが震えていますが……私はもうこれ以上抑えることができませんでした。
「殿下、私にも堪忍袋の緒というものがあってですね。それが今、切れてしまいました」
「何を――」
「いい加減うるさいんですよこの馬鹿クソボケ王子が!!!」
1,022
あなたにおすすめの小説
婚約破棄しようがない
白羽鳥(扇つくも)
恋愛
「アンリエット、貴様との婚約を破棄する!私はリジョーヌとの愛を貫く!」
卒業式典のパーティーでばかでかい声を上げ、一人の男爵令嬢を抱き寄せるのは、信じたくはないがこの国の第一王子。
「あっそうですか、どうぞご自由に。と言うかわたくしたち、最初から婚約してませんけど」
そもそも婚約自体成立しないんですけどね…
勘違い系婚約破棄ものです。このパターンはまだなかったはず。
※「小説家になろう」「カクヨム」にも掲載。
婚約破棄ですか? 無理ですよ?1
星宮歌
恋愛
「ユミル・マーシャル! お前の悪行にはほとほと愛想が尽きた! ゆえに、お前との婚約を破棄するっ!!」
そう、告げた第二王子へと、ユミルは返す。
「はい? 婚約破棄ですか? 無理ですわね」
それはそれは、美しい笑顔で。
この作品は、『前編、中編、後編』にプラスして『裏前編、裏後編、ユミル・マーシャルというご令嬢』の六話で構成しております。
そして……多分、最終話『ユミル・マーシャルというご令嬢』まで読んだら、ガッツリざまぁ状態として認識できるはずっ(割と怖いですけど(笑))。
そして、続編を書きました!
タイトルは何の捻りもなく『婚約破棄? 無理ですよ?2』です!
もしよかったら読んでみてください。
それでは、どうぞ!
綿菓子令嬢は、この度婚約破棄された模様です
星宮歌
恋愛
とあるパーティー会場にて、綿菓子令嬢と呼ばれる私、フリア・フワーライトは、婚約者である第二王子殿下に婚約破棄されてしまいました。
「あらあら、そうですか。うふふ」
これは、普段からほわわんとした様子の令嬢が、とんでもない裏の顔をさらすお話(わりとホラー風味?)
全二話で、二日連続で、23時の更新です。
〖完結〗妹は私の物が大好きなようです。
藍川みいな
恋愛
カサブランカ侯爵家に双子として生まれた、姉のブレアと妹のマリベル。
妹は姉の物を全て欲しがり、全て譲ってきたブレア。
ある日、ダリアル公爵家長男のエルヴィンとの縁談が来た。
ダリアル公爵は姉のブレアを名指しし、ブレアとエルヴィンは婚約をした。
だが、マリベルはブレアの婚約者エルヴィンを欲しがり、ブレアを地下に閉じこめ、ブレアになりすまし結婚した...。
主人公ブレアがあまり出てきません。
本編6話+番外編1話で完結です。
毎日0時更新。
聖女を無能と罵って婚約破棄を宣言した王太子は追放されてしまいました
もるだ
恋愛
「お前とは婚約破棄だ! 国から出ていけ!」
王命により怪我人へのお祈りを続けていた聖女カリンを罵ったのは、王太子のヒューズだった。若くて可愛い聖女と結婚するつもりらしい。
だが、ヒューズの暴挙に怒った国王は、カリンではなく息子の王太子を追放することにした。
悪役令嬢ですが、今日も元婚約者とヒロインにざまぁされました(なお、全員私を溺愛しています)
ほーみ
恋愛
「レティシア・エルフォード! お前との婚約は破棄する!」
王太子アレクシス・ヴォルフェンがそう宣言した瞬間、広間はざわめいた。私は静かに紅茶を口にしながら、その言葉を聞き流す。どうやら、今日もまた「ざまぁ」される日らしい。
ここは王宮の舞踏会場。華やかな装飾と甘い香りが漂う中、私はまたしても断罪劇の主役に据えられていた。目の前では、王太子が優雅に微笑みながら、私に婚約破棄を突きつけている。その隣には、栗色の髪をふわりと揺らした少女――リリア・エヴァンスが涙ぐんでいた。
〖完結〗醜いと虐げられて来た令嬢~本当は美しかった~
藍川みいな
恋愛
「お前は醜い。」ずっとそう言われてきたメリッサは、ずっと部屋に閉じこもっていた。
幼い頃から母や妹に、醜いと言われ続け、父テイラー侯爵はメリッサを見ようともしなかった。
心の支えは毎日食事を運んでくれるティナだけだったが、サマーの命令で優しいふりをしていただけだった。
何もかも信じられなくなったメリッサは邸を出る。邸を出たメリッサを助けてくれたのは…
設定はゆるゆるです。
本編8話+番外編2話で完結です。
〖完結〗婚約者の私よりも自称病弱な幼馴染みの方が大切なのですか?
藍川みいな
恋愛
「クレア、すまない。今日のお茶会には行けなくなった。マーサの体調が思わしくないようなんだ。」
……またですか。
何度、同じ理由で、私との約束を破れば気が済むのでしょう。
ランディ様は婚約者の私よりも、幼馴染みのマーサ様の方が大切なようです。
そしてそのお茶会に、ランディ様はマーサ様を連れて現れたのです。
我慢の限界です!
婚約を破棄させていただきます!
設定ゆるゆるの、架空の世界のお話です。
全5話で完結になります。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる