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第一章

13.

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    帰りに大学の場所を確認して、家路についた。車での移動だったので荷物も楽に運べたけれど、往復ジミルの運転だったので車内でイチャイチャは出来なかった。
    その代わり、音楽アプリを使ってどんな曲が好みか話し合うと、意外と好きな洋楽が同じだったりして嬉しかった。

    家に着いて、鍵を開けるジミルに不思議に思った事を聞いてみる。

「鍵も持ってたし暗証番号も知ってたんだね。昨夜はどうして部屋の中で待たなかったの?」

「主の部屋に主がいらっしゃらないのに、入室なんて出来ません。当たり前ではありませんか」

    それもそうか。まだ会ったこともなかったのだから……。とても寒い中外で待ち、命の危険があったというのに。ジミルは思慮深く、主に対して忠実なんだ。


    ジミルは荷物を運び終わると車を入庫して戻ってきた。すぐに風呂場へ行き、入浴の準備をしている。
    初日から、なんと働き者なのだろう。食事の支度だけは、夕食のみ家政婦が作り置きしておいてくれるので少しは休めるだろう。


「ちゅっ……おやすみなさい。ジョン様」

「おや……すみ」

    ジミルは昼間の約束通り、おやすみのキスを額へとしてくれた。唇へのキスを期待していたので、肩透かしをされたみたいだったけど、急に幼い子どもになったような不思議な気分を味わった。
    それからそっと布団をかけられたら、急に眠気が襲ってきて……。

    え?まだジミルと話したり、もっと大人のキスがしたいよ、と思ってもどんどん意識が遠退いていく。

    ジミル…!ジミ…ル………。




「ちゅっ、おはようございます。ジョン様」

    おはようだって?今寝たばかりだよ!
    うっすら目を開けると、ジミルが朝陽の中で微笑んでいる。
    え?もう朝?いつの間に寝てた?
    …………あぁ、昨日はジミルと買い物デートして疲れちゃったのかな?

「ジョン様。お目覚めの紅茶はいかがですか?」

    身体を起こしベッドヘッドへ枕とクッションを置いて寄りかかると、ジミルがティーセットを乗せたワゴンを押してきた。
    昨日買ってもらったばかりの、お揃いのマグカップが差し出された。
    紅茶には、たっぷりとミルクが入っていて鼻腔をくすぐる湯気の中に、豊醇な甘い香り。これは、蜂蜜の香りだ。
    なんとなく、ジミルの匂いに似ている。
    ひとくち含むと、ミルクの深く濃厚なコクと、紅茶のバランスの良い渋みに、徐々に身体が目覚め……鼻腔を紅茶の爽やかな余韻が抜けていく。
    目を見張ってジミルを見つめた。

「とても美味しいですよね。あの専門店はブレンドが上手です。今度他の種類も買ってきましょう」

「きっとジミルの淹れ方も上手なんだよ。こんなに美味しい紅茶は初めてだ。ありがとうジミル!」

    紅茶は本当に美味しかった。
    けれども、昨夜に続き、僕の理想とは違う展開を寂しく思った。

「ジミル。もう一度おはようのキスを、今度は唇にして?」

「………いいですよ?」

    ジミルが前屈みになって、じわじわと顔を近づけてきた。
    最後に、目を閉じた瞬間。
    僕はジミルをベッドに引き摺り込んだ……。

「うわっ、と!何するんですか!」

「何って……おはようのキス、だよ?」

    僕はそのままジミルに覆い被さるように、深く、口づけた。



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