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第一章
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僕は、15年前に命を助けてくれた天使にもう一度会いたいと思っている。親善大使として訪れたこの国に留学したのだって、もしかしたら何か手掛かりが見つかるかもしれないと思っての事だ。
当時の僕は5歳。幼過ぎて、交通事故に遇う直前身を挺して護ってくれた天使に、お礼をきちんと言えたかどうかも覚えていない。
この話を周りの大人たちに話そうとすると、皆一様に辛そうに顔を歪め「嫌なことは忘れた方がいい」と言った。母である皇妃殿下には「無事で良かった!」と言われ、強く抱き締められとても泣かれた。
「違うよ!あの人はとても優しかった!あの人は……『天使なんだ!』」
訳がわからなかった。その一言を叫びたくても、どうしても舌が凍りついて発音出来ない。何度も試したが、ぱくぱくどころか口も開かなくなる。何か超常的な力で、僕の口からは真実が語れないようになっているのかもしれないと諦めた。
後になって政変によって悪事が暴かれた時、あの交通事故(未遂)が仕組まれた暗殺計画だった事を知る。
現国王の反勢力が、親善大使として異国に行った僕を、警備が手薄な隙をついて殺そうとしたのだという。天使が護ってくれなかったら、僕は死んでいたのだ。
太陽の陽を編んだような金色の髪に、角度によって虹色になる瞳。そして、眩しい位に真っ白な翼を持った天使……。
彼の話は、大人たちにはおろか学校の友人たちにさえ話すことは出来なかった。
ところが、一人だけ天使の話を出来た人物がいた。
あの日。社交界へデビューした日。
僕は、バルコニーで貴族の令息に会った。
デビュタントだった僕は、何人もの貴族たちに挨拶をされ、目の回るような忙しさだった。後半なんて名前も顔も覚えていない。
へき易して気分も悪くなり、王族専用の休憩室へ行きたかったが、行けば誰かしら親族の絡みがある。それを考えると、人気の無い所を探した方がマシだったので、大広間のギャラリーから続くバルコニーに出た。
先客が居たので軽く頭を下げ、踵をかえそうとして、足が動かなくなった。いや、足だけでなく身体全てが、思考能力すらも停止した。自分が今見たものを、信じる事が出来なかった。
そこに、何年も会いたいと恋焦がれていた天使がいたのだ。
翼は生えていないし、年の頃が自分と変わらない少年のように見えたが、月明かりの中仄かに光り輝いている。
彼は、ダンスのステップを踏んでいた。
大広間から洩れる明かりと、満月から届く月の光りの中。体重を感じさせない水平移動は、キラキラと光りの粉が舞うような残像が網膜に焼きついた。
「あなたは天使?」
天使の足が止まった。怪訝そうに僕を見て口を開いた。
「天使?僕が?どうしてそう思う…のですか?」
少し高めの可愛らしい声。話してみれば、天使ではなく、人間だった。
「見事な金髪だね?夜目にも月明かりに輝いている。まるで月の女神のようだ」
「恐れ入ります」
「近くで見てもいいかな?」
「……どうぞ」
あの時近くで見た天使と同じ顔が、目の前にあった。
当時の僕は5歳。幼過ぎて、交通事故に遇う直前身を挺して護ってくれた天使に、お礼をきちんと言えたかどうかも覚えていない。
この話を周りの大人たちに話そうとすると、皆一様に辛そうに顔を歪め「嫌なことは忘れた方がいい」と言った。母である皇妃殿下には「無事で良かった!」と言われ、強く抱き締められとても泣かれた。
「違うよ!あの人はとても優しかった!あの人は……『天使なんだ!』」
訳がわからなかった。その一言を叫びたくても、どうしても舌が凍りついて発音出来ない。何度も試したが、ぱくぱくどころか口も開かなくなる。何か超常的な力で、僕の口からは真実が語れないようになっているのかもしれないと諦めた。
後になって政変によって悪事が暴かれた時、あの交通事故(未遂)が仕組まれた暗殺計画だった事を知る。
現国王の反勢力が、親善大使として異国に行った僕を、警備が手薄な隙をついて殺そうとしたのだという。天使が護ってくれなかったら、僕は死んでいたのだ。
太陽の陽を編んだような金色の髪に、角度によって虹色になる瞳。そして、眩しい位に真っ白な翼を持った天使……。
彼の話は、大人たちにはおろか学校の友人たちにさえ話すことは出来なかった。
ところが、一人だけ天使の話を出来た人物がいた。
あの日。社交界へデビューした日。
僕は、バルコニーで貴族の令息に会った。
デビュタントだった僕は、何人もの貴族たちに挨拶をされ、目の回るような忙しさだった。後半なんて名前も顔も覚えていない。
へき易して気分も悪くなり、王族専用の休憩室へ行きたかったが、行けば誰かしら親族の絡みがある。それを考えると、人気の無い所を探した方がマシだったので、大広間のギャラリーから続くバルコニーに出た。
先客が居たので軽く頭を下げ、踵をかえそうとして、足が動かなくなった。いや、足だけでなく身体全てが、思考能力すらも停止した。自分が今見たものを、信じる事が出来なかった。
そこに、何年も会いたいと恋焦がれていた天使がいたのだ。
翼は生えていないし、年の頃が自分と変わらない少年のように見えたが、月明かりの中仄かに光り輝いている。
彼は、ダンスのステップを踏んでいた。
大広間から洩れる明かりと、満月から届く月の光りの中。体重を感じさせない水平移動は、キラキラと光りの粉が舞うような残像が網膜に焼きついた。
「あなたは天使?」
天使の足が止まった。怪訝そうに僕を見て口を開いた。
「天使?僕が?どうしてそう思う…のですか?」
少し高めの可愛らしい声。話してみれば、天使ではなく、人間だった。
「見事な金髪だね?夜目にも月明かりに輝いている。まるで月の女神のようだ」
「恐れ入ります」
「近くで見てもいいかな?」
「……どうぞ」
あの時近くで見た天使と同じ顔が、目の前にあった。
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